↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導革命物語ー彼は誰時の王国ー  作者: DONAU
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/44

三章 5話

39

[王国暦426年10月上旬]


 すでに夜は更け、街も静けさに包まれつつあった。酒と食事を購入し、戻ってきたカイルとマリルも自己紹介を終え、トマスの後ろに椅子を置き話に加わっている。

 「まず、ホルガーさんについてです。なぜ私が、あなたとお話をさせていただきたいと思ったのか・・・」

常に不機嫌そうな表情を見せていたホルガーは、自分の名前が最初に挙げられたことに反応する。エルベールとフレデリクへ向けられていた視線はゆっくりとトマスへと移される。

「私はこれまで、この街を拠点として商売をしてきました。ですが、今私たちは、ベンリルの街に店を出すために動いている最中です」

ベンリルという名にホルガーは再び反応する。

「終戦の報せを聞き私はすぐに北部へいきました。まぁ、市場調査という名目です。当初は王国領を回りましたが、戦勝国側にしてはあまりいい雰囲気ではなく、また南部とのやり方の違いに戸惑っていました」

その言葉にエルベールは頷きながら下を向き目を閉じる。エルベール自身もまた、終戦後の王国領を回った経験とそこで見たことを思い浮かべていた。

「そんな中で、たまたまですが旧帝国領へ赴く機会を得ました。旧帝国領は当初思ったほど、建物や道といった目立つ戦争の痕跡がなくこんなものかと感じていました。ただベルク要塞の跡地を通過したときは初めて戦争を感じましたが・・・」

話を聞く三人は一様にベルク要塞に反応する。それぞれがベルク要塞に関わる記憶を蘇らせていた。その様子をうかがいながら、トマスは話を続ける。

「最終的にベンリルの街にたどり着きました。街の中央の塔が壊されたとのことでしたが、それでも街はそのままの姿を残していました。街は壊れていないんですが、ベンリルの人々はまさに疲れ切っている。そんな印象でした」

トマスもまた、ベンリルで過ごした日々を思い返しながら慎重に言葉を選んでいく。

「ベンリルで私は一人の工房の親方と懇意になることができました。大きな工房の親方でしたが、働いていた人たちは離れ今は何も作っていない、そんな状況でした」

「・・・どの工房だ?」

話を聞いていたホルガーは、低い声で静かに尋ねた。

「カーター工房です」

トマスは答える。

「そうか、カーターさんは元気だったか?」

帝国随一の工房、その親方であるカーターの名はやはり知っている者も多いのだろう、そうトマスは理解する。

「えぇ、とても。当初はすべてを失ってしまったと、沈んでおられましたが、話をする中でまた工房を再開するんだと新しい目標に向かって歩み始められました。そして、私もカーターさんとともにベンリルで商売をすることを決心したんです」

「ほぅ・・・」

相変わらずホルガーの反応は短かったが、明らかに関心を寄せているのが分かった。

「私も旧帝国の生活を目の当たりにし、そして王国の方たちの生活も垣間見てきました。戦争が長く続いた影響は私に推し量ることもできません。それにその生活を少しでも手助けしたい、いや手助けできるとも思ってはいません。あくまで私は一人の商人です。商機があると考えれば動く、それだけです」

トマスの言葉にホルガーはふぅとため息を吐く。

「けれど、私には理想があります。売る人間、作る人間、買う人間、そしてそれらを取り巻く環境、すべてにとって利になる商売。これが私の理想です。私は物を作り出すことはできませんが、それを世の中に回すことはできます。それこそが商人の役割でしょう。でも、回す方法は商人それぞれやり方が違います。私は自分の理想に基づいて商売をするつもりです」

トマスは夢中になって自分の思いを一気に吐き出す。理解してもらいたいとか、説得しようという気持ちではなく、純粋に自分の理想を口に出す。そして自分のなかでその理想をもう一度固めるかのように。

「理想だろ、そんなうまくいくわけがねぇ」

ホルガーはそれでもトマスの発言を否定する。

「俺は帝国で運送の仕事をしていた」

ホルガーは静かに自分のことを語り始める。

「ベンリルを中心に国内をあちこち荷馬車を引っ張って回ってきた。まぁ運送にも危険がつきもんだ。体のデカい俺にとってはおあつらえ向きの仕事だと思ってた」

トマスは柔らかい表情でホルガーを見つめる。エルベールとフレデリクも真剣にホルガーの話を聞く。

「戦争を続けている国の中では、軍や国からの仕事も多い。軍も人手が足りないときが多いからな、前線とまではいかないが、軍の食糧を大量に運ぶ仕事も多かった。そんな状況でその国が負けてなくなるんだ。仕事の多くが根本的になくなったんだ。依頼主も消え、運ぶ物もなくなった。最初はよぉ、それでも王国領への運送の仕事もあるんじゃないかって期待した。けどそんなのは期待に過ぎなかった。王国が帝国に仕事を回すなんてことは無かった」

