第42話 小学生としての『日常』
クラス分け試験から3ヶ月が経った。
薄々感じていた嫌な予感は、
ものの見事に的中した。
待望していた僕の学校生活は、
完全なハードモードに設定されていたのである。
「なんでこんな簡単な問題も分からないんだ!
成績1位がそんなんでどうすんだ!」
「これから呪術の授業を始める。
2人1組でペアをつくれ。
――ただし、篝、お前は俺とだ」
「もっと霊力と闘気を隠しきれ!
非術士だと敵に錯覚させるんだ!
全然ダメだ、話にならない!
やる気がないなら帰れ!」
(帰りてぇッ!)
不適切指導。
いわゆる体罰や暴言だが、残念なことに、この世界にはコンプライアンスなんて言葉は存在しない。
むしろ、厳しい体罰や暴言は、「子供が一人前の大人になるために必要な試練」として好意的に受け止められている節すらある。
(まじで価値観が昭和すぎるだろ……)
「篝、お前は今日も居残りで特訓だ」
クラス担任である一色による徹底的なしごき。
座学の授業では、2回に1回は僕に当ててくる。
呪術の授業では、必ず一色先生とペアになる。
つまり、実質マンツーマンだ。
さらに放課後は、僕だけ追加で居残り特訓。
誰の目から見ても、明らかにハラスメントである。
正直、ママンに泣きつこうかとも思った。
ドラえも◯に出てくるスネ◯みたいに。
この現状を話したら、
きっとママンはモンスターペアレントを発動して、
『私の可愛い灯弥ちゃまになんてことするザマス!
教育委員会に訴えてやるザマス!』
なんて言って、
一色先生を懲戒処分に追い込んでくれるだろう。
でも、僕は泣きつかなかった。
なんか負けた気になるし、しごかれているとはいえ、なんだかんだ自分の成長に繋がっているからだ。
それになにより、
座学や修行の内容自体はすごく面白い。
ここが一番デカい。
たとえば、歴史の授業。
前世の日本でいう平安時代。
政敵に敗れ、都を追われた菅原道真が、死後に怨霊となって都に厄災をもたらしたという有名な逸話がある。
これと似た話が、この世界にもあったのだ。
この世界の菅原道真的な存在は、政敵に敗れて都を追われたあと、流刑地で伝説の大妖怪『鵺』と接触。
彼らは都を陥落させるべく、
手を組むことにしたのだ。
当時、都には強力な結界が張ってあった。
しかし、優秀な学者であった道真は、あっさりと結界の弱点を突き、都の守りを打ち砕いた。
そこに、鵺が数多の妖怪を引き連れて強襲する。
これが俗にいう『第一次・鵺哭百鬼夜行』。
この時、都の大部分が焼失。
天皇の住んでいた御所も、
鵺の落とした雷によって火の手が回ったという。
だが、最終的には、
当時の陰陽師たちの必死の抵抗により道真は死亡。
鵺も深手を負って逃亡した。
それから約200年後。
傷が回復した鵺は、ふたたび都に攻め入るも、今度は当時勢力を拡大していた武士勢力によって討ち取られてしまう。
これが、『第二次・鵺哭百鬼夜行』だ。
つまりこの世界では、
菅原道真と鵺が協力して都を襲ったのである!
(なんという胸熱展開!)
前世で最強格だった怨霊と、
同じく最強格だった妖怪がタッグを組むなんて。
そんなの歴史的大事件だ!
※はい、歴史的大事件です。
この話を聞いた僕は、
あまりの興奮で過呼吸になってしまった。
「ひゅーっ、ひゅーっ……!」
そのせいで、強制的に保健室へ連行されるハメになった。
「先生、灯弥くんが苦しそうですわ!」
隣の席の白玖ちゃんが、悲痛な声をあげる。
「ハァハァ、ち、違うんだ。
僕のことは気にせず、授業を続行して――」
「バカやろう、気にするに決まってるだろ!
ダチが辛そうにしてるのに黙っていられるか!
