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廃ゲーマー、鍛治師になる。  作者: タコマル水産
【第一章】積み上げた石の数を数えて
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異世界を目指して

 強烈な光に包まれ、一時は意識すら失っていた3年2組のクラスメイト一行。いつ日本に帰れるかもわからない中で彼ら彼女らは、


「あー、じゃあ何から話す?」

「はいアウトー!弱すぎー」

「は!?おい待て、一体何でアウトになったんだ!?」

「鳥塚くんのNGワードは『あー、』だよ。一応、喋り始めに言ってないとだめって決めていたけど」

「師匠いっつも言ってるもんね。」

「いやなんでだよ。俺そんなこと普段言ってないだろ。」

「「言ってるよ」」

 お腹を抱えて笑いながら途切れ途切れにアリスが応えた。

「鳥塚くん、私のお見舞いに来た、時も言ってたじゃん。自覚なかったんだ(笑)。」


 有砂静(ありすなしず)…アリスと呼ばれている彼女は、陽昇と並ぶほど男子人気の高い女子生徒である。もっとも、最近の陽昇の言動があれなのであれなのだが。父親が外国人であるという彼女は、アリスという名に恥じない金髪のロングヘアに赤い瞳、傷ひとつない白い肌と背が低いのもあってまるでお人形のようである。ちなみに傷一つないのは外傷の話で、実は脚を骨折していたりする。本人曰くもうほぼ治ってるらしい。

 本来なら病院にいるはずのアリスだったが、どうやら遠くにいてもクラスメイトであるだけで巻き込まれるようだ。もし鳥塚が学校をサボって家でゲームしてても、家から異世界に飛ばされることになっていただろう。


 そんなことより、どうしてこの状況で呑気にNGワードゲームなんてしてるのかというと、今鳥塚達が飛(・)ば(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)異世界を創ったという神様が、この一面緑の床しかない空間に生徒を放置したからである。

 目覚めたとき、高校生を誘拐したその神様がなにか言っていたような気がするが覚えていない。まるで寝起きのような、「認識」はしてもそれを「思考」としてまとめられないような薄い意識の中で辛うじて印象に残っているのは、

『今からいく世界には魔法があること』

『今からいく世界には魔族がいること』

『その世界では人類と魔族が戦争していること』

『魔族が優勢であること』

『人類は滅びる寸前であること』

『自分たちに力をくれること』

『その力で魔王を倒して欲しいこと』

そして最後に、

『あ、あとその世界に着くまであと30分から1時間くらいはかかるから、ここ世界の狭間で何かして待っていてくれ』

とかぬかしやがったことである。舐めやがって。


 というわけでひとまず、物凄く気落ちしていたアリスに声をかけ、そこに陽昇と白南風が合流したので4人でなんかすることになって今に至るわけである。今まで学校に来ていなかった男が女子3人、そのうち2人はクラスのトップ2という状況に男子から鋭い視線を向けられ冷や汗が吹き出していたが、張り詰めていた空気が緩んだのは事実であり、それで気が楽になった人も多かったためか文句を言われるようなこともなく次第に少人数のグループがいくつか作られていき、しりとりをする者、指スマをする者、グループを組まず睡眠をとる者と皆自由に時間を潰していた。いや、修学旅行のバスじゃないんだから。


 そこから少しだけ時間が経ちまして、意を決してアリスに尋ねる。

「なあ、アリス」

「なぁに?鳥塚くん」

「やっぱり妹のこと心配か?」

 途端に顔色が悪くなるアリス。「なんて事を聞くんだ」とでも言いたげな顔で陽昇と白南風がこっちを見てくる。

 アリスは父親を亡くしている。母親は日本の政治家であるのだが、それも自分の利益しか見れていないようなクソみたいな政治家とは違い、日本をより良くすることに本気で向き合っているいい政治家なのだが、それ故に陰謀や謀略に巻き込まれることが多く、特にお金関係のトラブルを多く吹っ掛けられ、有砂家は金欠なのである。そして、小4の妹にとって大人の事情、お金の事情はあまりに難しく、なぜこんなことになっているのかを理解できず泣き出してしまうこともある。生活保護など、やろうと思えばなんとでもなる日本において金欠だからって死ぬことはまずないが、有砂ママの政治家人生は潰れてしまう。アリスはそんな家族を支えるため、時に学校すら休んでバイトなどで稼いではなんとか家計を成立させているのである。

 要するに今アリスは母と妹の2人だけ日本に残して来たことに対し申し訳なく、そして心配に思っているのだろう。

「アリス、もし母さんが政治家を辞めてしまっていてもそれはお前のせいじゃない。」

「……」

 なお苦しそうな顔でうつむくアリス。

「そしてお前の母さんのせいでもない。悪いのはどう考えてもこの世界と俺達を誘拐したあの神様だ。」

「……」

「お前の母さんにとって一番大事なのはお前とお前の妹だ。それを手放すような真似はあの人はしないさ。だから自分のことをもっと大事にして、異世界を生き残って笑って家族の元へ帰ることだけを考えろ。」

「…うん、ごめんね〜、気を遣わせちゃって。」

 アリスは吹っ切れてはいないようだが、それでも一回深呼吸すると、笑顔を見せた。それはある意味いつも通りの、いろんなことを1人で背負い込みながら気丈に振る舞うアリスが見せる笑顔である。なんともいたたまれない空気に4人は沈黙に包まれる。

