本編 5話
「さて、明日から待ちに待った夏休みってことで!1学期お疲れ!」
「お疲れ様~!」
「お疲れ。」
蓮の一言に音と明人はそれぞれ呼応する。飲み物が入ったグラスを掲げ、乾杯をする。今日は音たちの通う高校の終業式だった。明日から夏休みということで、放課後に蓮の家に集まって1学期お疲れ様会をしようと以前から企画していた。
「さあさあ、2人とも!菓子もたくさん用意したから食べてくれな!」
「うん、ありがとう!」
「サンキュー、蓮。1人で全部用意させて悪ぃな。」
明人が申し訳なさそうに言うも、蓮はどうってことないという顔をして
「そんなこと気にするなよ、明人!サッカーの試合、良いもの見せてもらったしさ!それで十分だよ!」
そう答えた。続いて音の方を向いて言った。
「音も、夏休み前のプロファイリングテスト頑張ったもんな!お疲れ!」
「ありがとう。僕も準備に参加出来ればと思っていたんだけど…プロファイリングテストがあったから一緒に準備出来なくてごめんね、蓮。」
「大丈夫だよ。2人にリフレッシュして欲しいと思って、この会企画したんだからさ!」
蓮の気遣いに、心から感謝しようーーそう思った音だった。
「それじゃあ、今日はありがとう。夏休み中も集まれたら集まろう!」
「おう、そうしようぜ。またな。」
「2人とも、気をつけて帰れよ!」
夕方。3人はまた会う約束を取り付けて解散した。
(今日は楽しかったな…また会う日が楽しみだ。)
音は密かにそう思うのだった。
ーーそんな音を上空から見つめる人物がいた。音の姿をその目に焼き付けるように。やがてその人物はふっと姿を消した。
帰宅後。夕飯を食べて入浴し、ようやくゆっくり出来る時間が確保出来た音はベッドに倒れこむ。一息ついていると、音のスマホに通知が来た。見てみると、蓮と明人と3人で作ったグループチャットにメッセージが来ていた。送り主は明人だった。
『音、蓮。急で悪いんだけど、今度海に行かないか?』
とのこと。音はメッセージを返すことにした。
『あれ?家族で行くんじゃなかったの?』
そう送ってみる。すると明人から返事が返ってくる。
『そのはずだったんだけどな。父さんに友達も誘えば良いんじゃないか?って言われてさ。思わずえ、良いのかよ?って聞き返したよ笑』
『そういう経緯で2人を誘ったんだけど、その日空いてるか?』
そのメッセージを見て、なるほど、と理解する。
『さっきも言ったけど、僕はその日空いてるから行けるよ。』
音がメッセージを送ったのと同時に、蓮からもメッセージが届く。
『俺も大丈夫だ!明人、サーフィン教えてくれな!』
『前も言っただろ?絶対に嫌だ。』
『何で頑なに拒否するんだよ~。』
蓮と明人のやり取りに、音は思わず笑ってしまう。明人にサーフィンの話を以前から聞いていた音は若干興味があったので、教えてくれるか聞いてみることにした。
『明人、僕にもサーフィン教えて~。』
そう送ってみると、明人からは
『良いぜ。音は頭良いからすぐ覚えられると思うし、教え甲斐がありそうだ。』
そう前向きな返事が返ってくる。そこへすかさず蓮が食い下がってくる。
『何で音だけ!?明人、頼むよ~。』
ーー結局、明人が折れて蓮にもサーフィンを教えるのが決定した。
数日後。海へ遊びに行く当日となった。音は最寄りのコンビニで蓮と合流し、明人を待った。手にはビニール製のバッグを持っている。
「楽しみだな、音!」
「そうだね。僕もこの日を楽しみにしてたよ。」
蓮と話をしていると、目の前にワンボックスカーが停まった。スライドドアが開き車内から見知った人物が出て来て音と蓮に声をかける。
「音、蓮。待たせて悪いな。」
明人だ。音と蓮は明人に駆け寄った。
「大丈夫だよ。そんなに長々と待っていたわけじゃなかったから。」
「そうか。荷物あるだろうと思って後ろ少し空けたけど、どうする?」
親指で車の荷台を指す明人。それならと、荷物を乗せてもらうことにした。荷台を開け、空いたスペースに音と蓮の荷物を置いてくれる。
「ありがとうな、明人。」
