二章 18話
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[王国暦426年9月上旬]
「何を騒いでるかと思えば、あんた。何お客さんと揉めてんだい。お客さん、すまないねぇ。お茶も出さずに、この人はそういう所がからっきしでねぇ。かけて待ってておくれ。あんたもお茶運ぶの手伝いな!」
カーターは腕を掴まれると、引きずられるように連れて行かれた。
「すごい・・・」
アンデルは嵐が過ぎ去った後の部屋で思わず声を漏らす。
「いやぁ、助かりましたよ。最後はほんとに熱くなってしまいました。外出てどうしようかとちょっと焦っていました。はは」
トマスも息を吐きながらソファに腰掛ける。
「トマスさん、本当にあの人、関わっていたんですね」
アンデルはトマスに事前に伝えられていた話を思い出す。
『アンデル。あの職人は、帝国軍の兵器開発に関わっている可能性が高いです。さらに言うと、以前アンデルが言っていたベルク要塞の新兵器、あれにも関わっている可能性があると考えています。なので、直接話す場面ができたら彼にアンデルの魔法を見せてやって欲しいんです』
工房へ向かう道中、トマスはそうアンデルに依頼していた。
二人が話をしていると、先ほどの女性と、お茶ののったトレーを運ぶカーターが戻ってきた。
「待たせて悪いね。さぁまずはお茶にしましょう」
中央の机にお茶を並び終えると、女性もカーターの隣に座る。
「さぁ、あんた」
女性にきつめに促されたカーターは二人に向かって軽く頭を下げる。
「二人ともすまんかった。あぁ、まぁその、話を聞かせてくれ」
続けざまに女性が続ける。
「悪かったね二人とも。私はこの人の妻でエリーナ。戦争に負けてから、この人もふさぎ込んでばっかりでね。工房の子たちも故郷に帰ったりといろいろで今は誰もいなくなってしまってね。拗ねてたのさ、年甲斐もなく。あたしは、難しい事は分からないから席を外すけど、またこの人が拗ねたら私に言っておくれ。それにゆっくりしていって構わないからね」
一瞬きつくカーターを睨むとすぐに笑顔に戻し、部屋を出ていった。
「カーターさん、こちらも大変失礼な事をいたしました。お詫びします」
トマスはカーターに頭を下げる。
「お互いさまだ。気にすんな、まぁせっかくだ、じっくり話を聞かせてくれ。俺も言えることは言うよ」
カーターは少し照れたように頭をかきお茶を一気に飲む。それを見るとトマスも一口お茶を飲み話始める。
「もう一度私たちの説明をさせていただきます。私はお伝えしたように、南部の商人です。これは嘘でも偽りでもありません」
そう言うとトマスはアンデルを見て頷く。
「カーターさん、ちゃんとお伝えできないままで失礼しました。僕はアンデルといいます。今はドナシオン王国の大学で研究員をしています。研究対象は魔法です」
魔法という言葉にカーターの視線が鋭くなる。
「先ほどお見せした通り、僕は魔法師です。そして、ベルク要塞は、私の目の前から放たれた魔法で消滅しました。あの装置も含めてです。あの時、僕は王国軍の軍人として戦場に立っていました」
アンデルの告白にカーターはそっと目を閉じる。
「アンデルだったな、一つ確認だが、お前はドナシオンの貴族か。まぁ、そうは見えんが」
「僕は貴族ではなく、平民の両親から生まれた生粋の平民です」
「うーん。帝国も長い事ドナシオンと戦ってきた。だからドナシオンの事についていろいろと情報はある。魔法はドナシオンの貴族にしか使えないはずだが」
「王国でも、そのように考えられています。ただ私だけが例外として存在しています」
「よくわからん。が、まぁそれならそれで俺も気が楽だ。で、そもそも俺のところに何しに来た」
「ベルク要塞で発動された魔法は従来の魔法とは異質なものでした。その再現、もしくは解明のため僕は研究を続けてきました。そして、ベンリルを訪れる前にベルク要塞にも立ち寄ってきました」
トマスが話を引き継ぐ。
「ただ、ベンリルに足を伸ばしたのもこの工房を見つけたのもたまたまなんです。けれど、この工房に初めて訪れた日は非常に驚きました。設備、規模、道具の種類、いずれも他の街で見つけるのは無理でしょう。もちろん南部も含めてです。私も商人です、この工房でどのような物が作られそれらがどのように人々に親しまれているのか、興味が湧きました」
軽く頷きながら、カーターは耳を傾けている。
「一階のあの部屋、あそこは製図の場、設計室でしょうか。そこにカーターさんがいらっしゃったので、興味のままに声をかけさせて頂いたのです」
