13話「平八重美里の告白」
人生で想い人へと好意を伝える、そんな言葉を口にするタイミングは、一体何度用意されているのだろうか?
想い人への告白から始まり恋人への日常の愛の言葉へ。
そのどれも未だ未経験でありながら、今自らの口から出た言葉は紛れもなく愛の言葉、想い人への告白。
──────ただし全面的に仮初の。
「好きって……はぁ〜...」
「初恋君の話を真面目に聞こうとした私が間違ってたよ」
踵を返し、最早情報を得る事を諦め教室を後にしようとする白石萌心を追いかけ急ぎ扉を施錠。
扉を背に彼女の前に立ちはだかる。
「最後まで聞いてくれるって、言いましたよね?」
「…あぁもうッ!」
「──────ウザイ!どいてよっ!」
抑えていた扉から力任せ、強引に引き剥がされそうになる。
この小さな身体の一体どこにこれだけの力が内包されているのか不思議でならない。
腕っ節には自信?があったのだがどうやら全くもって過信だった様で...目の前のか弱い小さな女の子にさえ、今にも負けそうだ。
「しっ、白石萌心さんっ!…あなたを初めてみたときからっ…痛っ!ちょっと首絞めるのは反則っ!」
「うるさいっうるさいっ!くだらない事言ってないで...」
「さっさと退きなさいっ!!!」
「──────ヴッ!?」
肘、膝、頭突きそして金的、何でもありの路上の伝説さながらのコンビネーションを受けくの字に曲がった身体は支えを失い、思わず膝から崩れ落ちる。
「はぁっ…はぁっ…──────...満足した?」
「そ…その艶やかなブロンドの髪と綺麗な金色の瞳…金木犀の柔軟剤の匂いと…犬?飼ってますか?そのちょっと香ばしい匂いがとってもっ…ーっ!?」
━━━━━━━━━━━━━━ドスッ!!
「うっるっさあああああ──────いっ!!」
言い切る前に遮られる彼女の慟哭にも似た叫び。
忿怒の表情で赤く燃え上がった彼女の表情。
丁度屈んだ体制、小さな彼女の肘が鳩尾に鋭くめり込む衝撃で意識の殆どを削ぎ落とされた。
時間稼ぎのサンドバッグ位にはなるかなと過信していたのだが、急所随所を的確に射抜く強烈無比な打撃を前に自分の脆弱さを自覚せざるを得ない
こんな事なら、日々多少の運動をしておくんだったと後の祭り。
「(あっ...これはもう再起不能かもしれない...)」
残り、灯火程の意識を手繰り寄せ彼女の片足、小さなローファーを掴む。
煩わしそうに蹴り上げられると重力そのまま、地に落ちた腕を持ち上げる力も既に残っていなかった。
「一体ッッ!!何年あいつに、平八重美里に隣を譲ってやったと思ってんだっ!!」
「これからは…吹寄君の、弓月君の隣にはずっと私が──────!!」
程なく薄れゆく意識の中、朧気にぽつりぽつり彼女の声が途切れ途切れに聴こえてきた。
「やっと……やっと隣に立てたんだもん...絶対に負けられないっ!」
そんな涙を浮かべた彼女の顔を記憶の最後に、やがて意識は途絶えて……消えた。
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「あ〜…なんだ...」
「もしかしなくてもそういう感じか…初恋のヤツ…」
ひょいっ「あむ──────っ!」
机に広げられた手土産、彼が口に放り投げたバナナおはぎは既に6つ目。
「弓月、それ昔から好き...だったよねバナナおはぎ」
ぶっきらぼうで鈍感な彼であっても、状況とシチュエーションからおおよそ自らの置かれた立場と役割を、自体の全容を察した様子。
「ごっそさん!親父さんにも宜しく伝えて置いてくれ」
「あっ...うん。喜んでくれて良かった…私の分は残ってないみたいだね...おはぎ」
自分よりも一回り二回り、筋骨隆々引き締まった大きな身体。
6っ用意したおはぎはあっという間、五分と持たず無くなっていた。
期待した好意の返報性も間を繋ぐ役割も、会話の糸口にもさほど役立つ事はなくあっという間幻のように消えていってしまった。
「悪いけど…萌心と部活終わりそのまま校門前で待ち合わせしてんだ」
「お前と二人こんな所見られちまったら…」
そう言って強引にその場を後にしようとする彼の背中を指先で強く捕まえる。
「待って!待って…十分、ううん五分だけでいいから」
困ったように振り返る事なく頷く彼に、既に心が折れそうになるも既で耐える。
「あの...あのねっ」
「私、物心着いた時から…ううんもっと前からきっと、自覚する前から無意識にゆづの事が好きだったんだと思う」
一緒に居るのが当たり前、家族の様な存在。
いつからかそれ以上唯一無二の存在に。
「ちゃんともっと隣に居られるように、甘えてなんか居られなかったのに…ゆづの隣は居心地が良くて…つい、今の今まで私こんなんで…」
もう二度と戻れない関係を惜しむように自然と二筋の涙が頬を伝う。
「……」
「ゆづには白石さんが居るの分かってる…」
「けど、どうしても想いを伝える事だけは諦めたくなくて...」
恋は盲目、愛は瞠目とはよく言った物で、今の私はみっともなく彼女の居る男の子に縋り付いて泣いて同情でも誘う様に追い縋る。
あわよくば...なんてさもしい卑しいみっともない想いで頭はいっぱい。
「もし、もし私が白石さんより先に告白してたなら!私はゆづに選んで貰えたの…かな?」
「ねぇ…答えてよ!」
自然と溢れ流れる涙を引き金に、想いはどんどんと加速していく。
「お前は…………だよ」
沈黙を貫いていた彼の口が開く。
彼らしくない...酷く震えた小さな声。
激しい感情の乱れ、過呼吸によって著しく低下した聴力を、意識を最大限彼へと傾け、聴くことに全力を捧げる。
「?ヒック…グスン…なに、よく聞こえな...?」
「...だからっ!!」
「─────お前は俺にとって大きすぎるんだよ!」
腹から出たであろう彼の大きな声に思わず目を丸く見開く。
見るとその大きすぎる背中が不随意に震えている。
言葉の真意を測りかね、頭の中繰り返し反芻する。
私の存在が、彼にとって大きすぎる。
それは一体どういう...?。
「それって…ゆづも私の事が好きって...事?」
「──────………」
「じゃあなんで…なんで私を選んでくれなかったのっ!?」
「ちがうんだ…」
「なにが違うのっ?だって私たち両想いじゃ──────」
「お前の胸が大きすぎるんだっ──────!!」
「?」
「──────……………うぅん?」
彼を、そして自らの身体の上半身を繰り返し反復する様に交互に見る。
思考回路はショート中、知能指数は低下中…間もなく機能が停止します……ガガガ……ピーピー。
そんな文言が頭の中、フルに回転していた脳みそから聞こえてくる。
尚も理解が追い付かない、彼の口から発せられた言葉をなぞる様に本能的に自ら口に出してみる。
「えっと……──────む、胸?」




