第45話 稚星祭の『朝』
稚星祭、当日の朝。
『それでは、次のニュースです。
メシスト教系のカルト団体『民衆正教』による大規模テロ事件から、今日で6年が経ちました。
当時、襲撃された学校、官庁、軍の施設では、
朝から追悼式の準備が行われており――』
朝飯の白米をモグモグと食べていると、
テレビのニュースから物騒な話題が流れてきた。
大規模テロ事件。
6年前ということは、僕が生まれる1年前か。
メシスト教。
前世でいうキリスト教みたいなものかな?
西海諸国で広く信仰されている宗教だ。
メシスト教自体は、過激でもなんでもない、
ごく普通の真っ当な宗教である。
ニュースで言っている『民衆正教』は、
分派まがいのカルト集団であろう。
「そうか……あれからもう6年も経つのか」
隣で目玉焼きを突っついていたパパンの箸がピタリと止まり、ぽつりと呟いた。
いつものチャラい雰囲気は消え失せ、
ひどく暗い顔をしている。
(そうか、パパンは警察官だから、
この事件に関わっていてもおかしくないな)
「父上も、この事件の対応をしたんですか?」
僕が味噌汁のお椀をコトリと置いて尋ねると、
パパンは小さく息を吐いた。
「え、あぁ、そうだな。
当時、警官だったやつは、
ほぼ間違いなく全員出動したよ。
なにせ、全国60ヶ所で同時に襲撃されたからな。
俺はまだ新米警官だったが、
『お前は強いから来い』って、
一番ヤバい最前線に駆り出されてな」
そこまで言うと、
パパンは苦い薬を飲み込んだように眉間を寄せた。
「……ほんとうに、地獄のような光景だった。
もう二度と、あの狂人たちとは関わりたくないな」
あの狂人たち。
カルト団体のやつらのことだろう。
「彼らはいったい、どんな人たちだったんですか?」
「どんな、か……。
あいつらは、術士を『悪魔の使い』だと言って目の敵にしている、非術士の集団だ。
6年前、とつぜん現れて、
帝国中の術士関連施設を襲撃したんだ」
術士は悪魔の使い、か。
まぁたしかに、
術式を使えない非術士にしてみれば、
術士は理不尽なバケモノに見えるかもしれない。
って、ちょっと待て。
非術士が術士を襲撃した?
普通にやったら勝てるはずないけど、
どうやってテロを起こしたんだ?
「彼らは、何か強力な武器でも使ったんですか?」
「いや、術式を使っていた」
(え、非術士なのに術式を使えるの?
それ、もう非術士ちゃうやんけ!)
「教団の教祖が、『自身の霊力や闘気を他人に分け与えることができる術式』を持っていたらしい。
その力を使って、術士に恨みを持っている非術士を手駒にして暴れさせたんだ」
自身の霊力や闘気を人に与えることができる術式。
与えられる力の総量には限界があるだろうが、
一般人を術士に変えることができるわけだ。
かなり強力な固有術式だな。
それに、非術士のなかには、
術士に恨みを持っている人間がかなりいるはず。
彼らの心の隙間に入り込むのは、
教祖にとって容易だっただろう。
「6年前のテロ事件で、その教祖は重傷を負ったが……結局、逃げられてしまった。そういう意味では、まだこの事件は終わっていないんだ」
パパンは味噌汁をすすり、重いため息をつく。
たしかに、
元凶がまだ捕まっていないなら安心はできない。
またどこかで思想を広げ、信者を増やし、次なるテロを計画しているかもしれないのだ。
いやぁ、宗教って本当に恐ろしいね!
って、あれ?
よく考えたら、僕も新興宗教の教祖やん。
こわっ。
「灯弥、早く食べ終わらないと遅刻するわよ〜」
ベランダで洗濯物を干しているママンが、パンパンッとタオルをはたきながら声をかけてきた。
「はーい!」
僕は余計な考えを頭から振り払い、
残りのご飯を急いでかきこんだ。
(今日は、他校の生徒との交流会だ!
気張っていかないとね!)




