本編 7話
神秘の異能書籍を奪いに来たーー確かにユーマはそう言った。音はそれを聞いて眉をひそめる。
「奪いに来た、だって?」
「そう。何度も言うようで申し訳ないけど今のキミたちはそれを持っていてはいけないんだよ。分かる?だから僕たちに全部渡して欲しいんだ。」
「そう言われて素直に渡すとでも?この本を悪用しようとしている癖に。」
音はユーマを睨む。ユーマはそんな視線をスルーして続ける。
「あぁ、そうそう。もう1つボスからのおつかいがあるんだった。オト、僕と一緒に来てもらうよ。もちろん神秘の異能書籍と共にね。」
「は!?僕!?」
音は思わず驚いてしまう。今度は管理人が前に出て来てユーマに問う。
「音を連れて行く気かい?ならこちらにも考えがあるけど。」
管理人の言葉を聞いてユーマは大きなため息をついた。
「神秘の異能書籍もオトも渡さない気だな?なら…力づくで奪うまで!」
黒い表紙の異能書籍を開き、あの黒い怪人が姿を現した。それを見て、音は管理人に声をかけた。
「管理人!」
「あぁ、ユーマから神秘の異能書籍を取り戻すぞ!」
2人も異能書籍からそれぞれアリスとオーエンを召喚した。すぐ指示を出し、2体を黒い怪人へと仕向けた。
「無駄な抵抗を…やれ。」
ユーマは怪人をアリスとオーエンの元へ向かわせる。怪人は2体を同時に手錠で捕らえ、地面へと叩きつけた。そしてそのまま素手で頭部を潰したではないか。それによってアリスとオーエンは消滅してしまう。
「嘘だろう!?」
あっさりと倒されてしまい、音と管理人は呆気にとられてしまう。その隙に黒い怪人は手錠で音を捕らえてしまった。
「わっ…!」
「音!!」
声を上げる暇もなく音は怪人に連れ去られてしまった。ユーマは怪人に駆け寄り、拍手をしながら褒め称える。
「ありがとう、良い働きだ。」
音はやや乱暴に地面に伏せられる。痛みに耐えながら管理人に手を伸ばした。
「管理人、逃げて…!」
「…っ!音を返せ!」
管理人は声を張り上げる。ユーマは笑いながら管理人を見て言う。
「大事な捨て駒がいなくなるのがそんなに嫌か?オトのこと、それ程度にしか見ていなかっただろう。演技も甚だしいぞ。」
「捨て駒…?、演技?ユーマ、キミ何を言ってるの?」
動揺を隠せずにいる音に対し、ユーマは声を潜めて話す。
「すまない、オト。事情は後で話す。だから今はこのままでいて欲しい。これ以上悪いようにはしない。頼む。」
「…分かった。」
音はとりあえずユーマの指示に従うことにした。一方でユーマの言葉を聞いた管理人は反論する。
「捨て駒だなんて思っているわけないじゃないか!音は僕の友達なんだぞ?それに演技もしていない!」
取り乱す管理人。ユーマは呆れつつも冷静に言った。
「もうそろそろ白状して楽になったらどうだ?僕はもうキミの…いや、お前の正体なぞ分かっているんだ。そうだろう?本の悪魔、ロスト・ブック!」
「!!」
その名を聞き、管理人は動揺を見せる。一方の音は驚きのあまり管理人に聞く。
「管理人が、ロスト・ブック…?そんなのあり得ない!そうだよね!」
だが、管理人は黙ってばかりで何も言わなかった。音は乾いた声で管理人を呼ぶ。
「え…管理人?」
その時だった。管理人の肩が小刻みに震えている。泣いているのではない。笑っているのだ。
「アハハハ!…あーあ、もうバレちゃったんだ。つまんないの。」
そう言ってニコニコと笑う管理人…いや管理人の姿形をした『なにか』。
「でもさ~、正体看破するのちょっと遅くない?ボク、もう少し早いと思ったんだけどな~。」
「うちのボスも今までお前なんじゃないかって思っていたんだ。でも確信が持てなかった。それだけさ。」
ユーマがそう言うと、『なにか』は更にニコニコして言った。
「そうなんだ~。姉さんも感が鈍ったんだねぇ。姉さんと姿形を似せたからかな?元の姿じゃあ、すぐバレちゃうしさ。それだと面白くないだろう?」
嬉しそうに笑う『なにか』は音とユーマの方を向いて話を続けた。
