二章 20話
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[王国暦426年9月中旬]
「ほう、もう一人おったか」
老人は馬にのった男を見つけるとすぐに火の魔法を放つ。
「くっ、トマスさん近づかないで」
アンデルはトマスに向かって放たれた火を目で追う。
「間に合わない!」
アンデルはすぐさま風魔法を発動するが、先行する火魔法には到底届かない。
「くそ、くそ、くそ」
何度も魔法を放つが追いつかない。トマスの姿にベルク要塞で散った仲間たちの姿が重なる。
「ここでも、僕は・・・何も守れないのか・・・目の前の仲間を一人も・・・」
そう項垂れそうになった時、トマスへまさに当たろうとした炎の塊が、ふっと消える。
「あれは?・・・トマスさんは・・・良かった。大丈夫そうだ」
「ほう、あれは・・・。面白い、ならこれは」
炎が消えるのを確認すると老人は再びトマスに向かって魔法を放とうとする。
「いい加減にしろー!」
老人の動きを見たアンデルは、渾身の力を込め魔法を放つ。王国魔法師でも使い手が限られる雷の魔法であった。繊細な調整が難しい雷魔法はアンデルの周囲に落雷を生じさせる。激しい光と音が響き、一つの落雷が老人に当たる。
「ぐはぁ、これは効く・・・」
雷を受けた老人は意識を失いその場に倒れる。
アンデルは老人が意識を失っていることを確認し、身体を持ち上げ肩に担ぐとトマスの方へと向かった。
「炎が来たときは一瞬あきらめてしまったが。これのおかげか・・・。命拾いしたな」
トマスは、外套の内側から黒色に煌めく金属の板を取り出す。
「それにしてもあの雷も魔法なのか、すさまじいな」
雷が発生した後、アンデルが男を担いでこちらへやってくるのを見るとトマスもアンデルに向かい馬を進ませる。
「トマスさん、怪我はありませんか」
合流するとアンデルが真っ先にトマスの心配をする。
「いやぁ、だめかと思いましたが命拾いしました。アンデルは大丈夫ですか、それにその人が?」
肩に担がれた男の顔をのぞき込みながらトマスは尋ねる。
「良かった・・・本当に良かったです」
今にも泣き出してしまいそうな顔でアンデルが謝り、そのまま話を続ける。
「多分この人だと思います。けどいろいろと誤解をされてしまったみたいで。戦闘になってしまいました。気を失ってますが、多分大丈夫だと思います」
「まずはアンデルが無事で良かった。とりあえず急いでカーター工房の倉庫へ向かいましょう。場所はだいたい把握していますので、ついてきてください」
トマスが連れてきたもう一頭の馬に気を失った老人を載せ、落ちないように支えながら、アンデルは後ろに跨った。
二人は北へと向きを変え、馬を並べて進む。
「いやぁ、最後の雷もアンデルの魔法なのかい?すごい迫力だったよ」
初めて戦闘での魔法を目の当たりにしたトマスは、興奮冷めやらない状態で尋ねる。その様子にアンデルは苦笑いを浮かべる。
「トマスさんに向かった火魔法が、直前で消えましたよね」
「あぁ、多分これのおかげだと思うよ」
トマスは黒色の金属板をアンデルに見せる。
「それは・・・」
「馬を取りに宿へ戻ったときにね、丁度カーターさんも歩いて街の外へ向かってたんだ。アンデルが先に行った事を説明したら『念のためこれを持っていけ』ってくれたんです」
「あの装置と同じかもしれません」
アンデルは金属板をみながらつぶやく。
「戦争の時、ベルク要塞に到着して最初に、魔法攻撃をしたんですが、トマスさんの目の前で魔法が消えたときと全く同じ様に消えてしまったんです」
「なるほど、であればこの板はその装置と同じものかもしれないね」
「それに、この老人も・・・いや、とにかくカーターさんと合流ですね」
しばらく進むと前方の街道沿いに倉庫が立ち並ぶのが見えてくる。
「あの奥の一番大きい倉庫、あれがカーター工房の倉庫だと思う。しかしカーターさんの工房も想像以上に大きい工房かもしれないね。立派な倉庫だよ」
進んでいくと倉庫の前でカーターさんがこちらを見て立っている姿が見えた。
「おぅ、お前ら。意外と早く戻ってきたなぁ」
カーターが二人に近づき、アンデルの乗る馬に視線を移す。
「まぁ、とりあえず無事に合流できたようだな・・・無事だよな?」
そう言うとカーターは倉庫の入口を開け二人を招き入れる。
「馬に乗ったままで構わん。とりあえず中に入ってくれ」
倉庫は三階建ての建物が入るほどの高さを持ち、その上部につけられた窓から日差しが差し込み、内部を照らしている。その広さにしては不釣り合いなほど荷物は少なく、閑散としている。
「馬はあっちにつなげて、悪いがその人も連れてこっちへ来てくれ」
入り口近くに、簡単な作業室のような部屋が作られている。
「まぁ倉庫の事務所みたいなもんだが、とりあえずここのソファに寝かせてやってほしい。二人はここに掛けてくれ」
「さてと、まぁ素直に話は進まなかっただろうが、お前らは大丈夫だったか」
寝かされた老人をみながらカーターは声をかける。
「おっしゃる通り、聞く耳を持っていただけず戦闘になってしまいました」
申し訳なさそうにアンデルは経緯を説明する。
「急だったから俺の説明も足りんかった。すまなかったな。ただ、説明したからと言って、素直についてきたとも思えんが・・・」
「あのカーターさん、この方は」
トマスが尋ねる。
「あぁ、この人が俺の言っていた協力者だ。まぁ、詳しくは目が覚めてから本人と話してほしい。どこまで言うのかはこの人が決めるだろう」
「あと、私に預けて頂いたこの板ですが」
トマスは黒色の金属板を机に置く。
「あぁ、それも説明が足りなかったな。それは抗魔法装置と同じもんだ。あれを作った時の残りだ。とりあえず渡したが、役に立ったか?」
「はい。おかげさまで、命拾いしました」
「おぉ・・・。まぁなんだ、良かったと言うか・・・」
苦笑いをしながらカーターは金属板を手にし見つめている。
「カーターさん。それはいったい、どういうものなんでしょうか?」
アンデルは我慢できずに尋ねる。
「うん、まぁ、昨日話したが俺にも詳しい事はわからん。それも目が覚めてからだな」
そう言うとカーターは、持ってきていたカバンから水筒とコップを取り出すと机に並べお茶を注いでいく。
「かぁちゃん、あぁエリーナが準備してくれたお茶だ。まぁ少し休んでくれ」
トマスは金属板をじっと見つめながら考え込む。
『魔法を消す板か・・・』
アンデルは先ほどの老人との戦闘を思い出す。
『東部での戦いは思ってた以上に難しかった。思い描くよりも弱くなる魔法か・・・。それにこの老人の戦い方。人に対する攻撃もためらいがなかった。それに魔法師なら、王国の貴族か・・・。分からない事ばかりだ。あのカーターさんの金属板も・・・』
二人が無言で考え込んでいると、ソファに寝かされた老人に反応が見られた。
「うっ・・・うーん」
それを確認するとカーターが立ち上がる。
「お前らは少し下がっていてくれ。まずは俺が説明する。理解しなければ何をしでかすか分からん」
カーターはソファへ近づくと二人を下がらせる。
「いってーな!ちくしょう」
老人は突然叫ぶと、バッと上半身を起こし辺りを見渡す。
「おう、カーター、久しぶりじゃの」




