第37話 クラス分け『試験』・1
4月2日。
入学式の次の日。
僕たち新入生は、
広大な校庭に集められていた。
「はーい、みんな注目!
これより1年生クラス分け試験を行います!」
壇上のうえでハツラツとした声をあげるのは、
ショートヘアの日焼けした女性教師。
いかにも『体育会系の元気なお姉さん』といった感じの、とても親しみやすそうな先生だ。
クラス分け試験。
前世の小学校では入学前からランダムでクラスが決まっていたが、この世界はそうではない。
実力ごとに、きっちりクラスが分けられるのだ。
上から、甲、乙、丙、丁クラスに分けられ、
クラスに応じて様々な特典が設けられている。
例えば、
・給食のランク(ビフテキorチキン!)
・修学旅行の行き先や期間(海外リゾートor国内!)
・体育館の優先使用権
(底辺クラスは体育館で遊べない)
・全国小学校呪術大会(全小)への参加権
(全小は自己アピールの場!自分を売れる!)
上げればキリがないが、ざっとこんな感じだ。
強者ほど、より多くの利益を享受できる。
戦争に勝つことで繁栄したこの国では、
それが絶対の法なのだ。
また、上位のクラスに入ることのメリットは、
特典以外にも存在する。
そのなかで特に重要なのが、
成績上位者だけが進学することができる、
『第零特務初等学校』の存在である。
推薦状を勝ち取り、
晴れて当学校へ入学できた者は、
『零』と呼ばれる称号を与えられる。
それはつまり、将来を国から約束された超絶エリートコースを歩む権利を有するということだ。
この『零』に選ばれるためには、
このクラス分け試験がとても重要になってくる。
クラス分け試験でつねに成績上位を取り続けることが、推薦状を得るために必須だからである。
だからこそ、
みんな目の色を変えてやる気満々なのだ。
(よし、僕も全力で——手を抜くか!)
僕としては、そこまで頑張るつもりはない。
目立ちすぎると、
教団の活動にも支障が出てしまう。
教団に割く時間も減るし、
僕の正体がバレる可能性もある。
それに、エリートコースに進んで、国のために馬車馬のように働くなんてまっぴらごめんだ。
僕はそもそも、この国の『弱者に対して徹底的に厳しい』体制が好きじゃない。
僕が正義の教団を設立したのは、
この国のそういう一面に反感を持ったからだ。
革命派とまではいかないけど、
誰かが泣いていたら、
この国と対立しようと手を差し伸べる。
そのくらいはするつもりだ。
まぁそういった事情を加味すると、
2〜3番目くらいの無難な進学校に通って、適度にエンジョイするのが一番コスパがいいだろう。
僕の目標は『甲クラスの真ん中』あたりだな!
「試験の内容は『式神倒し』!
カンタンに言うと、『鬼ごっこ』ですね!」
元気な女性教師が、ルールを説明する。
ルールはとても単純だった。
制限時間は20分。
逃げ回る式神たちを、
何体倒すことができるか。
ただそれだけ。
ちなみに、
式神たちは逃げるだけで攻撃してこない。
僕たちはまだ1年生だから、ケガをするような危険な試験はさせない方針らしい。
「当然だが、ほかの受験者への攻撃は一切禁止だ。
……やったら減点&地獄の折檻が待ってるぞ」
ドスの利いた声で補足したのは、
女性教師のとなりに立つ、
強面の中年男性教師だ。
顔には刀で斬られたような深い傷があり、小学生を相手にヤクザ顔負けの鋭い眼光を放っている。
(うん、あの人が担任になったクラスはハズレだな。
隣の優しそうな女性教師に担任になって欲しい)
「4つのチームに分けて順にテストします!
まず1チーム目は——」
さすがに117名がいっせいに暴れ回ると危険だし、先生たちもちゃんと採点できない。
そのため、約30人のチームに分かれて順番に試験を行うらしい。
ちなみに僕は、最後の4チーム目。
これは、めちゃくちゃ好都合だ。
ほかの生徒たちの実力とボーダーラインをじっくり見てから、ちょうどいい具合に手を抜ける!
