第36話 同級生との『出会い』・後編
僕と白玖ちゃんは、
並んで新入生の席に座った。
式が始まるまで、まだ少し時間があるようだ。
周りの子供たちは、
すでに知り合い同士で集まって、
楽しそうに話し合っている。
もちろん、僕に知り合いなんていない。
ぼっち回避のために、
隣にいる白玖ちゃんとはぜひ仲良くしておきたい。
が、話題が見つからない!
……さて、どうしたものか。
「灯弥〜!
写真撮るからこっち向いて〜!」
僕が困っていると、
後ろからママンの黄色い声が飛んできた。
振り向くと、
両親がスマホを構えてこちらに手を振っている。
(うわー、めっちゃ注目集まってるぅ)
正直めちゃくちゃ恥ずかしい。
が、これも大切な家族サービスである!
僕は後ろを向いて、
愛想よくピースサインを作った。
「キャ〜、うちの子、世界一かっこいいわ!」
「ちょっと静江ちゃん、
みんなの視線が集まってるから。
声をもうちょっと落として」
パパンが慌ててママンをなだめている。
2人でわちゃわちゃと楽しそうだ。
僕の両親は、今日も仲良しだな!
「灯弥くんは、ご両親から愛されていますのね」
白玖ちゃんが、目を細めて微笑んだ。
「まぁ、ちょっと愛が重すぎるところはあるけど。
白玖ちゃんも、お父さんに愛されてるよね」
(……愛されている、
というには少し気持ち悪かったけど)
僕が心の中でそっと毒を吐いていると、
白玖ちゃんは完璧な笑顔のまま、
小さくうなずいた。
「……はい、私も、とても愛されておりますわ。
それはそうと、まだ時間がありますし、
せっかく知り合えたのですから、
少しお話をしませんか?」
(これは願ってもない申し入れ!)
「はい、ぜひ話しましょう!
僕、知り合いが全然いないので助かります!」
「なるほど、それでしたら、
新入生のなかで有名な子を紹介しましょうか?」
白玖ちゃんが、魅力的な提案をしてくれた。
これから6年間、共に学校生活を送る仲間たちだ。
事前情報はいくらあっても困らない。
「ぜひ、お願いします!」
「分かりました。
今年の入学生は117名いらっしゃいます。
その中で、特に注目されているのは5名ですね。
いずれも実家が名門だったり、すでに本人の噂が広まっていたりする方々です。
——まず1人目は、灯弥くん、あなたです」
「え、僕ですか?」
予想外の名前に、僕は驚いて目を丸くした。
「あら、気づいていらっしゃらないんですか?
周りをご覧になってください。
何人か、あなたの方を見ていますよ」
言われた通り、さりげなく周りを見渡してみる。
(……ほんとだ)
ざっと10人以上の同級生と、
バッチリ目が合った。
そのうち何人かは、
ご丁寧に会釈までしてくる始末だ。
「ね、言ったとおりでしょう?」
「……ほんとですね。
びっくりしました」
僕が有名な理由は、十中八九、両親のせいだろう。
パパンもママンも、かなりの有名人らしいから。
「みんな、あなたと仲良くなりたいと思っています。
もちろん、わたしも」
白玖ちゃんが、少しだけいたずらな笑顔を見せた。
「え、そうなんですか?
……ぜんぜん気がつきませんでした」
そんな僕の反応がおかしかったのか、
彼女は「ふふっ」と上品に笑う。
「灯弥くんは、おもしろい人ですね。
では、残りの4名をご紹介しましょう。
まずはあちらの、
ひときわ目立っている男の子をご覧ください」
白玖ちゃんの視線の先を追うと。
「ヘーイ、リスナーのみんな!
俺ッチもついに小学校入学だぜ〜!」
そこには、ザ・陽キャの鏡みたいな男の子がいた。
黄色と黒を基調とした、ド派手な袴姿。
髪の毛も黄色と黒のツーカラーに染め上げている。
そして何より、
片手にスマホを持って、
堂々と生配信をしているのだ。
「あの男の子は、雷堂千景。
彼の家は由緒正しい『忍者』の家系で、
今でも裏の仕事を請け負っているそうですよ」
「え、忍者?
忍者にしては、派手すぎません?」
「お話によると、アレは彼の趣味みたいですね。
なんでも、極度の目立ちたがり屋とか」
目立ちたがり屋……。
1番忍者に向いてない性格じゃん!