「良いんだよ、気にすんな。さて、行くか。2人も乗れ。」
音と蓮、そして明人が乗車後、車は海へ向けて出発した。車内では、海に着いたら何をするかやどんなフードを食べるかで盛り上がった。
「ここは絶対焼きそばが良いって思うんだよな~。」
「いや待てよ。海に来たらお好み焼きだろ。異論は認めないぞ、蓮。」
蓮と明人は焼きそばとお好み焼き、どちらを食べるかで揉めているようだ。その後も口論が続いたが、結局明人の父が
「どっちも食べたら良いんじゃないか?」
そう言ったことがきっかけで決着がついた。蓮が焼きそばを、明人がお好み焼きを買うということで話が完結した。音はというと、デザートにクレープを提案した。それに関しては、蓮と明人は大賛成だった。昼食が決まった瞬間である。そんな話をしていると、あっという間に海が近づいて来ていた。
「来たな、海に!」
「うん、来たね!」
水着に着替えた音と蓮は一足先にビーチの入口にやって来た。遅れてボディースーツに海パンスタイルの明人がやって来た。手にはサーフボードを持っている。
「明人、暑くないか?」
蓮は見るからに暑そうな恰好の明人を見て問う。明人は
「暑いよ?だけどサーフィンやる時はこの恰好の方が自分的に良いんだよ。それに、海入れば冷たいし暑さは吹き飛ぶだろ?」
そう言った。その後、明人の父と合流し場所取りを開始した。ビーチには所狭しとレジャーシートが並んでおり、なかなか良い場所がない。どうするかと辺りを見回していると、誰かが帰ったのであろうと思われる場所が空いていた。そこにレジャーシートを敷き、パラソルを立てる。
「よし、こんなものだろう。」
「凄いね、明人。手慣れてるって感じで。」
音が関心していると、明人が音を振り返って言う。
「小学生の時からアウトドア派だったからな。こういう作業は慣れてる。」
そして再びレジャーシートの方を向いて、2枚のサーフボードを音と蓮に手渡した。
「これって、サーフボード?」
「そ。…さて、行くか。父さんにはもう許可は貰ったから。」
そう言って、海に向かって歩き出す明人の後を音と蓮は追った。軽く準備体操をした後、早速明人による講習が始まった。基礎的な知識や波の乗り方から細かいコツまで色々と教えてくれた。音は比較的覚えるのが早く、良い感じに出来ているのだがーー
「蓮…お前さぁ。」
「本当にごめん…もう1回教えてくれないか?」
明人が危惧していた通り、蓮への指導が困りものであった。
「絶対覚えようとしてないだろ、お前!」
ついに明人の怒号が蓮に放たれた。蓮はしどろもどろになりながら、
「いやそんなことないよ!?ただ、難しい単語が並ぶと途中でも理解できなくて…。」
必死に訂正する。明人は大きなため息をつきながら、
「お前、このままだと絶対水難事故に遭うぞ。危険だからもうお前にはサーフィンをさせられない。これはお前の命を守るために言ってるんだ。分かるな?」
「えぇ~、マジかよ~。」
うなだれる蓮をよそに明人は音に
「音はだいぶ完成形に近い感じだから最後まで教えるよ。」
そう言った。音は大きく頷いて言う。
「分かった。よろしく。」
ーーその後。音はサーフィンをマスターし、明人と一緒に楽しんだ。蓮はこの際だからと色々な泳ぎを披露してくれた。平泳ぎ、クロールなど、自分が出来得る全ての泳ぎを見せてくれた。
そして、時間はお昼時になった。予定通りそれぞれが食べたい物を買いに行こうとなったのだが、明人の父の元へ戻るとーー
「え、父さんこれって…!」
焼きそば、お好み焼き、クレープが人数分買って来てあるではないか。明人の父は戻って来た3人を見つけると、
「お帰り。昼ご飯買っておいたから食べてくれ。」
そう言って笑う。3人は揃って
「「ありがとうございます!」」
「父さん、ありがとう!」
明人の父へ深く礼をし、昼食を食べた。その際、音は母が買っていてくれた瓶ラムネを蓮と明人、そして明人の父へ手渡した。開け方が分からず戸惑う蓮と明人をよそに音は涼しい顔をして瓶ラムネを開けた。
「スゲーな、音。開け方分かるのな。」
と、今度は明人が音を見て関心している。音は
