第41話 結果『発表』
「――そこまでじゃ!!」
――パァァァァァァァァァアンッ!
僕と一色がぶつかり合う直前、
突然、鼓膜を破るような爆音が響き渡った。
(な、なんだ!?)
音のした方を見ると、
白ひげをたくわえた和装の老人が、
両の手のひらをピタリと合わせて立っていた。
合わせられた手のひらの隙間からは、
シュウ〜と白い煙が立ちのぼっている。
音速を超えた、かしわ手。
あの爆音は、ソニックブームによるものだった。
(このじいさん、なかなかの実力者だな)
「お疲れさまです、中條校長」
一色はすぐに刀を鞘に納め、術を解いた。
一色の背後にいた半人半蛇の化身も、
ザザザッと崩れてただの砂に戻っていく。
どうやら、
このとんでもないおじいちゃんは、
この学校の校長先生らしい。
ただ立っているだけで、
ビリビリとした威厳が伝わってくる。
とりあえず、
僕も空気を読んで術を解いておこう。
「おぬしたち、いったい何をやっておるのだ?
試験の範疇を、完全に超えておって。
もしここが軍士官学校であれば、
取り返しのつかないことになっておるぞ」
おじいちゃん、バチギレである。
閻魔大王みたいな恐ろしい顔で、
僕たちをにらみつけている。
「上官に勝負を挑んだうえで負けたなら死罪。
逆に、部下に負けるような上官は大幅な降格。
負けのリスクが大きい割に、
メリットはほぼない争いだ。
おぬしたちは、その自覚があるのか?」
「はっ、自覚が足りておりませんでした!
すべては私の不徳のいたすところ。
いかなる処罰でもお受けいたします!」
あの強面の一色が、直立不動で平謝りしている。
中條校長は、その様子を無言で見つめたあと、
「篝灯弥、おぬしはどうなんじゃ?」
急に、僕の方へと話を振ってきた。
(うわ、名前覚えられとるやん)
「はい、僕も深く反省しています。
ごめんなさい」
内心では「せっかくの勝負の邪魔をされた」と少なからず思っていたが、これ以上おおごとにすると、今度は『問題児』という良くない評判が立ってしまう。
ここいらが引き際だろう。
僕は子供らしく、元気に頭を下げた。
「今後は気をつけることじゃ。
教師も生徒もな」
校長はそう言い残すと、
くるりと背を向けて去っていった。
「……試験はこれで終了だ。
明日の朝、クラス名簿を掲示板に貼り付ける。
それを見て、自分のクラスに向かえ。
ほら、今日は解散だ、解散」
校長の一喝で完全に毒気を抜かれた一色も、
僕を一瞥したあと、足早に去っていった。
◆
こうして全チームの試験が終わり、
最終的な討伐数が発表された。
117名のうち、上位5名は以下の通り。
1位:146体・篝灯弥
2位: 98体・雷堂千景
3位: 93体・黄金井乃愛
4位: 85体・旭白玖
5位: 71体・神代悠里
(うん、圧倒的な成果だね!)
ちなみに、
これはあとで知ったことだが、
僕の討伐数は当校の歴代1位の記録らしい。
「おつかれさまです。
灯弥くん、とてもお強いのですね。
私、見惚れてしまいましたわ」
白玖ちゃんが優雅な足取りで近づいてきた。
「ありがとうございます。
これでも、父上の方がずっとすごいんですけどね。
精進あるのみです」
2人で話していると、ポンッと強く肩を叩かれた。
振り返ると、黄色と黒のド派手な忍者が。
「俺ッチの完敗だわ!
1年生最強の座は、ひとまず灯弥ッチに譲っとく!
お互い良きライバルとして、切磋琢磨しような!」
千景が、さわやかな笑顔で手を差し出してきた。
「はい、ともに頑張りましょう」
僕も笑顔で握手を交わす。
「あ、あのっ!」
こんどは背後から声がした。
振り返ると、
乃愛ちゃんが顔を真っ赤にしてモジモジしている。
「灯弥くんって、許嫁の子とかいるの?」
(許嫁……なんでそんなこと気になるんだろう?)
「たぶん、いないと思います」
「そ、そっか……!
