幕間3
17
[王国暦426年9月上旬ーー王都某所]
「予備調査対象二十三号、王都から離れた事が確認されました。騎乗にて移動、同行者一名。東に向かいました。以上です」
王都の一角に、とある建物の一室で一人の男が報告する。窓のない部屋は、四隅に置かれた小さな燭台から広がる明かりで薄暗く照らされている。
「ふむ結構。他にあるか」
「予備調査の原因となりました、市井における吸血鬼の噂については現在のところ下火に向かっております。また内容についても『医学部の新規研究』に変わりつつあります」
「それについてはおそらく近いものが動いたのであろう」
「近きもの・・・。いかがいたしますか」
「かまわぬよ。放っておきなさい。噂が噂として消えてゆくなら、我々が動く理由は無い。我々の役割は、あくまで事実の確認と認定。そして処理。その三点のみ」
「かしこまりました」
部屋の中央に置かれた円卓。そこに七人の人物が椅子に座り囲む。
「予備調査も実に久々ですな」
「戦争が続く中では我々もあまり動けませんからな。国が一丸となって進まなければなりませんから。ククク」
「そう楽しんでもらっても困るがね。調査対象が処理対象者になってもらっては迷惑この上ない。この国に神の敵などあっては困るからね」
「さて他になければ本日はこれまでとしようかね」
一人の男がそう言うと、机の中央に各自に配られていた資料の紙が戻される。
「では」
『神の御業は国の栄えたらんや』
集まった全員が同じ言葉を唱え机の中央に向かい右手を伸ばす。すると置かれた資料に火がつき火の粉が舞い上がる。その光に参加者の顔が照らされる。全員が同じ仮面をつけていることが分かる。顔全体が革でできた仮面に覆われ、目の部分にはガラス様のレンズが付き、鼻と口の部分から下向きに湾曲し徐々に細くなる筒、まるで鳥のくちばしの様なものがついていた。
「以上で異端審問会を終える」
一人の男の声が響くと、四隅の蝋燭が消え部屋は暗闇に包まれていった。
[王国暦426年9月上旬ーー王国北部某所]
とある森の近くに建てられた大きな邸宅。柵に囲われた敷地には、美しい庭を擁している。その屋敷の広間に何人かの男が集まっている。
「しかし納得できませんわ。ローエン侯爵もそうは思われませんか」
男が問いかけた先にはギュスターヴ・ド・ローエン侯爵が座る。
「当然、腹立たしい。もちろんだ。旧帝国領の大部分を国の直領に置くなど、正気とは思えん判断だ」
「まぁ、国の言い分も分からんでもないところではありますがね」
また別の男が答えた。
「ほう、そなたはどう捉えておる。マルブッセン伯よ」
ローエン侯爵が向かいに座っている、マルブッセン伯爵に問いかけた。
「ここ数十年にわたり、国は戦争という環境を利用し、力と金を王の下へと集中させてきました。今回の旧帝国領編入についての差配も、『長く続いた戦争による国の疲弊をいち早く回復する為』という理由で行われました。一見その通りと思わせる説得力はありますが、結局はこれまで同様中央集権化の流れにすぎないことは明白です。王と国は、今後ますます我々貴族を蔑ろにし自分たちの力を強めようとするでしょう
「であればどのように対処する」
「今しばらくは、待つときかと。国も民も疲弊していることに間違いはございませんからな」
「ただ待つわけではなかろう」
「もちろんでございます。我々から力を奪うのならば、我々また力を奪ってやればよい。そう考えております」
「どのように」
「最初の一手はすでに。軍の再編を提案し、一部先行して始まっております。敵が消え、しばらく続くであろう平和な国に大規模の軍は不必要でありましょう。負担を減らしたい国も飛びついて参りました」
「つまりは何じゃ」
「王国軍の縮小を進めていきます。できるぎりぎりまで。ここにお集まりの皆様にはぜひとも、これからあふれ始める失業者どもをお雇いになられる事をお勧めいたします。いずれ必要になることもございましょう。ローエン侯爵閣下もぜひ」
「なるほどのう。無傷の魔法旅団に、大量の失業者か。はははっ。いずれ必要なるかもしれんなぁ、いずれ」
ローエン侯爵の笑いが、いつまでも響いていた。




