17話「悋気嫉妬」
『ウーマン・ドントクライ』
部長は仕事が出来る女、俗に言うシゴデキと言うやつだ
何をやらせても超一級品!
隙のないロボットの様なキャリアウーマンなのだ。
プライドを掲げさせたなら右に出る者はおらず、
正に英雄、正真正銘みんなのヒロインなのだ!
「きゃぁぁぁ──────!!!」
「なんだ!!」
「外を見て!!」
「なんだあれはっ!?」
「……宇宙人よ部下君!」
「宇宙人!?」
「部長...あなたは一体!?」
「そうだ!僕らには部長がいる!」
「部長!宇宙人共をやっちまってください!」
「ダメだ!部長あなただけでは……ッ!!」
「この戦いが終わったら……部下君、会議室で話があるわ」
「いいわね?」
「っ...!行ってらっしゃい部長!!」
「いつまでも…あなたの帰りを待っていますっ!」
──────紆余曲折etc
「部長ッ!」「部長ッ!!」
「ッ!……部下……君?」
「部長!こんな所であなたを...失いたくない!」
「……わたし...どうやらもうダメみたいね……」
「こんなのって!人類の損失だ!」
「聞いて部下君……私実はね……」
「部長……もう喋らないで、傷口が……」
「あのね最後にあなたに伝えたい事が……」
「喋らないでっ!!!」
「え……?……チョット?……」
「くそっ!なんだってこんな事にっ!」
「アノ...キイテ?ジカンガナイカラ……」
「やっと……受付ちゃんと付き合って二年目!今年結婚だって言うのに!」
「……ェ?」
「部長にスピーチを任せたかったのに!」
「…………ソンナ」
「……部長ッ部長!!」
……ガクリッ
「部長──────ッ!!!」
──────デデデっデデン!♪デデデっデデン!♪
〜END〜
「ひゃ〜……涙ちょちょぎれるかと思ったよ!泣」
「いやいや...いやいやいや!……ないでしょう?」
放課後の空き教室、部活動に勤しむという建前を掲げ取り敢えず集まってみた。
集まってはみたものの、待てど暮らせど依頼が来ることは無くただ時間ばかりが過ぎていく。
そんな折、平八重さん提案の元巷で話題の恋愛映画を鑑賞しようという話になり、現在に至る
教室の中央不自然に二つ置かれた椅子に、片方は僕。
もう片方はお気に入りのメロンミルクを飲みながら浅く腰掛ける平八重さん。
「こんなもの見てしまったらっ……質の良い恋愛を見て上書きしないと、とても眠れないじゃないかっ!」
「え〜…良かったじゃん!」
「特にバトルシーンの『部下を守る為に上司は居るの!...これも仕事...いいえ!個人的な愛よっ!』ってところ」
「そこが1番の鳥肌モノでしたよ...」
上司と部下のラブストーリー。
よくある題材ではあるがその全てに余計な味付けがされているせいでゲテモノの様に全ての展開に飲み込み辛くとても嚥下出来ないモノがあった。
飲み込むことすら叶わないのに胃もたれとも消化不良とも取れる不快感は確かに与えてくる…。
この作品は紛うことなき稀代の迷作だろう。
「そうそう...映画を見終わってから話そうと思ってたのですが...」
「どうやら吹寄君の少女趣味を吹聴して周った者が居るみたいなんですよ」
「………なんでこっち見てるのかな初恋君」
「いえ、吹寄君のドMお馬様な一面は既に周知の事実なんですが…彼の少女趣味に関して知っているのは実はこの学校に4人しか居ないんですよ」
「へっ...へぇ〜そうだったんだ、知らなかったよ...」
推理する様に、顎先に手を当て容疑者の周りをクルクルとわざとらしく踵を鳴らし用もなく回ってみる。
目の前の彼女の頬には見てわかるほど大粒の汗が見て取れる。
「あっ…今日急いで帰らなきゃな日だった、お店のお手伝いしないと!またね初恋君!」
「ヴッ──────エッ!?」
掴まれた襟首で首が詰まり、思わず汚らしい声が漏れでる彼女。
「平八重さん、心当たりはありませんか?」
「私じゃないよっ?!ホントのホント!」
「...ふむ、だとしたら一体どこから漏れ出た情報なのでしょうか?」
「私でも、初恋君でもないとするなら、白石さんか弓月本人しかいないよね...」
「観測者側の僕からすると、彼らには質よく長く付き合ってもらわなければいけません。その道程を目一杯楽しませて頂きたいですからね」
「うんうん、全くその通りだね!」
「.....はぁ」
「ってあれっ?...まだ何か疑われてる...?」
「その件はどうやら潔白そうなので良いんですが、平八重さんに一任していた依頼に関して、依頼人に適当なアドバイスするの辞めてくださいよ...」
平八重美里が加入したこの部活。
彼女の集客力はブランド掃除機さながらの物で凄まじく、依頼の数も日増しに増えていっている。
しかしどの依頼も何でも屋と勘違いした下らない物ばかり。
時折あるラブレターの代筆や告白代行と言った小粒な依頼は平八重さんに担当させるのだが、そのどれもで無知ゆえに頓珍漢な行いを披露しては周囲を困らせている。
困らせて居る……のか?
