本編 3話
「ユーマ。お前、それは真の言葉なんだな?」
「はい。この目ではっきりと見ましたので、間違いありません。」
レディの疑いの眼差しを受けながら、ユーマは確かにそう告げた。レディは考えを巡らす。
(そんなこと、あり得るはずがない。まさか…“奴”が封印を破ったか?いや、そんなはずはーー。)
そう思いつつも、レディは次の言葉を放った。
「これは私の考えだがーー“奴”が復活したかもしれない。」
「!…そんなまさか!だって、“あいつ”は確かに封印されたのですよ?」
ユーマは驚きを隠せない様子で言う。だがレディはそんなユーマをスルーして、
「とにかく、だ。“奴”が復活したのであれば、またあの悲劇が起こりかねない。故に何としてでも、黄昏図書館の連中の計画を阻止しなければならない。神秘の異能書籍は、現状1冊は向こうの手に渡っているのだな?」
「はい。次の書を見つけるのも時間の問題かと。」
「ならば阻止しなければならないな。ユーマ、行けるか?」
レディはユーマに向かうよう指示した。ユーマは片膝をつき、左胸に手を当て礼をする。
「勿論。レディの仰せの通りに。」
「そうか。頼んだぞ。何としてでも神秘の異能書籍を取り戻せ。」
「承知。」
そう一言告げ、ユーマは立ち上がり人間界へと向かった。
その頃。人間界ではーー。
「蓮、足の怪我治って良かったね。」
「おう、ありがとな。明人も心配かけてすまなかった。」
「本当にな。もう無理するなよ。」
登校途中の音、蓮、明人の姿があった。蓮の足の怪我が無事に完治し、両親から学校へ行くことの許可が降りたとのことで今日は3人で学校に行こう、ということになったのだ。
「今日はクラブ活動ある日だよな?ということは…。」
「うん、またポスター作りだね。」
「そうかぁ。まあそうなるよなぁ。」
頭を抱えだす蓮を見て、明人は
「頑張れよ、読書クラブ。俺もサッカークラブ頑張らせてもらうんで。」
「おうよ、明人も頑張れよ。てか、もう試合近いんじゃなかったか?」
「あー、うん。あと1ヶ月ちょいかな。」
「音と二人で応援行くからな。絶対勝てよ?」
そう言って蓮は笑顔を見せる。明人も
「分かってるって。良い結果を見せるから、期待してろ。」
と笑った。音も応援の言葉を送る。
「頑張ってね、明人。」
「おう。音もありがとな。蓮と見に来いよな。」
勿論、と音は笑顔を返した。
そんな3人を、いや正確には音を物陰から見る人物がいた。
「あいつが、『黄昏図書館の者』か…。」
「おはよう、皆!さあ、席に着け~。ホームルーム始めるぞ~。」
音のクラスへ、職員会議を終えた担任教師が入室してくる。出席を取り、今日の予定やお知らせ等を告げる。
「さて、最後のお知らせなんだが…今日から皆と一緒に過ごす、転校生を紹介したいと思う。」
その言葉に、クラス全体がざわめく。蓮は音に耳打ちする。
「珍しいな、転校生なんて。」
「確かに。どんな人なんだろうね。」
音たち以外にもこそこそと話すクラスメイトは大勢いたが、担任教師がそのざわめきを抑えた。
「静粛に。それでは紹介させてもらおうか。入っておいで。」
担任の言葉に応じ、部屋のドアが開く。入って来たのは、黒髪の青年だった。制服をきちっと着てスラックスのポケットに手を入れて歩いている。そして彼は担任の隣に立った。
「今日からこのクラスに転校して来た夜使野悠真くんだ。皆、仲良くしてな。」
「よろしく。」
その青年、悠真は深々と礼をする。
「夜使野くんの席は…雨宮くんの隣でお願いしても良いかな?」
担任の問いに対し、悠真は笑顔で答える。
「はい。ありがとうございます。」
そう言って、音の右隣の空いた席へ座った。そして悠真は音に話しかけた。
「よろしく、雨宮くん。」
「あ、よろしくね、夜使野くん。」
