本編 4話
春が過ぎて、夏が来た。毎日のように暑い日が続く季節の到来だ。今日も太陽が照る夏の青空の下、音は蓮と明人と3人で通学路を歩いていた。
「暑すぎじゃね?マジで。なんなんこの暑さ。」
蓮は思わず言葉が出てしまう。明人も同意の意を示した。
「それは分かるけどさ、口に出すなよ蓮。もっと暑くなるじゃねぇか。」
「悪ぃ…。でも言わずにはいられんだろ。なあ、音?」
「確かにそれはそうなんだけどさ…明人の言うことも一理あるんだよね…。」
うだるような暑さに、3人はネガティブ発言が止まらない。そんな中、蓮が話題を持ってきた。
「そういえば、もうすぐ夏休みだな!」
「そうだね。蓮と明人はどこか行くの?」
「俺は海に行って、サーフィンでもする予定。」
「良いじゃん!明人、俺にも教えてくれよサーフィン!」
「嫌だ。お前絶対覚えられないだろうから!」
「そんなことないって~。」
夏休み、そのワードによってネガティブ発言は何処へと去っていったようだ。3人の間には笑顔が戻った。そんな中、音は思うのだった。
(ここに、悠真もいてくれたら良かったのにな。)
もう会うことのないかつての友人を思い、少し切なくなるのだった。
「…というわけで、もうすぐ夏休みですが気を抜かないように過ごしましょうね。」
朝のホームルーム。担任が話しているのを聞いていると、音の耳にとある話題が入ってくる。
「それと、皆さんに注意喚起しておくことがあります。マルノイ市の外れにある古い洋館あるの分かるよね。そこで行方不明者が出ているそうです。不審者がいる可能性がありますので、近づかないようにしてくださいね。」
「はーい」とクラス全員が返事をする。担任は大きく頷き、
「それでは、朝のホームルームを終わります。今日も一日頑張りましょう。」
それと同時にクラスメイト達は立ち上がる。音のクラスは1時間目は移動教室のため、各々が準備をして教室を出ていく。音も教科書とノート、それからペンケースを机に置いて準備する。その最中、
(ついさっきの洋館の話…もしかしたら異変かも。クラスの人にも、洋館のことを聞き込みしてみよう。)
そう決めた。その直後、蓮に声をかけられ明人と3人で移動教室へ向かった。
昼休み。音はまず、蓮と明人に例の洋館のことを聞いてみることにした。
「ねぇ、蓮と明人は朝に先生が言ってた洋館のこと、何か知ってる?噂とか…。」
恐る恐る尋ねると、珍しく明人が質問に答えた。
「あー、少しくらいなら聞いたことあるよ。最初は幽霊が出るって噂があってな。あれ以来、あの洋館は心霊スポットになってる。」
「心霊スポットか…。」
「けど、行方不明者が出るって言うのは多分最近じゃねぇか?今まであの洋館に入ったとしても生きて帰って来れなかったって話は聞いたことねぇし。」
「まあ、確かに最近じゃなきゃ先生も注意しないもんね。」
そう言い、音は少し考え込んだ。
(やっぱり、異変の可能性がある。ただの怪異か、逢魔図書館が絡んでいるかのどちらかだろうけど…調べてみる価値は十分にあるね。)
急に黙り込んでしまった音を心配し、蓮は声をかける。
「どうした、音?」
「あ、ううん。行方不明者が出てるって聞いて、心配だなって思っただけ。」
だから大丈夫、と音は伝えた。その後、何人かのクラスメイトにも聞いてみたがそのどれもが異変だと思わしき発言ばかりだった。一番多く言われたのはーー
『洋館の中で、黒いもやを見た』
という発言だった。
学校が終わった後、音は急いで黄昏図書館へやって来た。ツリーハウスの前の切り株に座って本を読んでいる管理人を見つけて声をかける。
「管理人、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど大丈夫?」
管理人は本を閉じ、音の質問に応じた。
「あぁ、大丈夫だよ。異変らしき噂の話かな?」
「うん、まさにそれ!」
音は今日、学校で聞いた話を全て管理人に話した。管理人はふむ、と一言言い、
「確かにそれは異変だろうね。逢魔図書館の連中が起こしている可能性は濃いだろう。奴らが関わっているなら神秘の異能書籍もそこにある可能性も捨てきれない。」
「やっぱりか…。」
「しかも行方不明者が出ているんだろう?その人たちは無事なのかも確認しなければならない。もしかしたら、奴らの手によって生きていないかもしれない可能性だってある。」
最悪の事態を想像し、音はゾッとする。
「管理人、どうする?僕的には今日行った方が良いと思うのだけど…。」
「そうだね。よし、今から出向くとしよう。これ以上被害者が増えるのは、こちらとしてもごめんだからな。」
いつものように時間停止を使い、音と管理人は黄昏図書館を出て現場へと向かった。
そして2人は、例の洋館に到着した。周囲はすっかり草木が生い茂り、外壁には蔦が巻き付いている。明らか人が住んでいないと一目で分かる。
「ここか。よし、入るぞ。異能書籍の準備は出来ているな?」
「うん、大丈夫。」
