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10話「平八重美里の決意」



「これとこれ、それからこの茶まんじゅうも下さい!」


『は──────いっ!……って初恋君?!』


白石萌心とのやり取りから数時間が経ち放課後を迎え、その道すがら繰り返し反芻する様に頭の中自らの考えを整理し言語化する事に成功した。


余りに上手く整理出来てしまった物だから、いてもたってもいられず、今日一日欠席となっている平八重美里へプリントを届けるという男子総立ちの任を他の有象無象達より半ば強引に奪い、今に至る。


閑静な住宅街の中ぽつり佇む、八重屋製菓舗。

平八重 美里の実家でもある和菓子屋に足を運んだ。

手作り手作業で早朝から作られる柏餅や酒饅頭といったラインナップが外から見えるショーウィンドウにズラリ並んでいる。

店内で炊かれたもち米の匂いの名残が鼻腔をくすぐり、耐え難い空腹を誘う。

そんな誘惑もあってか、本来の目的も忘れ目の前の和菓子達にうつつを抜かしている。


「もー来るなら連絡くれればいいのに…連絡先交換したでしょ?」


向かい、ソファに浅く腰掛ける彼女は特に具合が悪い訳ではなさそうだったが、唇は乾燥しブラシが行き届いていないのか彼女にしては珍しく毛羽立っていた。

学校を休んだのはお店を手伝う為だと言うことだが、恐らくそれだけでは無いだろう。

眼前の彼女を見れば理由など、察するに余りある。

店頭での他愛のない世間話の後、お茶でも飲んでいかない?なんて打診をされたものだから本来の目的も兼ねて、一も二もなく快諾する。

ソファ前の大きな木製の長机には、来客用の和菓子がこんもりと盛られ、思わず一つ二つ…三つ四つと手が伸びる。


「ねぇ…君は一体全体、何しに来たのかな?」

口いっぱいに和菓子を詰め込む年相応の食欲を見せる僕の前、怪訝そうな顔を隠さない彼女が早速と言わんばかり本題を求める。


「ふぇっとでふぁっそうほんあいをうたえると…」


「はいはい急かしてごめんね〜、飲み込んでからでいーよっ」

そう言って差し出される熱く淹れたての香りの良い緑茶。

このお家の子になりたいなんて甘い気持ちが脳内を占める。

急かされるまま、両手で口を抑え一生懸命言葉を並べるも、白あん粒あんこしあん達が口内の九割を占めているため、出てくる言葉達は必然的に聞こえの悪い物となっていた。


「はぁ…っ、やはり平八重さん家の和菓子は美味しい!」

ごくりっ、喉元を通り過ぎる余韻までを確かに感じ余すことなく味わい尽くし差し出された緑茶を啜る事で最高の締めとする。


「はいはいありがとうね〜って以前にも来てた?」

空になったお盆をさげ、空いた湯呑みに再度注がれるお茶。

人気者たる平八重美里の家の中、まるで昔ながら昼下がりの夫婦の様な空間で目的を忘れあまりの居心地の良さに婿にでも入りたいと思わされる。

クラス内外問わず男子たちにバレたなら妬み嫉みで酷い事になりそうだ。


「匂いと外から見えるラインナップに釣られて何度か。助六や巻き物なんかをお昼に度々購入してます」


「僕のおすすめは断然デラックス巻き!それと冷やしみたらしも添えて」

良く見る従来の太巻きよりも更に太い太巻きの中、大きなエビフライにカニを模した練り物と申し訳ばかりの野菜が少し、たっぷりのマヨネーズと共に巻かれているそれにここ最近首ったけである。


