第8話 霊力の『変換』
「よいか?属性剣術の第一歩は、自身の霊力を属性エネルギーに変換する『イメージ』を確立することにある。東陽の古流呪術では、これを呼吸と瞑想によって行うのじゃが……普通にやったら最低でも1年はかかってしまう」
ミニサイズ儺流ちゃんが、
宙に浮きながら解説する。
「では、師匠!
どうすればよいのでしょうか?」
「うむ、手っ取り早く感覚を掴みたいなら、『西海魔術』を補助輪にするのが一番じゃな」
「西海魔術、ですか?」
「うむ。東陽呪術は『気合いと直感』に頼る職人技じゃ。初心者が頭の中のイメージだけでゼロから火を起こそうとしても、なかなかうまくいかん」
「確かに。
イメージだけだとモヤモヤしますね」
「じゃが、西海魔術は違う。あれは『決められた呪文』さえ口にすれば、術が自動的に発動する便利なシステムなんじゃ」
なるほど、めちゃくちゃ分かりやすい!
東陽呪術が『自力で計算を解く(暗算)』だとしたら、西海魔術は『数式を打ち込んで答えを出す(電卓)』のようなものか。
まずは呪文という『電卓』を使って強制的に炎を出し、その時の『霊力が炎に変わる感覚』を体に丸暗記させてしまうのが一番手っ取り早いってことだ。
というわけで、
早速、儺流ちゃんから初級の呪文を教わる。
「さぁ、やってみい。
ちょうど良い的が来たぞ」
『人間、美味シイ、食ベル!』
無鉄砲に襲いかかってくる餓鬼に向けて、僕は手のひらをかざし、さっき覚えたばかりの呪文を唱えた。
「我、獅子宮に坐する聖霊の御名において、第一の日に太陽を生み出した秘術の一端を行使する。主は我らに、敵対者を退けるための熱き礫を与え給うた――」
(長いわ!)
心の中でツッコミを入れつつ、早口で呪文を紡ぐ。
詠唱というプログラムを口にした瞬間、僕の意思とは無関係に、体内の霊力が勝手に動き出した。
霊力が熱量へと変換され、手のひらの前で一点に凝縮していく。
『火球!』
――ドォォォォォンッ!!
放たれたバスケットボール大の火炎が、餓鬼の頭部を正確に捉えた。
断末魔を上げる暇もなく、餓鬼の頭は爆散し、黒焦げの消炭へと変わる。
「……ふむ。なるほど、こんな感じか」
呪文はかなり長いが、詠唱だけで自動的に術を発動できるのはとても便利だ。
何より、霊力を炎に換える感覚はとても新鮮で、これを自力で習得するとなると途方もない時間がかかることも理解できた。
「うむ、上出来じゃな。
あとは何度も繰り返して、霊力を炎に変える感覚を完全に己のものにするのじゃ。
さぁ、鍛錬を続けよ」
「よし、もういっちょ!」
僕は餓鬼に向けて、ひたすら火球を叩き込んだ。
一発放つごとに、霊力が炎に変わる感覚を、細胞の一つ一つに記憶させていく。
それから地獄の時間で約5時間。
(現実世界で約5分)。
僕は、無詠唱で火球を発動できるようになった。
つまり、霊力を炎に換える感覚を完全にマスターしたのだ。
「基礎はバッチリ。
あとは、これを刀(包丁)で再現するだけだ。
うまくいってくれよ!」
僕は、台所から拝借してきた包丁を構える。
(すぅ〜……ふんッ!)
『真影焔流・初の太刀。
闇夜蛍火!』
丹田に溜まっている霊力を、胸、腕へと移動させ、最終的に包丁へ流し込む。
霊力の操作は前々からできたので、ここまでは問題ない。
(肝心なのはここから!)
西海魔術で掴んだ、霊力の核心!
まるで人の心のように千変万化する超常のエネルギー『霊力』を、僕は今から『溶鋼のごとき、静寂なる炎』に変える。僕には、それができる。
――ブォンッ!
「よぉし、成功だ!」
あの日見た父上の刀と同じように、包丁の刃が紅蓮の輝きを放つ。
ただの調理器具が、一瞬にして妖刀へと進化したかのようだ。
「うむ、お見事。
では次じゃ。
それを維持しながら、技へ派生させてみい」
儺流ちゃんの指示に頷き、熱く輝く包丁を右脇に構える。
狙うは、真影焔流・肆の太刀。
『曳光一閃』。
瞬間の爆発を推進力にして、一気に間合いを詰めて一刀両断する神速の一閃。
理屈はわかっている。火球が炎を球状に『固定』して放つのに対し、曳光一閃は炎を後方へ『発散』させて加速を生むのだ。
「いざ……参る!」
僕は地面を蹴り、背後の炎を爆発させようとした。
が、しかし。
――ポムスッ!
