16話「愛は瞠目」
「二輪の小高く気高い花、折れ散りゆくは儚き花弁。募らせた恋慕の象徴は儚くも情けなく崩れ落ちる。冷めきった氷菓の様な六白牛。熱すぎた十五年の想いもこれにて閉幕めでたしめでたし」
──────ぱたりっ、書き留めていたノートを静かに閉じる。
「うん。これで白石さんと吹寄くん、それから平八重さんの物語は無事?に終幕っと…」
ラブストーリーと呼ぶにはどこかチープで、ラブロマンスと呼ぶには烏滸がましい。
「ジャンルはさながら、ラブコメディと言った所でしょうか...?」
今回も何番煎じかありきたりな物語かと思ったのだが、途中予想に反し皆が皆元来持ちうるポテンシャルを遺憾無く発揮した結果、予想を大きく超える未曾有の結末となった。
点数にすれば70点といったところか。
国内外問わず評価されるがどこか業界人からの忖度を感じさせる…そんな人気映画を観たような微妙な満足感。
短くも心地良い読後感に似た物に包まれるが
やはりこの物語を持ってしても心が満たされる事はなかった。
そんな事よりも──────僕が、今僕がもっと続きを見たい物語は。
「ねぇ〜初恋君。この教室エアコンつかないんだけど〜...」
「平八重さん、ちょっと...だらしなさ過ぎはしませんか?その格好は…」
空き教室、ノートに依頼の詳細を書き留める僕の前、椅子を横並びにさせそこに無理やり横になる彼女、平八重美里の姿。
仰向けに寝転び、短いスカートは致死量ギリギリまで捲れ、所在無さそうな表情で紙パックのジュースを啜っている。
「ちょっと、本当に行儀悪いですって…って何飲んでるんですか?ソレ...」
「メロンミルクっ!ラウンジの自販機に新しく入ったんだ〜♪」
シースルー型の紙パックの果汁飲料等を販売する自動販売機。
駅構内、病院、学校でよく見るが街中ではあまり見ないこの自販機はその珍しいレパートリーや商品更新の頻度の高さからやけに購買意欲をそそるものがある。
「平八重さんはもっとこう…品行方正な方だったと思いますが」
「いっ...いいじゃん?誰も見てないし?見てくれる人ももういないわけだし?」
「 努力はね〜...見られてる時にすればいいんだよ初恋君!」
先の、命名するならそうだな…ホルスタイン事件とでも呼ぼうか...大敗につぐ大敗を受け明確に色濃く変わったものがある。
平八重美里という人物と彼女を形成する物。
品行方正で分け隔てなく他人を慮る自己犠牲の象徴。
無償の愛アガペーの体現の様な彼女は眼前見る影もなく...無惨な正に堕天堕落の急行直下と相成った。
「初恋君のもね...実は買ってきてあるのっ!」
「はいっ!──────芋煮ミルク!」
「なんですかソレ、嫌がらせ...ですか?」
他愛もないやり取りで僅かな休憩時間はあっという間に溶けていく。
休み時間の空き教室、先の以来から数日正式に入部を決めた平八重美里とこうして時間を示し合わせては部活動に勤しむ。
あれからというもの彼女のネームバリューで一人の時とは桁違いの依頼が舞い込んでいる。
「新商品のメロンミルクの試飲のお願いですか…こんな依頼引き受けないで下さいよ。何でも屋じゃないんですから」
彼女が飲んでいるメロンミルク。
見る人が見れば自虐的なその飲み物は彼女が入部してから依頼に来たダイエット中の女生徒が月イチのご褒美に、チートデイに飲むに足るかどうかその価値があるかどうかの依頼、という話だ。
「これ...美味しいよ初恋君!カロリー的にダメなんだけど、ハマっちゃうかも…」
正式な部活では無いため部費など当たり前に存在しない。
当然活動に際しその全てはポケットマネーでやりくりする事になる。
その為彼女の飲んでいるドリンクの支払いは当然の様に部長である僕へと請求が来る。
「はぁ…ところで…」
「あれから吹寄君と白石さんはどんな様子ですか?」
