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第28話 地獄開拓『次なる深淵へ』・前編

「それでは、定例会議を始めます!」


 作戦本部の2階に設けられた大会議室。


 現在、この部屋には教団の主要メンバー5名が集まっている。


 篝灯弥(ぼく):教祖様

 儺流《なる》ちゃん  :師範&ご意見番

 赤洛《しゃらく》     :調達奉行

 菊千代    :御細工奉行

 河汕《かせん》     :勧農&治水奉行


 この5名である。


 定期的に情報共有をおこない、拠点の開発が正しい方向へ進んでいるかを確認しているのだ。


「まず、儺流《なる》ちゃんから報告をお願いします!」


「うむ、妾《わらわ》からの報告は2つ。

 1つは、餓鬼たちの修行状況についてじゃ」


 儺流《なる》ちゃんが、宙に浮きながら報告をまとめる。


 それによると、餓鬼たちは土木作業の合間をぬって、ちゃんと真面目に修行しているらしい。


 成績上位の餓鬼に与えられる『霊力入り飴玉』が、彼らのモチベーションを爆上げしているようだ。


 その結果、すでに闘気の扱いをマスターした個体や、霊力の属性変化までできるようになった餓鬼が多数あらわれているとのこと。


 つまり、


 僕たち百鬼弥教《ひゃっきやきょう》は、術士を何十人と抱えこんでいる巨大な武装組織になりつつあるということだ。


「すでに町の1つや2つ、平気で破壊できるだけの戦力を妾たちは有しておる。灯弥よ、力の使い方にはくれぐれも気をつけるんじゃぞ」


「はい、肝に銘じます」


 僕は深くうなずいた。


 儺流《なる》ちゃんの言う通り、力に飲まれてはいけない。


 僕たちは、悪の教団になってはならない。

 この力は、正義をつらぬくためのものだ。


「では、2つ目の報告じゃ。

 これは、あ(・)の(・)実(・)験(・)についてじゃな」


——あの実験。


 それは、僕がずっと気になっていた疑問を解消するための『検証』だ。


 ちなみに、僕はすでにその答えを知っている。

 実験の当事者でもあるからね。


「みなも知っている通り、ここ地獄で灯弥が倒した妖怪の力は、灯弥に吸収される。ならば、灯弥以外の者が、地獄で妖怪を倒したらどうなるのか?」


 僕が圧倒的な霊力と闘気を手入れることができた理由である、『倒した妖怪のエナジードレイン』。


 このチート能力は、僕以外にも適用されるのか?


 それを確かめるための実験だ。


「今回、赤洛に頼んで餓鬼を倒してもらった。そしたらなんと、赤洛が倒した餓鬼の力は、赤洛と灯弥で、半分ずつ分け与えられたのじゃ」


 つまり、こんな感じだ。


 僕が倒す→僕にすべての経験値が入る。

 僕以外が倒す→僕とその人で経験値が折半される。


 RPGゲームでいうところの経験値シェア機能。


 誰かが妖怪を倒してくれれば、僕は何もせずに寝ているだけで勝手に強くなれるわけだ。


 ザ・令和のヌルゲー仕様。

 さすがに、ユーザーフレンドリーすぎる。

 マジでチートやん。


 つくづく、この固有術式は有能だと思う。


 まるで、何者かに『とにかく強くなれ』と言われているようだ。


(……そういえば)


 鬼堀谷の旅館で、鴉羽《あげは》の体を借りた上位存在が語った、あの予言。


『天覆う禍星《まがぼし》との、生き残りをかけた争い』


 あの予言が本当なら、僕は将来、とんでもない脅威と戦うことになるらしい。


 それまでに、僕は今よりもっと強くなっておかなければならない。


「妾からの報告は以上じゃ。

 次は赤洛の番じゃな」


 次の報告者は、赤洛さん。


「おう、ワシからの報告は1個だけじゃ。

 餓鬼たちが闘気を使えるようになったことで、作業効率がバカみたいに上がっとる。そのせいで、もうすぐ木材の貯蔵庫がいっぱいになりそうじゃ」


「それは嬉しい悲鳴ですね。

 とりあえず、仮の資材置き場を作りましょうか。

 確か、木材加工場の南側に、まだ使ってない空き地がありましたよね?

