第47話 セキュリティ『陥落』
「みなさん、準備はいいですね?
それでは、宝探しスタートです!」
パンッ!と開始の合図が鳴り響く。
レクリエーションが始まった。
各チーム、バラバラの場所から一斉に廃墟エリアへと駆け出していく。
「とりあえず、高台からエリア全体を見渡してみましょう」
僕はチームの2人に提案した。
この廃墟エリアには、ボロボロのビルや廃屋が入り組むように立ち並んでいる。
見通しが悪いので、まずは上から地形や怪しい場所を把握したほうがいい。
「おっ、それ名案やな!」
元気いっぱいの千夏ちゃんが、
目を輝かせて賛成してくれる。
「それなら、僕が見てきますよ」
沖くんが一歩前に出た。
「天翔闊歩!」
沖くんが足に風の術式をまとう。
そして、何もない空を蹴り、
まるで透明な階段があるかのように、
軽やかに空中を駆け上がっていった。
そのままビルの屋上まで一気に登りきる。
そして何かを発見したようで、
すぐにふわりと舞い戻ってきた。
「どうでした?」
「すぐそこの交差点に、
水の玉が浮いてましたよ!」
(ん、水の玉?)
話を聞くと、すぐ近くの交差点の真ん中に、大きな水球がポワポワと浮かんでいるらしい。
なるほど、あからさまに怪しい。
宝の匂いがプンプンするな。
さっそく、その場所へ向かう。
「たしかに、浮いてるね」
沖くんの言うとおりだった。
何もない空中に、
大きな水の塊が静止している。
「あっ、地面になんか書いてあるで!」
千夏ちゃんが指さした地面に、
うっすらと光る文字が浮かんでいた。
『水球をこわして、宝を手に入れろ』
よく見ると水球の真ん中に、
水色のビー玉みたいな宝石が浮いている。
あれが宝らしい。
「ここは私に任せとき!」
千夏ちゃんは自信満々に腕まくりをすると、水球にペタッと触れた。
そして、霊力を一気に流し込む。
(なるほど、支配権を奪う気か)
術士同士の戦いでよく使われる、
『支配権の奪い合い』だ。
すでに相手の霊力が染み込んでいる物質に対して、自分の霊力をさらに強く流し込み、相手の支配を上書きしてしまうテクニックである。
そうすることで、相手の操っているものを奪い取り、自分の武器に変えることができるのだ。
やり方は、霊力を使った『陣取りゲーム』や『綱引き』をイメージすると分かりやすい。
今、この水球の形を維持している霊力と、千夏ちゃんの霊力。
どちらの霊力が、この水の動きを支配できるか。
とてもシンプルな力比べだ。
――バシャァァァァッ!
勝負の結果、千夏ちゃんの霊力が勝った。
水球が弾け、ただの水となって地面に降り注ぐ。
――コロコロコロ。
そして、弾けた水の中から、
水色の宝石が足元へ転がってきた。
「とりあえず、1つ目ゲットですね!
この調子でどんどん行きましょう!」
「「おーっ!!」」
えいえいおー!と、3人で気合いを入れ直す。
その後も、
僕たちは見事なチームワークを見せた。
『電気を流してエレベーターを動かし、地下1階へ向かえ』
『大量の風船に隠された、当たりの風船を割れ』
『逃げるカカシ(なぜかサラリーマン姿)を燃やせ』
様々なギミックを順調にクリアしていく。
そして最終的に。
「第1位は、篝・沖・瀬戸チームです!」
「「「いえ〜い!」」」
無難に1位をとり、
僕たちはハイタッチを交わした。
交流目的のカンタンな遊びだったので、
他のチームもそこまで悔しがってはいない。
順位がどうこうより、純粋に楽しんで親睦を深めることができた。
レクリエーションとしては、大成功だろう。
◆
灯弥たちが優勝を喜んで和気あいあいとしていた、ちょうどその頃。
「サイグウ運輸の阿部です。
お届け物に上がりました」
施設のゲートに、運輸会社の制服を着た男が立っていた。
「はい、お疲れ様です。
そこに社員証をタッチしてください」
男はポケットからカードを取り出し、
端末に近づける。
本物の配達員を殺して奪った、
正規の社員証だ。
――ピッ。
端末が正常に作動し、身分が認証された。
「はい、オーケーです。
次に、荷物検査と術士検査を行います」
ゲートの警備員による、入念な検査が始まる。
荷物からは金属反応も、霊力反応も出ない。
男からも、霊力は一切感知されなかった。
