第46話 稚星祭の『始まり』
「見ろ、あれが稚星祭の会場。
崩白峰・呪術練郷だ」
担任の一色先生と、僕たち甲クラスのみんな。
それに付き添いの先生4名を乗せたバスは、
約3時間ほど山道を揺られた末、
ぶじに目的地へ到着した。
(うおっ、なんだここは!?)
深い山のなか、
突如として現れた『広大な平地』。
近代的なガラス張りの施設もあれば、
野球ドームのような巨大な半球体の建物もある。
かと思えば、人工的に作られた廃墟群や、
ゴツゴツとした岩石地帯まで用意されている。
まるで、巨大なテーマパークだ。
「ここは術士専用の複合訓練施設だ。
俺たちのように地元の学生が呪術の鍛錬を行うだけでなく、ワールドマジックカップの帝国代表選手が強化合宿で使うこともある、国営の合宿施設だ」
一色先生が誇らしげに説明する。
確かに、これだけ広くて頑丈そうな施設なら、術士が思う存分暴れても周りに被害は出ないだろう。
(地獄にも、こんな施設を作りたいな。
ちゃんと施設の構造を覚えておこっと)
駐車場でバスを降りて、入場ゲートに向かう。
近づいて、ハッと気がついた。
「一色先生、これは結界ですか?」
施設全体が、薄氷のようにうっすらと光る巨大なドーム状の結界で覆われていたのだ。
「ああ、そうだ。
結界には絶対に触れるなよ。
これは俺たち術士が触れると、
霊力や闘気を感知してアラートが鳴り、
警戒レベルが上がる仕組みになっている」
(なるほど、霊力と闘気に反応するのか。
じゃあ、非術士が触れたらどうなるんだろ?
すり抜けられるのかな?)
当然、そんな疑問が頭をよぎる。
だが、その答えはすぐに、
視覚的な『恐怖』として提示された。
僕の目の前を、風で飛んだ落ち葉が通過する。
ヒラヒラと宙を舞い、結界に触れた。
その瞬間。
――パァァァンッ!
落ち葉が一瞬でチリとなり、空中で爆散した。
その様子を見ていた全員が、唖然と口を開ける。
ふと視線を下げると、
近くにあった立て看板には、
赤い極太の文字でこう書かれていた。
『結界に触れるな!
触れると命の保証なし!』
(こわすぎだろっ!)
みんな、青ざめて一歩後ずさりした。
こんなのを見せられたら、
誰も好き好んで触ろうとは思わない。
術士を感知するセンサー的な機能と、
触れたものを木っ端微塵にする防御機能。
かなり高性能かつ、複雑に編み込まれた結界だ。
「ゲートを通るには、本来、身分確認と身体検査、それに術士検査をパスしなければならない。
今回は事前に申請しているから免除されている」
徹底的なセキュリティ。
身分確認と身体検査は言わずもがな。
加えて、術士は存在自体が『歩く兵器』みたいなものだから、術士かどうかを判断する特別な検査も行うらしい。
(たしかに、6年前にも大規模なテロがあったし。
こういう国の重要施設は、セキュリティにはこれでもかってくらい気を遣わないとね!)
◆
「これより、第38回・稚星祭を開催します」
西稻地方の5県の呪術学校から集まった生徒たちが、広場に綺麗に整列している。
全部で12校。
352名の未来ある術師の卵たちが、
一堂に介している。
「それでは最初に、ご来賓の『風神東』様からご祝辞を頂戴いたします」
司会の声に合わせ、1人の若い男が登壇した。
180センチ以上ある長身に、
顔立ちもスタイルもモデルのように整った、
爽やかなイケメンだ。
周囲がざわつく。
女子たちはひそひそと黄色い声をあげ、
男子たちも憧れの眼差しを向けている。
それもそのはず。
風神東といったら、現在この国を支配している将軍一族――風神家の一員なのだ。
もともとこの国は天皇制だったが、先の大戦で帝国を勝利に導いた風神家が新たに幕府を開き、将軍として実権を握るようになった。
現状、帝国は風神家による事実上の独裁国家だ。
東は、軽快な足取りでマイクスタンドの前に立った。
「あー、マイク入ってる?
