↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃ゲーマー、鍛治師になる。  作者: タコマル水産
【第一章】積み上げた石の数を数えて
7/16

積み上げた肉塊の数を数えて

一応、微グロ注意

たぶん、いうほどではないと思うけど一応

 一体なにが起こっているんだ


 アリスの母へと変身したあのウサギは、本人が一度もしたことがないであろうほどの邪悪な笑みを浮かべている。振り返ると、先ほどまで動揺していたはずのアリスが、これまた一度も見たことがないほどに冷たい瞳で母の姿へ変身したそれを睨みつけていた。


「鳥塚くん、朝まで待てない。今、こいつを殺す。」


 前からは悪意、後ろからは殺意で挟まれ、冷や汗が頬をつたう。深く深呼吸して気持ちを落ち着けるが、この重苦しい場の空気はいかんともしがたい。

 しかも辺りは血生臭い。傷は光球が治してくれるが、壁やカーペットについた血痕が消えるわけではない。このあたりに充満した死の臭いに気分がげんなりさせられる。


「殺す、つったってどうやって殺すんだよ?俺たち武器も持ってないのに、なんかいいスキルでも持ってんの?」

「いや、まったく。でもね、できない理由を探すのは簡単。だからどうやったらできるようになるかを考えて。」

「丸投げじゃねぇか!んなもん自分で考えろ。」

「自分で考えた結果、いい案が思いつかなかったから助言を頼んだんだよ。」

「うーん(棒)、… 自分で考えた結果、いい案が思いつかなかった。」

「絶対何も考えてないでしょっ!」


 そんなこと言われてもなぁ、と思いながら一応考える。というか、圧倒的に格上の相手にどうやって勝つか、というのはゲームでは既に4択で答えが出ている。


 1つ目は特殊勝利。例えばなんらかのオブジェクトを壊す。例えば一定時間が経過する。例えば特定のアクションを一定数行うなどの特殊な条件を満たすことで、勝利する、そうでなくても形態や行動パターンが変化し倒せるようにすること。ただしこの手法がとれるのは、そうデザインされたモンスターに限る。だから格上に勝つ手法というよりは、相手が強すぎるときに特殊勝利でしか勝てない可能性を考慮する、といった方が正しい。

 2つ目は罠への誘導。爆弾に、崖に、閉所に誘導して、相手を倒したり相手の動きを制限したりして戦う。簡単で効果も高い。ゲームをやったことがあるなら、少なくとも自分の戦いやすいところへ敵を誘い込むくらいはやったことがある人の方が多いのではないだろうか。

 3つ目はモンスタートレイン。モンスターをぞろぞろと引き連れてプレイヤーやボスなどにぶつけるという、古典的な技法である。地味に難しい。


 1つ目には期待できないし、そもそもアリスはこいつを殺そうとしてるのだ。仮に撃退し追い払えたとしてアリスは満足しないだろう。2つ目と3つ目はここが王城の廊下であるため現実的ではない。むしろ魔物のいない廊下というのは俺たちにとってそこそこいい場所である。

 で、最後の4つ目は何かというと、


「俺たちはダメージを食らっても回復する。ひたすら突撃して回復したらまた突撃、って作戦は?」

「それは作戦って呼べるの?」


 4つ目はゾンビ戦法。回復・蘇生アイテムが尽きない限り永遠と戦い続けられるこの戦法は、とんでもないリソースを必要とはするものの、どんな強敵相手でもある程度有効な戦術であり、光球によって回復できる今この場において最も適切な作戦だといえる。


 アリスは文句を言いながらも、突撃していく。無策で敵に突っ込むことに怖いとか思わないんだろうか。


 一方的な暴虐は、3時間にも及んだ。切られた。叩きつけられた。潰された。刺された。絞められた。引きちぎられた。しかしその攻撃は急所を狙っておらず、死ぬようなことはなかった。

 あいつが拳を振るえば身体が粉砕した。あいつが腕を振れば腕が切り落とされた。あいつが平手で打てば身体が曲がってはいけない方向に曲がった。傷は治っても痛いものは痛い。俺はちょいちょい相手の動きを観察するという名目でサボっていたりしたのだが、アリスはむしろまだ傷が塞がりきってない状態からでも特攻しており、正直メンタル面のダメージが心配になる。


 俺は闘い始めて30分ほど経過したあたりで、既にあいつを倒すことを諦めていた。30分で一度も有効打を与えられていないというのも理由の一つではあるのだが、それ以前にもし有効打を与えられたとして、「そのあとどうするのか」という問題が頭をよぎったのである。

 あいつは回復魔法を持っているのだ。しかも回復しながら闘うこともできる。何か武器を持っているのならともかく、素手でこいつを殺せるのか?

 では俺は今なんのために突撃しているかというと、あいつの顔に一発グーパンをいれてやろう、という目的のために闘っている。理不尽が形を変えながら歩いているとしか思えないこいつに、いままでされてきたことに対する怒りをぶつけ、すっきりしようと。


 そして今、待ち望んだチャンスがやってきた。


 あいつの姿は非常に自由に変えることができて、おそらくその種類は有限ではないのだろう。ただ、それでもあいつのお気に入りなのか、よく使う姿というものが何種類かある、ということが3時間の突撃を通して分かった。

 そのなかでも、最も隙の大きい姿が今の姿、最初に俺を回復させたときの仮面の姿である。左手に持った仮面で顔を隠すという、舐めプとしか思えないその形態こそが、こいつに一発入れる絶好のチャンスなのだ。


 ちなみに1番厄介なのはウサギの姿である。理由は簡単、めっちゃ速い。距離をとっていたはずなのに気づいたらガチ恋距離に迫られてるし、気づいたら背後をとられてるしで散々だった。


 しかし、いくら隙が大きいとはいえやつは体を変形させることができる。背中から腕を生やすことだって可能だ。楽な闘いではない。


「夜明けも近い、これがラストチャンスだ!」


 誰に告げるでもなく、俺はそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。