同じクラス、同じ教室内、何度か顔を合わせることはあっても会話という会話はあれから一切ない。
「ん〜…とね」
「初恋君も同じクラスだから何度か見てるでしょ?…『アレ』」
あれから数日、変わったのは平八重美里だけではない。
より鮮烈に強烈に変わった者がいる。
白石萌心は依然として自らの価値を損なわぬ様上手く皮をかぶり変わらずの様子だが、吹寄弓月、彼に関しては凄まじい豹変っぷりでクラス内外問わず話題沸騰中だ。
白石萌心と吹寄弓月、周りから見てもお似合いな男子と女子、互いのカースト上位のヒエラルキー頂点カップル。
両派閥から羨望の眼差しのあるカップルだったが、先の事件を受けあってはならない余計な扉をこじ開けてしまった吹寄弓月はロリコンへの発展途上、強い少女趣味に飽き足らずドM下僕へと成り下がってしまった。
白石萌心の言葉にはYESの三文字しか許されず呼び出しがあれば一も二もなく最優先。
お昼休みには彼女の為に我先にと必死の形相で購買へと走る彼の姿を暫し散見する。
一部の生徒からは放課後吹寄弓月を馬に見立てて下校している姿も見られているという。
白馬の王子様も真っ青なドMのお馬様へと変貌を遂げたらしい。
分かりやすく文字通り尻に敷かれている様子だ。
直接見聞きした訳では無いため真意は定かではないがその様子は鮮明に想像出来るため、やけに現実味がある。
1年1組。
女子のトップに容姿端麗、才色兼備な白石萌心を据えている様に、男子のトップにはスポーツ万能な雰囲気イケメン、吹寄弓月が据えられている。
しかし、今現在。
男子のトップたる吹寄弓月の栄光の姿は見る影も無い。
少女趣味のロリコンドMのお馬様という評価が露見し、密かに非難轟々だ。
「やはり目覚めてしまったんですね…あらぬ方向に」
「うん…女子人気も急降下で下落中だよ」
どこか遠くを見据え悟ったような顔の平八重さん
一体今彼女は何を考え、何を思うのか。
──────知りたい。
「それでもまだ、平八重さんは変わらず吹寄君の事が好きですか?」
急な問いかけに、パチクリと大きな目を頻りに見開きする。
意表を突かれたような、ことわざにするなら鳩が豆鉄砲を食らうやつ。
そんな表情。
ふと、思い出したかのように立ち上がり
飲み干したジュースの紙パックをゴミ箱へ向け乱暴に投げ入れる。
シュートが決まると年相応、はしゃぐ様に小さくガッツポーズをしてみせる。
物を投げるという極々自然な原始的行動、そんな姿も教室内での彼女しか知らない人達にとってはきっと想像すらもつかないのだろう。
「要らない」
「要らない、要らない、要らな〜いっ!」
「もう1回言うね?要・ら・な・い!!」
子供が駄々をこねる様なトーンでハッキリと長年の積年の恋の終わりを口にする。
「ゆづ…ううん弓月の事はもう全く微塵も好きじゃないし…それに」
「興味もないっ!」
「もうっ完っ全に吹っ切れた!って奴かな?」
えへんっ!とたわわに実った自家製メロンを自慢気に腰を逸らしてみせる。
揺れ動くそれを見て私が育てました!なんて文言が頭に浮かぶがきっと口に出しては行けないだろうと自ら思考をセーブする。
「なんだかこの前の弓月の姿を見たらね...、百年の恋も永久凍土ばりに冷めちゃったよ」
「だからもう、全くもって未練も後腐れも無い!いつも通りの元気な私!」
達観したようなその表情に彼女の心境の変化が色濃く反映されている。
恋は盲目、愛は瞠目とはよく言った物で見えていなかった分の補正は見えてしまった現在その醜い正体を表し彼女に残酷な迄の現実を見せたのだろう。
まさに「あばたもえくぼ」といった所か。
強く慕う相手の欠点や醜い部分さえも、長所や魅力に見えてしまう。
ハロー効果とも近しい、最近だと蛙化現象なんて呼び方が最もポピュラーか。
「でも…」
