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廃ゲーマー、鍛治師になる。  作者: タコマル水産
【第一章】積み上げた石の数を数えて
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月と少女

 私(アリス)のアビリティは[交渉上手]だ。


 まだちゃんと実験できていないが、おそらく交渉の成功率を極度に上げるもの。あまりに無茶な交渉は無理だけど、交渉の天秤がぴくりとでも傾けば「交渉成功」にしてしまう洗(・)脳(・)のような能力だ。多分だが。


「はぁ、」


 その能力をもってして、鳥塚くんへの交渉が失敗したことにがっくりと肩を落とす。鳥塚くんが何を隠してるのかは知らないけど、裏切りではないだろうし、だからこそ教えて欲しかった。

 食堂の壁に背を預ける。膝を抱えてこれからどうするか考え、ようとしたそのとき背後の壁がわずかに震えた。勘違いかと思ったけど、


「なにか、いる?」


 直感が告げる。魔物のもの、かは分からないけど強い気配を廊下から感じる。

 どうしようか。もし本当に強い魔物がいるならでやり過ごした方がいい?と思ったけど、もし廊下に魔物がいるなら鳥塚くんが遭遇している可能性がある。私が行ってもできることはあんまりないが、クラスメイトたちに協力を求めるにしても状況は把握しておく必要がある。


 食堂を出て右手へ進んだ先にある三叉路、北南東に分かれる三叉路に南から向かうと東、三叉路の右曲がり角から銀の光が放たれる。

 角から様子を伺うと、そこには1人の少女?と満身創痍の鳥塚くんが見えた。廊下自体には大きな損傷はなく、近くに魔物が潜んでいないことを確認して2人に話しかけにいく。


「何があったの?あなたはだぁれ?」


 少しおちょくるように言ってみせる。鳥塚くんは私に気づいてとても驚いたような表情をしている。……いや、私が来たことだけじゃない?

 鳥塚くんは言葉を詰まらせながら何かを伝えようとしている。きっとまだ回(・)復(・)しきっていないのだろう。やれやれ、だけど悠長にしていられる状況でもないので、隣の少女に話をしてもらうよう、視線で促す。


 そのとき、私は突き飛ばされた。



   ——————————————————————————————



 刹那、俺はアリスを突き飛ばす。


 本当にギリギリだった。というか、俺の右足首から先はそ(・)れ(・)に飲み込まれたので全く無事ではないのだが、それでも直前に気づけたおかげで最悪は防げた。

 俺が直前に気づいたのは、あいつの足からほっそい糸のようなもので繋がった、これまた糸のようなものでできた円のようなものがアリスの足元を囲んでいることだった。あいつは自身の体を変形して攻撃してくる。なのであいつの体から伸びているあの糸もそうだろうと判断したのだ。

 飲み込まれて失った右足首は、しかし外見状だけなら既に元通りになっていた。大変憎たらしいが、あいつは手加減するだけでなくわざわざ治療までするようだ。おそらく、俺に付き纏って浮かんでいるこの銀色の球がリジェネみたいなもんなんだろう。


「ただ闘いたいだけ、って感じか」


 だとして、なんで俺たちなんだ?うちのクラスメイトたちとか、もっと闘いがいのあるやつはいっぱいいるだろう。弱いものいじめが好きとか?…いや、クラスメイトたち相手ですらこいつにとっては弱いものいじめだな。


「アリス!こいつは敵だ。そして、少なくとも今は誰か呼んだ程度でこいつに勝てるとは思えん。ただ、少なくとも現状は殺されるような感じではないから、警戒しながら情報を集めて、2人でなんとかするぞ!」

「なんとかって、具体的に何?」

 珍しく声を震わせながら、アリスが聞き返す。

「別に倒す必要なんてない。追い返せればそれでいい。あとは、相手の攻撃をひたすら躱して朝まで生き残るとか」


 いいながら、とんでもない無茶を言ってることに気づく。が、覚悟を決めたようなアリスの眼に俺も覚悟を決める。あいつは変形して再びウサギの姿に戻る。次の瞬間、腹から血が流れるが、その傷はみるみるうちに塞がっていく。ちらとアリスを見ると、アリスはなにもされなかったらしい。だが、アリスの頭上には俺と同じ銀の光球が浮かんでいた。


 完璧に目で追えていたわけではないが、断片的な視認から考察すると、まず身体が変形するほどの、あるいは変形することによって得た驚異的な加速によって俺たちの元へ接近したクソウサギは、体を捻り1回転しながら俺の腹を切りつけたあと、慣性によって背後の三叉路の壁に回転しながら激突した。


 何かの間違いで、と思ったがそんな間違い起こり得るはずもなく、あたりを舞う土煙の中で、それは立っていた。


「え、嘘!?」


 声をあげ、アリスが動揺する。無理もない、煙の中から現れたのは



「お母、さん?」


 有砂由紀(ありすなゆき)、の姿をしたなにかが、そこに立っていた。

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