篝ッチは、俺ッチが助ける!」
そのまま僕は、千景に引きずられるようにして教室を出た。
もっと話を聞きたかったのに……。
それでも、
僕を心配してくれての行動だから。
さすがに文句は言えない。
なので僕は家に帰ってから、
僕は教科書のその部分を100回音読した。
これでもう、忘れることはないね!
そんでもって、呪術の授業。
せっかく一色先生とマンツーマンを組まされているのだから、僕はこの機会を利用して『真影礫流』の指導を受けようと考えた。
僕が今のところ使える剣術は、
真影焔、真影颯、真影雷、
そして真影覇流の4つである。
残りの剣術は、
真影霖、真影霙、真影礫流の3つ。
当初、残りの三剣術も西海魔術を活用し、属性変化の感覚をカンタンに掴んでから習得するつもりだった。
しかし!
万能だと思っていた西海魔術にも、
1つだけ大きな欠点があったのだ。
それは、
男は『火・雷・風』、
女は『水・氷・土』と、
使える属性が性別によって決まっていること。
男である僕が水属性の呪文を詠唱しても、
うんともすんとも言わない。
魔術が発動しないのだ!
つまり、
霊力の『水・氷・土』属性への変換は、
自力で感覚を掴まなければならない。
(なんで魔術に性差があんねん!)
心の中で激しくツッコミを入れる。
が、できないものは仕方がない。
というわけで、
男でありながら土を操る『真影礫流』を使える一色先生に、頭を下げることにした。
「先生、僕に真影礫流を教えてください!」
苦手な一色先生に頭を下げるのは嫌だが、僕は和風ファンタジーのためなら、道端に落ちてる犬のフンを食べることもいとわない漢。
少なくとも前世の僕なら、「犬のフンを食べたら陰陽術が使える」と言われれば、余裕で茶碗山盛りいけただろう。
それを思えば、
苦手な先生に頭を下げるくらい、わけないことだ。
「よし、いいだろう。
それじゃあまず、地面に手をついてみろ」
一色先生は、案外すんなりと僕の願いを聞き入れてくれた。
意外と優しいのか?
(もしかしたら僕は、一色先生のことを少々誤解していたのかもしれないな)
僕は言われた通りに、地面に手をついた。
「こんな感じですか?」
「ああ、それでいい。
これから俺は、お前に全力で石を投げ続ける」
「――え?」
「痛いのが嫌なら、必死で土の壁を作れ」
(つまり、根性論ってコト!?)
訂正。
一色先生はやはり、
絵に描いたような昭和のスパルタ教師だった。
このあと、
僕はめちゃめちゃ石をぶつけられた。
保健室で治癒術式のお世話になりまくったのは言うまでもない。
ただ、この特訓のおかげかどうか知らないが、3ヶ月目にして、薄っぺらい土の板を作れるようにはなった。
まだまだ一色先生の全力投球を完全に防ぐことはできないが、それでも土属性の属性変化を掴みかけているのは事実だ。
この調子で特訓を続ければ、1ヶ月後には立派な防御壁を作れるようになるだろう。
「水・氷・土属性の魔術は、
わりと感覚が似てるからね。
どれか1つでも習得できれば、
あとはカンタンに応用できるはずだよ」
全属性の魔術を扱える乃愛ちゃんから、
そんなありがたいアドバイスをもらった。
「ほんとですか!
それは良い情報です!
ありがとね!」
「うん……っ」
乃愛ちゃんは少し頬を赤くして、
モジモジと指を絡めた。
「それでね、今度、私の誕生日会を開くんだけど。
灯弥くんも、よかったら来てくれないかな……?」
「はい、ぜひ行かせてください!」
「ほんと!?
絶対きてね!」
パァッと顔を輝かせた乃愛ちゃんは、
くるりと背を向けて走り出した。
「――ねぇ、みんな聞いてよ!」
僕から参加の返事をもらった乃愛ちゃんは、女子グループに戻って嬉しそうに報告している。
(そんなに僕に来て欲しかったのかな?
あ、なるほど、そうか!
誕生日は、大勢の人に祝ってほしいもんね!)
僕は一人で勝手に納得し、ウンウンと頷いた。
というわけで、総評。
たしかにハードモードな毎日だけど、
わりと学校生活を楽しめている。
うん、満足ですね!