「僕の場合、よく買ってるからね。何回も買う内に慣れちゃってさ。」
少し照れながら言う。
「なぁ、音!良かったら開け方教えてくれよ!」
蓮の要望に対し、音は頷いて
「良いよ。まずはーー」
2人に蓋の開け方を教えるのだった。
ーー昼食後。音たち3人はアクティビティを体験しに行った。雲一つない青空を近くで感じられる、そんな空中散歩だ。
「綺麗だね~。」
「そうだな。昼飯の後には丁度良いよ。」
「分かる!たまにはこういう時間も良いよな~。」
3人の間で様々な感想が飛び交う。音は空を見上げて、
(やっぱり、悠真…じゃない。ユーマもいて欲しかったな。)
ユーマのことを思い出していた。もう敵となってしまった彼だが、それでも一緒に過ごした日々は音の中では消えていなかった。
(元気、してると良いな。)
ユーマに思いを馳せつつ、音は夏の風を感じていた。
…アクティビティ体験後もたっぷりと遊び、楽しい1日がもうすぐ終わりを告げようとしていた。
夕方。ビーチに綺麗な夕暮れが訪れた頃。音たちは海を離れ、帰路に着いていた。音、蓮、明人の3人は疲れて寝てしまっていた。音は下を向いて、蓮は壁に頭を預けて、明人はアイマスクをして上を向いて寝ている。長い道のりを終え、音と蓮は最寄りのコンビニで降車した。その頃にはもう空は暗くなっており、
1日の終わりを知るには十分だった。
「それじゃ、俺こっちだから。気をつけて帰れよ、音。」
「うん、蓮もね。また。」
途中で蓮と別れ、音も家に向かって歩き出した。
帰宅後。洗濯物を出したり、夕飯の支度をしたり、お風呂を沸かしたりと帰って来ても大忙しではあるが致し方ない。何せ今日は、母の帰りが遅い。故になんでも1人でやらねばならないのだ。幸いにも夕飯は母が冷凍のパスタを準備してくれていたため、レンジで温めて惣菜をおかずに食べるという形で済んだ。なので夕飯は比較的早く終わった。自分が使った食器を洗った後、風呂を沸かそうと思い風呂場へ向かおうとしたが自室に物を取りに行こうとしたことを思い出し、来た道を引き返して自室へ向かった。
「えーと…あ、あった。」
目的の物を手に取り、自室を出ようとした時だった。机の上に置かれた異能書籍が光を放っている。
「?」
音は異能書籍を開くと、突然映像が現れた。管理人からである。
「あ、ようやく出てくれた!どうしたんだろうって心配したんだよ。」
「ごめん、管理人!今日はちょっと用事があって出かけてたんだ。それでどうしたの?」
「今日は図書館に来てくれなかったから、こうして異能書籍を通して伝達をと思ってな。夜遅くですまないが今から僕が指定した場所に来れるか?」
その言葉を聞いて音は状況を理解した。これはーー
「まさか、異変が起こってるの?」
「その通りだ。とりあえず、今から場所を伝える。来れるか?」
「うん、もちろん!」
その後、管理人から場所を聞いた音は異能書籍を持ち家の鍵をかけて走り出した。
数分後。音は指定された場所に到着した。どうやら管理人が既に時間停止を使っていてくれたようだ。管理人を探す音に声をかける者がいた。
「おーい、音!」
「あ、管理人!ごめん待たせて!」
小柄な少女が走ってくる。音も走って駆け寄ろうとした、次の瞬間。音に向かって氷の棘が飛んできたではないか。音は咄嗟のことで判断が遅れた。
(まさか、罠ーー)
すると、音の手から異能書籍がすり抜ける。自動的に異能書籍が開き、出て来たオーエンが鎌で氷の棘を全て薙ぎ払った。
「あ、ありがとうオーエン。」
オーエンに礼を告げると、当の本人はするりと異能書籍から出て来て音の後ろについた。音は前方から足音が近づいているのに気づき、警戒する。
「私の攻撃を全て弾くとは…良い影武者をお持ちで。」
暗闇から出てきたのは、1人の少女だった。手には白い表紙の本を持っている。
「神秘の異能書籍…!ということは、逢魔図書館の!」
「ご明察。私の名はアリシア。貴方たちの命を奪いに来た者です。」
その少女・アリシアは深々と礼をした。音は一歩前に出て、アリシアに問いを投げた。