「でも…?」
言い淀む彼女の瞳キラリ光る怪しいものを感じる
「でもね...」
「私、気づいちゃったんだ、本当の私は品行方正なんかじゃないんだって。凄く、ずっと無理していたんだって」
憂いを帯びた表情、自らの胸の内抱えていた物を吐露する彼女から何故か目を逸らせない。
「それにここ数日、恋を、失恋を通して自分を省みる時間が沢山出来て、あぁ...私はきっと「恋に恋していたんだなぁ」って」
スカートの裾を掴む彼女の両手にグッと力が込められる。
「初恋君…わたしっ!」
ダンっ!──────大きな音を立てる小さな机。
「本当はず──────っとずっと!性格悪かったのかも!!」
キラキラと憂いの無い眼で作業中の机、ノートが衝撃で落ちてしまうような勢いで身を乗り出しこちらへ近づく彼女。
初めて触れた自らの心の内の悪意という感情。
まるで握った物を離さない赤ん坊の原始反射の様な物。
彼女にとって悪意とはそういった類いの物だったのだろう。
「だからやっぱり...私はもう恋なんてしないのっ!」
「今はこの部活を通してもっと...皆の恋愛を、誰かの本当の恋愛を見て酸いも甘いも汚いも知らなきゃ行けないんだって思ったの」
際限の無い独占欲と束縛、見返りを求めるエゴイズム、打算やマウント...それに保身の為の嘘や欺瞞。
恋愛とはその煌びやかな面とは裏腹に中身はなんとも汚らしく、とてもその本質は他人に見せられるものでは無い。
けれども彼女はそんな邪悪な面を知らなければならない。
正確には知らなければ、決して先に、次に進めないという。
「はぁ〜...本当、私知らない事ばっかりなんだなぁ...」
両の手を胸の前祈るように重ね、ソッと目を閉じる天女の様な彼女。
憂いを帯びたその表情には少しの悲しさも含まれているが、言葉や仕草からは幾分軽くなった心を確かに感じ取る事が出来た。
「あっ!でもさ、二人を見てて思ったんだけど...」
「痴話喧嘩ってなんだか...ワクワクするよねっ!?」
痴話喧嘩など、犬も食わないそんなモノ。
喜んで食べるのは彼女くらいのものか。
けれどもきっとそれは、人の不幸は蜜の味なんて単純な野次馬心理ではない。
その感情の正体は人間味や本音への微笑ましさ、羨望や憧れ、共感と言った要素がその殆どを形成していることだろう。
「女神や天女の様な表情でなんて悪辣非道な事を...」
天女かと見紛う表の彼女、その裏の顔。
それは悪魔か堕天使か。
これはまた厄介なモンスターが生まれてしまった。
女の子が須らく持ちえる二面性、その片割れ。
天使の面が普段の平八重美里なのだとしたらもう一面は眼前の悪魔の様な彼女なのだろう。
「この部活に居れば、嫌でも酸いも甘いも知れると思いますよ」
「恋愛を構成するその殆どが辛く苦く酸っぱいもので構成されています、表立った甘味なんて物は本当に極わずか」
「純真無垢な平八重さんには、この部活は少し酷ではないでしょうか...やはり少し考え直して...」
「でもさ...私が入部しないと困るのは初恋君じゃない?」
「それは一体…?」
「私が居ないと部活、続けられないんじゃないのかな?」
後れ毛をクルクルとこちらを煽る様な動きを見せる彼女、歩く度に揺れる髪と胸。
主に後者に視線が追従してしまいそれどころではないが必死に傾聴する。
確かに、彼女の言う事には思い当たる節が幾つかある。
入学早々作り上げ早半年、未だ目立った活動実績もなく部員も居らず顧問もいない、非正規の部活。
学校から慈悲をかけられ放任されていたが、既に半年以上何の実績もない。
さすがにこれから先、活動の幅を広げていくならとても容認されないだろう。
「部員の数も勿論だけれど依頼を沢山受けて活動実績も作らないとだし...」
「それに顧問だって私なら何人か思い当たる節があるよ!」