仲良くなれると良いな。音はそう思うのだった。
昼休み。音は蓮と明人と集まっていた。いつものように、購買に昼ご飯を買いに行くことにしたようだ。いざ向かおうとした時。音は悠真が一人でいるのを見て話しかける。
「夜使野くん、良かったら僕たちと一緒に購買行かない?」
「え…良いの?雨宮くんたちの邪魔にならない?」
そんな悠真の言葉に、蓮は
「そんな細かいこと気にすんなって。夜使野も…いや、悠真ももうこのクラスの一員なんだからさ。」
と笑顔で答えた。明人もそれに続く。
「一人でいるよりかは、誰かといた方が楽しいだろ?良かったら、俺らのグループに入ってくれよ。一緒に騒ごうぜ。」
「!…ありがとう。えっと…」
「あ、ごめん名前教えてなかったよな。俺は谷川蓮。蓮で良いぞ。」
「四ノ宮明人。明人で良い、よろしくな。」
音だけでなく、蓮と明人も悠真と関わってくれた。そんな光景に、音は安心を覚える。それは悠真も同じだったらしい。安心したような表情で答える。
「うん、よろしく。蓮くん、明人くん。」
「良かったら、音のことも苗字じゃなくて名前で呼んでやってくれよ。その方が堅苦しくなくて良いと思うし。」
「あ…うん、分かった。じゃあ、改めてよろしくね、音くん。」
「うん、こちらこそよろしくね、悠真くん。」
ーーその日から音たち3人と悠真は行動を共にするようになった。さらに悠真は音と蓮がいるならと、読書クラブにも入ってくれた。聞けば悠真も本が好きと言うではないか。それをきっかけに、音と悠真は意気投合した。
「…ってことがあってさ!」
音は悠真とのことを管理人に話した。すると、管理人は神妙な顔つきになってしまった。
「管理人…?」
「あぁ、いや…その悠真という少年に少し引っかかる所があってな。」
「そうなの?」
聞き返してみると、管理人はまた考え込んでしまった。音は思わず首を傾げた。
「ごめんね、音くん。本、一緒に探してくれてありがとう。」
「良いんだよ。気に入っている本が見つかって良かったね。」
数日後。音は悠真と二人、古本屋にやって来ていた。悠真が気に入っている本を一緒に探しに来たのだ。その本が見つかったため、購入して帰路についている。エレベーターを使い古本屋のある総合ビルの1階のエントランスホールへ2人は降りて来た。
「もうこんな時間。帰ろうか。」
音は出口に向けて歩き出す。だが悠真はその場に立ち止まり、音に向かって言い放った。
「…いや、生きては帰さないよ。そうだろ?『黄昏図書館の者』!」
「!?どうしてキミがそれを知ってーー」
そう言いながら振り返ると、黒い怪異が姿を現していた。
(ヤバい、対処が…!)
間に合わないーーそう思った、次の瞬間。
「アリス、怪異を全員消せ!」
「異能発動ーー時間停止!」
聞き覚えのある声が聞こえた。音が目を開けると、
「管理人!」
「ギリギリセーフだったな、音。」
管理人が立っていた。音に向かって笑顔を向け、悠真を怒りを含んだ表情で見つめる。
「さて、どういうつもりなのか説明してもらおうか。『逢魔図書館の者』!」
「管理人!何言ってるの?悠真が『逢魔図書館の者』だなんて、ありえない!」
音がそう言うと、悠真は
「あははは!流石は黄昏図書館の管理人だ。よくぞ僕の正体を見破ったね。褒めてあげるよ。ということで、改めて挨拶させてもらおうか。僕はユーマ・エリウス。逢魔図書館の幹部さ。まあ、『逢魔図書館の者』と覚えてくれてたならそれで良いよ。」
と、嬉しそうに話し出す。音はその言葉にショックを受ける。
「嘘だよね、悠真…?だって、僕とキミは友達だろ?」
ユーマはため息をつくと、音へ言い放った。
「僕と?キミが?友達?冗談はよせよ、『黄昏図書館の者』。」
「!」