「くっ...私もそれが1番好きだよ奇しくも同じだね初恋君」


「それにしても常連さんだったんだね…知らなかったよ」

甘い物や和な物を欲した際に良く通わせて貰っていた和菓子屋ではあるが店頭に立つのはいつも平八重さんの父親と思しき人。

それに平八重美里の実家だと気付いたのはつい最近の事。

平八重美里の実態、白石萌心による依頼で彼女を調べているうちに知った情報の一つ、世間は狭いなんて言葉の体現のようである。


そんな世間話は程々に、忘れかけていたプリント数枚を彼女に手渡す。


「初恋君が持ってきてくれたの?」


「勿論!クラスメイトですから」

一も二もなく自分でも嘘っぽい笑顔で真っ直ぐ頷くも

「なんかそういう事しなさそ〜じゃない?初恋君」


「なにか他にあるんでしょ?そう…例えば白石さんの件とか白石さんの件とか白石さんのetc……」


利己的な思考を先読みされ見透かされ、お腹も心も満たされた為早速、いや満を持しての本題に入る。

「察しが良いのも平八重さんの魅力の一つですね」


「また臆面もなくそんな事ばっかり言ってる!」

少し照れた様子の彼女の一面にこの物語の登場人物として、ヒロインの1人としての確かな実力を感じる。


「それにしても、このお店の隣のお家、随分立派でしたね〜車三台持ちですか...それにお庭にバスケットゴール着いてましたよ」

3階建ての屋根裏部屋付き、裏庭には芝生が引かれておりバスケットゴールが備え付けられている。

広く取られた駐車場には、ファミリーカーからスポーツカー、軽自動車迄と実にバランスの良いラインナップで揃えられている。


「うん...いつもねあのおっきい車でキャンプやBBQとか、皆で行ってたんだよ」


「お庭でバスケも良くやってたなぁ、今じゃ全くだよ」


「と言うことはやはり吹寄君のお家なんですね」


「そっ、この目と鼻の先な距離感がさ〜、ずっと嬉しかったんだけどね…今じゃ息が詰まっちゃって苦しいんだ〜…」


「いつか、白石さんを連れて二人で仲睦まじくお店に来店、なんて事もありそうですね」


「げっ……それはちょっと嫌かもしれない」


「それにお隣さん故、事ある毎に二人の姿を目にする事になりますし」


「でもさ、ある程度は我慢するつもりだよ?だけど」

「こっちもあっちも、家族がどんな顔するか…!」


「弓月の両親や家族からは、あぁ美里ちゃん負けたんだねって失望の顔で見られて」


「娘が負けた事を知ったウチの両親からも哀れみの目を向けられるんだよ!?」


「もういっそ…さ初恋君に依頼して」


「手段は問わないから引き分けに持ち込めないかなっ……!?合法ギリギリでもいいからっ!」


「犯罪スレスレは社会通念上宜しくないでしょう…」


「あーぁ、最後の頼みの綱にも断られちゃった…」

冷めてぬるくなった茶を一気に飲み干す彼女、乾いた喉を潤すようにこちらも真似して飲み干す。

ふと気がつけば彼女以上にこの物語の顛末に一喜一憂、熱くなってしてしまっている。

お気に入りの恋愛小説を捲る手が止まらないように、めくるめく展開に、求めていたものと種類こそ違うが胸の奥高鳴るものを確かに感じている。

彼女たちの進捗から、一挙手一投足から目を、意識を離せない!