「でも、ボクの正体を看破したことだけは褒めてあげるね。その報酬として本当の姿を見せてあげる。キミたちには特別だよ?」
その瞬間。紺色の触手のようなものが『なにか』を包み込む。触手は『なにか』を媒体に球体状になると、宙へと浮かび光を放ち分散した。その瞬間、暴風が吹き荒
れる。音とユーマは風の強さに思わず目を瞑る。そして次に目を開けると、そこにはーー
「…。」
本の悪魔、ロスト・ブックがその姿を現していた。彼女もまた目を閉じていたが、やがてゆっくりと目を開けた。左右で色が違うオッドアイ。その瞳孔はまるで猫のように細い。そしてその立ち姿は悪魔と称されるには相応しい姿をしていた。ロストは音とユーマをその瞳に捉えた。
「はじめまして、少年たち。改めて名乗らせてもらうよ。本の悪魔、ロスト・ブックだ。」
その瞬間、音は絶望を隠しきれなかった。もう悟ってしまったのだ。もう、自分の知る管理人ではないことを。絶望と憔悴の色を見せた音を見て、ロストは言う。
「ごめんね、オト。キミにボクの復活の片棒を担がせてしまったことは悪いと思っているよ。でもね、同時に感謝もしているよ。ボクのために神秘の異能書籍を一緒に探してくれてありがとうね?」
そう言って笑う。それからユーマの方へ手を翳し、その懐から神秘の異能書籍を奪い取った。
「返してもらうよ。これ、ボクのだから。逢魔図書館の者、残念だったね。ボクの復活を阻止することが出来なくて。まあでも、恨むならボクじゃなくて姉さんを恨むことだ。」
言い終わるとそのまま手を天に掲げ叫ぶ。
「さあ、神秘の異能書籍よ!我の元へ集え!」
その瞬間、黄昏の空は黒い雲に包まれた。石板に埋め込まれていた神秘の異能書籍がロストの元に集合し彼女を中心に取り囲む。
(マズい、このままじゃ…世界が終わる!)
音は危機を感じるも、何も出来ない自分に苛立ちが募る。一方のユーマは俯いていたが勢いよく顔を上げ言った。
「待っていたよ、この瞬間を!」
そう言って指を1つ鳴らした。次の瞬間、地上に魔法陣が出現しそこから鎖が飛び出してくる。その鎖たちはロストの手首と足首を拘束した。
「な、何!?」
ロストは驚きもがくも、身動き1つ出来ない。音もまた驚いてユーマに聞く。
「ユーマ、これって?」
「うちのボスから、ロスト・ブックへのギフトだよ。こっちに来る直前に渡されたんだ。僕の異能書籍を利用しての贈り物になったけど、渡せて良かった。」
それを合図に黒い怪人は姿を消し、音に自由が戻った。そしてそれを聞いていたロストは怒りに震える。
「くっ…!ボクの復活を邪魔するキミらにはここで消えてもらおうか!」
その言葉と共に、あの触手が音とユーマに襲い掛かる。ユーマは音に覆い被さり詠唱した。
「僕らを逢魔図書館へ…転送!」
唱え終わると同時に音とユーマは姿を消した。
音が次に目を開けると、視界に広がっていたのはーー
「…!」
夜の景色だった。だが、どこか黄昏図書館に似た風景だ。
「ユーマ、もしかしてここはーー」
「あぁ。ここは全てから忘れ去られた、或いは忘れ去られようとしている物語や夢を保管している場所。黄昏図書館に対を成す異空間。ようこそ、音。僕らの逢魔図書館へ。」
ユーマは音を振り返りそう言った。
(ここが、逢魔図書館…。)
音が呆気に取られていると、横から足音が近づいてくる。月明かりに照らされて足音の主の姿が露わになると音は驚愕した。それもそうだと言えよう。管理人と全く同じ姿の少女がそこにいたのだから。少女はユーマを見て笑顔になる。
「ユーマ、お帰りなさい。無事に帰って来てくれて良かった。」
それを聞いたユーマはその少女に跪いて言った。
「戻りました、レディ。」
音はレディと呼ばれた少女を見る。姿形は今まで音と一緒にいた管理人そのものだ。だが、あの顔立ちはどこかで見たようなーーそんな気がしてならなかった。
「あぁ、彼も連れて来ることが出来たのね。良かった。ありがとう、ユーマ。」
