二章 19話
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[王国暦426年9月中旬]
翌朝、朝食を済ませた二人はカーターの工房へと向かう。
「アンデル、カーターの言った協力者についてはどう思う」
「わかりませんが、おそらく魔法師です」
「だな」
二人は短く言葉を交わしながら進んでいく。
「おぅ、来たか」
工房の作業場でカーターは腰掛けていた。
「おはようございます、カーターさん。よろしくお願いします」
三人が挨拶を交わす。
「早速だが、ついてこい。店は新市街にある」
「新市街ですか?」
「あぁ、ほら、このぐるっと囲む城壁の外側は新市街だ。何百年前か知らんが、帝国のもとになる国がこのベンリルを興した。そこから徐々に外へ向かって広がっていったんだな。帝国となる前、あちこちで戦いがあった頃、城壁が作られた。やがて一帯を帝国が支配すると、城壁の外にもどんどん広がったって訳だ」
帝国の歴史を聞きながら城壁を抜けさらに進む。
「ほらあの店だ」
カーターが指さしたのは、比較的大きな道に面した三階建ての店だった。
「よぉ、元気か」
「親方じゃないですか!お元気でしたか。良かった、久しぶりに会えて安心しましたよ」
店の主人が中から飛び出し、カーターの手を握る。
「あぁ、ようやくやる気も出てきた。もうしばらくしたらまた火を入れるつもりだ。また頼むな」
「いやぁ、それは嬉しい知らせです。カーター工房の煙突から煙が出てないなんて、そんなのベンリルじゃないですからね」
「言い過ぎだ。今日はちょっと紹介したいやつらがいてな、おい来な」
カーターに呼ばれた二人が店主に近寄る。
「いやぁ親方の紹介なんて珍しい。お二人さんもよろしく。店主のジェミルだ」
「アンデルです」
「トマス・バロットです。よろしくお願いします」
二人がそれぞれジェミルと握手を交わす。
「ジェミル、あれをこの若いのに見せてやってくれ」
そう言われるとジェミルはアンデルをじっと見つめる。
「親方がおっしゃるなら、ちょっと待っててくださいね」
ジェミルは店の奥へと入っていく。
「お待たせしました。どうぞ」
ジェミルは三人の前に桶を下ろす。その中には、真っ黒な石だろうか、表面に無数の穴が空いた塊が桶いっぱいに入っていた。
「おう、アンデル、さわってみな」
カーターが桶の中の塊をとると、アンデルに手渡す。
「うわぁ」
側にいたジェミルが慌てた声で叫ぶ。アンデルの手に収まった石が、淡く光っていた。
「これは・・・」
アンデルは自身の魔力が明らかに手の中の塊と反応しているのが分かった。
「流れている、いや違う。なんだ、何か反応しているんですがなんだろう、うまく感覚がつかめない」
アンデルは食い入るように塊を見つめる。
「いやこんなの初めて見ましたね」
ジェミルのつぶやきを聞いたトマスはハッとしてアンデルに囁く。
「アンデル、戻してください。それ以上は目立ちかねません」
そう言われたアンデルもハッとして桶に戻す。
「これ、このまま、購入させていただけますか」
桶に塊を戻したのを確認したトマスはジェミルに購入を伝える。
「いや親方、今日は朝から珍しいことばかりですよ」
「なんかあったのか」
「いや、まずようやく親方に会えたでしょう。その親方がこれまた珍しい方を紹介してくださった。それに何よりつい先ほどですがね、ほら、例の方がうちに来られたんですよ」
ジェミルの言葉を聞くとカーターはジェミルの腕をがっとつかみ問いただす。
「なっ、いつじゃ!いつ来よった!」
「親方落ち着いて、そんなに前ではないですよ。皆さんが来られる少し前、あの方らしい話ですが、帝国が負けた事をご存知ではなくて、お伝えしたら慌てて走って行ってしまわれたんです。ほらこれも持ってくのを忘れてしまって」
ジェミルが店のカウンターに置いてあった袋をカーターに見せた。
「二人とも、よく聞け」
カーターはアンデルとトマスに語りかける。
「言っていた協力者が、いましがたここにおったらしい。ついさっきじゃ。急げば間に合うかもわからん。ただやつは一筋縄ではいかん男じゃ。本気で捕まえようとせんなら逃げられる。やつは街を出てひたすら道を南に行くはずじゃ。知りたければ捕まえてこい。それは任せる。もし捕まえることができたらわしの名前を出せ。おとなしくなるかもしれん。その後じゃが、やつを街に入れんようにしろ。街の南東に大きな倉庫が並んどる所がある。そこの一番大きな倉庫にカーター工房の名がついとるやつがある。そこで待て。わしも後から行く」
