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第39話 クラス分け『試験』・3

「では、次の3チーム目の皆さーん!

 準備してくださーい!」


 女性教師の元気な声が、校庭に響いた。


「では、行ってきますね」


 隣に座っていた白玖《はく》ちゃんが、すっと立ち上がる。


「頑張ってください!」


 僕がグッと拳を握って応援すると、彼女は振り返り、ひらひらと可憐に手を振ってくれた。


 (うーん、ご令嬢って感じで絵になるなぁ)


 まるで物語にでてくるような女の子。

 異性に興味がない僕も、思わず感心してしまう。


 そして、

 3チーム目にはもう一人、気になる生徒がいる。


「あぁ、ついに僕の番になっちゃった……。

 あ、ダメだ、気持ち悪くなってきた。

 もうぜんぶ式神に任せて、僕は隅っこにいよう」


 遠い目をして、独り言をつぶやいている少女。


 神代悠里《かみしろゆうり》。


 有名な神社の宮司の家系で、極度の人見知り。

 あと、一人称が「僕」の、僕っ子みたいだ。


――ピィィィィィッ!


 試験開始のホイッスルが鳴り響いた。


「式神召喚・神度剣獣《かむどけんじゅう》」


 悠里ちゃんがボソッとつぶやくと、

 ポンッ、ポンッ! と煙があがり、


――ワン、ワンワン!


 剣をくわえた白い犬の式神が、

 なんと一気に20匹も姿を現した。


「……僕は隅の方で待機してるから、

 僕の代わりに式神を倒してきて」


 彼女が弱々しく指示を出すと、

 剣獣たちは「ワオン!」と吠え、

 一斉に散らばっていった。


 20匹という圧倒的な物量作戦。


 逃げ回る式神たちを、次々に切り裂いていく。


 このペースでいけば、

 彼女が1位をとってもおかしくない。


(単純な式神である人形《ひとかた》ならともかく、

 中位レベルの式神を20体も操るなんて。

 すさまじい才能だな)


 人型の符に霊力を流して操作する人形《ひとかた》と違い、

 神度剣獣は異界から召喚するタイプの式神。


 それも、疾狗《しっく》より高位の式神だ。


 僕もこのくらいお手軽に式神を召喚してみたい。


 しかし、悲しいかな。

 僕にはあまり式神術の才能がないらしい。


 今のところ、人形《ひとかた》を操るので精一杯。


 正直、すごく羨ましい。


 ただ、当の本人はというと。


 端っこの方にちょこんと座りこんで、

 ずっと独り言をもらしている。


「ほんとは僕自身で戦うべきなんだろうけど。

 戦うの苦手だし、注目されるの緊張するし。

 ついつい式神に頼っちゃうんだよなぁ。


 みんな、自力でがんばってて偉いよねぇ。

 僕も活躍して……チヤホヤされたい。

 友達もほしいし、皆から頼りにされたい。


 注目されたくないけど、注目して欲しい。

 矛盾してるのは自分でも分かってる。

 でも、人間なんてそんなものだよね。


 あぁ、生きるってむずかしいなぁ。


 あ、ちょっと待って。

 もしもこの試験で1位とったら、

 僕、人気者になっちゃうんじゃ?


 もしかして、友達もできちゃったり?

 やばい、どうしよう、緊張してきた。

 やっと、僕にも友達が……。


 け、剣獣さんたち、がんばれぇ……」


 弱々しく「えいえいおー」と腕をあげる悠里ちゃん。


 ……不思議な子なんだな(どの口が言う)。


 20体、30体、40体……。


 剣獣たちは、次々に式神を狩っていく。


 この調子でいけば、討伐数は3桁に届きそうだ。


 ところが。


 彼女の天下は、そう長くは続かなかった。


「真影霙流《しんえいみぞれりゅう》・參《さん》の太刀。

 澄天繊魄《ちょうてんせんぱく》」


 凛とした声とともに、

 三日月の形をした氷の刃が、宙を切り裂いた。


 狙われたのは、

 防御術式を張った『大甲童子《たいこうどうじ》』。


――と、


 それに群がっていた4匹の剣獣たち。


――ザシュゥゥゥッ!


 鋭い氷の刃は、大甲童子の硬い防御術式ごと、巻き込まれた剣獣たちをまとめて真っ二つに両断した。


「ふぅ、これで28体ですね」


 白玖ちゃんが、なにくわぬ顔で刀を振り下ろす。


「ちょ、ちょっとストップ!」


 あわてて女性教師が駆け寄ってきた。


「どうかなさいましたか?」


「ほかの受験者への攻撃は禁止ですよ!」


 最初の説明であった通り、

 ほかの受験者への攻撃は一切禁止だ。


 しかし、

 白玖ちゃんはニコリと微笑んで首をかしげた。


「はい、ですから私は式神しか攻撃していませんわ」


――たしかに。


 剣獣はあくまで式神であり、受験者ではない。


 悠里ちゃんを狙うのはダメだが、

 式神を攻撃するぶんにはルール違反にはならない。


「悠里さんも、それでよろしいですわよね?」


 白玖ちゃんが、笑顔のまま悠里ちゃんを振り返る。

 笑顔なのに、背筋が凍るような圧力を放っていた。


「え、いや、その……」


「よろしいですわよね?」


「あ、はい、大丈夫です」


 完全に気圧される悠里ちゃん。


「それと、もう一点。

 20体も式神を出されてしまうと、

 ほかの受験者のご迷惑になりますわ。

 なので召喚するのは、

 3体までにしていただけませんこと?」


「はい、すみませんでした……」


 悠里ちゃんはシュンと肩を落とし、

 残りの剣獣たちをスッと消してしまった。


      ◆


――ピィィィィィッ!


