第26話 仲間集め『 in 亀甲沼』・前編
計画開始から、約2ヶ月が経った。
「計画は順調に進んでいる……が、
すこしアンバランスだな」
餓鬼たちがせっせと土木作業をしているのをながめながら、僕は小さくつぶやいた。
この2ヶ月で開拓した地獄の拠点は、すでに江戸の城下町くらいの広さになっていた。
餓鬼たちが寝泊まりするための長屋。
作戦本部である2階建ての豪奢な屋敷。
きれいに整備された用水路に、桜や柳の木。
雰囲気も、完全に城下町だ。
映画のセットみたいな和風の街並み。
この拠点の代表者が、他ならぬ僕であるという事実に興奮を抑えられない。
(進め!集まれ!
私こそが!
お代官様っ!)
……いや、教祖様か。
僕は現状にかなり満足しているし、
みんなに、とても感謝している。
ここまで拠点を発展させることができたのは、
ひとえに仲間たちのおかげだからね。
そう、大切な仲間たちだ。
まずは、赤鬼の赤洛。
彼は人気のない山奥へ行って、
木材や食料を調達してきてくれる。
いわば、資材調達班だ。
鬼である彼の筋力はなかなかのもの。
まるで草むしりをするように、
片手で木を引っこ抜くことができる。
「1日で何本、木を抜いとるかじゃと?
数えちゃあおらんが、100は超えとるのう。
ほれ、こがいな感じじゃ」
——ズポッ!
彼1人で、重機20台以上の働きがあるのだ。
エコでパワフル。
最高じゃないか。
とりあえず今のところは、
赤洛が1人で資源集めを担当してくれている。
ちなみにだが、
彼には地獄の門を開く権限を与えた。
なので、自由に現世と地獄を行き来できる。
僕がいない間も、資源は必要だからね。
次に、半妖の菊千代ちゃん。
彼女には、教団の制服など衣服の生産のほかに、
拠点の飾り付けもやってもらっている。
人間の世界を知ってもらうために歴史の本を貸したら、それを参考にして、行燈や暖簾、障子などの和風アイテムを製造してくれたのだ。
「灯弥く……教祖様、こういうの好きじゃろ?
ウチがいっぱい作っちゃるけぇ」
彼女、かなり美的センスが高い。
しかも、手先も超器用である。
大河ドラマみたいな和風の拠点ができたのは、
間違いなく彼女の功績が大きい。
次に、儺流ちゃん。
彼女は、依代を媒介に召喚している分霊だ。
そのため本体とは違って、
実体を持てないし、術式を使うこともできない。
言うなれば、
おしゃべりができる、
『ゆるキャラ』みたいなものだ。
それにも関わらず、
彼女の存在はとてつもなく大きい。
なにせ彼女は、何百年と生きてきた中で培った、
豊富な知識と知恵を持っているからだ。
「配管などなくとも、下水道は作れるぞ。
木の真ん中をくり抜いて、繋げれば良いのじゃ。
昔の人間はそうやっておったからのぅ」
彼女は剣術や術式の修行の時だけでなく、
拠点作りについても色々と知恵を授けてくれる。
何か困った時のファーストオピニオンは、
ぜったいに儺流ちゃんである。
そして最後に、300匹の餓鬼たち。
彼らは文句も言わずに、よく働いてくれている。
土木建築などの施工作業。
現世での情報収集。
資材の運搬。
いろんなことをやって貰っている。
「教祖サマ、食事ノ時間デス!
肉ヲ、馳走ヲ、オ恵ミクダサイ!」
たしかに、300匹の餓鬼を養うのは簡単じゃない。僕の霊力をこめた食料じゃないと食べられないから、手間もかかる。
でも、彼らの働きぶりを見れば、
それくらいのお世話は安いものだ。
みんな、真剣に拠点開発に取り組んでくれている。
僕は、ほんとうに素晴らしい仲間を手に入れた。
感謝が尽きないね。
とまぁ、こんな感じで。
拠点作りは順調に進行している。
だからこそ、僕はつぶやいたのだ。
「順調に行きすぎているからこそ、
順調でない部分が目についてしまう」
まだ十分に手が回っていない領域。
——そう、農場だ。
現状、食料の供給は赤洛が狩ってくる『お肉』に頼りきりになっている。
言わば、狩猟生活である。
安定して教団を発展させるには、狩猟から農耕へのステップアップが必要不可欠だ。
過去何回も、農業が人口の爆発的な増加をうながしたのは言うまでもない。
そんなわけで僕たち百鬼弥教も、
できるだけ早く農業革命を起こして、
教団の規模を大きくしようと考えた。
——しかし、
この計画には、1つ大きな課題があったのだ。
それは、餓鬼のマンパワーを農業(食料生産)に回すことができないということである。
さわった食べ物を腐らせてしまう特性。
そのせいで、彼らに農業を任せられない。
種をまいても、苗を植えても、
餓鬼がさわった瞬間に枯れてしまう。
これじゃあ、育つものも育たない。
結果として、
農場の開発はすっかり先送りになっている。
この問題を解決するためには、
農業ができそうな、新しい仲間が必要だ。
さて、どうしたものか……。
そんなことを考えていると、
『教祖サマ、定期報告デス』
背中に『271号』と書かれた服を着た餓鬼が、トコトコと走ってきた。
この餓鬼は、教団の諜報担当だ。
現世へ調査に行ってもらい、仲間になってくれそうな妖怪や、悪い妖怪、拠点開発に使えそうなアイテムを探してもらっている。
『Z97地点、狒々《ひひ》ノ群レガ、人里ヲ襲ウ準備中』
『P41地点、箕借婆ガ出現。被害者3名』
「おっと、それは急ぎの案件だね。
今すぐ助けに行かないと」
とりあえず、このあとの予定が決定した。
我ら百鬼弥教の重要な奉仕活動。
悪い妖怪の討伐だ。
腕がなるね!
『N83地点、霊符ノ材料ニナル蘇茅ガ密生』
「お、それは良い情報だ。
持ち帰って、地獄で栽培できないか試してみよう。
他にはない?」
今日の報告はかなり充実している。
もうすでにけっこう満足しているが——、
『G12地点、河童ノ住ム沼ヲ発見。
彼ラヲ仲間ニデキル可能性ガアリマス』
(……え、河童だとッ!?)
僕のテンションが、一気に限界突破した。
超メジャーな妖怪!
日本人なら、知らないものはいないレベルの超絶有名ネームド妖怪!
(河童といえば水辺の妖怪。
田んぼの管理にこれ以上適した妖怪はいない!
それに彼らはキュウリが大好きだから、
野菜を育てる情熱も絶対にあるはずだ!」
これこそ、求めていた人材だ!
いや、妖材だ!
「271号!
君の報告は最高だ!
はい、ボーナスの飴ちゃん!」
僕はポケットから出した飴にたっぷりと霊力をこめて、271号に渡した。
すると、彼は急いで頬張り、
「ワーイ!
教祖サマ、バンザーイ!」
と、スキップしながら仕事に戻っていった。
イキイキ働いてていいね!
「さてと」
悪い妖怪をサクッと討伐して、
その足で河童のスカウトに行くとしようか!