それは運送の仕事に限ったことではなかった。カーター工房も最大の仕事の供給元は国家であった。兵士の装備や、軍の馬車の部品そういった仕事が圧倒的に多かった。しかし、負けた国が消滅した瞬間、すべての仕事も同時になくなってしまう。王国側から旧帝国内の工房やギルドに仕事が回されることはなく、旧帝国領内の経済はまさに死に体だった。

「少しずつ帝国内にやってきた王国の奴らは、どいつもこいつも俺等を見下した。これも全部負けたのがダメだったんだろ!わかってるんだよ・・・」

ホルガーは苛立ちを隠すことなく大声を上げる。

「それにな、俺の兄貴は軍人だった。長いあいだ兵士として生き延びた兄貴は、ベルク要塞で死んだんだ。数々の戦いを生き延びた自慢の兄貴だった。戦死の報告だけを受けたすぐあとに、戦争は終わった。兄貴の戦死はいったい何だったんだって、俺は絶望した。親父もお袋も何年か前に病気で死んで、最後の家族まで失った俺は、帝国にはもう居られないって思ってよ、こっちに逃げ出したんだ。皇帝も貴族も戦争もない、南部ならもう一度やれるんじゃないかって、俺の最後の賭けだった」

ホルガーが一気に話した内容が、その場の全員に刺さる。仕事のみならず家族を失った悲痛な思いに、トマス兄弟は心を痛め、エルベールとフレデリクもまた戦争のもたらす傷跡と、何のための戦いだったのかという問いかけに自分たちと同じ悩みであることを感じる。

「やっとの思いで来た南部で、結局このザマだ。南部の人らにとって、そもそも北部の人間は得体の知らない奴らなんだ。その上、負けた側の帝国の人間なんか、何をしでかすか分からない獣のように見えたんだろう。俺が逆の立場でもその気持ちはわかるんだよ。けどな、もう俺は疲れちまってたんだ。どうでもよくなっちまったんだ。そんな俺にとって、あなたの話は何も響いてこねぇ、申し訳ないがな」

そう言って酒を飲んだホルガーは静かにトマスの方をみた。


 ホルガーの話のあと、応接室を沈黙が包む。それぞれの立場で、ホルガーに掛ける声を見つけることができなかった。そんな中で、トマスが口を開く。

「ホルガーさん。お話をしていただいてありがとうございます。やはり私はあなたとお話ができてよかったです」

トマスは優しく語りかける。

「あなたの気持ちを理解することも、まして解決することも私にはできないでしょう。けれど、これからの私たちにはあなたの力が必要だと改めてわかりました。率直にお願いしたいのですが、私たちと一緒に店の従業員として働いてほしい。あなたを雇いたい。私達とベンリルに行き、私は私の理想の商売のために、そしてあなたはベンリルの為に、自分の為に働いて欲しい」

トマスの突然の雇用の提案に、ホルガーの目は大きく開かれる。こいつは何を考えているのか、人の話を聞いていたのか?そんな思いを抱きながらトマスをじっと見つめる。

「残された人間が未来を作るしかないのです。たとえその未来がどうなるか今は分からなくても、少しでも自分にとって都合の良い未来にする為にあがいてみませんか。あなたは私を利用すればいい。給金ももらいながら、うまく利用してくれればいい。もう一度だけ、今度はあなたの人生を私に賭けてみませんか」

トマスもホルガーから視線を外すことなく訴えかける。こうして知り合った目の前の一人ですら自分が幸せにしてあげることは難しいだろう、それでもそのきっかけくらいなら手伝える。そうトマスは信じていた。何より、彼の経験が今の自分達にとって貴重であることも十二分に理解していた。トマスはホルガーへの信頼と強い決意をにじませながら見つめ続ける。

「チッ、好きにしろ・・・。衛士に突き出されるよりはマシだ」

根負けしたホルガーは視線を逸らしながら投げやりに返事をした。それを見てトマス満面の笑みを浮かべていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。