 それでも、こうなることが分かっていてもアリスを元気づける必要が鳥塚にはあった。

 異世界転移という超イレギュラーに対して、何が起こるかなど予想のできるはずがない。そんな状況では、冷静かつ的確な判断を素早く出せる人物が統率を取らなければ一瞬で全滅もあり得るのである。そして陽昇、白南風、アリスの3人にはそれを任せられるだろうと思っていた。ただ、アリスがこのまま立ち直れずにいるなら、その状態のアリスには任せられなくなるだろう。そして陽昇と白南風の2人だけでは32人という生徒を率いるのはほぼ不可能である。成績1番は陽昇だが、頭の賢さではアリスに軍配があがる。その賢い賢いアリスを早くなんとかしなければ、そう遠くないうちに犠牲者がでるだろう。

 ちなみに、冷静かつ的確な判断はできてもクラスメイトの統率を取ることは俺には無理だ。学校に来てすらない奴の言うことなんか信用ならんからな、ガハハ。

 どうしたもんかと考えていると、白南風が口を開いた。

「アリス、私達も長居するつもりなんてないよ。ちゃっちゃと世界救って、夏までには一緒に日本に帰ろう。」

 なんで夏まで?と一瞬考える。おい、まさか

「え!もしかして京ちゃん、WGNC楽しみなの!?異世界転移させられても『WGNCのために日本に帰るんだっ』って思うくらい、実は楽しみだったの!?」

 顔を赤くする白南風。「楽しみだった」と顔に書いてあるようだったが、一応反論する。

「ち、ちちち違うわよ、ほ、ほら約束だしっ。凄く貴重なものなんでしょう?それを使わずにイベントが終わったらもったいないでしょう?」

 きょとんとしているアリスが俺に尋ねてくる。転移直前に交わした約束について簡単に教えてやると、じーっと白南風を見つめ、

「…な、何?」

そのまま白南風の瞳を覗き込むように自分の顔を白南風に近づけていく。腹の中を隅々まで探るような、鋭い視線を向ける鮮明な赤色の瞳に覗き込まれ、ただでさえ赤かった白南風の顔がアリスの瞳に負けじとさらに赤くなっていく。

 その様子を見て何かを確信したのか、頷き白南風から顔を離すと、

「白南風に好きな人ができたとは、びっくりだね〜」

「すすす、すき!?いやちがうしそういうんじゃないしただのともだちだしともだちづきあいだしほらそもそもげーむのいべんとにいくっていうだけですきとかどうとかましてわたしべつにげーむにきょうみないしげーまーとつきあうわけないっていうかきょうつうのわだいをつくろうとかそういうのじゃないっていうか」

 早口すぎて途中から何言ってるか分からなかったが……いや、何も聞かなかったことにしよう。

 厄介ごとを棚の上へ押しやっているとこっちに近づいてきたアリスが耳元でささやく。

「恋する乙女は危険だよ、鳥塚くん」

「なんで俺に言うんだよ、小鳥遊の可能性だってあるだろ。っていうか俺よりは小鳥遊だろ」

 まあね〜、と呟くアリス。その時、床が突然発光し出した。どうやらようやく異世界に着いたらしい。長くて1時間くらいだと聞いていたのに、2時間は待たされたような気がする。やっぱりあの神様は俺らのことを舐めてるとしか思えん。

 だがアリスはそんなことはお構いなしだといわんばかりに、真剣な顔で続ける。


俺は、


「鳥塚くん、一つ忠告」

「…………何だよ」


俺は、このアリスの忠告を、


「恋する乙女からは、ゆーっくり距離を取るんだよ。突然距離を取ると二度と離れられなくなるからね?」

「なんで振る前提?……まあ肝に銘じておくよ。」


俺は、このアリスの忠告を、決して適当に流してはいけなかった。


 再度、俺たちを光が包み込む。感覚が消え意識が途切れていく感覚にはやはり慣れないが、それでも2回目、今度は誰もパニックになったりせずにその身を光へ委ねていく。その頃には、アリスの忠告がどんなものだったか、もはや記憶の片隅へと追いやられていた。


この忠告を忘れていたせいで、あんな大事件が起こるなんて…

フラグの違法建築が止められない…

しばらくは話の中身に対して詰め込まれた設定が過多な回が続くと思います。



有砂静:アリス、バイトリーダー、超賢い

どのくらい賢いかを言葉で伝えるのは難しいが、代わりに「アリス七不思議」の一つ「アリス横領事件」を紹介しておこうと思う。


  『アリス七不思議 其の参: 〜アリス横領事件〜 』


 その中学校では、クラスで台本から劇を考え、クラスメイト自身が演者や監督となってその劇の稽古をし、そうして磨き上げた劇を文化祭の日に披露する、というイベントがある。見事1番に選ばれたクラスには景品もあるらしい。

 そして、その劇を作るための費用として学校から各クラスに1万5千円が支給される。当時中学2年生だったアリスはそのクラス予算の管理を任されていた。劇自体は問題なく発表されたのだが、のちにアリスがクラス予算を横領していたことが発覚した。

 それだけならただの横領であったのだが、問題なのはその金額で、クラス予算1万5千円のうちなんと2万円が横領されていたのである。2千円ではない、2万円である。その規模の横領がどうして文化祭直後に発覚しなかったのか、どうやってその規模の横領をしながら、劇の小道具などを揃えたのかは明らかにされておらず、投資で増やしたとか、他クラスと共謀したとか、校長と寝たとかさまざまな憶測が飛び交ったが、有力な説は未だにない。

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