非術士である彼は、そもそも霊力を持っていないのだから当然である。
こうして、
男はすべての検査を難なくクリアした。
「では、入場してください」
男は台車をおしながら、ゲートを通過する。
――ガラガラガラ。
ゲートから離れ、物陰にスッと身を隠した。
「――『篭り匣』」
男が教祖から与えられた力を解放すると、
手のひらに小さな赤黒い木箱が現れた。
血がこびりついて変色したような、
禍々しいオーラを放つ呪具である。
男はそれを、『結界管理センター・宛て』と書かれた段ボール箱の中に滑り込ませた。
そうして。
「お届け物です。
サインをお願いします」
結界管理センターの事務所に、荷物を届けた。
ここは、施設全体を覆っている結界を管理し、セキュリティを統括している心臓部である。
「あぁ、ありがとう。
ご苦労さん」
センターの従業員が、
無防備に荷物を受け取る。
「失礼しました」
配達員が去ったあと、
従業員は事務室の机で荷物を開け始めた。
当然、その中には、
「ん、なんだこの箱は?」
緩衝材の底から出てきた木箱。
それを手に持った、次の瞬間。
「――解錠」
――ザクッ。
「……かはっ」
箱のフタがひとりでに開き、
中から飛び出した一本の刀が、
従業員の喉を深々と突き刺した。
ゴボッと血を吐き、従業員が崩れ落ちる。
小さな箱の中から、
『1人の男』がぬるりと這い出してきた。
男らしからぬ派手なメイク。
長い紫色の髪をきっちり整えた、
不気味な出立ちの殺し屋だ。
「っ、襲撃だ!
はやく結界を張れ!」
異変に気づいた別の従業員が、
血相を変えて叫ぶ。
緊急時、セキュリティの要である『結界操作室』を守るために、操作室と事務室のあいだには、即座に防護結界を張れるシステムが用意されていた。
「はい、ざんねん♡
『雷騰金兎』」
だが、男のほうが圧倒的に速かった。
緊急システムを作動させるよりも早く、
黄金の雷光をまとった男が操作室へと滑り込む。
そして、中にいた従業員たちの首を、踊るように刈り取っていった。
「これで依頼完了、っと」
男は、血の滴る刀の刃を、ペロリと舐める。
「動くな! そこからでてこい!」
警報を聞きつけ、すぐに警備の術士たちが駆けつけてきた。
10人以上の完全武装の術士に囲まれる。
男には、逃げ場はない。
だが、それでも、
「あとはキミたちの仕事だから、ボクは帰るよ。
金だけちゃんと振り込んでおいてね」
男は、まるで散歩の途中のような余裕の笑みを浮かべていた。
「状況を見ろ!
ここから生きて帰られるわけがないだろ!」
警備の術士が、武器を構えて怒鳴りつける。
「状況が見えてないのは、アナタたちの方だね」
「キサマ、いったい何を言っているんだ!?」
「その箱の中身は――ボクだけじゃない」
――ブスッ!
警備の術士たちが、一斉に背中を刺された。
床に落ちていた呪物『篭り匣』から、白いローブを着た集団が、音もなくぞろぞろと湧き出してきたのだ。
彼らは民衆正教の信者たちである。
「ご苦労だ。
金は振り込んでおく」
先ほどの配達員の男も、いつの間にか白いローブに着替えて、信者たちの群れに混ざっていた。
「ん、よろしくね。
ところで、ボクも一応『術士』なんだけど。
ボクのことは、殺さなくていいのかい?」
派手なメイクをした男は、
わざとらしく小首を傾げて試すように聞く。
「早く出ていけ。
10分後には、施設内を結界で完全に隔絶する。
そうなったら最後、
誰もここから出られないし、
入ることもできない」
機械のように冷たく、感情の一切ない声。
「はいはい。
そんじゃ、また」
男はヒラヒラと手を振り、
悠然と立ち去っていった。
「お前たちも、各自持ち場に向かえ」
信者たちは、無言で頷く。
禍々しい箱からは、いまだに白いローブの信者たちが、虫のように這い出し続けている。
その数は、すでに1000人を優に超えていた。
そして、きっかり10分後。
結界操作室の操作盤を完全に掌握した信者が、レバーを強く引き下ろした。
結界のセキュリティレベルが、
『最大』に設定される。
同時に、
施設全体を覆っていた薄氷のような結界が、
異常事態を示す赤色へと変色し、
分厚く、強固な壁となって空を覆い尽くした。
「これで、誰も逃げられない。
術士のガキ共は、1匹残らず地獄に帰す」