「……あれ?」
湿気った花火のような音とともに、僕は前のめりにズッコケた。
加速するにはぜんぜん爆発力が足りない。
「うん、難しいね!」
「ふははははっ!
無様じゃのぅ!」
見事にズッコケた僕を見て、
儺流ちゃんが快活に笑う。
「うーん、理屈は合ってるはずなのに」
「ただ霊力を『発散』させるだけでは、神速には至れん。それだけでは、ただのガスバーナーじゃ」
儺流ちゃんが笑いを収め、先生の顔に戻る。
「膨大な霊力を刀身に集中させたうえで、発動直後、霊力をさらに『圧縮』するんじゃ。その極限の圧縮エネルギーと爆発のエネルギーを掛け合わせることで、初めて『加速』が生まれる」
「なるほど……圧縮!」
独学なら絶対に気づけなかった核心。
指導のありがたみを噛み締めながら、僕は再び立ち上がった。
だが結局、この日は『あの爆発的な加速』を再現することはできなかった。
圧縮した霊力を、爆発の瞬間に解放する。
これが結構むずかしい。
タイミングを完全に合わせないと、ただ包丁から大きな炎が吹き出すだけで、まったく推進力に繋がらないのだ。
一応、太刀筋から炎が吹き出すようにはなったが、それだけだ。
失敗の回数だけが、積み上がっていく。
だが、僕は落胆していない。
落胆なんて、おこがましいだろう?
前の世界では『失敗することさえ許されていなかった』のだから。
和風ファンタジーの世界に転生できた奇跡に感謝しながら。
「僕は、この世界で生きる」
(現実世界の時間で)15日後。
毎晩、儺流ちゃんからスパルタ指導を受けながら、何千何万もの試行錯誤を繰り返した末。
僕はついに、その領域へと到達した。
「いくぞ。
真影焔流・肆の太刀。
曳光一閃!」
――ズンッ!!
一拍遅れてやってくる衝撃音。
僕は10メートル先にいた5匹の餓鬼を、一瞬で通り過ぎていた。
『ギャ……ッ!?』
遅れて、餓鬼たちの体が斜めにズレ、炎を上げながら黒い霧となって僕に吸収されていく。
「……できた。完璧だ」
父上の技を再現してみせた。
消えていく餓鬼たちを見つめながら、僕はニヤリと笑う。
「見事じゃ。
まさか、たった半月で成功させるとはな……」
宙に浮く儺流ちゃんが、信じられないものを見るような目で僕を見下ろしていた。
「先生の教え方が良かったおかげです!
よし、この調子で全部習得しちゃいましょう!」
「うむ、ともに頑張るぞ」
それから(現実世界の時間で)1年後。
僕は、『真影焔流』の基本技から応用技まで、そのすべてを会得してしまった。
ちなみに儺流ちゃんいわく、どんなに才能のある剣士でも全習得には7年かかるらしい。
「僕、もしかしてめっちゃ優秀……?」
「もしかしなくても、化け物じゃよ……妾もかなり長生きしておるが、剣の歴史が変わる瞬間をこの目で見るとは思わなんだわ」
儺流ちゃんは呆れを通り越して、どこか遠い目をしていた。
僕は4歳にして、最強剣術の一角を手に入れたのだ。
この調子でいろんな術を習得していけば、いずれ世界最強の術士になれるだろう。
さぁ、次はどんな術をコレクションしようか。
残りの真影流?
それとも、式神術や忍術?
いや、今欲しい術は――。
「ふふふ、次はアレを習得しようか」
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〜真影焔流〜
《初心》
・初の太刀『闇夜蛍火』
・壱の太刀『連宵焔舞』
・弐の太刀『神威緋槍』
・參の太刀『流鶯榴火』
・肆の太刀『曳光一閃』
《奥義》
・祀界の太刀『夢幻陽炎・虚ナル塵界』
・伍の太刀『赫灼流影・星堕チル夜』
・陸の太刀『煉獄不知火・彷徨ウ幽鬼』
・漆の太刀『呑舟焔波浅黄胡蝶・闇喰ラウ蟲』
・終の太刀『祝融大演義・覆滅ノ刻』
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