「僕がキミに近づいた目的はただ一つ。神秘の異能書籍を取り戻すためさ。元々あれは僕らの物なんだ。だから返して欲しいんだよね。」
ショックに打ちひしがれる音を庇うように、管理人は前に出る。
「僕らの物?ふざけたことを言うのもいい加減にしろ。元々は黄昏図書館の所有物だ。寧ろこっちが返して欲しいくらいなのだけど!?」
と異議を唱える管理人を見下ろしてユーマは言う。
「でも、ごめんね管理人。僕、今持ってるんだよね。神秘の異能書籍。」
そう言うと、先程買った本の表紙カバーを外す。すると、純白の綺麗な本が姿を現した。
「まさか…!ここにあるの知っていたの?」
音はユーマに問う。ユーマは答えた。
「うん、知っていたからここに来たんだよ。“あいつ”の封印後、僕らが持ち去ったと聞いているだろうけど、真実じゃないんだ。」
「え…それってどういう…?」
「“あいつ”ーーロスト・ブックの封印後、彼女の姉であるエヴァー・ブックが神秘の異能書籍を人間界にばら撒いたんだ。ロスト・ブックが自力で封印を破って復活した時に備えて、簡単に見つけることが出来ないようにね。僕らはその回収係、みたいなものさ。」
「…。」
その言葉を聞いて、管理人は黙り込む。そんな管理人の様子を見てユーマは管理人へ問いを投げる。
「名も無き管理人さん?キミがエヴァー・ブックなら、そのことを知っているはずだろ?でも、オトには噓偽りを教えた。キミ、本当はーー」
「…黙れ!」
管理人が声を荒げ、ユーマの言葉を遮る。鋭い眼光でユーマを睨み、
「僕は、黄昏図書館の管理人!エヴァー・ブックの意思を継ぎ、あの図書館を守る者だ!誰が何と言おうとな!」
「!…管理人…!」
音はそう言い切った管理人の背を見て、何かを決めたように立ち上がる。
「悠真…いや、ユーマ・エリウス!神秘の異能書籍、返してもらおうか!」
そう叫ぶ。ユーマは一瞬驚きの表情を見せるも、すぐに余裕そうな表情に戻って
「そう来るか、良いだろう!相手になってやろうじゃないか!」
そう言うと、どこからか謎の黒い液体が入った小瓶を取り出し、神秘の異能書籍の上に乗せて叩き割った。じわじわと黒い液体が表紙に広がっていく。
「あれって、まさか!」
「あぁ、察しの通り怪異の素だよ!清廉潔白なこの本は汚され、怪異となるのさ!」
そしてユーマは本を宙に放った。すると黒い渦が本を取り込み、巨大な怪異となった。
「!!!!!」
音と管理人を威嚇するように怪異は吠え、そして分裂した。
「管理人!」
「あぁーーやるぞ、音。」
二人は異能書籍を取り出し、臨戦態勢に入った。それぞれ異能力を発動する。
「さあおいで…アリス!」
「霧のように消しつくせ、U.N.オーエン!」
音の元にはオーエンが、管理人の元にはアリスが顕現する。ユーマはというと、ため息をついて
「これ、僕もやらないといけない感じか…面倒だけど、さっさと終わらせるか。ーー主よ、彼らの罪を裁き給え。…罪と罰!」
異能書籍を開いた。手錠のついた鎖を持った黒き怪人が姿を現し、ユーマの後ろに控えた。
「…皆、あの二人を倒せ。再起不能にしてしまえ!」
ユーマの声が響き渡る。その瞬間、怪異と怪人は同時に音と管理人に襲い掛かった。
「音はあの怪人を!僕は怪異を全員始末してから合流するから!」
「分かった、任せたよ!」
音と管理人は二手に分かれて行動すると決めた。管理人は怪異を引き付けるように背を向けて走り出す。そして広い場所に出ると、振り返りアリスに指示を
送った。
「アリス、薙ぎ倒せ!」
管理人の指示を聞き、アリスは怪異の集団へ向かって槍を向けた。そして槍を回し竜巻を起こす。それにより、怪異たちは吹き飛ぶーーはずだった。怪異たちは吹き飛ぶどころか、寧ろ耐えているではないか。
「は!?嘘だろう!?」