「やはり平八重さんなくしてこの物語は完結しない……」

「…?」


この物語を終幕、いやもっとかっこよく言うのであれば、フィナーレを迎える為に、必要な最後のピースはやはり彼女しか居ない。

この物語は吹寄弓月と白石萌心だけの物ではない。

他の雑輩は勿論やはり彼女、平八重 美里がこの物語のトリであり幕を引く張本人だ。


クラスを二分する両者。

片や自らに有利な王朝を築きその立場を確かなものとし、さらにラストピースとなる吹寄弓月をもその手中に納めたブチハイエナの嬢王、白石萌心。


対してもう片方。

他人に合わせ他者を重んじ、自己犠牲と献身的なその天性の生態によって半ば強引にクラスの中心へと押し上げられた彼女。

白石萌心とは違い自ら築き上げたものではなく他人によって崇め奉られた草食動物の様な平八重美里。


そして争うはたった一人の想い人。


これはそんな三者三葉三竦みのトライアングルバトルラブストーリー。


しかし彼女にはそんな白石萌心に対抗しうる爪と牙、その手立ての一切が無い。

言うまでもなくこのままでは後者は前者に、草食動物は肉食動物に文字通り取って食われる運命だろう。


「平八重さんは...」


「このまま陰から二人の行く末を指を咥えて見ているだけでいいんですか?」


未だ彼女の中燻り続ける強すぎる未練。

同じクラスの同級生、事ある毎に二人の甘い一時をまざまざと見せつけられるのはさぞ苦痛だろう。

長く募らせた思いを無かったことになど到底出来ないのだから。


「一生彼らの光に当てられた日陰者で本当に満足ですか?」

そんなきっかけを作る片棒を担いだ自分が言う言葉では無いが、今になって思う。

彼女がこの物語のメインヒロインだったと、他でもない彼女こそこの物語の主人公だったと。


僕はずっと勘違いしていた、白石萌心をメインヒロインに据えたピュアでラブなストーリーだと。


「もう……無理だよ」


「なんだかさぁ、ふたり既にねんごろの仲みたいだし?……手遅れじゃないのかな」


「それに…」

ぽつりぽつり胸の内を占めていた靄を少しずつ吐き出す彼女


「白石さんが怖い──────っ!!」


思い出したかのようにガタガタと不随意に身震いをする彼女。

しきりに気にする大胸筋上部。

正確には小高い丘の上、たわわに実った双丘の上部をさすりさすりと大切そうに撫でている。


年相応の興味から視線が不随意に吸い寄せられ、思わずサッと目を逸らす。


「だって...次なにか白石さんの逆鱗に触れる行動起こしたら強制ビキニ羞恥、社会的死の刑でしょ...?」


そう言えばそんな事もあったなと自らが提案した取り引きを、忘れていたその事件を思い出す。


「あー...あれはまぁなんというかユーモアと言いますか...咄嗟にあんな稚拙な提案しか浮かばなかったと言いますか……」


「2人とも勝手に人をダシにしてディベートしちゃって!本気の目だったよ!?」


「やだなぁ、そんな公序良俗に反する様な事僕も白石さんもしませんって」


「いや…白石さんならするか…?」


「ほらっ!初恋君があんな事言うからだよ!?」


「平八重さんこそ、いつか僕が困った時強制的に拒否権なしで人肌脱いで貰うって約束...忘れてないですよね?」


「......したっけ約束?」

「しましたよ...」

「実はしっかり覚えてます...」

「よろしい」


「その文字通りに、人肌脱いでもらうってだけですから」


「そんな記述トリックみたいな真似、詐欺じゃないかな!?」


「そう本気にしなくても、万が一のその時には平八重さんに変わって僕が甘んじて罰を受けるつもりでしたから」


「......本当?わたし、社会的に死なないで済む?」


「もちろん大丈夫です!死にません……多分」

そっと胸を撫で下ろす彼女。

いざとなったら自らビキニを着ることを提案し、決意する。

僕の、白石萌心による依頼の横槍が無くても恐らく現状の結果に然程の違いはなかっただろう。

けれど間接的にとはいえ彼女には負けの烙印を背負わせてしまった。

結果はどうあれそんな結果に関与してしまった以上責任を取るのも当然の事。

この恋物語の責任者として、そして立役者としてこの程度のリスク取って然るべきだと判断した

社会的な死など、失恋に比べたら比べ物にならないのだから!


「でも初恋君のビキニ姿も、見たくないかも…」


「...そうならない事を祈るばかりですね」

覚悟は疾うに完了している。

けれども食い込む布面積の少ないビキニが、大衆からの冷やかな視線が、そして女性のそれより一際強い社会的死の様相を想像すると腹に決めた覚悟が揺らぎ、思わず身の毛がよだつ。