黒板を勝手に使い雄弁にプレゼンテーションを測る彼女は何処か先日よりもイキイキとしている。
「これはさ、一石二鳥どころか渡りに船って奴じゃないかな?」
「概ねその通りですね、まさにおあつらえ向きと言った所でしょうか」
「けれど...本当に良いんでしょうか?」
「失恋を受け、吹っ切れたとはいえやはり心に背負ったダメージは測り知れない...」
「もうっ大丈夫だってば!、心配性だな初恋君は」
「それに...今はなにかに夢中になって居ないとそれこそ辛くなるだけじゃない?」
現実は恋愛の様に甘くない、部活一つ取っても利益を残せない物は淘汰される。
資本主義の波はこんな所にも押し寄せている。
しかし願ってもない。
彼女の人を寄せ付ける魅力となによりもそのブランド、ネームバリュー。
彼女個人の魅力と力があれば現在部が抱える問題その全てを軽々と越えられるだろう。
きっと彼女自身が立ち直る為にも必要な工程なのだろうと、頭の中この件にケリをつける。
平八重美里、圧倒的大敗を喫してなお落ちぶれない確固たる実力。
寧ろ吹寄弓月という枷が外れた事により彼女の地力は更に更に上澄みへと昇華する事だろう。
それこそ今や吹寄弓月を手中に収め名実共に最高峰へと登り詰めた白石萌心をいつの日か追い抜く程に。
彼女にやはり期待せざるを得ない。
「ではお言葉に甘えて正式に...」
「これは、最近覚えた挨拶なのですが...」
──────こつんっ
「これって!なんだか、すっごく青春ぽくないかな!」
「そんな思いを込めた挨拶です」
拳と拳を軽く付き合わせる簡素な挨拶。
フィストバンプと呼ばれる喜びや決意の意を分かち合う挨拶。
「初恋くん、初恋叶人くん!改めてよろしくね」
「僕の下の名前知ってたんですね、でも突然どうして?」
「えっと...なんだろ?呼んでみたい気分だったのかな?青春な空気に充てられちゃったのかもねっ!」
「あえて言うのならそうだね...」
「──────なんでもなーいっ!!あははは!」
「...なんですか、それ」
くるり、おどけて見せる彼女の顔をその時何故か直視出来ず目を逸らしてしまった。
いつもより声高に、テンションは三割増しに、彼女の存在を色に例えるなら黄色と言った所だろうか。
どこか常に大人びていて、手が届きそうな位置にも関わらず決して届くことの無い高嶺の花だった彼女。
以前は作り笑いの様に取り繕い硬かった表情も今ではすっかりと柔らかく、年相応なあどけない少女の物となっていた。
「あれ?初恋君...もしかして照れてるの!?」
「うそうそっ!?なんだかレアモンスター見つけた時みたいな気分だよ...」
「...一般的に」
「下の名前で呼ぶ行為には親しくなりたい、距離を縮めたいなんて意図があると思いますが...強い好意の表れと捉えても良いのでしょうか?」
「それとも独占欲や主導権の誇示、或いはフレンドリーさの押し売りですかっ!?」
「あ〜っ!なんだかやたら迂遠な言い回し!照れ隠しだ」
「ふふーん最近、と言っても出会ったのも最近なのだけれど...初恋君の事少し分かってきた気がするよ」
「えっとね〜──────うんっ!好き...だよ?」
「...そっそれは一体...?」
「あははっ勿論友達としてっ!ね?」
「ラブじゃなくてライクっ!弓月以外の男の子とこんなに仲良く話したり私信のやり取りした事無かったから...なんだかすっごく新鮮だなぁ!」
「私、...なんだか今が一番楽しいかも!」
ニッ!っと笑う彼女を前になんだかこちらまでもが嬉しく跳ね上がった様な気分になる。
大袈裟に喜び飛び跳ねる彼女を前に緊張の糸は緩み思わず頬が緩む。
僕らしくも無い...言いようの無い、形容し難い感情のせいで少し取り乱してしまった。
いつ以来だろう、人を、人間の女の子を可愛いと思ったのは。