音と管理人は洋館の中へと足を踏み入れた。扉を開けると、中は真っ暗であった。外の明かりで辛うじて見える程度である。管理人がランタンを貸してくれたおかげで何とか安全は確保出来た。
「ボロボロだね…いつから人が住んでいないんだろう。」
「かなりの年月が経過しているのは確かだろうな。これだけ外も中もボロボロなら、心霊スポットになっていても不思議ではないだろう。」
管理人と話しながら廊下を進んでいると。2人の視界に黒いもやが映りこんだ。
「!…管理人、あれって!」
「怪異だな。僕らを誘っているのだとしたら、罠の可能性もあるが…どうする、音。」
「…罠に飛び込んでみよう。もしかしたら何かあるかも。」
ということで、怪異のいる方向に向かってみることに。怪異が出現した方向に沿って歩いていくと大きな扉の前に辿り着いた。
「異変の主犯の所まで案内してくれたのかな…?」
「だとしたらありがたいがな。行ってみよう。」
扉を開けると、そこはとても広い部屋だった。大広間と見て良いだろう。中に入ってみるが、誰もいない。
「誰もいないね。」
「あぁ。だが、何かおかしいーー」
管理人が言いかけた、その時。大広間の扉が勢い良く閉まった。2人はそれに気づき、扉を開けようとするも固く閉ざされて開かない。
「駄目だ、開かない!」
「やはり罠だったか!」
扉の前で右往左往していると、どこからか声が聞こえた。
「ごきげんよう、新しいお客様!」
「新しいお客様、ようこそ!」
「「私・僕たちの舞踏会へ!!」」
その声と共に、大広間の電気がついた。音と管理人は眩しさに目を瞑る。ようやく明るさに慣れて、目を開けた先にあった光景はーー
「「!?」」
大広間の床に、人骨が所狭しと置いてある様だった。大半は頭蓋骨なのだが所々に細かい骨や太い骨とある。音は目を見開きながら、
「管理人、これってもしかしてーー」
「あぁ。行方不明になった人たちの骨だろう。手遅れだったみたいだな。」
苦虫を嚙み潰したような表情で言う管理人。そんな管理人の言葉に呼応するようにまたあの声が聞こえた。
「そうだね~。キミたちがもう少し早く来ていたら、皆助かってたかもね~。」
「キミらがこの尊い命たちを切り捨てたんだよ。この骨たちも可哀想にね。」
その声と共に、二人の人物が姿を現した。幼い少女と少年。2人は左右で色の違う目をしていた。
「お前たち…逢魔図書館の連中か!」
管理人が声を荒げる。だが2人は動じず答える。
「大正解!よく分かったね~。まあキミたちなら分かるよね、当たり前か!」
少女はそう言ってケラケラ笑う。そんな少女に隣にいた少年が話しかける。
「油断は禁物だよ、アン。こいつら、あの黄昏図書館の連中だ。」
「分かってるわ、メオ。私たちのことを逢魔図書館の連中、って呼ぶってことはそういうことだものね。」
会話から察するに少女はアン、少年はメオ、という名らしい。音は問いを2人に投げてみる。
「アン、メオ。神秘の異能書籍を持っていたら、僕らに返して欲しいのだけど。」
それを聞いて、アンはまた笑う。心底楽しそうに。
「キミたちの探し物は確かに持ってるよ。でもさ、私たちがそう簡単に返すなんて思ってる?」
「返してくれないことは分かってたよ。これは交渉のつもりだったけど、交渉決裂だね。」
そう言い、音は異能書籍を手に臨戦態勢を取った。
「今の、交渉だったんだ~。てか、返してくれないことが分かってたんならやらなくても良かったんじゃない?」
「賭けてみたんだよ。キミたちなら話が通じると思ったから。」
音の返答を聞き、アンはふーん、という表情になった。
「私たち、相当舐められてたんだね。じゃあ、キミたちを全力で叩き潰すことにしようかな。メオ、あれ出して。」
「うん。」
アンに指示され、メオはどこからか白い光を放つ異能書籍を取り出した。異能書籍がメオの手を離れて宙に浮いた。
「神秘の異能書籍…!」
音が呟くと、アンは笑顔に戻り言う。
「その通り!キミたちの探し物だよ~。では、そんな大事な探し物にこれをトッピングしたいと思いまーす!」
そう言ってアンが取り出したのは、何時ぞやの怪異の素だった。アンは怪異の素が入った小瓶の蓋を開け、神秘の異能書籍にぶちまけた。その結果は…言わずもがなである。神秘の異能書籍を黒い渦が包み込む。それを媒体に巨大な怪異が誕生した。
「さあ、私たちの可愛いペットちゃん。あの2人を…やっておしまーい!」
その言葉を受け、怪異は音と管理人に真っ直ぐ向かって来る。音は異能書籍を開きオーエンを召喚した。
「霧のように消しつくせ、U.N.オーエン!」
オーエンは銀の鎌を手に怪異へ特攻していく。手始めに怪異の足を切る。怪異はよろめきうずくまるが、すぐ足を再生して立ち上がり、オーエンに対して弾幕を飛ばした。無論、鎌の斬撃が弾幕を全て消し飛ばしたが。それでも諦めずに怪異は弾幕を放って来る。管理人はそれを見て、
(オーエン1人で対処が追いつかなくなれば大変だ。ならーー!)
