月は昇り、星は陰る
「鍛治師って、なんだかんだ凄く大事ですよ!パーティーにいるだけで武器の耐久値を気にしなくてよくなるし、それにほら、たまにはまったり鉄打ちスローライフも悪くないもんですよ。いい武器ができたときは、それはもう達成感極まれり、って感じですし。だから鳥塚くん、前線の攻略は私たちに任せて、お留守番よろしくねー!」
王城の食堂に夜ごはんのために集まったクラスメイト達。ビュッフェ方式であり、我先にと駆けだしていくクラスメイト達の中で、約4名は長机の端から4席に座ったまま、料理を取りに行く素振りがない。俺に哀れみの目を、おそらく本心から心配してくれているんだろう白南風。その隣、俺の対面の席から呆れたようにこちらを見てくるアリス。そして物凄い満面の笑みで俺の肩をポンポン叩きながら、なぜだろう、字面だけなら俺を励ますための言葉であるのに、励ます気が微塵も感じられない陽昇。しれっと師匠呼びでなくなっている。呼ばせている訳ではないし、むしろやめてほしいとさえ思ってはいたが、なんか気に食わない。
少々イライラしていた俺は、馬車の出発直前に自分のカードを陽昇に投げつけてやった。スキルを貰えすらしなかった奴に対して強力なスキルを自慢しやがって。だが、そこからすぐに自分の馬車に戻り、すこしやり過ぎたと反省した。自分がいいスキルを貰えなかったのは神様のせいであって陽昇のせいではない。八つ当たりしてしまったと、罪悪感に浸ってどう謝るか、あるいはどう誤魔化してよりを戻すか考えていたのに、当の陽昇は馬車から降りたときから今までずっとこの調子なのである。
「ただ、」
ふと、今までずっと満面の笑みを崩さなかった陽昇が当然真面目な顔になる。
「実際、これ以上アタッカーが増えるよりは生産職であってくれた方が助かるのがなんとも絶妙なんですよね。」
「確かにアタッカーは多そうだったが、そんななのか?アタッカーなら多くてもそう困らなさそうだが、」
っていうか、どうやって調べたんだ?一人一人に聞いてまわったのか?
「師匠が名簿が欲しいっていうから、折角ならそこにロールもつけ加えようと思って皆んなに教えてもらったんですよ!……約1名教えてくれなかったけど。」
ぷいっ、とそっぽをむくアリス。アリスのことだ、なにか考えがあるのだろう。アリスが教えない方がいいと思ったことなら、俺たちはきっと知らない方がいい。
「で、わかったこのクラスのロール構成が、アタッカー26名、デバッファー3名、回復役1名、生産職1名、これにアリスちゃんを足して32名。」
「………なかなかにクソ構成だな。」
なるほど、たしかにこれならアタッカーよりも生産職の方が当たりといえなくもないか。
「もっとも、アタッカーが減らない前提なら、だがな。」
「なるほど、確かにアタッカーがこの先いなくなっちゃうことを想定するなら、アタッカーは多少過剰なくらいがちょうどいいのかもしれませんね。」
「ちょっと、不吉すぎること言わないで」
白南風が話の腰を折る。
それから、グルメ大国日本で肥えた舌でも美味しいと感じる料理に流石王城とちょっと感心し、さあ部屋に戻ろうといったところでアリスが俺に耳打ちする。
「今日の夜、満月が真南に昇る頃にもう一度ここに来て」
食事を終えた俺たちは、王城に着いた時に既に案内されていた部屋へと引っ込む。部屋は2人部屋で、男子が8部屋、女子が9部屋、男女それぞれ1人が1人部屋として部屋が割り振られている。部屋分けは意外にもすんなりと決まった。俺は1人部屋を希望したのだが、お前は普段学校に来てないのだから少しでも同級生との交流の時間を増やせ、と言われてしまったためそれ以上食い下がれなかった。相部屋になったのは木下という身長体重ともに平均、って感じの、しかしどこか凛々しい雰囲気をもつ男子だった。なんとなく白南風に似ていると思っていたら、剣道部員らしい。
俺はすこし遅れて部屋に戻ると、改めてよろしくと木下に伝え、苦笑しながら素材やら道具やらで部屋が手狭になるであろうことを謝った。別に相部屋が嫌だったわけではない。が、素材をストックすることを考えると相部屋より1人部屋の方がいいと考えたのである。
「全然気にしなくて大丈夫だよ。もしかして、1人部屋を希望してたのってそれが理由?…凄いなぁ。こんな状況でそんなことを考えていたなんて。」
「そうか?生産職に就いたんだから、誰だって倉庫のことは考えると思うけど。」
生産職でなくても、割と死活問題になりがちだからな。
「そんなことないよ!鳥塚はゲームが好きなんだよね?きっとゲームの知識や経験を活かした結果だって。」