「いいじゃんっ!結局皆らっぶらぶに結ばれてるんだからっ!!」
結果とは裏腹にやや不機嫌に言葉尻の強い彼女。
事実、平八重美里の頓珍漢で適当なアドバイスはそのどれもが何故か確実な成果を出している。
彼女が担当した依頼、そのカップルはいい加減なアドバイスとは裏腹に須らく固い絆と愛で結ばれ今では彼女は愛のキューピット呼ばわり。
無意識とはいえ一見悪意に満ちた暴挙でかき乱す彼女。
結果はどうあれその実態は真っ黒な悪魔か白いキューピットか。
白か黒、まるで本当にホルスタインの様だ。
ホルスタインの悪魔、平八重美里が爆誕。
「ラブレターの代筆に『果たし状』はないでしょう…相手方が互いに武士に精通する方だったから良かったものの」
「本当だよね〜…でもでも同じ趣味から始まる交際なんて素敵じゃないかな!?」
「あっ...それとも決闘状にでもすれば良かったかな?」
「決闘状も挑戦状でも、依頼人の彼等なら上手くいったでしょうね…」
現状滞り無く上手くいっている以上は余りしつこく追求する事もあるまいと、やや諦めにも似た感情で引き下がる。
安堵したように胸を撫で下ろした彼女は手元のジュースを、飲み終えると慣れた手つきでゴミ箱へとシュートを決める。
「さて...活動実績は最近の僕の活動と平八重さんのおかげでどうにかなりそうですね」
「部員は僕と平八重さん...最低人数まであと一人これに関してもおおよそ目処は立ってます」
「でも何よりも、顧問が見つからなければその全てが無意味です」
「この顧問の確保が最も厄介な問題でして……」
「その件なら大丈夫!もう既にして手回し済みだよっ!」
「...ほんとですかっ!?」
「うん!え〜っとね今3人仲が良い先生に相談してるところなんだ」
「なんて有能な...けれど実は既に一通りこの学校に在籍している教師陣にはお声がけしているんです...なので今回も期待するのはまだ早いかもしれません...」
「部活なんてなくったって『俺が居る場所がこの部活だ!』って初恋君なら言いそうだけれど?」
「僕そんな熱血キャラでした?」
「それにその時とは状況も、色々と何もかも違うでしょ?ナイーブになるのは早いよ初恋君!」
「泥船に乗ったつもりで期待しててよっ!」
「沈みゆく運命ではないですか...」
その後他愛のない会話を幾つか啄み、今日の本題、急遽舞い込んだ依頼について話を進めていく。
今回は彼女からの持ち込み依頼、最近何やら話題と問題になっているらしい事案。
「クラス投票、〇〇な奴ランキング?」
ヒュードンドンパフパフ〜なんて囃し立てる安っぽい音が脳内で聞こえてくる。
「今っ!1年の全クラスの皆が入っているチャットで匿名で投票出来るランキングが流行ってるみたいなの!」
「それも、こういう邪なランキングがね」
「え〜と彼氏の周りにいて欲しくない女ランキング一位...平八重美里!?」
「これはっ!?ふむ......とても的を得てますね」
「そうっ!って酷くないかな!?」
自分だったなら一位には迷わず白石萌心を選んで継いで二位に平八重美里は譲れない。
このランキングに至っては皆が同じ観点と視点から投票していると察する事が出来る為何度計測し直しても結果は凡そ同じ物となるだろう。
「面白おかしいランキングで最初は盛り上がってたんだけど...」
「このランキングにね、特定の誰かを辱める様なランキングが沢山あるの...クラスの女の子達からどうにかしてくれーって」
「そう言う事でしたか、これは確かに友人恋人その他問わず、積み上げた関係に亀裂を入れてしまいそうなものですね...」
「他者からどう見られているか、友人間においても、恋愛においても、この世間体という物はかなり重要な項目なんです」
