幕間1
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【王国暦426年7月30日ーードナシオン王宮】
「それでは皆様、最後に勲功第一についてになります。調査報告書の最終項のご確認を」
王宮の会議室、アルマン・ド・リケ宰相がこの日最後の議題へと話を進める。参加者に配られているのは、今回の戦争における各戦線、各戦いでの戦況、結果、その後の展開がまとめられた物であった。今回、局所的な戦いにとどまらず国境線の各所で戦端が開かれ、そして長期間にわたった。帝都占領という未曾有の結果の大きさはその調査書の破格な厚さからも伝わってくる。
「最終的に帝都占領、皇帝の捕縛を果たされた親衛魔法旅団を隊としての勲功第一としています。また調査官の調査の過程にやや遅れがありましたが、ベルク要塞での戦いでの報告がつい先日上がってまいりました。それが報告書の最終項に記載されています。それを踏まえ、財務長官、軍務長官、そして私との三者会合における選考案として、先鋒大隊第一中隊長アンデルを個人における勲功第一と提示しています」
「宰相閣下、少しお待ちいただけるかな」
アルマン宰相に声をかける男がいた。一際大きな体躯、常に周囲を威圧するかのように鋭い視線を放つ目。口元に蓄えられた髭がその威厳を演出している。
「ローエン侯爵、いかがされましたでしょうか」
宰相が問い直した相手は、ギュスターヴ・ド・ローエン侯爵。貴族でも屈指の領地、財力を持った家に産まれながら、高い魔法資質を有し本人もまた戦場に立ってきた猛将でもある。そして、親衛魔法旅団団長その人であった。
「あの戦場で何が起きたのかわかっておるのかね。我ら本隊は要塞後方一キロ程の所におったが、夜の闇、硝煙、砂煙。そのせいであの場で何が起きていたかはわからんかったが。突然伸びた光によって視界は開けた。が、もう何も残っておらんかった。何もな。報告書のようにあの小僧が放った魔法であるなら、背後から味方諸共魔法を放ったことにもなるなぁ」
ローエン侯爵の発言に会議室の空気は緊張に包まれる。
「侯爵閣下。この報告内容は各隊付き監査官の目撃情報でも確認された事実であります。魔法規模は過去、例にないものではありましたが、結果要塞を落としたのは間違いないものであります」
王国軍総参謀長が、緊張しながら返答する。
「ほう。総参謀長様よ、であれば小僧の味方殺しも事実であろうよなぁ。まぁ、功績と軍規違反の相殺ぐらいで許してやればよいのではないかな」
「恐れながら申し上げますが、そもそも彼の地での旅団の作戦内容についても疑義があると言わざるを得ません。援軍等要請いただき数をして攻略することも可能であったのでは」
「貴様、たかが総参謀が侯爵閣下を侮辱するか」
親衛魔法旅団副団長が怒声をあげる。
親衛魔法旅団が王直属部隊であるがゆえの衝突はこれまで積み重なってきたものであった。会議の場は完全に停滞する。こうなるとまともな結論にはたどり着かないのが常であった。
「お歴々よ、落ち着かれんか」
首席枢機卿であるロレンシオ・ド・サン=ペルグ侯爵が宰相の隣席から落ち着いた口調で参加者に声をかけた。豊かな白髪を携えた好々爺然とした人物ではあったが、長きにわたりまつりごとの世界で生き今の地位まで上り詰めた男である。場の緊張は続く。
「中隊長の味方殺しと旅団のずさんな策はそれで相殺したらよい。勲功第一はアンデル中隊長へ与え、ふむ、中央大学に研究所を用意しよう。そこで魔法の研究をさせたらよかろう。ローエン侯爵、それでこの話を締めたらどうかな」
突然の提案であったが、ローエン侯爵は頷いた。
「枢機卿の提案で構わん。煩わしい小僧を目にせんのならそれでよい」
「枢機卿猊下、しかしそれは・・・」
「戦乱を終わらせた英雄はおっても良い、が戦後に英雄はおらんでも構わんじゃろ。これからは戦争では功を挙げることも減るじゃろうて。国は大きく進んでゆくぞ。北部統一という悲願を成し遂げた、国も活気づこう。このような事で躓いておってどうするか。皆先を見よ」
「・・・猊下の仰せのままに」
総参謀長も頷く。
「では勲功第一はアンデル中隊長とし、あわせて軍からの異動を持って恩賞とします。これにて論功行賞に係る会議は終了とさせていただきます」
宰相は議論が蒸し返されないように、早々と会議を締めると行政官達と退室していく。続き、ローエン侯爵を中心に貴族達が、最後に軍関係者が退室する。
「猊下・・・」
後ろに立って控えていた男が最後まで席にのこっていたロレンシオ枢機卿に笑みを浮かべながら声をかける
「ドロテオよ、奴ら勝手に揉めてくれたのう。はっはっは。これで教会は奇跡の英雄を手中におさめた。また楽しくなりそうよなぁ」
そう言うと、二人は誰もいない会議室を後にした。