「では、はじめ!」
女性教師の合図とともに、
1チーム目の試験がスタートした。
それに合わせて、
的となる式神たちも一斉に放たれる。
式神の種類は3つだ。
1つ目は『人型式神・大甲童子』。
江戸っ子風のからくり木製人形。
動きは一般人くらいでそこまで速くないが、
防御術式を張ってくる。
スキを上手く突くか、
高火力でぶち抜く必要がある。
2つ目は『牙獣型式神・疾狗』。
風をまとった黒い犬のような姿。
とにかく動きが素早いので、
攻撃を当てるのは至難の業だ。
3つ目は『鳥獣型式神・天魔鴉』。
漆黒の鎧を着たカラス。
飛行速度はそれほどでもないが、
そもそも空を飛んでいるため手が出しにくい。
こちらも飛ぶ術式か、
飛び道具がなければ倒すのは困難だ。
三者三様の式神を試験に出すことで、
受験者の得意不得意や、
総合的な実力を測る狙いなのだろう。
「地上のエモノは皆に譲ってやるよ!
そんかわり、空のエモノは俺ッチがいただくぜ!」
1チーム目には、
あの陽気な忍者小僧、雷堂千景がいた。
「雷遁・極威・稲雲!」
——シュゥゥゥゥゥゥッ!
千景のまわりに、
黒く分厚い煙がモクモクと立ち込める。
その煙が千景を包みこみながら激しくうごめき、
巨大な人型に変化していった。
そして、
——ゴロゴロゴロゴロ!
閃光を放ちながら放電する、
雷雲の怪物が顕現した。
あれこそが、忍者として裏社会で暗殺術を磨いてきた雷堂家の相伝術式『稲雲』。
自身に雷雲を纏わせる術式だ。
——ダンッ!
雷雲をまとった千景が一気に跳躍し、
空中に長々と滞空する。
「雷遁・極威・絡雷黒縄!」
雷雲を縄のようにスルスルと伸ばし、
空を逃げまどう天魔鴉を次々と捕縛していく。
——バチバチバチィッ!
「ギィィッ!」
捕まった天魔鴉たちが、
雷撃に焼かれて次々と消滅していく。
そうして開始から5分もしないうちに、上空にいたすべての天魔鴉は跡形もなく消えてしまった。
「ふぅ、こんなもんか!」
——ピシャァァァンッ!
本物の落雷のように、
激しい閃光とともに千景が地面に降り立つ。
「さて、地上はどんなもんかな?
ありゃ、まだぜんぜん終わってないじゃん!
モタモタしてっと——俺ッチが全部やっちまうぞ」
◆
1チーム目終了。
「やっぱ、俺ッチ最強だわ!」
結局、千景が1人でほとんどの式神を狩り尽くしてしまった。
彼が1人で無邪気にはしゃいでいる中、
ほかの生徒たちは圧倒的な実力差に打ちひしがれ、
完全に心を折られてズーンと沈み込んでいる。
「……これじゃ、試験になりませんね」
女性教師が苦笑いする。
「いや、毎年こんなもんだ。
1人や2人、バケモノみたいな奴が混ざる。
そういうやつが『零』を背負うことになるんだ」
強面の男性教師が、腕を組んで分析する。
「となると、今年の『零』は彼ですかね?」
「いや、それはどうかな」
教師たちがひそひそと話し合っている。
彼は同級生の中でも頭2つ3つ抜けて優秀らしい。
「よし、2チーム目のやつら、さっさと準備しろ!」
強面教師の野太いかけごえが響く。
「「「乃愛ちゃん頑張って〜!」」」
取り巻きの女子たちが、黄色い声援を送る。
「わぁ、応援ありがと〜!
よし、こうなったら頑張るしかないね!」
2チーム目の主役が、
軽くステップを踏んで前へ出た。
明るくハイテンションなカースト上位ギャル、
黄金井乃愛だ。
乃愛が標的に向かって構えた瞬間——。
彼女の瞳が、煌びやかに七色の光を放ち始めた。