うん、オッケー」
ポンポンとマイクを叩き、
音が入っているのを確認。
「ご紹介にあずかった、風神東だ。
きっとこの後、偉い大人たちが『帝国の未来のために』とか『正義と規律を守れ』とか、たいへんありがたい話を沢山してくれるだろう。
だから、俺が話すことは1つだけだ。
君たちは――『面白く』なれ。
『使い勝手のいい術士』になる必要はない。
ここにいる352名の術士は、
特に優れた甲クラスの生徒たちだ。
国を守り、国を豊かにするのはもちろんだが、
君たちにはそれ以外にも大切な役割がある。
それは、『世界を熱狂させること』。
この国の権威を、栄光を、力を、
世界に知らしめるために。
人々の注目をガッツリと鷲掴みにする、
独創的で、魅力的な術士が必要なんだ。
俺は、君たちがそんな『面白い術士』に成長してくれることを期待している。
君たちの術士人生は始まったばかりだ。
頑張りたまえ。
じゃ、俺の話はこれでおしまい。
稚星祭、思いっきり楽しんでくれ!」
東はスピーチを終えると、
忙しそうにさっさと壇上から降りていった。
割れんばかりの拍手が広場を包み込む。
(ほぉ〜、いいじゃないか!)
僕は素直に感心して手を叩いた。
堅苦しい挨拶をすっ飛ばして、
若者の心に火をつける。
上に立つ人間として、とても魅力的なスピーチだ。
僕もいちおう『百鬼弥教』の教祖だし、聴衆の心を掴む演説能力はぜひとも見習いたいところである。
◆
開会式が終わり、
本格的に稚星祭がスタートした。
「それでは、参加するレクリエーションごとに分かれて移動を開始してください」
稚星祭の目的は、他校の生徒との交流だ。
他校の生徒と混成チームを組み、
レクリエーションを通して親睦を深める。
僕が選んだレクリエーションは、『宝探し』。
チームの仲間と協力して、
廃墟エリアに隠された『宝』を探すゲームだ。
制限時間内に、
1番多くの宝を見つけたチームが優勝となる。
「それでは、チーム分けを発表します。
チームは3人1組で、全部で23チームあります。
足元の地面に番号が映し出されますので、
まずは自分のチームの番号に集合してください」
合図と共に、足元の地面が巨大なスクリーンのように光り、1から23までの数字が順番に浮かび上がった。
ムダに金がかかっている。
僕は『チーム1』の枠へ向かう。
「あの、篝君ですか?」
枠の中で待っていると、
他校の制服を着た少年が話しかけてきた。
すっきりとした塩顔のイケメン系だ。
「はい、そうです」
「あ、やっぱりそうだ!
僕、沖聡太っていいます。
噂で聞いていたので、すぐにわかりました。
いっしょのチームになれて嬉しいです!」
沖くんは、僕のことを知っているらしい。
「沖くんですね、今日は一緒に頑張りましょう!
ところで、僕って噂になっているんですか?」
「え、それはそうですよ!
現在、真影焔流序列3位の火矛累さんの息子さんで、しかもすでに奥義まで使える天才児だって!」
沖くんは、目をキラキラさせてまくしたてた。
なんか、小っ恥ずかしいな。
あ、そういえば。
ここ最近、
僕にやたらと縁談の話がくると、
ママンが言っていたような……。
縁談とかまったく興味がないので右から左へ聞き流していたが、どうやら僕のチートっぷりは、すでに他校の生徒にまで知れ渡っているようだ。
そんな話をしていると、
「おまえら、チーム1かっ?」
こんがりと日焼けした、ショートヘアの元気そうな女の子が駆け寄ってきた。
「わたしは瀬戸千夏!
いっぱいお宝集めて、絶対に1位とろうな!」
千夏ちゃんは、屈託のない笑顔で右手を差し出してきた。
僕たちも笑顔で握手を返す。
「千夏ちゃん、よろしく!
よし、今日はこのメンバーで頑張るぞ!」
えいえいおー!と、3人で気合を入れた。
◆
灯弥が他校の生徒と顔合わせをし、
無邪気に笑い合っていたころ。
事件はすでに、静かに始まっていた。
「――配達員を殺して、制服と社員証を奪いました。
これで、警備を騙してゲートを通過できます」
ゲートから10キロほど離れた山林のなか、
白装束の上に配達員の制服を羽織った男が、
スマホで何者かに連絡している。
その足元には、シャツと下着だけの無惨な姿で地面に倒れている本物の配達員がいた。
目を見開いたまま、ピクリとも動かない。
首の骨を、一撃でへし折られたのだ。
『よくやった、計画を続行せよ。
我々は、非術士だ。
術式を使おうとしない限り、
術士検査には反応しない。
安心して入場検査を受けろ』
スマホの向こうから、冷酷な声が指示を飛ばす。
「はい、施設に入ったら――作戦を開始します」