「平八重さんが失恋を乗り越えれる様に、色々とリハビリプランを用意していたんですが...どうやら必要無さそうですね」
「えっ!うそ...ありがとっ!そんなアフターケアまでしてくれるんだね...ちょっと関心でもって感心かも」
「ですが!やはり『恋なんてしない』と言うのには少し苦言を呈させていただきます」
「!?」
「でもずっと、一生しないって訳じゃ...」
「若いうち、とりわけ十代の感受性豊かな内に、然るべき経験を積んで置かないと、大人になった時にとんでもない拗らせモンスターになってしまいますよ?」
「いっ!?それはいやだなぁ〜...」
培われるべき恋愛観。
それは何も恋愛だけに作用するものではない。
人との距離感や思いやり、相手を尊重する事。
社会と言う学校から更に昇華する大きな世界で必須となる能力。
そんな能力が欠如した人間に、彼女にはなって欲しくない。
「ならさっ…それ、初恋君が教えてよ?」
「本当の恋って奴?」
「あっ...、ちょっと恥ずかしいかも今の...なしなしっ!汗」
自分の発言に一喜一憂、表情を変える精巧なおもちゃの様な彼女から目を離す事が出来ずいつまでも...不思議とずっとみていられる魅了を感じた。
暫しボーッと彼女を見ていたあと我に返るとなんだかやけに気恥しい気持ちに包まれていた。
「でもやっぱり...部活を通して独学で学ぶだけじゃどうにも不安じゃない?」
「だから...ね?」
「あ〜...なんだろ思った事全部口から出てっちゃってる気がする...なんだか恥ずかしいね?」
身振り手振りあわあわと自分で言って勝手に恥ずかしがる彼女を見て共感性羞恥でこちらも居た堪れなくなってくる。
「僕が…平八重さんの恋愛をプロデュースする…」
「いやっ…そんな大それた話じゃなくてっ……!!」
頭の中、イメージしてみる。
僕が理想とする物語、主演は目の前の彼女、平八重美里。
ラブロマンスかラブコメディか。
相手役にはどんな方を据えてみようか。
キャスティングも展開ま全ての沙汰は僕次第。
「良いですね…───それ面白そうかもしれませんっ!」
求めてやまない本当の刺激的な恋愛、それを見つけるのにまたとない提案であり最上級の特等席。
今この時の為に全ての出来事があったのではないかと、点と線が繋がる。
「僕が理想とする物語、在り来りで甘いだけの普通の恋では終わりませんよ?」
「ジャンルは未定ですが...コメディもロマンスも全て合わさった、見た事のない感動のスペクタクル超大作にしたいですねっ!?」
著名な作詞家や小説家が……皆が羨む様なフィクションにはない複雑怪奇で単純明快な生の本物の恋!
過程は勿論結果までを満足いく物にする。
それは彼女の為でもあり自分自身の為でもある。
「ちっぽけでありきたりな…相応な恋愛なんて、この先もう二度と出来ないと思ってください」
「えぇっ!…そんな」
「一体全体...どんな壮大な恋愛させられるのかなわたし…」
キーンコーンカーンコーン──────♪
──────遠くの校舎から、チャイムがタイミング良くかすかに風に乗って聴こえてきた。
予鈴が鳴り響き、休み時間の終わり間もなくの授業の開始を告げる。
利害の一致の協力関係が結ばれ浮き足立つ気持ちそのまま、熱くなった身体を冷やす為机の上に置かれたパックジュースを一気に飲み干す。
「うぇ…なんですかこれ…最っ悪にマッずい!!」
ぬるくなった芋ポタージュの様な2日目の煮すぎた煮物の様な味のそれをゴミ箱へ勢いよく投げ捨てる。
「あっ初恋君のそんな顔…初めて見たかもっ!」
「今日はお互いはじめてだらけだねっ!」
「こんな初めては要らなかったかもしれません...うぇっ」
嬉しそうな彼女を他所に最悪な口内環境を引きずり荷物を纏めると二人揃って教室へと足早に向かうのだった。