例えば、好きな相手があるランキングで上位にランクインしたとする。
当たり障りない物であれば気にも留めないが、それが周りからの評価や意中の相手からの評価を左右する物であった場合、もし間もなく結ばれるはずだった相手がいた場合それは確かな障壁となる。
評価最悪な相手と付き合えばもれなく自分の評価も地に落ちてしまう。
積み上げた関係値は最悪振り出しに戻り、取り返しがつかない、修復不可能なんて事も有り得る。
また匿名である事から内容によっては近しい関係の者を疑う事になり、疑心暗鬼にもなり得る。
「根も葉もない物から、なんだか不名誉な決めつけまで沢山あるからねっ!なんだか許せないよ!」
「なんとも学生らしい...一昔前の学校裏チャットみたいな物ですかね」
「そういえば、このチャットには学年の全員が入ってると仰いましたね」
「え…?うん一応そのはずだけど」
「それは妙ですね...」
「えっ...なにもしかして何か早速気づいたの?」
「えぇ...」
「それ、僕誘われてすらいませんね…」
「あっ...」
学年の全員が参加しているというグループチャット、しかし強制力の無いプライベートな物である為僕同様に参加していない者も多数いる様子。
しかしグループチャットに記載されているアカウント数、その数はクラスの人数よりも遥かに多い。
複数アカウント持ちがいるか、或いは紛れ込んだ第三者か。
少なからずこの中に悪意を持ってランキングを作っている物が居るはず。
「なんだか悪い事しちゃったかな…ごめんね?」
「いえ…こんな事で傷つくタイプじゃ無いので大丈夫です…ほんと、ほんとに」
決して悲しい訳では無いのだが、ヨシヨシと優しく背中をさすられると思わず涙が出そうになる。がグッとこらえる。
「このグループチャット、招待してもらうことは可能ですか?」
「うん、丁度そうしようと思ってた所だよ」
彼女の招待を受けグループへと入室する。
簡単な挨拶を送ると数人挨拶を返してくれる。
優しい世界。
「取り敢えず、依頼内容はこのランキングを作っている人とその目的を突き止めるといったところですかね」
「うん!そしてなにより皆の恋愛を、仲良しな関係を守ること!」
「分かりました。では先ずは放課後、彼等に話を聞いてみましょう」
「えっと......彼ら?」
──────────────────
「こんにちは吹寄君と白石さん」
「こっこここ…こんにちは〜、どうもお邪魔します〜...」
喧騒の波が砕けた教室内、夕日の差し込むノスタルジックなそこには彼等二人だけが残されている。
「おぅ初恋と美里か…ちゃんと話すのはあの日以来だな…」
「えぇその節はどうも…早速ですがお二人に幾つか聞きたいことがありまして…」
「こらぁ〜?弓月〜?」
「こんなメル変チックな恋愛サイコパスと勝手に喋っちゃダメでしょ〜?」
「いやっ挨拶しただけじゃ...」
「──────分かったら返事っ!!」
「YESッ!嬢王様っ!!」
「...う...うっわぁ」
「くっ...くく、あははは!吹寄君まるで飼い犬みたいだ!」
「あぁでも!お馬さんでもあるのか...へぇ〜ふぅ〜ん...良いっ新しい!面白い!」
「こんな恋人関係もあるんだっ!はぁ〜素晴らしい!」
かつての想い人、幼なじみである吹寄弓月の見るも無惨な姿に急激に心が冷めきっていくのを感じる。
隣で笑う彼の反応を受け顔を真っ赤に、でもどこか気持ちよさそうに愉悦の表情を浮かべる彼を、視界になるべく移さないように工夫してみる。
「...それで〜私達に聞きたいことってなにかな?」
「このランキング、白石さん達なにか心当たりないかな?」
「ランキング?あ〜っ!皆が最近騒いでる奴だぁ〜!」
