第44話 殺人カルトの『集会』
「術士は、悪魔の使いです。
全員、地獄に還さねばならない」
大東陽帝国、某所。
外光が一切遮断された、巨大な地下聖堂。
数千人の人間が、隙間なく整列している。
身にまとっているのは、粗末な白い服。
清貧と潔白を意味する正装である。
聖堂内は、不気味なほど静かだった。
数千人が同じ空間にいるというのに、
衣擦れの音すらしない。
全員が瞬き1つせず、
ただ1人の男をじっと見つめていた。
「この世界から争いが無くならないのは、
すべて悪魔と、その眷属である術士のせいです」
壇上には、車椅子に乗った男が座っていた。
全身をぐるぐると包帯で覆われ、瞼のない片目と、皮膚が繊維のようにこわばった醜い口元しか見えない、異様な姿だ。
上等の白いスーツを着ているが、その下からはツンと鼻を刺す膿の臭いが漂っている。
見るからに死が間近に迫っている重病人だ。
それにもかかわらず、彼は誰よりも生命力に満ち、神聖なオーラすら放っているように見えるから不思議である。
男は、マイク越しに信者たちへ静かに語りかける。
「この世界にまだ、呪術が存在しなかった頃。
人々は呪術という武器を持たず、
みな仲良く暮らしていました。
世界は主の威光で満ちており平和そのものでした。
老いも、病気も、死すらも存在しなかったのです。
けれど、ある日。
1人の女が悪魔に惑わされ、
禁忌を犯してしまいます。
そう、この世界で最初の殺人です。
禁忌を犯した彼女は、その後、悪魔から邪悪な知恵を授かりました。
そして人々を巧みに惑わして、
何千何万もの無実の民たちを、
生贄として殺害したのです。
すべては、悪魔の思惑通り。
数多の死を代償にして、
この世界に『地獄の門』を開いたのです。
それからというもの、この世界は陰りました。
主の威光は閉ざされ、老いが、病気が、そして死が人々を襲うようになった。
さらには、地獄からやってきた怪物たちが世界に溢れ出したのです。
美しい世界は、混沌の渦に飲み込まれてしまった。
……術士が現れたのも、まさにその時でした。
彼らは、地獄の門を開いた諸悪の根源。
女とともに、悪魔の策略に加担した者たちです。
それにもかかわらず、彼らは悪魔から褒美として与えられた力『呪術』を使って、世界の支配階層へと登り詰めました。
彼らは『人間を守る』という大義名分を掲げながら、我ら善良な非術士を迫害し、家畜のように扱っています。
これこそが、我々、非術士が搾取され続けるようになった、隠された真の歴史なのです。
我々は一致団結し、術士たちをこの世界から根絶やしにしなければなりません。
この世界に再び、主の威光を取り戻すために」
男がスピーチを終える。
しかし、数千人の信者は微動だにしない。
拍手も、歓声もない。
ただの静寂。
しかし、聖堂内の熱気は確実に跳ね上がっていた。
信者たちの瞳の奥に、どす黒く昏い炎が灯る。
不意に、
最前列にいた1人の信者がスッと手を挙げた。
肘を一切曲げず、天に向かって垂直に。
指先まで定規で測ったかのようにピンと伸ばされたその手は、まるで機械の部品のようだ。
完全に規律を叩き込まれた狂信者の証である。
「発言を許可します」
男が促すと、信者は直立不動のまま、ひどく硬い声で問いかけた。
「再来週、西稻地方にて、術士の卵どもが『稚星祭』なる祝祭に参加します。将来、我らを脅かす悪魔の手先です。これの処分はどういたしますか?」
壇上の男は、薄く、残酷に唇を歪める。
「――害虫は、卵のうちに潰さねばならない」
そして、包帯に巻かれた両手を天へ掲げた。
それが、引き金だった。
「「「おおおおおおおおおっ!!!!」」」
地鳴りのような叫びが、地下聖堂を爆発させた。
数千人の信者たちが、一斉に両手を天へと突き上げ、獣のような咆哮をあげる。
「「「悪魔の使徒に、死を!!」」」
「「「この世界に主の威光を取り戻せ!!」」」
狂熱に浮かされる信者たちを見下ろしながら。
男はただ静かに、目を細めて嗤っていた。