「いえ、これくらいは。ですが、大変なことになりました。」
「えぇ、状況は分かっています。あの子が…ロストが目覚めてしまったのでしょう?」
ユーマとレディが色々とやり取りしているのを見ながら音はゆっくりと身体を起こした。それを見たユーマは、音を振り返る。
「オト、紹介するよ。彼女はエヴァー・ブック。ロスト・ブックの姉君にして、黄昏図書館の真の管理人だ。今は訳あって逢魔図書館の管理人をしてもらっているんだ。」
そう言われて、音は違和感の正体を理解した。
「!…この人が、黄昏図書館の…?」
少女ーーエヴァー・ブックは丁寧に礼をして、音に挨拶をした。
「はじめまして、音。私はエヴァー・ブック。黄昏図書館の管理人であり、本の悪魔と名高い愚妹ーーロスト・ブックの姉です。」
そう言われ、音も挨拶を返す。
「あ、はじめまして…雨宮音です。よろしくお願いします。」
丁寧に挨拶されるものだから、つい畏まってしまう。そんな音を見てエヴァーは柔らかく笑み
「そう畏まらなくても良いのよ。楽にして。」
そう諭した。その言葉に音も少し肩の荷が下りたと同時に気楽になった。そしてエヴァーは身を翻して
「ついていらっしゃい。」
音とユーマに促した。
通されたのは、書斎のような造りの部屋だった。両サイドの壁は本棚になっていて本が所狭しと並んでいる。だが、その本はどれも色褪せていたり黒ずんでいたりと
悪い状態の本が多かった。そして大きな窓からは逢魔図書館の景色を一望出来た。
「ここは…?」
「管理人の書斎だよ。今はエヴァーが使っているんだ。」
ユーマは説明し、客人のためのスペースらしき場所にあるソファーに座る。音はどうすれば良いのか分からず、戸惑っているとエヴァーが声をかけてくれた。
「音、貴方もお座りなさい。好きな所で良いから。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
音はとりあえず丸いスツールに腰掛ける。それを見届け、エヴァーもユーマの向かいのソファーに座り話し始めた。
「さて。まずは音、来てくれてありがとう。私が貴方をここに呼んだのは他でもない、貴方に全てを話さないといけない。そう思ったからなの。」
「全てを…?」
音は首を傾げる。ユーマが補足した。
「黄昏図書館と逢魔図書館の本来の役割、それとロスト・ブックが何故本の悪魔という存在になったのか、というのが今回の話の中心になる。長くなるけれど聞いて欲しい。」
「…うん、分かった。」
音は真剣な顔でそう言い、エヴァーに向き直る。
「エヴァー、僕に全てを教えて下さい。知りたいです、何があったのかを。」
「…分かったわ。ではお話しましょう。」
「ーー黄昏図書館と逢魔図書館にはとある役割がありました。それは全ての民の夢や思い出、そして物語を守るという役割が。でも守る物は双方で大きな違いがあった。黄昏図書館はこれからも永遠に続く物語や夢、思い出を守っていく所。反対に逢魔図書館は忘れ去られた、或いは忘れ去られようとしている物語や夢、思い出を消えないように守っていく所。という風に2つの異空間は長年にわたってその役割を果たしてきた。その異空間の役割、それと物語の方向性の概念として生まれたのが、私とロストなの。」
「!!」
エヴァーとロストの正体を知り、音は驚愕する。エヴァーは続けた。
「私は黄昏図書館の管理人を、ロストは逢魔図書館の管理人をすることになったの。私は神秘の異能書籍の所持者たちに支えてもらいながら日々を過ごし、ロストもまた逢魔図書館の者たちと共に逢魔図書館を守っていた。時々、ロストが黄昏図書館に遊びに来てくれることもあった。私は嬉しかったのを今でも覚えているわ。」
そう言ってエヴァーは目を細める。心の底から嬉しさをかみしめているような、そんな柔らかい表情で微笑んでいる。だからこそ余計に音はロストが本の悪魔になってしまったのかが理解出来なかった。
(こんなにも仲睦まじい姉妹なのに、一体どうして…?)