「でも私、競い合ったり...順位を付けたりって友達同士でそんなのって、なんだか凄く嫌で見ないようにしてたんだぁ...」
「だからこのランキングについては全く知らないの...平八重さん信じてくれる?」
「...うん、信じるよ弓月の好きになった人だもん」
「わぁっ!なら良かったよ〜...あれから平八重さんとはお喋りしてなかったから、嫌われちゃってるかなって...そんな事なかったんだね!良かったぁ!」
「うん...信じる、信じるよ。だって…」
「…平八重さん?」
「このランキング私の1つ下、二位が白石さんだから」
「...は?」
「…──────はぁ!?」
「ちょっと、ちょっと見せなさいっ!!」
「──────ッなによこれ!?」
液晶に映し出されるランキング。
彼氏の周りに居て欲しくない女ランキング
一位、平八重美里。
そして二位、白石萌心。
よくよく考えれば全く意外性のないランクインではあるのだが...表向き彼女を慕う物が多いクラス、学年である為、やたらめったらと疑心暗鬼を誘うような嫌な感覚がある。
「ふ〜ん...私の築いた王朝に分不相応にも喧嘩を売る輩が居るって事...かな」
メキメキ...──────メキメキ...
万力の様な締め付けを受け、音を立て始める携帯。
「わっ...わたしの携帯っだよ?!泣」
「──────ふんっ!」
勢い良く投げ返される携帯を慌てて受け取る平八重さん。
「あっ良かった、液晶割れてない...良かった...」
「スゥー...、望むところじゃないっ!!」
「「!?」」
「じゃあ一緒に犯人を探す手伝いを...!?」
「って言いたい所なんだけどね〜?」
「わたし...そういう誰かを貶める犯人探しってするべきじゃないと思うんだぁ〜」
「そんな事をしても誰も幸せにならないって、私思うの...」
「...じゃあ白石さんはこのままで...」
「それに...きっとその人、見つかったらとってもとっても、後悔してもしきれない程に酷い目に合うじゃない?」
「そんなのって可哀想だと思わない...?」
「わっ、わぁ〜...初恋君、私身体も心もすっかり完全に縮み上がっちゃってるよ...」
「奇遇ですね不思議と同じ現象に包まれています...」
二人眼前の彼女を前にいつだったかの記憶が鮮明に蘇る。
これは、彼女のこの怒りはその時以上だろうか...。
目の前の彼女は今にも怒髪が天を穿つ勢いを内包している。
「ほらっ!私はやっぱり人気者としての世間体っていうのがあるじゃない?あんまりそういう邪な活動に手を貸せないって言うか〜...」
「...だ・か・らっ!初恋君と平八重さんで犯人をしっかりと見つけ出してくれるかな?...そしたら」
「その不届き者、この学校に居れない位きっちりかっちりとカタにはめてやるから!」
「白石さん、お言葉ですが...そんな僕たちだけ世評を落とす様な役回り...」
「ビキニグラビア」
「ひっ!?」
「喜び慎んでお受け致します」
「忘れたとは言わせないわよ?私言ったよね?次何かしたらって話...覚えてるよね?...ねえっ!」
「...とゆう訳でしっかりとその不届き者を見つけ出して処分しておいてね?」
「進捗報告楽しみにしてるからね?」
「さっ弓月帰りましょう?今日はお馬さんの調子が悪そうだし、グズグズしてたら日が暮れてしまうわ」
パカラッパカラッと小さな女王を乗せてその場を後にする白馬の王子様ならぬドMのお馬様。
体幹の成せる技か、揺れも少なく無駄の無い動き速度もそれなり...実に乗り心地が良さそうだ。
機会があったなら是非とも乗ってみたいとそう思った。
欠点をあげるとすればご主人様を乗せるとやや...いや大分鼻息が荒くなる事。
あとは何より...小さな女の子しか乗せて貰えないのが致命的な欠点だろう。