管理人が驚いている間に、怪異たちは弾幕を飛ばして来た。それは管理人を庇って前に出たアリスに直撃した。
「アリス!!」
アリスはその衝撃により消滅してしまった。衝撃波によって管理人は吹き飛ばされ、壁に衝突し意識を失った。
その頃。音もまた、相手に苦戦していた。オーエンの斬撃もひらりと交わすものだから、どうしたものかと思いつつ戦っていた。すると背後、すなわち管理人が戦闘を行っている位置から大きな衝突音がして、音は思わず振り返る。
「管理人!?」
その行動がいけなかった。シャキンと何かが切れた音がして振り返ると、怪人がオーエンの首を大きなハサミで切り落としていた。オーエンはそのまま消滅してしまう。
「え…。」
反応する間もなく、音もまた衝撃波で管理人と同じ場所に吹き飛ばされてしまった。壁に衝突する寸前に受け身を取ったためあまりダメージがなかったのは不幸中の幸いであるが。だがしかし、2人揃って満身創痍となった。そんな音と管理人を見て、ユーマは笑う。
「無様だね。その程度で神秘の異能書籍を取り戻せるとでも?そう思っていたのなら、キミたち相当頭がお花畑なんだね。たかが1冊取り返せたからって、思い通りに行くと思わない方が良いよ。」
ユーマがこちらを見下すように見た。音はふらつきながらも未だに意識を取り戻さない管理人を庇うように前に出る。
「キミ、もう動けないでしょう。なのにまだ抵抗するの?」
「…当たり前だろう…まだ、終わってない、神秘の異能書籍を…返せ!」
息も絶え絶えに言う音を、ようやく意識を取り戻した管理人が引き止めた。
「音、もう良い…ここは僕たちの負けだ。今回の所は譲ろう。」
「管理人…だけど!」
「良いから。」
管理人の言葉に、音は言葉を失って項垂れる。管理人はいつの間にか神秘の異能書籍を回収したらしきユーマを見て、
「今回は僕らの負けだ。それは好きに持って行け。但しーー」
そう言うと、管理人は鋭い眼光でユーマを睨み言葉を続けた。
「いつか、その1冊を取り戻してみせるからな…?」
それを見たユーマは一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに余裕のある笑みになって
「フフ、出来ると良いね。…改めてありがとう、黄昏図書館の諸君。目的も達成したし、僕はこれにて失礼するよ。」
そう言って立ち去ろうとするが、音に近づき管理人に聞こえないように耳打ちする。
「そうそう。彼女に…管理人には気をつけるんだね。彼女、何か企んでいるだろうから。」
「!」
音は顔を上げ、ユーマを見る。ユーマは振り向き
「忠告はしたからね。これはかつてキミの友だった『悠真』からの気遣い、とさせてもらうよ。じゃあね、オト。もうキミと会うことはないだろうけど、元気でね。」
「待って、ユーマ!」
音の引き止める声も聞かず、ユーマはどこかへと姿を消した。時間停止の異能も解除され、元に戻ったその空間には呆然として涙を流す音とその背中にそっと寄り添う管理人の姿だけが残された。
その後。音はどうやって家に帰ったか覚えていないが、気がつくと自室のベッドに横たわっていた。空腹を覚え、リビングへ降りようとした時。机の上に一枚のメッセージカードが置いてあることに気づいた。何だろう、と思いながら音はそのメッセージカードを見る。そこにはこう書いてあった。
『オト、今までありがとう。短い間だったけどキミとの友情ごっこは楽しかったよ。 ユーマ』
ユーマからであった。いつ置いていったのかも分からない。けれど、これはーー
「…『悠真』としては最後の振る舞いってことか。」
これからはユーマ・エリウスとして彼は自分たちの前に立ちはだかるのだろう。音は
(ならなおさら、負けるわけにはいかない。残る神秘の異能書籍はあと4冊。この4冊だけでも守らないと…!)
