第34話 平穏な『4月1日』
4月1日。
小学校の入学式当日になった。
(……ついに、この日が来たか)
術士にとって、小学校入学は特別な節目である。
同世代の術士たちが同じ場所に集まり、
将来、この国を背負う人材になるべく、
本格的な修行をはじめるようになるからだ。
『術士は、生まれながらに勝ち組』。
この世界にはそんな格言が存在するが、
——当然、勝ち組のなかにも序列は存在する。
小学校の6年間で秀でた成績をおさめた者は、
その成績に見合った中学校へと進学し、
特別な人脈と、出世の機会を得ることができる。
たとえ、貧乏な平民の家に生まれた者でも、
実力さえ示せば、欲しい物すべてが手に入る。
逆に、術士の名家に生まれた者でも、
才能がなければ、酷くみじめな扱いを受ける。
まさに、『真の実力主義』。
先の大戦で勝利した大東陽帝国が、
今もなお、覇権国家として、
世界に君臨し続けられている所以の1つだ。
そんなわけで、術士の子供をもつ家庭は、
小学校入学の時点から過度な期待を子供に寄せる。
そしてそれは、我が家も例外ではない。
(目立ちすぎると教団の活動に支障がでる。
僕としては適度に手を抜いて、無難な学校生活を送りたいんだけど……)
転生者であるところの僕は、
標準的な子供よりも非常に大人びている。
精神年齢的には、ほぼ成人だからね。
一応、変に怪しまれないように、
子供用のお菓子を喜んで食べたり、
テレビに妖怪が映った時には必ず奇声を発したり、
和風ファンタジーには我を忘れて飛びついたり、
子供らしい行動を意識してとるようにしているが、
※意識してません、素の行動です。
やはりどうしても、
この身から『大物感』が溢れ出してしまう。
そんでその結果、
「鏡よ、鏡。
この世で1番カッコよくて頭が良い子は、
わたしの息子、灯弥なのよ!」
「我が孫の才能は世界一ィィィィーーーー!」
「灯弥よ、あなたは将来、
人類ピラミッドの頂上に立つ人間です。
今のうちから、帝王学を学んでおきなさい」
家族や親族からの期待が、
天井知らずに上がってしまっている。
(いや、そんな期待されても困るんだが……)
そしてその期待値の高さは、そっくりそのまま『僕にかけられる予算』へと直結しているわけで。
「ああぁっ、灯弥、とっても似合ってるわ!
こんなの学校中の女の子がメロメロになっちゃう!
お母さん、今から嫉妬で狂いそう!」
僕の晴れ着姿を見て、
ママンがうっとりと惚けている。
この晴れ着はレンタル品ではなく、
わざわざ一流の職人に作らせた特注の袴である。
値段は聞けない。
たぶん、何十万はしているはず。
「おーい、これを見てくれ!
親父から入学祝いが送られてきたぞ!」
パパンが、細長い桐の箱を持ってやってきた。
パパンの親父、
つまりは僕のおじいちゃんからの贈り物。
箱を開けると、
そこには上品な輝きを放つ小太刀が。
僕が鉄屑を溶かしてつくった、
ちゃちな刀とはまったく違う。
粋な装飾と、
剣士専用の術式が付与された、
子供術士用の霊刀である。
これも、値段は聞けない。
たぶん、百万はゆうに超えるだろう。
「けっこう様になってるんじゃないか?」
ひとまず腰に帯刀してみると、
特注の袴姿と相まって、
まるで本物のサムライのようだ。
孫にも衣装とは言うが、かなりキマっている。
てか、こうしてじっくり鏡を見てみると、あれ?
僕って、けっこうイケメンじゃない?
ママンとパパンの美形遺伝子、本当にありがとう!
圧倒的な美少年オーラ。
まとっている空気がちがう。
これじゃあまるで、
『るろう◯剣心』の主人公みたいじゃないか!
これ、ほんとに僕なの!?
信じられなぁい!
でも、本当のことなの!
やったね!
「ママの実家からはね、
小学校6年分の学費と、
『東陽特区』の権利書が届いたわ。
権利書から入ってくるお金は、
灯弥が大人になるまで貯金しておくからね」
「わ……わ〜い、嬉しいです!」
ママンの実家は、ガチの上級国民である。
だから、入学祝いの規模もケタ違いだ。
値段は聞けない、どころの話じゃない。
たぶん、マンション1棟は余裕で建つ金額だ。
ちなみに『東陽特区』というのは、
帝国の従属国にある経済特区のことである。
「よし、学校に行く前にみんなで写真をとろう!
ほらマタキチ、お前もこっちこい!」
「ニャンチュール!
(なんでニャーまで!
めんどくさいニャ!)」
マタキチは急いで逃げようとしたが、
パパンに首根っこを捕まえられる。
「そんな顔しないで、ほら、笑って笑って〜」
しぶしぶカメラにおさまるマタキチ。
今日も今日とて、
篝家はとても平和である。
この幸せな日常が、ずっと続いてほしいな。