トマスが話を続けようとすると部屋の扉が開けられる。三人がそちらに目をやるとエリーナが食事を持ってきていることが分かった。
「さぁさぁ、もう昼時は少し過ぎてるけど、食事にしましょう。お客さんもせっかく来てくれたんだ、粗末なもので悪いけど食べておくれ」
エリーナはこちらの意見を聞くまもなく料理を並べていく。
「よいしょっと。さぁ、召し上がっておくれ」
机の上には、肉と野菜を煮込んだスープにチーズとパンが置かれた。
「奥様、お気遣い申し訳ありません。ありがたくちょうだいいたします」
トマスが礼儀正しく感謝を述べる。
「エリーナさん、ありがとうございます。いただきます」
アンデルも続いて感謝を告げる。
「まぁまぁ、ご丁寧に。職人達は荒っぽいのばっかりだから、そんな丁寧にされたら照れちまうね。遠慮しないで食べておくれ。この人の嬉しそうな顔をみるのも久しぶりだから、そのお礼だよ」
「かぁちゃん、俺は嬉しそうになんかしとらん」
「ふん、何年あなたと一緒にいると思ってんだい。全く、いつまでたっても素直じゃない人だよ」
そうして四人で食事を囲み、温かい料理を堪能する。
食事を終えると、皿を片付けたエリーナがごゆっくりと部屋から出ていった。
「で、トマス、どんな話だった」
カーターが話の続きを促すと、トマスはにやっとしながら話を再開する。
「えぇ、あの設計室ですが初日から気になっていました。まず設計室の奥に飾られた、いくつかの勲章が目につきました。帝国では、何かしら功績のあった技術者に勲章が授与される、という話は南部でも伺っていました。それらの勲章が複数ありさらに一回り大きな金の勲章が目を引きました。あれが金工勲章なんですね。名称はほんとに知らなかったのですが、明らかに他とは違う勲章です。何か特別な開発、技術、発見への授与だと感じました。さらに、他の勲章よりも明らかに新しかった。それらを考えたときに、現状最も評価されるなら軍事に係る事だと推測しました。なので工房の主は、何度も勲章を授与されるほど優秀な職人で、さらに特別偉大な開発を成し遂げた人物であると勝手に思ったわけです。抗魔法装置については賭けでした。私はそれ以外に、帝国軍の装備などについて知っているわけではありませんので」
トマスは自分が推測した流れを一気に説明し、一口お茶を飲んだ。
「大したもんだ。それだけでよくもまぁ想像を膨らませられるな。お前も新しい発明ができるかもしれんなぁ。ははは。で、だいたい正解だ、お前の想像した通り、俺はあの抗魔法装置で金工勲章を頂いた」
アンデルとトマスは軽く緊張しながらカーターの続きを待つ。
「ただ、あの装置は俺だけで発明したわけじゃねぇんだ。・・・協力者がいる。ただ、そいつの事は口外できない。当時の帝国にも報告してない。そもそも、俺は魔法のことなんてさっぱりなんだ。そんな奴が作れるわけないだろ。その協力者の考えに沿って、試行する中でたまたま出来たものだ。しかも、あれが確かに役立つかなんて確かめられなかった。帝国に魔法師はいなかったからな。確かめようがなかったんだが、俺は間違いなく魔法が消える事を知っていた。そして国は俺を信用した。ベルク要塞で戦いが始まった知らせが入り、ドナシオンの魔法攻撃を防いだと一報が入ってすぐに勲章が授与された。異例の早さだったかもしれんな。ただそれ以上にベルク要塞陥落の報せもあっという間に届いたんだ」
その言葉でアンデルはそっと目を閉じる。
「俺は、戦争中の出来事をごちゃごちゃと考えるつもりはないぜ。それが戦争だ。まさに究極のお互いさまだ。許すも許されるもねぇ、異常な世界さ。まぁ戦争のことはいい。そんなわけでなあの装置についてはいまいち俺もわかってないんだ。仕組みも、理屈もな。わかることといえば、あれはでっかい特殊な金属の塊だ。それを運びやすくだったり、見栄えをよくするために整えた、それだけの塊なんだ」
三人はしばらく次の言葉を選ぶことができなかった。その先それぞれが何を言えばよいのか分からなくなっていた。
「そうだな・・・」
カーターが沈黙を破る。
「その金属のもとみたいなやつを売ってる店がある。そこを紹介してやるよ。この国は、あぁ元帝国はな、母なるアラニアのおかげで、鉱石が豊富なんだ色んな鉱石が採れるからまぁうちみたいな鍛冶が発達したんだろな。とりあえず、明日の朝またここに来い。その店まで案内してやる」
アンデルとトマスはエリーナにも挨拶を済ませ宿へと帰っていった。