 やがて、試験終了のホイッスルが鳴った。


 3チーム目が終了した時点での、

 現在の式神討伐ランキングは以下の通りだ。


1位:98体・雷堂千景《らいどうちかげ》

2位:93体・黄金井乃愛《こがねいのあ》

3位:85体・旭白玖《あさひはく》

4位:71体・神代悠里《かみしろゆうり》


 途中までは悠里ちゃんの一強であったが、

 白玖ちゃんの圧力に負けて式神を引っ込めた結果、

 ランキングは4位に落ち込んでしまった。


「僕なんかが1位なんて。

 ……おこがましいよね」


 悠里ちゃんは、隅っこの方で体育座りをして完全に腐っている。


 大丈夫かな、あの子。


「灯弥くん、お待たせいたしました」


 白玖ちゃんが、涼しい顔で戻ってきた。


「お、おつかれさまです。

 白玖ちゃんって、けっこう強《したた》かですね」


 僕が正直な感想をもらすと、

 彼女はクスッと上品に笑った。


「はい、私には夢がありますから。

 そのためなら、割となんでもやりますわ」


「夢、ですか?

 それはいったいどんな?」


 僕がたずねたが、

 彼女はただ、静かに微笑むだけだった。


      ◆


「これで最後のチームだ。

 気張っていけよ」


 強面《こわもて》教師が、野太い声でハッパをかける。


 しかし、ヤクザ顔負けの鋭い目で睨《にら》まれた生徒たちは、足がすくんでガタガタと震えていた。


 あれじゃあ、気張るどころかチビっちゃうよ。


(よし、やっと僕の出番だ!)


「じゃあ、行ってきます!」


「はい、いってらっしゃいませ」


 白玖ちゃんに見送られながら、

 僕は開始地点に立った。


――ピィィィィィッ!


「よし、まずは基本から。

 真影焔流《しんえいほむらりゅう》・初《はじまり》の太刀。

 闇夜蛍火《あんやほたるび》」


――ブォンッ!


 おじいちゃんが入学祝いに買ってくれた霊刀。


 刀身がまるで夜空のように煌めく業物に、

 霊力と闘気を流し込む。


 すると、刀身が赤く熱を帯びて発光した。


(おおっ、さすが霊刀、使い心地が全然違う!)


 鉄屑《てつくず》を溶かして作った手作りの刀とは違い、霊力と闘気の循環がめちゃくちゃスムーズだ。


 高そうなだけはある。


 ただ、今回の僕のテーマは『陰キャ系主人公』だ。


 適度に手を抜いて、

 目立たないようにしなければならない。


 だから、

 いつも以上に力が発揮されてしまう分、

 いつも以上に力を抑えないと。


「真影焔流・參《さん》の太刀。

 流鶯榴火《りゅうおうりゅうか》」


 刀身から下に向けて、爆風を噴射する。

 その反動を利用して、ふわりと空へ舞い上がった。


 1チーム目から3チーム目の結果を見て、

 ボーダーラインはだいたい把握した。


 25体ほど倒せば、甲クラスの真ん中。

 だいたい15位くらいに落ち着くはずだ。


 そして、制限時間は20分。


 つまり、

 1分間に1体ちょっとのペースで倒せばいい。


(うん、餓鬼《がき》の首をひねるより簡単だね!)


 空から見下ろすと、

 黒い犬の式神『疾狗《しっく》』が、

 岩陰にコソコソと隠れているのが見えた。


(まずは1体目!)


「真影焔流・弐《に》の太刀。

 神威緋槍《かむいひそう》」


 炎をまとわせた鋭い突きの斬撃が、

 空から一直線に獲物を狙う。


――キャイィィンッ!


 頭上から不意打ちをくらった疾狗は、

 一撃で煙となって消えた。


 僕は着地し、内心ニヤリと笑う。


 悪くない動き。

 慣れない状況だが、ちゃんと実力は隠せている、

 はずだ。


(よし、この調子でできるかぎり力をセーブして――)


 余裕ぶっていた、その瞬間。


「――おまえ、名前は?」


 すぐ背後から、圧倒的な殺気が膨れ上がった。


(は?)


 殺気を放っていたのは、

 ヤクザ顔負けのあの強面教師。


 彼は宿敵を目の前にしたような憤怒の形相で、

 丸太のように太い右足を大きく振りかぶり――。


(マジか――)


――ドゴォォォンッ!!


 ようしゃのない重い蹴りが、

 僕の顔面を真正面から打ち抜いたのだ。

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