第9話 結界術で『拠点作り』・前日譚
現在、僕、4歳。
昨日、僕は真影焔流の技をすべて習得した。
父上の練度には遠く及ばないが、
ひとまずの形にはなったと言っていいだろう。
となれば、次にやることは決まっている。
新しい術式への挑戦だ。
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結界術。
前世のゲームやアニメではお馴染みの、和風版『防御スキル』。だが、妖怪が実在するこの世界において、結界は単なる防御スキルではない。
電気や水道と同じ、
絶対不可欠な『インフラ』なのだ。
例えば前世では『熊や猪が出没』なんてニュースがあったが、この世界ではそれがそのまま『妖怪』に置き換わる。凶暴性も悪質性も、野生動物の比ではない。
現に、居間のテレビからはこんな物騒なニュースが日常的に流れてくる。
『次のニュースです。
昨日午後4時ごろ、筑馬県桜島市の山岳結界付近で、近所に住む小学2年生の宮本裕介くん(7)が行方不明となりました。
現場の防犯カメラには、裕介くんが立ち入り禁止の『忌避区域』へ足を踏み入れる姿と、その直後、茂みから現れた第3級指定妖怪『山童』に強引に引きずり込まれる様子が映っていました。
現場周辺では現在も地元警察と対怪異特殊捜査官による捜索が続いていますが、結界の外側ということもあり難航しています。
同様の連れ去り事件は今年に入ってすでに4件目となり、当局は「結界を絶対に越えない」、「妖怪の呼びかけには決して応じない」よう、厳重な警戒を呼びかけています』
……ね、ヤバいでしょ?
不謹慎極まりないが、僕はこういうニュースを聞くたびに、マジで『和風ファンタジー』してる世界観にテンションが上がってしまう。
警察官の父上はしょっちゅうこういう現場に駆り出されているし、母上はよく「結界の外に行っちゃダメよ」と言っている。
それくらい、結界は身近な『死線』なのだ。
僕も早く結界の外を探索してみたいのだが、今は過保護なママンの目が光っている。
小学生になれば多少マシになるだろうが……。
それまで大人しく待てるほど、僕は聞き分けのいい子供じゃない。
そこで僕は、とある場所を探索することにした。そう、僕だけがアクセスできる『地獄』だ。
(そういえば、地獄ってどこまで続いてるんだろう。
奥にはいったい、何があるんだろう?)
常時、餓鬼どもが「肉だー!」と襲ってくるせいで、これまでちゃんと探索できていなかった。
あいつらは僕の経験値(霊力と闘気)になってくれる素晴らしい存在ではあるが、落ち着いてマッピングをさせてくれないのが難点だ。
現状は、『オープンワールド系ゲームで拠点を作らずに、初期装備でゲーム開始地点付近を彷徨っているようなもの』である。
強くはなっているし、新しい技も習得した。
でも、新たな敵やアイテムには出会えていない。
もう、序盤のレベリングは十分だろう?
(よし、僕は地獄に『拠点』を作る!)
まずは結界術を学んで、餓鬼が入れない安全圏を確保する。そこを足がかりに資源を集め、設備(?)を作り、探索範囲を広げるのだ。
(――地獄に秘密基地。
めっちゃいい響きやん!)
その日の夜。
両親が寝静まるのを待ち、
僕はいつものように地獄へ向かった。
そしていつものように、
専属の神様コーチを呼び出す。
「よし、今日も張り切っていこうぞ。
今日は何を教わりたいのじゃ?」
呼び出されたミニサイズの儺流ちゃんは、退屈していたのか、どこか嬉しそうに聞いてきた。
「結界術を教わりたいです!」
僕の目的は、この地獄に『拠点』を作ること。
そのためにはまず、餓鬼が入ってこれない安全地帯を確保する術が必須になる。
僕が答えると、儺流ちゃんは「ふむ、結界か」と顎に手を当てて頷いた。
「よかろう。
結界術は奥が深いぞ。
まずは基礎知識から教えてやろう」
儺流ちゃんの丁寧な解説によると、
結界術は大きく分けて2種類に分けられるらしい。
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【境界式】
特徴:
しめ縄などで囲み『壁』をつくるタイプ。
公共インフラに使われている。
メリット:
安価に、術者なら誰でもすぐに設営できる。
デメリット:
霊力を消費し続けるので、術者が中にずっといるか、エネルギー源(霊脈油)を用意しなければならない。
※霊脈油は石油みたいなもの。入手経路ほぼなし。
壁をつくるだけなので、中に入られたらオワリ。
【呪鎮式】
特徴:
呪物で妖怪が嫌う『毒ガス』を撒くタイプ。
メリット:
メンテナンスがほぼ不要。
侵入されても弱体化させることができる。
デメリット:
強力かつ隷属させた呪物が必要。
効果の強さは呪物に依存する。
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「うーん、理想は『呪鎮式』だけど。
呪物なんてその辺に落ちてるもんじゃないしなぁ」
消去法で、まずは練習がてら『境界式』を試すことにした。
材料は和紙、墨汁、糸、そして木の棒。
これくらいなら我が家にはすべて揃っている。
こっそり拝借して、僕は設営を開始する。
『一口ダケ、カジラセ――グギィッ!』
集まってくる餓鬼たちを適当に蹴散らしながら、木の棒に祝詞を書き込み、それを正方形になるよう地面に突き刺す。そこに糸を張り、紙垂を垂らす。
最後に、四隅の棒に霊力を流し込めば――。
「結界術・邪不入!」
ボォッ、と結界が白く輝きだした。
餓鬼たちは結界に触れようとするが、目に見えない壁に阻まれて近寄れない。悔し紛れに投げてきた石も、パァンと乾いた音を立てて弾き飛ばされる。
「うむ、見事じゃ」
儺流ちゃんが褒めてくれる。
「成功……だけど、やっぱりこれじゃ駄目だ」
結果は上々。
だが、現状では僕がこの中に引きこもっていなければ、結界を維持できない。これでは『拠点』ではなくただの『籠城』だ。
結界の中、血眼の餓鬼に囲まれながら、僕は頭を抱える。
「うむ、境界式は霊力を消費し続ける。
現時点では、拠点設営はむずかしいのぅ」
「『境界式』を維持するにはエネルギー源が必要。
『呪鎮式』には強力な呪物が必要。
うーん、どうしたものか」
儺流ちゃんと2人で、頭を抱える。
そんな僕の悩みは、予想外の形で叶うことになる。
まぁ、良い悪いでいうと、
悪い方の意味で予想外だった。