「でもさぁ?それを差し引いてもやっぱり怖いよ...」


「それは白石さんが〜って訳じゃなくてね?」


「今更想いを告げて、幸せな2人を邪魔だてするような真似、わたしに出来るのかなって」

この人はどこまでも、この後に及んで人の事を考えている。

それも意中の相手とその彼女にまで気を回している。

まったくもって生きにくい人だ。


「ただでさえアウェーなのにね...気張らなくちゃいけないのに、なけなしの勇気も絞りだせなくて...情けないね」


「もし、もしさ?先に弓月に想いを伝えていたら、隣に居るのは私だったのかな?」


「どうでしょうね、少なくともたらればを唱える様な後悔はなかったでしょう」

先に想いを伝えてたとして……きっと結ばれる事は無かっただろう。

けれど、思いを伝えていたなら彼女はキッパリとその失恋を乗り越え先に進む事が出来たはずだ。


「そうだよね…、結果を先送りにした私が悪いもんね」


「あーぁお母さんとお父さんになんて言おうかなぁ〜」

産まれた時から家族ぐるみのお付き合い。

運命かそれとも宿命か。

互いの両親も仲睦まじい二人が結ばれるのを今か今かと待っている、そんな最中の歴史的大敗、そして決裂。

そういった家族の期待といったストレスも彼女に全てのしかかっている。


「やはりそれでも、今からでも想いを伝えるべきだと思います」

これは勝ち負けに関係ない、この恋に終止符を、そして超える為の戦い。


「えっ…?」


「吹寄君にとってのヒロインは白石さんだけじゃない平八重さん。あなたもです」

ヒロインが、自らの物語を役割を終え次へ進む為の第一歩。


「私が、弓月にとってのヒロイン…?」


「いやいやっ、私そんなヒロインなんかじゃないよっ、そんな柄でもないし…ほんと…さ?」


敗北を喫した今現在、口では否定をしつつも、先日までの彼女なら吹寄弓月にとってのヒロインという立場を臆面なく自称していただろう。


「僕が他でもない僕の人生という物語の主役であるように、皆が皆自分の人生の主人公なんです」


「ヒロインとは、ヒーローの女性形」


「勇気や実績に優れた英雄の様な女性を称える言葉」


負けて元々結果オーライ。

勝てば大逆転ホームラン。

そして今度こそ終わった後にはノーサイド。


「そしてこの世に産まれた以上、ヒロインじゃない女の子なんてただの一人もいない」


主人公でありヒロイン。

女性のみが併せ持つ力強い二つの役回り。

物語には欠かせない無くてはならない要素の一つ。

事ラブストーリーにおいて最も重要で、その物語の質を左右するもの。


そして奇しくもヒロインは決して1人だけではない。

勝っても負けても、白石萌心を超えて行けるように


「今更なんて、邪魔だなんて言わず平等公平な立場として決着を付けに行きましょう!真の英雄になるために!」


「……──────ッ!」


「依頼、してみませんか?少なくとも、後悔はさせません」


「なっちゃいましょう!世界一幸せなメインヒロインに!」


差し出した手のひらを取るか取らないか、彼女の自由。

それもまた彼女を主役とした物語とその結末。

決断を待つ間閉じた瞼。

実際の経過時間よりも長く永遠のように感じられる静寂の後、

出された答えは────「初恋君、私ね……」



「弓月に想い…伝えるよ!!」


「そう言ってくれると思ってました!」


先程まで彼女の瞳にかかっていた靄は綺麗さっぱりと晴れている。

その表情も実に主要キャラらしい素晴らしく綺麗で魅力的な物となった。


彼女の決心を前に、英雄たるヒーローを前に僕の中昂ぶる思いが今最高潮に達しようとしている。

フィクションでは感じ得ない高揚。

やはりラブストーリーはこうでなきゃいけない!


