二章 24話
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[王国暦426年9月中旬]
「魔力とはなんじゃ?」
バスチオンの唐突な質問。
「体の中にあり、それを放出する事で魔法が発動される。そう考えていました。ただ、魔法の素について聞いた後として考えるなら、・・・魔法の素に影響を与える何か、と言うことになるのでしょうか」
先ほどまでの話を整理しながらアンデルは答える。
「そうなるの。では『魔法の素が世界に満ちている』事が正しいと考えた時、神が与えた奇跡、神の御業とは何になる?」
「それは、魔力です。選ばれた者のみが魔力を持っている。魔力を持っているから魔法を発動できると・・・」
アンデルの返答に再び頷くバスチオン。
「さて、儂は帝国内を転々とする中、帝国南部でとある話を耳にした。お主、大陸の地図は頭に入っておるか?」
「はい、習った程度ですが。大陸北部は西側を王国、東側を帝国が長く統治していました。大陸南部はより広く、様々な環境があり、そこに都市国家が点在していると」
士官学校で大陸の全体像を学んだことを思い出す。
「重要なのはその間じゃ。北部と南部のな。何がある?」
「北部と南部を隔てるように北部側には険しい山脈が連なり、南部側には大森林が広がっていると聞きました」
「そうじゃな。それゆえ、大陸北部と南部は長い間、直接の交流は無かった。しかし、今では造船技術の発展で東側と西側の海を使った貿易が盛んになりつつあると。さて、お主は大森林のことは知っておるか?」
「いえ。王国では今も大森林についてはあまり話を聞きません。山脈は王国南部から眺めることができますのでもう少し身近ですが」
アンデルはふとトマスの顔を思い浮かべ、まだ行ったことの無い南部の景色を想像する。
「儂も同じようなもんじゃった。ただ、逃亡生活の中で帝国の、山脈に近い小さな村を訪ねた際に、一つの昔話を耳にした。その村に古くから伝わる伝承のようなものじゃったな」
『村で育ったある若者は、子供の頃から南に聳える山脈の、その先に行ってみたいという夢があった。山脈の先には豊かな森があり、さらにその先はどこまでも続く広い大地が広がっている、そう伝わっていたからだ。若者はある日、意を決して村を飛び出ると、山へと旅立っていった。苦労の末、若者はついに山を越え、目の前に森が広がるのを見て歓喜した』
バスチオンの低い声が、昔話に臨場感を与えている。アンデルは話に聞き入る。
『森へと駆け出した若者はしかし、そこで悪魔の獣、魔獣に出会った。魔獣は火を操り、風を巻き起こし、石礫を放った。若者は命からがら逃げ出し村へと帰ってきた。それから若者は決して山へ、森へ近づいてはならないと皆に話続けた』
「儂はこの話を聞いて山脈を越えようと即決した。魔獣じゃぞ、火を、風を操るとな。行くしかなかろう」
やや興奮気味にバスチオンは話していく。
「帝国南部に山脈の中でも一番低い場所があってな、そこから三日ほどかけて山を越えた。その先は聞いた通りの大森林であったわ。大森林に着いてからはずっと魔獣を探し回った。豊かな森だけあって、多くの獣や果実など食料には困らんかったしな。森に入って大分と経った頃、一頭の猫のような獣を見つけた。身体は儂と同じくらいじゃったろうか。そいつはな、口からずっと炎を吐いておった。儂は捕まえるためにすぐにその獣と戦った。儂も森で獣を狩ることにはすでに慣れていてな。あっけなく捕まえることができた。押さえつけると暴れまわるんじゃが、その時口からの炎が強くなったり弱くなったりするが、魔法師のように火を飛ばすということは無かった」
アンデルはすでに限界を迎える頭を酷使し火を吐く猫を想像する。やはり限界なのかアンデルは一旦想像を諦める。
「儂は我慢ができなくなってな。その魔獣を解剖した」
想像を諦めたアンデルの頭には勝手に解剖される猫の姿が浮かぶ。
「それからも魔獣を探し見つけては解剖していった。風、土様々な魔法の特徴を持つ魔獣がおったわ。もちろん普通の獣に比べれば全くもって数は少なかったがな・・・。さぁアンデルよ。儂の話が嘘でないとしたら、どう思う?」
『答えは見えている気がする。貴族、平民、獣そして魔獣・・・けれど・・・』
アンデルはゆっくりと落ち着きながら考えていく。バスチオンもまた、その様子を見て待っている。
「魔力とは・・・、神に選ばれた者のみが持つものでは無い、ということかと思います」
バスチオンは、ふーっと長く息を吐いてから答える。
「儂も同じ考えに至った。特にお主と会い、こうして話をして確信した」
しばし沈黙が流れる。
「では、魔力とは何かについて話そう」
バスチオンはそっと話始める。
「獣の解剖を繰り返し、その身体を使い儂は様々な実験を行なったが・・・お主はそもそも手や足を動かす仕組みを知っておるか?」
「いえ、考えたらそのように動くとしか。深く考えたことはありません」
「それじゃ、人も獣もおそらく同じじゃが、腕を曲げようと思い腕が曲がる。その通りじゃ。じゃぁなぜ腕が曲がるのか・・・。腕には筋肉がついておる。その筋肉が縮んだり伸びたりすることで骨が引っ張られ腕が動く。それはあらゆる場所がそうなっておる。足も、指も、首も動かせる所はみな同じ仕組みになっとる。分かるか?」
「はい・・・。なんとなくは」
「では何が筋肉を動かすのか。筋肉は細くこまかい繊維のようなのでできておる。それらが一斉に動くことで縮めたり伸ばしたりしておる。儂がさらに理解したのは、それらの動きにはきっかけがあったということじゃ」
「きっかけですか?」
「あぁ、きっかけじゃ。儂はある魔法を、できるだけ弱く小さく調整したうえで獣の筋肉に対して放った。すると筋肉が見事に動いたのじゃ」
「魔法?」
「うむ。お主が先ほど儂に放った雷魔法じゃ」
「・・・申し訳ありませんでした」
バツが悪そうに謝るアンデル。
「そんなことはどうでもよい。
雷魔法を極めて弱く制御し筋肉に当てると筋肉は見事に縮む。そして止めると元に戻った。これは他のどの魔法でも起きなかった。儂はさらに研究を積み重ねた。途方もつかないほどじゃ。そしてどうやら儂が調べた範囲ではあるが、生物はみなこの雷の流れ、まぁ雷流とでも言うが、この雷流を身体の中で発生させることができる。さらに、例えば腕を曲げようと考えると腕の筋肉に雷流を流し動かしているということじゃ。つまり人の身体は全てこの雷流を、頭で調整して生きておるということにたどり着いた。そしてこれは魔法とは一切関係を持たん。抗魔法の金属板で試したがそこに魔法の素は一切関与せんかった」
アンデルはやはり理解が追いつかない。
「そしてじゃ、魔法もこの雷流が関与していると考えておる。つまり魔力の正体はこの雷流ということじゃ」
「理解が追いつきませんが・・・いやしかし」
「あまり言いたくない実験も行なった。魔獣の脳を生かしたまま触るというものじゃが・・・。それで確認した。脳の一部を破壊し雷流が流れない状態では魔獣も魔法を発動することができなくなったんじゃ」
アンデルは気分が悪くなる。それでも、聞くしかなかった。魔法とは何なのか、その真実に確実に近づいていると確信があった。