わたし、黄金井乃愛っていうの。
これからよろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
ふと周りを見ると、みんなが僕を見ていた。
羨望の眼差しを向ける者。
嫉妬を瞳に宿す者。
仲間になりたそうにこちらを見つめる者。
※悠里ちゃん。
これまで僕は、和ファンオタクとしてひっそりと生きてきたから、人から注目されるのには慣れていない。
なんだか、背中がむず痒い。
しかし、これは僕が選択した行動の結果だ。
しかたがない。
よし!
これからは『陰キャ系主人公』ではなく、
『アイドル系主人公』を目指して頑張ろう!
(――な〜んてね)
◆
「僕、帰宅なう。
マタキチ、それじゃ今日も一緒に散歩しようか」
「ニャンニャカニャン。
(お前と散歩に行ったことにゃんて一度も無いにゃ。
記憶を改ざんするにゃ)」
家に着いて飼い猫のマタキチに話しかける。
が、彼女はそっけなくそっぽを向いた。
相変わらずツンデレだなぁ。
「灯弥、おかえりなさい。
試験はどうだった?」
エプロン姿のママンが出迎えてくれる。
「まずまず、かなぁ?
納得いかないこともあったけど、
それなりに力は出せました」
結果としては1位だったけど、
内容的には色々と不満がある。
一色先生との勝負はうやむやになってしまったし。
校長先生には怒られたし。
それに何より、
陰キャ系主人公計画が完全にパーになった。
今後の行動について、1から考え直さないと。
「特別な修行もしていなかったんだし、
これから頑張ればいいさ。
ほら、抱っこしてやる」
奥から出てきたパパンが、
僕をひょいっと抱き上げた。
この慰めるような感じ。
きっと、僕があまり良くない成績だったと勘違いしているのだろう。
「ちなみに、式神は何体倒せたんだ?」
「146体です」
「そっかそっか。
試験時間は20分しかないし、
そのなかで146体倒せたなら――146?」
「はい、討伐数は僕がぶっちぎりの1番でした」
「え、え、ちょっと待った!
それ、本当の話か!?」
パパンが、目を丸くして固まる。
「父上、僕を疑うんですか?
こんなことで嘘なんかつきませんよ」
「灯弥は天才だからね。
そのくらいできるわよね〜」
ママンはニコニコしながら、
僕の頭を優しく撫でてくれる。
「え、静江ちゃんは不思議に思わないの!?
いや、闘気を操れることは知ってたけど……。
それでも146体はおかしいだろ!」
父上はまだ信じられないようだ。
仕方がない。
「じゃあ、実演するから河川敷に行こうよ」
10分後。
近くの河川敷の広場で『祀界』を発動し、
ママンが召喚した式神を容易く倒してみせた。
「嘘だろ、俺の息子、天才すぎだろ!
よし、今日のお祝いは『回らない寿司』だ!」
「「わーい!!」」
篝家は、今日も今日とて平和だった。
◆
次の日。
「灯弥くん、おはようございます。
わたしたち、一緒のクラスでしたわ」
登校して掲示板の前に向かうと、
白玖ちゃんがすでにクラス分けの結果を見ていた。
「おはようございます。
お、ちゃんと一番上の甲クラスですね」
一色先生と問題を起こしたから、ワンチャン、クラスを下げられるかと思ったが、ちゃんとトップクラスだった。
千景や乃愛ちゃん、悠里ちゃんも、
同じ甲クラスに名前がある。
一方で、討伐数0の生徒も甲クラスに混ざっていたりして、どうやってクラス分けを決めたか、よくわからない部分もあった。
「あ、そういえば担任の先生は誰なんだろう?」
張り紙をじっくり見る。
しかし、担任の名前は載っていなかった。
(まぁ、さすがに一悶着あった先生と生徒を、
同じクラスにはしないよな――)
「――お前の担任は、俺だ」
聞き慣れた、しぶい声。
振り返ると、そこには。
「俺が、甲クラスの担任だ。
みっちりしごいてやるから覚悟しとけよ」
ニヤリと凶悪な笑みを浮かべる、
一色先生の姿があった。
(――いや、さすがに采配ミスだろ)