アンデルとトマスは驚いてお互い顔を見合わせ、すぐに二人は頷きあい、街の外へ向かい走っていった。
「はぁはぁ、アンデル、私ではあなたについていけません、はぁはぁ」
街の外が近づく頃、トマスは苦しそうに伝える。
「一度戻って、はぁはぁ、馬を連れてきます。アンデルは先に行ってください。ただ決して無理だけは・・・」
トマスは立ち止まり膝に手を置き立ち止まる。
「わかりました。お願いします」
走りながらアンデルがトマスに答える。あっという間にトマスの姿は小さくなっていった。
「ふぅ、エルベールさんに言われたのに、鍛錬をさぼったつけだな。足が鈍い」
悔しそうにつぶやきながらアンデルはひたすら南へと進む。
街を離れ、二十分は走り続けただろうか。
「もう難しいか、さすがにきつくなってきた」
足に疲労がたまり、アンデルがあきらめ始めた時、前方はるか先に人の姿が小さく見えた。
「まさか、あれか?」
再び気持ちを奮い立たせ速度を上げる。
「すみませーん」
アンデルは、少しづつ輪郭がはっきりし始めた人に向かって大きく叫ぶ。
「すみませーん。待ってくだ!」
もう一度声を張り上げていると前方の人影から何かが飛んでくるのに気がつく。アンデルは足を止めるとすぐに地面に転がり飛んできたものを避ける。
「火魔法か」
続けて転がっている地面に向かって連続して火の塊が襲う。すぐさま立ち上がり反対側へと駆け出す。
「止めてください!話をさせてください。僕はカー!」
アンデルの呼びかけは最後まで聞かれることなく、小さな竜巻が襲う。
「くそ、聞いてくれない」
アンデルは地面に向かって両手を突き出す。と同時に土の壁が前方に現れ、やってきた竜巻を打ち消す。土の壁が崩れる前アンデルは横に飛び出し一気に間を詰める。
「お願いです、話を聞いてください。ベンリルのカーターさんに聞いて、あなたを探していました」
伝えることができたとアンデルが安堵したのも束の間、距離を詰めた人物から強烈な水流が襲ってくる。
「くそ、魔法が強い。僕でも威力が落ちているのに」
再び土の壁で防ぐが押されている。壊されまいと土の壁を維持させようとするが、すぐに崩れてしまう。もう一度土の壁を出し、そのまま横へ移動する。
「だめだ、魔法にこだわってたら近づけない。一気に近づいて拘束する」
アンデルは男に向かい大量の火の塊を打ち出す。男は自分の正面に水の壁を出現させ次々に火をのみ込んでいく。
アンデルは男が火の魔法に対応しているうちに素早く間を詰めると男の背後に回ることに成功する。
「話を聞いてください。あなたと争う必要はありません」
そう言いながら、男の腕を取り背中に回し押さえ込む。地面に倒れた男にまたがり再び声をかける。
「カーターさんから聞いています。あなたの話を聞かせてほしい。それだけです」
「くくく」
追い詰められながら男は大きく笑う。すると後ろに回されている手から巨大な火の玉が飛び出す。
「くそ」
アンデルは慌てて手を離しそのまま地面を転がって避ける。
お互い立ち上がり正面で対峙する。
「くくく。お前、魔法師同士でやり合った事ないのか?くくく面白いな」
身体を曲げながら笑っていると男の被っていたフードが外れる。
「・・・っ」
アンデルは男の顔を見つめ驚く。男はボサボサの長い髪を垂らし、あごには長い髭を蓄えていた。アンデルは男が老人であったことに戸惑う。
「10年以上ぶりにやってきた追っ手がこんな若造だとは。わしはいつの間にか甘く見られていたのか?ははは。それは助かるのぅ」
老人が言っている意味が全く理解できずアンデルはさらに戸惑う。
「しかし、帝国が敗れて間もないと言うに、もうカーターを見つけたことは流石と言うしかないな。またわしは、逃げ回る生活をせねばならんか」
言い終わるのと同時に老人は火を撃ち込む。
「あなたのおっしゃっている意味がわかりません。何か思い違いをされています」
水の壁で防ぎながらアンデルは叫ぶ。
「ずいぶん古典的なやり方をするのぅ。そのような言葉にだまされると本気で思うておるのか?昔は有無を言わずに殺しに来とったろうに。審問会の処理人も人手不足か。ははは」
「なっ・・・」
その言葉を聞きアンデルに戦慄が走る。
「アンデルー、大丈夫かー」
離れたところに替え馬を連れて到着したトマスがこちらに叫んでいる。
「くっ、トマスさん近づかないで」
慌ててアンデルが叫ぶが、老人からトマスに向かい一つの火の塊が飛んでいった。