「さあおいで…アリス!」
状況を判断し、自身もアリスを召喚した。アリスは槍を構え怪異に向かっていく。怪異の背後に着き、大きく振りかぶって槍を振り下ろす。頭から斬撃を受けた
怪異は体制を崩してそのまま倒れ込んだ。その様を見て、アンは楽しそうに言う。
「へぇ。あの2人やるじゃん。名無しの管理人と、ユーマと同じ人間、か。なかなか面白いじゃない。」
それとは正反対に、メオはしかめっ面で言った。
「僕は面白いとは思わないよ、アン。あの2人は僕らの回収作業を邪魔する悪人だ。見ていて不快でしかないね。」
メオの言葉を聞き、アンは笑って
「それは否定しないよ。ただーーあの2人にはペットちゃんを倒すことなんて出来ないよ。だって、私たちが作った怪異の素から生み出された怪異は何度傷をつけても、傷つけられた所から再生する特殊な子だからね。勝ち目なんてないよ。」
そう言ってメオに微笑みかけた。
一方その頃。音と管理人は苦戦を強いられていた。何度切っても刺しても再生する不可思議な怪異に2人揃って頭を悩まされる。管理人はどうしたものかと思い始めていた。
「どうする、音。このままでは無限ループ不可避だぞ…。」
そう言う管理人に対し、音は
「大丈夫だよ、管理人。僕に任せて。」
そう言って1冊の本を見せる。どうやら黄昏図書館から持って来ていたようだ。何の変哲もない紫色の本だが、管理人はピンと来たらしい。
「…なるほどな。それなら突破口が見えるかもしれない。頼む!」
「了解、任された!」
音は怪異の前に立ち、異能書籍を開いた。
「安らかな眠りへ誘え、眠り姫!」
音の呼び声に応じ、淡いピンク色のドレスを着た女性ーー眠り姫が顕現した。眠り姫は両手で持った薔薇の花を怪異へ近寄り、すっと差し出した。すると、怪異は何かに取り憑かれたかのように眠り姫が差し出した薔薇に触れた。次の瞬間、怪異は足元がおぼつかなくなりふらふらとしている。しまいにはうつらうつらとしているではないか。それを見たアンは
「ペットちゃん!?何してるの、早く再生して!?」
そう叫ぶも、怪異は一向に通常の状態に戻らない。それどころか床に寝転がり眠り始めてしまう。そんな怪異の様を見て、アンの顔が青ざめる。
「嘘、でしょ…?」
絶句するアンに対し、音は言う。
「傷つけるのが駄目なら、傷つけずに倒す。そういう方法を取っただけだよ。眠り姫の薔薇の花は特殊でね。花の中心に針があるんだけど、その針に触れてしまうと眠りについてしまうんだ。これは傷をつける、という行動に入らないよね?」
それを聞いてアンは手を強く握りしめて俯き、メオは悔しさを滲ませた表情で音たちの方を見ている。
「さて、怪異も倒しやすくなったし…トドメだ。オーエン、叩き切れ!」
「援護しろ、アリス!」
眠りについている怪異の首をオーエンが切り、腹をアリスが串刺しにする。怪異は声を上げる間もなく絶命した。黒いもやが解け、神秘の異能書籍が姿を現した。音はそれを回収し、管理人に手渡した。
「今回も、異変解決だな。」
「そうだね。無事に解決出来て良かった。」
そう言って2人は笑い合うのだった。その姿を遠くから眺めていたアンとメオはーー
「次こそは…!」
「そうだね、次こそは…亡き者にしてやろう。」
と言い残し、姿を消した。
「逢魔図書館にある本を除けば、あと3冊か。早いものだな。」
その後。黄昏図書館に戻って来た音と管理人は、石板に神秘の異能書籍を置いた。図書館の空気が変わる。以前よりも柔らかく温かい。
「少しずつ平和になっていくのを感じるよ。この調子でいけば、完全に元に戻る日も近いだろう。」
「そっか。それなら頑張る甲斐があるよ。」
音はそう言って管理人に微笑みかける。管理人もまた笑って
「これからも頑張ろうな、音。2人でここの平和を取り戻すんだ。」
「うん、もちろん。」
そう言って、2人は天を見上げるのだった。
その頃、逢魔図書館ではーー
「アンとメオが、神秘の異能書籍の回収に失敗した。今後はあの2人には任せてはおけない。次はお前の番だ、アリシア。」
「承知致しました。レディの仰せの通りに。」
レディの指示により、新たな刺客が放たれようとしていた。