「アリシア。管理人はどこへやった?僕に連絡をしてきたんだ。ここにいるはずなんだが。」
「管理人…?あぁ、私に1人で立ち向かって来たあの娘ですね。それならここにいますよ。」
そう言って、アリシアは暗闇から何かを引きずって来た。それはーー
「!!」
頭から血を流して全身ボロボロとなった管理人であった。意識がないのか、身体は完全に脱力している。
「この娘、無謀にも私に1人で立ち向かって来たのですよ。本当に命知らずな娘ですこと。」
そう言うと、アリシアは管理人を音の方へ投げた。まるでゴミを捨てるかのように。音は慌てて管理人に駆け寄る。
「管理人!ねぇ、管理人ってば!目を開けてよ!」
管理人を抱き寄せて声をかけるも、返事はなかった。その様を見てアリシアは
「無駄ですよ。もうその娘は時機に息絶えますから。」
そう言って笑った。音の目に涙が溜まる。
「そ、んな。嘘だって、言ってよ管理人!」
音は管理人を抱きしめて泣きだしてしまった。
「『黄昏図書館の者』ともあろう人が、情けないこと。良いでしょう、ここで2人まとめて終わらせてあげます。」
アリシアは雪のように白い怪異の素が入った小瓶を取り出し、神秘の異能書籍の上に置いて小瓶を叩き割る。そして宙に放った。神秘の異能書籍は雪に包まれ、大きな雪の化身に成り変わった。泣いて動けない音を庇うようにオーエンは前に出た。
「あら。影武者さんが相手して下さるのね。良いわ…倒しておしまいなさい!」
それを合図に雪の化身はオーエンに向かって突進していく。オーエンもまた雪の化身へと向かっていった。武器がぶつかる音。それを聞いて、音は顔を上げる。
(オーエンが戦ってくれてる…僕もいかないといけない…だけど…。)
腕の中の管理人を見て、音は判断に困った。
(管理人を置いてはいけない…どうする、考えろ!)
考えがまとまらず、音はどうすれば良いか分からなかった。そんな音を助けるかのように管理人の羽織っているローブの中から本が出てくる。淡い水色の本。表紙には、『ナイチンゲール』の文字があった。音はそれを見てハッとした。
(これなら、管理人を助けられるかも…!)
音は異能書籍を手に取り、ページを開くと詠唱を開始した。
「傷ある者に恵みを、ナイチンゲール!」
異能書籍からナース服を着た女性が現れる。音は女性ーーナイチンゲールに懇願する。
「お願いです、管理人を助けて下さい!」
すると、ナイチンゲールは音の腕から管理人を優しく抱き上げると、自身の腕に包み込む。管理人の身体は優しいオーラに包まれた。それを見ていた音はナイチンゲールに
「管理人を頼みます!」
そう言って、戦場へ駆け出して行った。
その頃。オーエンと雪の化身の戦いは続いていた。最初は雪の化身の猛攻を防ぎきれていたオーエンだったが、時間が経過していくにつれてそのスピードは鈍りを
見せていた。その時だった。音が戦場に到着したのは。
「オーエン!」
その声にオーエンは音の元へ戻って来た。
「ごめんね、1人で戦わせて。ありがとう。少し休みな。」
その言葉に応じ、オーエンは異能書籍の中へ吸い込まれていった。それを見たアリシアは
「降参の合図、と見てよろしいのかしら?早かったのね。」
と笑う。だが、音は首を横に振って言う。
「降参なんて、するわけないだろう。よくも管理人をあんなにしてくれたな。勝負はこれからなんだから、油断してくれるなよ。」
その瞳に復讐の色を灯して音は言った。そしてもう1冊の異能書籍を取り出す。表紙には、『不思議の国のアリス』の文字があった。
「ごめんね、管理人。アリスを借りるよ。」
そう呟き、音はアリスを召喚した。
「さあおいで…アリス!」
いつも管理人が放つ詠唱。自分なりの言い方もあっただろうが、音はあえていつもの詠唱で召喚したのだ。それに応じ、開かれた異能書籍からアリスが出現した。音はアリスに命じる。
「アリス、あいつらがキミの主を生死の境へ追いやったんだ。だから…慈悲はいらない、叩き潰して!」
