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魔導革命物語ー彼は誰時の王国ー  作者: DONAU
一章

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一章 2話

3

[王国暦426年8月19日ーー王都ドナティア]


 王宮の南東に軍務棟は建っている。石造りの堅牢な建物の二階に先鋒大隊に割り当てられた執務室があった。

「アンデル参りました」

「入れ」

 室内からの返答を受け飾り気のない扉を開けると、正面にエルベールが座っており、その右にフレデリクが立っている。左側には中隊長であるマルシオとイケルが立つ。

「すまんな、呼びつけて。まずはアンデル、お前に謝りたかった。」

「謝る、でしょうか」

「その論功行賞の褒美についてだ。帝都陥落直後からな、行政官達が戦中の調査を始めていた。まぁ論功行賞のためだがな。師団長、大隊長までは一通り各戦線での実績を確認していった。俺もその調査でこう答えた。ベルク要塞攻略の功は全てアンデル中隊長にあると。更に、帝都までの主要幹線道を封じていたベルク要塞の攻略はこの戦い、いや王国の歴史においても最上の功績だろうとな」

「まぁ実際そうだと私も思いますよ」

 フレデリクが同意する。

「そうだろうよ。けどな、先に旅団長や本隊の連中に聞き取りしてた調査官は、そんな話は一切聞いていないときやがった。あいつら先鋒大隊の流した血の事も、もちろんアンデルの事も隠そうとしやがったんだ」

 執務用の机に大隊長の拳が強く打ち付けられる。大きな音がアンデルの思考を、あの時に引きずり込んでいく。


[王国暦426年6月10日ーーベルク要塞]


「第一中隊を中心に先陣を第二中隊、左右それぞれを第三、第四中隊、大隊長の本隊を後方に配します。進軍とともに第三第四中隊は広く展開して下さい。そのまま中央よりも先行し要塞城壁に対しクロスボウの一斉射撃を開始します。散開しつつ被害を抑えながら対応してください。その後第二中隊は要塞中央へ大盾で守りつつ進軍。城壁にたどり着けばそのまま第一中隊の支援に入ります。第一中隊はアンデルを守りつつ進軍。城壁到達後はアンデルの最大火力の魔法で兵器の破壊を試みます。成功、失敗に関わらずその時点をもって全軍撤退します。第一中隊は、殿軍を任せます。大隊長の本隊へ合流後、追手がある場合は本隊が防ぎつつ撤退となります。状況に応じて両翼は中央の支援もお願いします」

 フレデリクの作戦を再度確認し各隊が配置につくと、エルベール控える本隊から作戦開始の合図が送られる。

 月も雲で隠れており、夜襲の条件としては整っていた。初夏の季節、そこら中から虫の声も聞こえる。姿勢を低くし音を抑えながら各中隊は慎重に前方を注視しながら進む。

 ーー

 先行する両翼の隊は進行速度を上手く合わせられていた。城壁まで残り三百メートル。残りが百五十ほどまでくれば射撃が開始できる。焦りを抑えながら両翼を任されたマルシオ、イケルの両中隊長は先頭に立ちながら隊の速度を調整する。

「散開じゃー!」

 張り詰めた闇夜に、叫びがこだまする。マルシオ、イケル両中隊長の斜め後方より。

 ーー

 アンデルは隊の先頭を進む。身を低く構え、音を殺しながら高い集中力を保ちながら。おそらく、もう間もなく両翼の攻撃が開始されるだろう。攻撃開始後の流れを頭で描きながら、高出力魔法のイメージも作る。一発で迅速に破壊さえ出来れば最小限の被害で撤退できるはず。そう信じていた。平民にも関わらず並の魔法師よりも強力な魔法を扱える自分自身を呪った時期もあったが、それでも今、この仲間たちを守るには自分の力しかないと、歯をくいしばった。

 前方から突如、ヴィルジール隊長の怒声が響いた。

「散開じゃー!」

 戸惑う間もなく、地面から轟音とともに炎を噴き上げた

「盾を構えよ!」

 アンデルは自身が率いる部隊に大声で指示を出す。前方からとてつもない勢いで石や瓦礫のようなものが飛んでくる。盾に飛来物が当たる音がそこかしこで響く。飛来物は止んだものの、あたりは黒煙が立ち込み視界が塞がれる。盾に身を隠し二、三分経っただろうか。前方から人の呻く声が流れてくる。

「直ちに負傷者を確保。のち、撤退に移れ」

 何が起きたのかは分からない。しかし、作戦は失敗したことは理解できた。アンデルは救助の命令を下しつつ自身も前方へと急ぐ。おそらく爆心地であろう場所は、地面がえぐられ元の様子はうかがえない。歩を進めるなかで、周囲には誰のものか分からない腕や下肢が転がっている事がわかった。生きているものは居ないのか。焦りと共に進む。アンデルは前方にうめき声をあげる一人の男を見つける。

「ヴィルジール隊長!」

 隊長は右腕を失っていた。それでも生きていてくれた。安堵と焦りの中でアンデルはヴィルジールの左脇に身体を入れそのまま撤退を始めようとする。

「ア、アンデル。すぐに撤退せんか。もともと罠が仕込んであったのじゃろうて。見よ城壁に集まってきよった」

 城壁の上に帝国兵の持つ明かりが集まりだしている。

「できません。ヴィル隊長とご一緒に」

「ならん。はよ撤退せぇ」

 そういったヴィルジールは左手でアンデルを押し出すと、城壁に向き仁王立ちとなる。まるでそれを見ていたかのように城壁の上で炎があがると、アンデル達の周囲に轟音が響く。

「老人の血のみで十分。行かんか、小童」

 そう叫ぶとヴィルジールの身体を矢が貫いていく。アンデルは目の前の光景を受け入れられない。ヴィルジールを貫く矢も、周りに倒れている仲間達の姿も。あたりはアンデルの仲間の、家族の流した血で染まっている。えぐれた大地からは硝煙の匂いや血の匂いが混じり立ちのぼる。いつの間にか、降り始めた雨がそれらすべてを混ぜ合わせ、混沌を生み出す。アンデルは膝を付き、大地をそして仲間たちの血を掴みながら自らもその混沌に飲み込まれそうになりながら絶叫する。

 ーー

 城壁から始まった砲撃と一斉射撃を確認し後方にいたエルベールは撤退を叫ぶ。先行した隊がどのようになったか伺いしれない。降り始めた雨が強くなり、煙が減り闇夜の中ながら何とか視界が広がり始める。

「こ、これは」

 エルベールの眼前に光が広がっていた。いや、地面が光っているのか。分からない。仲間たちが倒れる大地に光の幾何学模様が浮かんでいた。見たことのない光景だった。

「フレデリク!」

 そばに控えるフレデリクを呼ぼうとしたとき、地面の光は一気に増す。そして要塞の方へと強烈な輝きが放たれる。それは一瞬の出来事だった。

 前方にはすでに、ベルク要塞だった物しか残されていなかった。光が放たれた跡に沿って地面が抉られている。要塞のあった場所には灰の山が出来上がっている。

 その場の生き残ったすべての者が立ちすくみ固まっている中、はるか後方より、馬蹄の響きが近づいてくる。魔法旅団の本隊であった。


 

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