その疑問はすぐエヴァーの口から聞かされた。でも、とエヴァーの声に暗闇が籠る。
「私は永遠に続く物語の概念そのものだけど、ロストはその逆で忘れ去られた物語の概念そのもの。だから、ロストはいつか自分も忘れ去られてしまうのではないかという不安に駆られてしまったのかもしれない。その不安が、あの子を動かしたのでしょうね。あの子は逢魔図書館にある異能書籍と融合し、本の悪魔となった。」
「!」
「そしてあの子は世界を支配するために黄昏図書館から神秘の異能書籍を盗み、全てを掌握しようとしたけれど、私と神秘の異能書籍の所持者たちがその計画を阻止した。結果としてロストは無名の本に封印されて異空間の狭間の小宇宙に投げ込まれたの。2度と外に出てこられないようにね。一方で、私は仲間を失った。」
「それって…神秘の異能書籍の所持者の方たち、ですね?」
「…えぇ。皆さんは頑張ってくれました。でも、ロストの強さが異次元だったこともあって命の器が持ち堪えることが出来なかったのでしょうね。私は仲間の犠牲を無駄にしないために、行動を起こした。まずは、ロストが自力で封印を破ってきた時のために神秘の異能書籍を人間界にばらまいた。その後、相棒を探して人間界へと降りたの。ユーマとの出会いはそこでだった。」
音はユーマを見る。ユーマもまた話し始めた。
「突然驚いたよ。私の相棒になって欲しい、って言われてさ。あまりにもエヴァーが必死に言うから引き受けたけどね。最初は黄昏図書館を守るために動いていたけど、失われた物語の亡霊が黄昏図書館を襲うようになってからは逢魔図書館を守ろうということになって僕はエヴァーの専属として、エヴァーはレディに名を変えて行動していたのさ。でも、流石のエヴァーでも2つの異空間を同時に守るということは出来なかった。だからやむを得ず、黄昏図書館に神秘の異能書籍を戻して守ってもらおう、ということになったから僕らは神秘の異能書籍の回収を任されたというわけさ。そこに、謎の管理人と黄昏図書館の者ーーオト、キミが来たってわけ。」
ユーマの説明で音は全てを悟った。つまりは、邪魔をしていたのは自分だったのである。逢魔図書館側にもそれ相応の事情があったのだ。それを聞かずにただ妨害をして、挙句の果てにはロスト・ブックの願望を叶えてしまったのだ。音はそれを悟った瞬間、ユーマとエヴァーに勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!僕が…僕が、余計なことしなかったら、こんなことには…!」
声を荒げ、ソファーから立ち上がるユーマをエヴァーは諫める。
「だから言っただろう?キミたちはあの本を持っていてはいけないって!ちゃんと僕や他の幹部たちの話を聞いていれば、こんなことにはーー」
「ユーマ、やめなさい。彼もまた被害者よ。ロストの言うままに踊らされてしまったんだから。」
「…はい。」
ユーマは静まり、ソファーに座った。エヴァーは音を見て言った。
「音、貴方はロストの被害を受けてしまっただけのただの人間。だから、あまり自分を責めないで。」
「でも…!」
音が泣きながら叫ぶと、エヴァーは音を優しく抱きしめた。
「貴方のせいではないわ。これだけは断言できる。寧ろ、私が謝らなければならないと思ってる。妹の陰謀に巻き込んでしまったことを。」
そう言ってエヴァーは音と顔を合わせる。
「だから、もう自分が悪いだなんて言わないで。大丈夫だから。」
「…はい。ありがとう、ございます。」
音は涙を拭いながらも礼を言った。エヴァーはそんな音の頭を優しく撫でたのだった。
「…で、これからどうしますか?あいつをあのまま縛っておくわけにもいかないですし。」
「そうね…私1人で出来るかは分からないけれど、神秘の異能書籍を使用して再封印を試みてみる?」
エヴァーとユーマは話し合いを始めた。そんな中、音も考えを巡らせていた。
(確かに、再封印するのも1つの手。だけど…エヴァーはそれで良いのかな…?)
