朝早くからSAN値直葬
白南風京子は、人よりも寝覚めのいい方であった。
「んーーー」
伸びをしながら目覚める。窓からのそよ風が心地いい。ベッドから起き上がり、シャワー、はないので水で濡らしたタオルで身体を軽く拭いて着替える。シャワーはないが、水庫という魔道具のおかげで、この城の中では水道のように水を使うことができる。管理者が登録した【才能の名刺】をもつ者しか利用できないというセキュリティ付き。しかも飲める。
城、というよりはホテルのような内装である。朝から使えるかは分からないが、大浴場にでも行ってみるかと思い、同室の陽昇を起こす。
「おーい、陽昇、起きろー」
「………」
声をかけても身体を揺さぶっても、まっっったく起きる気配がない。鳥塚くんから聞いてはいたが、それでも病気ではないかと疑ってしまう。いや、この世界には魔法があるのだ。魔法で眠らされている可能性も……いや、ないか。
いたずらしてやろうか、という悪い考えが頭をよぎったところで部屋がノックされる。時計がないので今何時なのか分からないが、まだ朝早いはず。誰だろうと思い扉を開ける。
「あー、ゆらちゃん!いらっしゃい」
「…ありがと。」
扉を開けるとそこにいたのはゆらちゃんだった。
赤井ゆら。おじいちゃんの剣道教室に小学生の頃から来ていた幼馴染み。ゆらちゃんは中学にあがる頃に剣道を辞めちゃったが、高校で再会して仲良くなった。そしてこのクラス唯一の回復魔法持ちでもある。
「そうだゆらちゃん、陽昇を起こしてくれない?」
「…なんで?」
「いや、どんだけ起こそうとしても起きないからさ。魔法でなんとかならないかなって。」
「…時間かかるから無理。」
時間がかかる、とは魔法を発動させるために必要な時間のことだろう。私たちがもらったスキルや魔法は強力だが、発動までに時間がかかりすぎて使い物にならないことが多い。ただ、スキル説明文の最後に書いてある“即時発動”についてよく分かってないので、もしかしたらスキルを発動させるための時間を短くする方法があるのかもしれない。
まあ、魔法の準備が整うほうが、陽昇が起きるより早いだろうが。
と、水を飲み一息ついたゆらちゃんが、そんなことよりと口を開く。
「…臭い、気づいた?」
「臭い?なんの?」
「…廊下の。」
私は首を傾げる。廊下の臭い?廊下の臭いと言われても、新品のカーペットのような臭いとどこかから漂うアロマの香りしかしないと思うのだが。
ちらっと玄関の方を見ると、ゆらちゃんはこくんと頷いた。玄関の外を確認しにいって良いらしい。扉を開け廊下へ出ると、いわれてみれば微かではあるが異臭のようなものがすると分かる。私はこの臭いを嗅いだことがない。それでも、本能でそれが良くないものであることを理解する。
「こ、これって、なんの臭い?」
「…分からない、けどたぶん血とか、だと思う。…階下で誰か死んだかもしれない。」
あまりに突拍子もない話に驚愕するが、ここは異世界であって、日本ではない。しかも魔物がいるのだ。ありえない話ではない。
「…もし魔物がいるなら、隠れていたほうがいい。盗賊や殺人犯でも。…だけど」
だけど、の続きは分かる。もし、怪我した人がいるなら、まだ生きているなら私はそこへ行くべきだ、と言いたいのだろう。
「いやいや、1人で行ったら危ないから。私も一緒に行くから。」
ゆらちゃんは、こくんと頷いた。
血が壁や天井を赤く染め、床には血で水溜まりができている。隅には腕やら脚やら、人間の身体のパーツが積み上げられており、一部腐り始めている。カーペットはところどころズタズタに引き裂かれている。そこに2人の見知った人影が倒れている。20分後、そんな地獄のような光景を目の当たりにした2人の悲鳴は、そこで倒れている2人と1人の廃ゲーマーを除く城にいる全ての人を目覚めさせた。