しかも、小学生で配信者って。
あまり良い印象はないなぁ。
まぁ、僕も前世は動画クリエイターだったけど。
チャンネル名は、『和ファン解体新書』。
和風ファンタジー作品の考察をするチャンネルで、
この世界にやってくる前の登録者数は60万人。
僕は広告収益で稼いだお金で、
怪しい呪物を買いあさっていた。
「今日は、これからハデハデな学校生活をともにエンジョイするソウルメイトを紹介するぜ!
誰か俺ッチと、目合わないかな〜。
——あ」
(やっべ、目合っちまった)
僕はとっさに視線を逸らした。
しかし、時すでに遅し。
「ヘイヘイヘイヘイ、そこのユー!
おたくはどこの誰なんだい?
え、俺ッチ?
俺ッチの名前は、雷堂千景。
今をときめく人気配信者さ!」
千景が、ハイテンションで手を差し伸べてきた。
圧がすごい!
「……あ、あぁ、どうも。
篝灯弥です」
僕は愛想笑いを浮かべながら、
その手を握り返した。
「篝——あ、君がウワサの!
ねえねえ、顔出しはオーケ——」
「ではないですね、すみません」
僕は食い気味に即答した。
「そっかぁ、そりゃ残念!
そんじゃ篝ッチ、今後ともよろしくな!
では、ドロン!」
——ボンッ!
突如、煙がモクモクと立ち込める。
煙が晴れると、
彼はいつのまにか別の生徒に絡みにいっていた。
(別れ際だけは、忍者らしかったな)
「彼とは仲良くできそうですか?」
隣で静観していた白玖ちゃんが、
くすくすと笑う。
「まぁ、勝手に顔を写したりはしなかったから、悪いやつではなさそうだね」
性格が合うかはわからないが。
とりあえず、
彼が有名人であることはなんとなく分かった。
「じゃあ、次の方をご紹介しますね。
あちらで固まっている女子グループのなかにいる、
金髪の明るい女の子です」
見てみると、6人くらいで談笑している、いかにも『カースト上位』っぽいガールズ軍団がいた。
その中心で、1番キラキラしている女の子。
「見て見て、この写真!
家族でラヴィーナ島に行ってきたんだけど、
海がすっごい綺麗なの!
今度、みんなで旅行しない?
女子会しようよ!」
きゃぴきゃぴとした声が、ここまで聞こえてくる。
「あの子は、黄金井乃愛。
お父様が県知事、お母様が皇国重工の娘です。
ご本人も、六属性すべての汎用術式を扱える才女ですね」
「はえ〜、それはすごい」
六属性(火・雷・風・水・氷・土)すべてを扱えるなんて、とんでもない才能だ。
僕でさえ、火と雷、それに風しか使えない。
それに、両親のステータスもバグっている。
とくに皇国重工は、
帝国の軍需企業トップ3に入る超巨大企業だ。
我が家でも、ちゃっかり株を購入している。
「次に、あちらの巫女服の女の子です」
視線を移すと、
巫女服をモチーフにした清楚な学生服を着た、
ショートヘアの少女がぽつんと座っていた。
その顔色はなぜか冴えず、
血の気の引いたように蒼白い。
元の白い肌と相まって、
幽霊のような人外じみた美しさを放っている。
「……うぅ、緊張する。
はやく帰って社に引きこもりたい」
(あ、なるほど。極度の人見知りなのね)
「彼女の名前は、神代悠里。
五岳神宮を管理する宮司の家系で、
神代家相伝の固有術式を持っているそうですよ」
「固有術式!
それは気になりますね!
今度、見せてもらおっと!」
「あの子、極度の人見知りらしいので、
あまりグイグイいくのはよしましょうね。
……さて、残りの1名は、まだ来ておりませんね」
白玖ちゃんがキョロキョロと辺りを見渡す。
たしかに、席が1つだけ空いている。
「もうすぐ時間になるのに、大丈夫かな?
それにしても白玖ちゃん、すっごい情報通ですね。
色々と教えてくれてありがとう!」
「いえいえ、礼にはおよびませんわ。
これからも、仲良くしてくださいね」
白玖ちゃんからスッと小さな手が差し出された。
「よろしくお願いします!」
僕は、その手をしっかりと握り返す。
(やったね!
入学初日から友達ができた!
僕たち、もうズッ友だ!)
こうして、
同級生との初対面は、
割りかし上手くいったのだった。




