「伝説」との邂逅
刹那、背筋に強烈な悪寒が走る。
その攻撃を、俺は認識することはできなかった。だが、廃ゲーマーの勘が俺の身体を操り、その結果、振り返りながらも、左腕でそれを弾く。
だが、それでもそいつは俺のさらに上をいった。
俺の首を刺さんと音を置き去りにしながら伸びてくるレイピアのような鋭い金属は、しかし廃ゲーマーの第六感によって振られた左腕にその剣先を捉えられた、はずだった。
そのレイピアのようなものは、今までの金属の質感が嘘であったかのようにその形をぐにゃりと形を変えて、俺の左腕に巻きつく。
「っか———!」
身体中に衝撃が走る。掴まれた、と感じた時には既に壁に叩きつけられていた。背中が痛む。声が出ない。あばら骨が決して少なくない数折れている。おそらく肺や臓器にもダメージをもらった。
恐怖と怒りと悔しさで思考がぐちゃぐちゃになる。それは変形しながら形を縮め、1匹のうさぎへと取り込まれていく。そして、今度はうさぎ自体がまるで粘土のように形を崩し始め、人型へと変形する。裸足に黒のワンピース、それを引きたてる白のロングストレートをもつ目の前の少女は、ともすれば神秘的なはずなのに、左手に持っている仮面、白に黒い丸が3つ、目と口の位置に描かれただけの不恰好な仮面で顔を隠している彼女は、極めて不気味な雰囲気を纏っている。
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普通であれば、この襲撃者は魔物ではなく人間である、という可能性がよぎるだろう。変身もなんらかの魔法やスキルによるものだと思うだろう。だが、鳥塚はこいつが魔物だと確信していた。
[錬金術師]は、たとえば石ころを見つけ触ったなら、その石ころに含まれる成分をなんとなく把握することができる。それは、ある程度本人の才能や技量などによって、見ただけで分かったり分からなかったり得意だ苦手だなどが存在するし、組成もあくまでなんとなくでしか分からない、もっとも、ほぼあってるレベルで把握できるすごい錬金術師もいるにはいるが、それはアビリティの強さや適性というよりは当人のセンスの高さゆえである。
鳥塚は、この能力をまだ知らない。ゆえに、目の前の少女が人間とは違うという直感が、[錬金術師]の能力によるものだとは気づかない。それでも溢れ出てくる、あれは人間とは違う化け物だ、という直感が、この時鳥塚にあれが魔物だと確信させていた。
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俺は、一本道の廊下で、左手側から迫る死への恐怖を睨みかえしながら、どうするべきか考える。真っ先に頭をよぎったのはアリスのことだ。俺は右手で背後にある壁を触り、壁には傷が付いてないことを確認する。相当な速度で叩きつけられたのに傷が付いてないことと、VITが貧弱な俺がまだ死んでいないことから、なんでかは分からんが手加減されたことは理解する。
この壁を挟んだ向こう側は食堂であり、つまりアリスがいる。もし、こいつが本気で俺を叩きつけていたら、あっさり壁は壊れ、その先にいるアリスも巻き込まれていたのかもしれない。とりあえず、壁が壊れなくてよかった。
ただ、そうはいっても物陰に潜む木下に気づいたアリスのことだ、すぐ気づくだろう。襲われている俺を見て、あいつはどうするだろうか?もしかしたら、クラスメイトたちを起こしてみんなで助けに来てくれるかもしれない。だが、それはやめてほしい、と思う。
廃ゲーマーとして、一瞬とはいえ闘ったらこそ分かる。分かってしまった。悔しいが、こいつはチート能力持ち30人程度で倒せるような相手じゃない。少なくとも、正面突破は無理だ。情報を集めどうにか弱体化する方法を探すなどの準備が要る。
だんだん薄れていく意識の中で、クラスメイトたちの無事を祈る。あいつがゆっくりこちらに歩いてくる。何が面白いのか仮面の下から薄ら笑いを浮かべる口元が見える。やがて、俺の目の前にやってくるとその右手をこちらへと伸ばす。すると、その手もとに銀色の光の球が浮かぶ。その球はだんだんと大きくなり、放つ光を強めていく。
もうだめだ。そう思った。あわよくば———、なんて思いながら、ふとあいつの顔を見ると、生きることを諦め呆けている自分に対し、ますます口角を吊り上げていた。やがて、それは発動される。
静かに、けれど圧倒的な物量で、と表現できるほどの銀の光の塊が放たれる。
光は、俺の全身を包み、廊下を満たしていった。
タイトルが鍛治師なのに、一向に鍛治が始まりませんね……
主人公まだ鍛冶場や金床すら持ってないのでね、気長に待っていてもらえると。