それを聞き、アリスはアリシアたちの方へ特攻していった。雪の化身はアリスに対して氷の棘を放つ。だがアリスはそれを全て槍で防いだ。雪の化身は一瞬たじろぐも、すぐ体制を立て直し雪の弾幕を飛ばしてくる。それすらもアリスは無に返した。それにより雪の化身は判断が追い付かなくなってしまう。その一瞬の隙をついてアリスは雪の化身へ槍を突き刺した。槍は深く刺さり、雪の化身の身体を貫通している。そしてアリスは勢い良く槍を引き抜いた。雪の化身は徐々に目の光を失い、地面へ倒れ込む。そのまま灰となって姿を消した。その場には神秘の異能書籍だけが残された。音は急いで駆け寄り、神秘の異能書籍を回収した。そしてアリスへ向き直り、礼を言った。
「力を貸してくれてありがとう。ゆっくりお休み。」
それを合図にアリスは異能書籍の中へ戻っていった。
一方でアリシアは、地面へ座り込んでいた。雪の化身が消え、更には神秘の異能書籍まで取り返されてしまったのだ。ショックが大きいのも無理はない。音はアリシアの元へ歩み寄る。
「あら、私の息の根を止めに来たの?」
「…。」
音はただ無言でアリシアを見つめていたが、やがてふるふると首を横に振って
「違うよ。でも、管理人をあんなにしたのは許さないからね。」
そう告げた。アリシアは
「…そう。なら、私はここで失礼するわね。あぁ、一つ貴方に忠告しておくことがあるわ。」
と言って音に近寄る。
「あの管理人、ただ者ではないわ。せいぜい気をつけなさいな。」
一言告げ、何処へと消え去った。音はその場に立ち尽くしたまま動けなかった。
その後、逢魔図書館ーー。
「…アリシアも失敗したのか!何故だ…何故!」
レディは怒り、机を叩く。そこへやってきたのはーー
「レディ、落ち着いて。ここで怒っていてもどうにもなりませんよ。」
ユーマである。レディはユーマの言葉に少しかは落ち着きを取り戻した。
「はぁ…すまない。私としたことが、取り乱してしまった。」
「目障りな連中が僕たちの計画を邪魔しているからでしょう。ここまで失敗続きなのも彼らのせいだ。」
ユーマはレディの背を優しく擦りながら諭す。そしてレディの前に片膝をついて言った。
「レディ、僕が行きます。僕が彼らから取り戻してみせましょう。」
レディは横目でユーマを見る。そして椅子から立ち上がりユーマの前に立つ。
「ユーマ、お前はまだ良い。下がっていろ。」
「レディ、しかしーー!」
「まだ良いと言っているんだ。まだお前を出す訳にはいかないんだよ。」
冷酷な瞳でそう言い放つレディ。ユーマは
「そこまで言うのであれば、貴女にはまだ打つ手があるということですね?」
そう問う。レディはユーマに背を向け頷く。
「あぁ。まだあるとも。リウ!」
「…ここに。」
リウと呼ばれた男がレディの前に現れる。
「お前の番だ。神秘の異能書籍を取り戻せ。ついでに、黄昏図書館の連中を始末して来るんだ。合図があるまで待機していろ。」
「…承知。レディの仰せの通りに。」
そう言い、リウは姿を消した。ユーマは少し焦りを含んだ声でレディに問う。
「良いのですか、彼に行かせて。彼は、殺しすらも厭わないやつですよ?」
「良いんだ。”あいつ”が復活するのを防ぐためならば、それすらも構わない。」
レディは迷うことなく答えたのだった。
一方、黄昏図書館ではーー
「ありがとうございます、ナイチンゲール。」
あの後、音はナイチンゲールと協力して管理人を黄昏図書館まで運んだ。管理人はナイチンゲールの治療によって辛うじて息を吹き返したのだ。黄昏図書館へ戻る途中、管理人と話が出来たのだが疲れてしまったのか眠ってしまっている。
「管理人が目を覚ますまで、後は僕が見ます。休んでください。」
そう言って、ナイチンゲールには異能書籍に戻ってもらった。今だに眠っている管理人を見て、音はアリシアが言っていたことを思い出す。
『あの管理人、ただ者ではないわ。せいぜい気をつけなさいな。』
音はあの一言に、引っかかりを感じていた。
(ユーマと似たようなこと言ってたな。2人が言うことが本当なのだとしたら…管理人、キミは一体…。)
管理人を前に、音はそんなことを思っていた。
???まで、あと2つーー。