そんな思いが頭をよぎり、エヴァーに問いを投げてみることにした。
「あの…ちょっと良いかな。」
「?、何かしら。」
「ロストを再封印するのも良いけど…救う、という手段はないのかなと思って。」
「救う、だって?オト、ロストを救うって言うのか?」
ユーマの問いに音は深く頷いた。そして理由を話し始める。
「僕ね、エヴァーの話を聞いて思ったんだ。ロストはただ、自分と同じ存在となってしまった物語や夢、思い出を失いたくなかったんじゃないかって。自分と同じように悲しい思いをさせたくなかったんじゃないかってね。だからきっと、優しいんだよ。彼女は。」
「…!」
音の言葉を聞いて、エヴァーの瞳が揺れる。ユーマはなるほど、と考え込む。
「つまり…神秘の異能書籍を使って世界を支配することで失われた物語を永遠に人々に覚えていてもらう、というのがロストの目的だとオトは考えているんだね?」
「うん。これは僕の単なる想像にすぎないけどね。それに…」
音はエヴァーの顔を真っ直ぐ見て言った。
「エヴァーに、大切なものを失って欲しくないから。」
「!…音。」
エヴァーは唇をかみしめていた。涙が溢れるのを我慢しているのだろうが、結局堪えきれずに泣いてしまった。
「ありがとう…どうか、あの子を、ロストを助けて…!」
「…うん、分かった。」
エヴァーの涙ながらの頼みを、音は引き受けた。そして音はユーマの方を向いて言った。
「ユーマ、協力してくれる?」
「…はぁ。仕方ないな、エヴァーの頼みでもあるしね。協力してあげるよ。」
「!、ありがとう!」
ーーその後、黄昏図書館へ向かう前に装備を立て直すことにした。最初にユーマは音を礼装保管庫に呼び出した。
「すごい衣服の数だね…どれも礼装なの?」
「そう。まあ好きなの選びなよ。」
そう言われたので、とりあえず一通り見てみる。その結果、音が選んだのはーー
「これにするよ。」
白いローブだった。星の柄が神秘的な一着だ。それを見てユーマは言った。
「それ、僕が着てるのと同じやつだろう。何故それを選んだ。」
「決まってるよ。友達と同じものだからだよ。」
そう音は微笑んだ。ユーマはため息をつくが、それは呆れを含んだものではなかった。
「前に言ったはずだったのに。友達じゃないって。でも、それでもキミは僕を友達と言ってくれるんだな。」
「当たり前だよ。あの時一緒に過ごした時間は、嘘には入らないもの。」
「…そうか。」
ユーマは小さく笑い、音に礼を言った。
「ありがとう、オト。」
その笑顔には何かが吹っ切れたような、そんな思いが混ざっていた。
礼装の調整をアリシアに任せ、次は異能書籍を選ぶことにした。音は黄昏図書館から何冊か持って来た物の中から、ユーマは自身の部屋の本棚から選んだ。数分後、お互い選び終わったようだ。ユーマは音に近づき、声をかける。
「大丈夫か、オト。」
「うん。もう選び終わったから。」
音はそう言って立ち上がる。そのタイミングで部屋のドアがノックされた。やって来たのはアリシアだった。
「失礼します。礼装の調整が終わりましたよ。」
「分かった。すぐ向かう。行こう、オト。」
「うん。」
そして。装備の立て直しが終わり、音とユーマはエヴァーと合流した。エヴァーは2人の方を振り返る。
「準備は、良いですね?」
「えぇ。」
「はい。」
2人の返事を確認し、エヴァーは言った。
「では、参りましょう。黄昏図書館へ!」