そう決意する。窓から空を見上げる目に、もう迷いなどなかった。
その頃、逢魔図書館。ユーマはレディの元へ帰還していた。
「レディ。戻りました。」
「おお、戻ったか。神秘の異能書籍は取り戻せたか?」
「はい、こちらに。」
ユーマは神秘の異能書籍をレディに手渡す。レディはそれを受け取り、
「よくやった。ユーマだけに任せて悪かったな。次は別の幹部に行かせる。…アン、メオ!」
「「はい。」」
レディの呼び声に応じ、2つの人影が姿を現した。
「次はお前たちが行け。向かわせる時に合図を送る。それまで待て。」
「はい、レディの仰せの通りに。」
「必ずや期待に応えてみせます。」
暗闇に、それぞれのオッドアイが光っていた。
翌日、学校にて。朝のホームルームで悠真の転校が知らされた。緊急ということだった。あの時と同じく、教室にざわめきが起こる。
(皆の反応は当然だろうな。ユーマ、皆とだいぶ打ち解けてくれてたのに。)
そう思いながら右隣の空席を横目で見る。全てを知っている音だが、やはりそう思わずにはいられなかった。
ーー少し悶々とした気持ちを抱えながらだったが、音は学校での1日を終えた。今日からテスト勉強週間のため、クラブ活動が休みの期間に入った。音は図書館で勉強する、という口実でマルノイ市図書館へやって来た。人気のない場所にある本棚の前に立ち、管理人が行っていた方法で黄昏図書館への鍵を開ける。周囲に誰もいないのを確認して本棚を動かし、中へと入って行った。
「管理人?」
声をかけるも、管理人は姿を現さない。外にいないということはーー
(ツリーハウスの中かな?)
黄昏図書館の中央に、でかでかとそびえ立つツリーハウス。管理人はここを『自分の家』だと言っていた。外にいなければ、大半はツリーハウスにいるからと以前本人が言っていたのを思い出す。音は試しにツリーハウスのドアをノックしてみる。
「管理人?音です。」
そう声をかけると、自然とツリーハウスのドアが開く。そこには、いつもより元気のない管理人がいた。
「大丈夫?元気なさそうだけど…。」
「あぁ、うん。ちょっとね。ここじゃ立ち話もあれだから、家入りなよ。」
そう言って、音をツリーハウスの中へ招いた。
「アップルティー。僕、好きなんだ。音は紅茶は嫌いかな?」
「ううん。大丈夫だよ、ありがとう。」
音に紅茶と焼き菓子を提供し、管理人は音の向かい側に座り、ぽつりと言った。
「心配かけたな。」
「なんもだよ。やっぱりこの間のこと、引きずってるんじゃないかとは思ったけど…実際はどうなの?」
「…今、音が言ったことが全てだよ。」
そう言い、管理人はまた俯く。
「僕は…エヴァーから全てを任されたのに、守りきれなかった。そんな自分が情けなくて。」
その気持ちは、音には痛い程分かる。もっとユーマを警戒しているべきだったのにと、あの日帰ってから思っていた。だがーー
「…管理人。僕が今思っていること、聞いてもらって良いかな?」
管理人は微かに顔を上げる。音は真剣な眼差しで管理人を見る。
「僕、あの後ずっと引きずってたんだ。もっとユーマを見ていれば、とかもっと僕が強ければ、とか。色々考えてた。でも、僕らには立ち止まっている時間はないんだってその中で気づかされたんだ。この先も、逢魔図書館の連中は僕らの計画を阻止しようとしてくる。その度に挫けていたら駄目なんだってことにもね。だから、僕らは強くならなければならない。神秘の異能書籍を守るために。」
そこまで聞き、管理人の目に徐々に光が戻って来る。音は続けた。
「だから…一緒に強くなろう、管理人。約束したでしょう、一緒に守るって。」
「音…。そうだね。挫けている場合じゃないよな。」
管理人は涙を拭き、音の方を見た。その表情には希望が戻っていた。
「ありがとう、音。僕も、大切なことに気づけたよ。」
「管理人…!」
「これからも頑張ろう。逢魔図書館の連中に、負けないために。」
「うん!」
音と管理人は、改めて強くなることを誓ったのだった。