 そこに野積みにしておいてください」


「おう、わかった」


 資材調達はこれまで以上に順調だ。

 今後は、石材なども集めてもらうとしよう。


「それじゃ、次は菊千代ちゃんお願い」


 僕が名前を呼ぶと、菊千代ちゃんは目をキラキラさせて身を乗り出した。


 自分の番をずっと楽しみに待っていたらしい。


「うん、ウチからの報告は1つやね。

 荷車と樽の試作品ができたけぇ。

 あとで教祖様に見に来て欲しいんよ」


「お、いいね!

 どっちも現場の負担を減らす便利アイテムだ。

 会議が終わったら見に行きます」


「うん!」


 褒められた菊千代ちゃんは嬉しそうに笑う。


 僕は、ひたすら褒めて伸ばすタイプだ。


 菊千代ちゃんはすごく賢いから、これからもどんどん良いものを作ってくれるだろう。


「それじゃ、最後に河汕《かせん》さん、お願いします」


「ぷはぁっ!」


 河汕さんは、手元のコップに入った水をガブガブと飲み干してから、ふうっと息を吐いた。


「やっとオレの番か。

 ここ、暑すぎてかなわんぞ。

 干からびちまう」


「それは、僕も完全に同意です」


 地獄の気温は、常時30度くらいある。


 現在、現世は3月の中旬。

 まだまだ肌寒い日々が続いている。


 現世と比べると、地獄は異常なほど暑い。


 特に、水辺の妖怪である河童たちには、

 この暑さはかなり堪えるようだ。


「菊千代ちゃんが樽を作ってくれたので、今度の会議からは、河汕さん用に水の入った樽を用意しときますね。水風呂代わりに入ってください」


 今のところはそれで我慢して貰おう。


「オレからの報告は1つだ。

 1ヶ月前に種をまいたばかりのキュウリが、もう実をつけ始めてる。それにカボチャやナス、トマトなど他の野菜もどんどん成長しとるんだ。

 明らかに、成長速度が速すぎる」


「たしか当初の目論見では、キュウリの収穫まであと2ヶ月はかかるはずでしたよね。

 時間の流れる速度のせいではないはずですが。

 うーん、原因はよく分かんないですね」


 地獄の1時間は、現世の1分。


 普通に考えれば、地獄では現世の60倍の速度で植物が育つと思うかもしれない。

 

 しかし、おそらく、そうはならない。


 なぜなら、肉体の成長・老化速度は、現世とまったく変わらないからだ。


 地獄にずっといても、腹が減るタイミングや爪の伸びる速さは、現世にいる時と同じ基準で進む。


 そのため植物の成長速度も、

 現世と同じになると考えられる。


 しかし現実は、そうなっていない。


 キュウリの種まきから収穫まで、

 通常はおよそ3ヶ月かかる。


 しかし今回、まだ1ヶ月しか経っていないにも関わらず、もう収穫できるところまで育っているのだ。


「おそらくそれは、瘴気《しょうき》のせいじゃな」


 僕が頭をひねっていると、

 儺流ちゃんがポンと手を打った。


「瘴気ですか?」


「瘴気とはつまり、澱《よど》んだ霊力のことじゃ。

 霊力の濃い場所では、植物がよく育つらしい。

 なぜそうなるかは知らんがのぅ」


「ほぉ〜、そうなんですか」


 育つのが早い分にはまったく問題ない。

 というか、むしろありがたい誤算だ。


 今日中に、記念すべき1回目の収穫を行おう。


「よし、報告はこれで全部かな。

 全体的に、すごくイイ感じに進んでますね」


 僕は満足げにうなずいた。


 残った課題は、慢性的にお金がないことくらいだ。


 それ以外には——あ。


(……すっかり忘れていた)


 温泉旅館の一件があってから、

 教団を設立するために始めた拠点開発。


 だけど元々は『地獄を探索する』ために、

 安全な拠点を作ろうとしていたんだった。


 拠点をさらに大きくしていくためにも、

 まだ見ぬ資源やアイテムを見つけられたら嬉しい。


 今のところ僕の仕事はそんなにないし、

 ちょっくら探索にでも行こうか。


「よし、方針を少し追加します!」


 僕はバンッと机を叩いて、みんなを見渡した。


「みなさんはこれまで通り進めてください。

 僕はこれから——地獄の探索を開始します!」

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