確かに言われてみれば、生産職だと知ってから1時間ちょいで倉庫のことを考えているのはゲーマー思考だといえるかもしれない。ゲーマー、ゲーマーかぁ。
「なぜ同じゲーマーなのに陽昇はチート能力を貰えて俺は生産職なのか……」
陽昇の名前を聞いてふと、木下が問いかける。
「陽昇さんとはゲーム仲間なんだよね?白南風さんや、アリスさんとも一緒にいるけど2人とはどういう関係?」
「え、えーと白南風は陽昇と一緒にいるから、なんだかんだ一緒にいることが多くて、アリスは、まあその、」
うーん、どうしようかな。これに関してはだいぶセンシティブだからな。
ふと、木下が真剣な顔で続きを待っているのを見て気づく。ああ、アリス派か、と。この学校この学年の男子生徒はほとんどがアリス派か陽昇派かに分かれる。ので、目の前の木下がアリスのことが好きだと分かっても対して驚かないし、木下には悪いが20人ちょいいるアリス好きの1人でしかないので甘酸っぱいラブコメ的展開にもならないだろう。
だが、俺は天啓を得た。不敵に口角を吊り上げるその顔は悪いことを企んでいるのが丸わかりであった。
「で、どうして1人で来なかったの?」
速攻でバレた。
「なんでってそりゃ、1人で来いなんて言われてないんでな。」
「君ね〜、まあ私は構わないけどね〜。とりあえず、バレてるんだから出てきなさい。」
溜息をつくアリスと、壁の裏から気まずそうに姿を見せる木下。はっきりいって気配を隠せてないんよな、俺がそこにいるのを知ってるからかと思っていたが、そんなことはなくアリスに速攻バレた。
「で?話ってなんだ?てっきり俺にだけ伝えておきたい何かがあるのかと思っていたが、木下が同席でもお前は構わない用件には心当たりがないぞ?」
「用件を言う前に、そこの彼に部屋へ戻ってもらったら?」
「まさか、誘っておいてやっぱ帰れ、はないだろ。」
あっそ、と呟くとアリスが本題に入る。
「君、何か隠しごとしてるでしょ。」
………………………ほぉ。
「いつかはバレると思っていたが、まだ初日だぞ?流石に早すぎるな。そういう能力か。」
「………だったら?質問に答えてもらうためには私は何を積めばいい?」
「………どうせすぐには何も用意できないだろう?」
お互いが慎重に言葉を選んでいく。ああ、確かに俺はクラスメイトに対して隠しごとをしている。
「その隠しごとを教えてもらうための条件は私のステータスでは足らない?」
「釣り合っているかどうかはともかく、陽昇に教えず、俺の隠しごとを聞き出すための交渉材料にするなんてことを許せるわけがないだろう?」
「それはそうだね。あ〜あ、どうしようかな、交渉材料がなくなっちゃったよ〜。」
いいながら、アリスはそれでも真剣な表情を崩さない。つまりアリスは、
「おい、木下。悪いが先に戻っててくれ。」
案外素直に頷く木下。話の流れに着いて来れてないのだろう。それでも流石に、不穏なやりとりであることはわかるのか、脱兎の如く部屋へ戻っていった。
10分ほど、沈黙が続く。唐突な不意打ちを受けたが、10分もあれば思考をまとめ、議論の用意をすることができる。
「結局帰すんだね。」
「まあ一応お前の脅迫に巻き込んじゃ申し訳ないしな。それに、お前にとっても木下はいない方が都合がつくだろう?」
「まあね」
「で、だ。俺としては脅迫されるのはいやだ。ただ、それでもこれは教えられない。だから、情報の一部を共有、ということで着地としないか?」
「その提案を私が飲むわけないでしょう?私じゃなくても、あなたが1日も経たず気付いたことの一部なんて、ほぼなんの情報にもならないものを要求する人なんていないでしょ。」
「そうか、まあそうだろうな。じゃあ俺はもうこれ以上話せることはないのでさようならということで。」
俺のその言葉にすこし焦ったようになるアリス。ちょっと意外である。この程度の議論展開をアリスが予想できないと思えない。いや、アリスは自分の隠しごとの大きさを知らないのだから、当然といえば当然か。……あるいは、能力が不発したとか?
「待って」
静かに、アリスが呟く。しばらく待っていたが、10分経っても20分経っても続きの言葉が出て来ないので、アリスをおいて食堂を後にする。今度は止められなかった。アリスは未だ食堂で立ち尽くしているが、何がそこまで悔しいのかがピンとこない。まあ、明日の朝くらいに白南風あたりにカウンセリングをお願いしておけば大丈夫だろう。頑張れ白南風。
食堂を出てすぐの廊下を歩いていくと、隅に1匹のうさぎがいた。なんでうさぎ?魔物か?と、思ったがすこし警戒こそしつつも、スルーし通りすぎる。
そして自分の部屋へと向かっていった。




