幕間2
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[王国暦426年9月某日ーー王都ドナティア]
「おい聞いたか、吸血鬼の噂」
「あぁ聞いたぜ。中央大学が吸血鬼を捕まえたって奴だろ」「え、俺は吸血鬼を作ったみたいな感じだったけどなぁ」
夜の王都ドナティア。商業地区の一角にある食堂は、この時間、酒を飲みに来た客で賑わっていた。男たちがくだらない噂話で盛り上がるのを横目に、男が一人難しい顔で酒を口に運ぶ。
「なかなか上手くいかないね」
男はつまみに頼んだマメ料理を口にする。
「南モルド会社の奴らの動きが早すぎる。オレらの規模では一番早く来たつもりだったんだが。まぁ流石大商会様か・・・。しかしこの国、戦争に勝った割にはいまいち景気が良くないねぇ。お祭り騒ぎを期待してたんだが、どうも辛気臭い。戦争の利益は全部お貴族様に回ってんのかねぇ。市民、この国では平民か、そこに金がまわらなきゃ、結局停滞するだけなんだがなぁ」
深いため息を吐きながら、残っていた酒を一気に飲み干す。
「まぁまた明日だ」
そうひとりごち店を後にした。
翌朝、男は屋台の主人や露天商達が忙しなく準備をしている街の一角を眺めている。
「また来てるねぇ」
男は、屋台のある方を食い入るように見つめる。そこにはそれなりに小綺麗な格好をした、まだ幼さの残る若い男がいた。その若い男は鶏肉料理を出す屋台の主人に、自分で持ってきた大きめの桶を渡し、そこに鶏の血をなみなみと注がれ受け取っている。
「何日か前、初めて見かけた時から気になって見に来てるけど、毎日鶏の血をもらう男か・・・。鶏の血を何に使う?料理で鶏の血を使うなんてのは聞いたことがないし、まじないや占いの類にしては若すぎる気がするんだが。よし」
ここ数日毎日の様に鶏の血を持って帰る男が妙に気になっていた男は、この日後をつけてみることにした。
「南の住宅街や工房のほうへ行くわけではないのか。北は、貴族街や役所だったか・・・。うん?そこか」
距離を保ちながら後をつけていくと若者は大きな施設の衛士に挨拶をして門を抜け入っていった。
「ここは大学か。王立中央大学」
門柱に彫られた名前を見て頷く。
「ほう、この大学の学生か」
男は衛士に声をかける。
「おはようございます。すみません、いや、実は私、南部からこの国に来たばかりでして。大学のようですが実に立派ですね。これだけの大学はなかなか、南部でも見たことありませんよ。ここはどんな事を教えておられるんです?」
「おはようさん。そうだろうよ、この国の中央大学だからね。なんせ王立だ。ここは、えーっと、神学、法学、医学、人文学を教えてるところだな」
「そうですか、ご親切に教えていただきありがとうございました。お仕事、お邪魔してすみません。私はこれで失礼させていただきます」
衛士から簡単な事を教えてもらい男はその場を後にする。
「血なら医学の学生さんか・・・」
男はつぶやきながらすっかり人通りが増えた街に溶けていく。
「医学の事は知らんが、街で噂になる程、血を買い求める青年か。そこらの市民よりいい服着て、血の桶を運ぶ。気になるな・・・。やばそうな気もするが、妙に気になっちまう。あれか、これが親父の言ってた『商人の感』ってやつかねぇ。この国に来てから上手くいかないことばかりだし、少し気分転換に『感』を試してみるか」
正門近く、大通りから少し東に入った所にある安宿の一室。男は昼間見た若者の姿を思い出しながら考え込む。どうすれば若者に近づき、あわよくば知己を得ることができるだろうか。
「まずは、周囲からか」
「おう、主人おすすめの一品、一つ頼むよ」
男は翌日、昼食のため、鶏肉料理を出す屋台に出向く。
「ありがとよ、そんな凝ったもんはねぇけどな、締めたての鶏の串焼きだ。はいよ」
「いいね、ありがと。うまいよ、主人。肉が柔らかい、新鮮な肉の証拠だね。南部から来たが、鶏はこっちのほうがうまいかもしれんなぁ」
「そうかい、お客さん、南部からかい。戦争終わって、南部から来る人も増えてるみたいだねぇ。まぁ、この国はずっと戦争してきたからね。まぁ、今まで下々も我慢してきたから、こうやってお客さん増えて喜んでるですわ」
「私ら商売人も安心して来られるようになるからね。何よりですよ。所でご主人、新鮮な鶏っていやぁこないだ朝早くご主人から締めた鶏の血をもらってる若者を見かけたけど、ありゃなんかの商売かい」
「あぁ、あのあんちゃんか。いや自分もよく知らんのですよ。大学の研究に使ってるらしんですがね、あんまり細かいことは聞いてないんです。それに商売というか、捨てるもんなんで譲ってやってるって感じですな」
「へぇ、研究か、縁のない私なんかにはわからん世界ですな。じゃぁ、ごちそうさん。また来るよ」
食べ終えた男は屋台から離れると大通りに向かって歩いていく。
「はーい、いらっしゃいませ。何かご入用でしょうか」
男が次にやってきたのは大通り沿いにある仕立て屋であった。
「えー、これくらいの大きな布地を探してまして」
腕を広げ仕立て屋の主人に大きさを示す。
「お客様、申し訳ありません。当店は仕立てを行なっておりますが、生地の販売はさせていただいてないんです」
「あれ、そうでしたか。いや失礼しました。先日こちらの店から大きな生地を抱えた青年を見かけたので、勘違いしてしまいました」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ありません。ちょっと彼だけ別でしてね。いやまぁ、若いのに研究所の所長さんなんですがね、見ててちょっと心配な所があるんで親心といいますかつい手を貸してあげたくなりましてね。申し訳ありません、なのでほかの方々にはお断りさせていただいているんです」
「そうでしたか。私は大丈夫ですよまた仕立てをお願いする時には寄らせてもらいますね」
男は店を出ると腕を組み歩きながら考え込む。
「ふむ、『研究所の所長』さんねぇ。研究所か・・・。これはいよいよ吸血鬼でも出てくるじゃないだろうな」
男は笑いながら、宿に向かって歩いて行く。