「私っ!平八重美里!!...英雄になりますっ!」





────────────





ズズズッ──────


「あっ…お茶もう一杯貰えますか?」


「ねぇ…私家政婦じゃないんだからね?」

コポコポと小気味よい趣ある音を立てて急須から湯呑みに注がれるもう何杯目かとなるお茶。

縁起の良い事に彼女の湯呑みの中茶柱が立っているが、本人は気づいていない。


「あの...さ」

「具体的には、どういった作戦で告白したらいいのかな?」


「作戦?やだな〜そんなものありませんよ」

湯呑みに浮かんだ茶葉をそれごと飲み込み、数回咀嚼し間髪入れず答える。


「えぇ!じゃあどうやって弓月にその、伝えたらいいのかな…きもち……」

モジモジと手遊びをする事で自らの決意がブレないように保っているのかやけに落ち着きがない。


「どうやっても何も、直接伝えるしか無いと思いますが」


「初恋君は!…初恋君は手伝ってくれないのかなっ?!」

「いざとなったらなんて言ったらいいのか…まったく思いつかないかもだよ…」


「春の熊くらい好きだ!なんてどうですか?」

「春の熊……?」


「文学的名言、情緒的で素敵ですよね著名な小説家兼翻訳家の言葉です」


「ん〜とね、そういう誰かの言葉や物語からの引用じゃなくて、もっとこう…培ってきたもの?二人だけの物語に相応しい……」


「自分だけの言葉で伝えたいの!」


「例えば?」


「………月が、綺麗ですね?」


「それもまた、人の言葉なのでは?」

夏目漱石の、名言。

ILoveYouをそんな風に意訳する人間は彼を覗いて一人だっていないだろう。

自分だけの言葉を紡ぐなら、それこそこれくらいの感性を持ち合わせていないといけない。


「だってだってっ!好き…とか大好き!…なんて、なんだか手垢にまみれてない?」


「料理と一緒です。初心者はただレシピに沿って作ればいい。そこに余計なオリジナリティは必要ありません」


「それにクリシェなセリフには、それなりに理由があると思います。奇を衒えば良いなんて事はなく伝わりやすいのが何より一番かと!」


「そういうものなの?」


「そういうものです」


「少なくともフィクションではそうでした!」

若干の不安要素は残しつつも、分かりやすく伝わりやすい、そんな自分なりの言葉で想いを伝えるという方向で概ね合致する。


「いずれにしても僕が手伝えるのはお膳立て、告白の舞台を整えるくらいなもので」

後悔させないと依頼を受けた手前どうにかしてやりたいが、こればっかりは彼女自身の力でどうにかするしかない。


「洋菓子のようにくどくなくて、けれど想いを込めた甘さを確かに内包している……そんな和菓子のような告白はいかがですか?」


「和菓子の様な告白…」

それに月が綺麗ですね。なんて文学的で奥ゆかしい言葉はきっと彼には届く事は無いだろう。

死んでもいいわ、なんて気の利いた返しも月の青さにすら気づく事無く終わるのが目に見えている。


和菓子のような自然で気取らない甘さの告白。

頬杖をつき、思案する彼女はどこか既に幸せそうで陰りのある表情は格段に減っていた。


そんな事よりも我々には先んじて手を打たなければいけない、やっかいな存在が居る。

言い出しっぺとはいえ、未だ明確な打つ手が浮かばない。

まさに一番の難関、どう対処するか。


「うん、言葉はきっと大丈夫!丹精込めて煮た餡子の様に気取らず真っ直ぐに……だね!」


「あとは、気持ちを伝える時、目はきっと合わせた方が良いよね。時間は夕方の方がいいのかな…朝だと眠いしロマンティックだしね…、あと手土産とかはいるのかな?」


「手土産なんていりませんよ……」


「え〜?だって口寂しくならない?」

「はっ...!そのまま良い雰囲気でちゅーなんて結果になったら口寂しく無いかも..!?.」


「いや口寂しくなんて、いや待てよ……斬新で有りかもしれない?!」

告白に際して手土産を持参する。

つまらない物ですが、粗品ですが……なんて差し出す光景をただの一度も見た事がない。

それ故に幾分か可能性を感じさせる物がある。

相手への敬意や配慮を示すサインとして、或いは好意の返報性として優位に働くか……?。


「手土産は……有りにしましょう!」


「よしきたっ!お菓子箱で包んで持ってくよ!」


「そうですね、あとは特に搦手を使う必要はないと思います。長年募らせた想いを彼に正面から目一杯ぶつけるだけ」


「出来ますね?」

こちらの提案を前に、二度三度と強く頷く平八重さん。


「うん……うんっやってみるよ!」

独り言のように私は出来る子!と繰り返し唱える姿がなんとも庇護欲を擽る。


一人で勇気が出ないのなら、何度だって何人にだって背中を押して貰えばいい。

彼女がそうであるように少なからず一歩二歩と前に進めるのだから。

数回段取りを擦り合わせるように確認し、念入りに不備が無いかチェックを入れる。


「では明日の放課後…教室で部活が終わるまで待機。その後平八重さんは空き教室へ…」


思い立ったが吉日、早速明日決行に移す。


「あのさ、もし困った時、こころ折れそうな時力を借りたいの。初恋君は近くに居てくれるのかな?」


「もちろん!必要とあらばどこへだって!」


「先んじて僕は教室で──────それから...」


「うん……わかった、お願いする」


「あと...その...頼りにしてるからっ!」


「えぇ!大舟に乗ったつもりで泥舟では無いことを祈っていて下さい!」

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