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第5話 これぞ『奥義』

――チャキッ。


 抜刀。美しい刀身が露わになった。


「よし、いくぞ」


『真影焔流《しんえいほむらりゅう》・初《はじまり》の太刀

 闇夜蛍火《あんやほたるび》』


――ブォンッ!


 父上の刀が、赤く発光した。まるで炉から出したばかりの鉄のように、刀身そのものが熱を帯び、紅蓮に輝いている。


「すごい、刀が輝いてる……」


「これが基本だ。己の霊力と闘気を刀に込めて、続く技をすぐに放てるよう体勢を整えておく。これをしないと、後の技は使えない」


 なるほど、常時、刀にバフをかけるスタイルか。

 光る刀。男のロマンだ。


「次は、少し速いぞ」


 父上は刀を右脇に構え、その刀身を自分の背中で隠すように体を半身にした。相手からは刀の長さも、角度も、動き出しも見えない『脇構え』。


 道場内の空気がピリッと張り詰める。


 相手(泥人形)からは見えないが、真横から見学している僕は、今、何が起こっているのか全部見える。


 刀身に、莫大な魔力が集約されていくのが分かる。

 あえて相手に悟らせないよう、殺気を消し、呼吸を消し、存在すらも希薄にして――切り掛かる瞬間の『起こり』を、完全にゼロにする。


『真影焔流・肆《し》の太刀

 曳光一閃《えいこういっせん》』


 瞬間、父上の背後に赤い閃光が走る。

 それは『爆発』だった。


――ズンッ!!


 一拍遅れて、暴風と爆音が鼓膜を叩いた。圧縮された魔力が解放された衝撃波だ。


 気がつけば、父上は土人形の背後に立っており、ゆっくりと残心をとっていた。


 刀の軌跡が、空間に焼き付けられるように赤く輝く。


 瞬間の爆発を推進力にして、一気に間合いを詰めて一刀両断する、神速の一閃。


 土人形は、斜めにズレて、崩れ落ちた。


「どうだ、見てたか?」


 父上は刀についた砂を払いながら僕に向き直る。


 僕は。


「…………」


 下を向いて、俯いていた。

 小刻みに肩が震えている。


 ダメだ。あまりにも、カッコよすぎる。


 一撃必殺の一閃。

 遅れてやってくる衝撃音。

 赤い光の線を描く太刀筋。


 情報の奔流が、僕の脳髄を直接刺激する。やばい、イキそう。久しぶりに、意識が飛びそうだ。


 僕は力を抜くように「ふぅー、ふぅー」とゆっくり息を吐き、昂る精神を必死に抑え込んだ。


 そして、顔を上げる。


「め、めっちゃカッコよかったです、父上!」


(あぶねぇ! 久しぶりに絶頂するところだった!)


 ギリギリのところで理性を保った。


 キラキラと瞳を輝かせる僕の反応を見て、父上は目尻を下げた。


「そうかそうか! カッコよかったか!

 よし、じゃあ、『奥義』も見せちゃおうか!」


 父上、テンション爆上がりである。


「えっ、アレをここでやるんですか!?」


 隅で控えていた警官たちが、顔面蒼白で叫んだ。


「大丈夫、大丈夫。力抑えるから。

 儺流《なる》ちゃん、いっちょデカいの頼むわ」


「しょうがないねぇ。出血大サービスじゃぞ」


 儺流ちゃんはそう言うと、胸元から小刀を取り出し、手首を勢いよく掻き切った。


――ドクドクドクッ。


 彼女の手首から真っ赤な血が止めどなく溢れる。

 まさに、『出血大サービス』。

 どうやら、神にも血は通っているようだ。


 溢れた血は、大地を赫く染めあげる。

 

「さぁ、来なさい。

 山怪之法《さんかいのほう》・大踏鞴法師《だいだらぼっち》」


 儺流ちゃんが術式を発動した瞬間、

 地面に吸い上げられていた血が、溶岩のように輝きだし、さらに、毛細血管のように細く広く地面を伝播していった。


――ズズズズズズズッ!


 地鳴りとともに、砂が盛り上がる。先ほどの比ではない、圧倒的な質量。


 現れたのは、見上げるような巨体。高さ4メートルはあるだろうか。丸太のような腕を持つ、片目の巨人が顕現した。


『バァァァァァァァァァァッ!』


 巨人が、砂を吐き散らしながら絶叫をあげる。


(で、でけぇぇぇぇッ!)


「灯弥、よく見とけよ。

 これが、真影焔流・序列3位の実力だ」


 だが、父上は臆することなく、笑う。


 そして、

 己の霊力と闘気を刀(・)に込める――だけでなく、自身を取り囲む領(・)域(・)にまで、その影響を広めた。


「真影焔流・祀界《しかい》の太刀

 夢幻陽炎《むげんかげろう》・虚ナル塵界」


――ドォォォォォォォッ!!


 直後、世界が赫く染まる。


 大地から噴き上がる焔。

 陽炎によって歪む景色。

 熱とともに肌を刺す死の気配。


 今、場を支配しているのは完全に父上である。


(あ、あれは!?)


 そして、ゆらめく父上の影が、すぅと背後へと伸びていき――立体化する。彼の背後に立ったのは、燃え盛る巨大な角を持った、炎の鬼神だった。


「あ……あぁ……」


 神を顕現させる、真の奥義。

 禍々しくも神々しい、鬼神の姿。


 その圧倒的な『和ファン』の暴力を前にして、僕のキャパシティはもう限界だった。


『真影焔流・終《おわり》の太刀

 祝融大演義《しゅくゆうたいえんぎ》・覆滅ノ刻』


 父上が刀を振り下ろす。連動して、背後の鬼神が巨大な炎の剣を振り下ろした。


 轟音すら、置き去りにする熱量。土の巨人は、抵抗することすら許されず、炎を上げながら粉々に吹き飛んだ。


 僕の脳内が、真っ白に染まる。


「~~~~~~ッッッ!!!」


 声にならない叫びとともに。

 僕、約半年ぶりに絶頂。


「火矛累さん、息子さんが気絶しちゃいましたよ! 驚かせすぎです!」


 警官の叫び声と、


「心配しないで、これは喜んでいるの」


「はぁ!?」


 ママンの冷静なフォローを聴きながら、

 プツン、と意識の糸が切れた。




 今日は、とても素晴らしい1日だった。あんなものを見せられて、憧れないわけがない。


 よし、決めた。

 これはもう、剣術を極めるしかない。

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