サブミッション:ガスバーク一家エース機撃破
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アイリスの集中は、ウインドベルへの配分を増し、更に深さを増していた。
より深くイーリスの収集したデータを理解し、解析し、ウインドベルのひいてはバーフウの動きを推測し、分析し、撃破へと繋げる。
ウインドベルは速度を得る為に装甲を削って機体を軽量化し、エネルギースキンの展開に回す出力も低く、重力制御に割り振られている。敵からの攻撃を装甲で受けるのではなく、回避することを前提とする機体だ。
軽量かつ高機動のGSはえてしてそういうものだが、バーフウはそれをよく理解してウインドベルを愛機とし、使いこなすエースだ。その彼がアイリスとイーリスを前にして、着実に追い詰められつつあった。
「……」
アイリスは乱れぬ息遣いのままイーリスから受け取る情報を瞬時に把握し、これまでに学習したバーフウの戦闘の癖と技術と照らし合わせ、最適な攻撃と回避を重ねて繰り返す。
ウインドベルの速度に緩急が加えられるタイミング、どの方向から攻撃を加えられたらどちらの方向へと回避を取る傾向にあるか、ビームガンを撃ち込んでくるリズム。
ウインドベルのジェネレーターから発せられるエネルギーの変化、形成される重力場の落下方向とその強弱、機動を補助するスラスターノズルの向き、メインカメラから機体各所に埋め込まれたサブカメラの動きに至るまで。
強化人間でも処理が難しい膨大な情報をアイリスは刹那で咀嚼し、戦いが長引くごとにバーフウとウインドベルの全てを暴き立てて行く。
イーリスの肩から発射されたミサイルが、血の臭いを嗅ぎつけたピラニアのようにウインドベルを追い回し、その進行方向へとガトリングガンによる銃弾のシャワーが降り注ぐ。
『ロックオンアラートの反応がない。ガトリングはマニュアル照準か。やるな、花人形』
バーフウは追いすがるミサイルをビームガンの連射で撃ち落し、進行方向に向けて降りしきる銃弾の雨を重力推進の方向を強引に上へとずらすことで回避する。
フレームの軋み、センサーの表示する各ステータスの悲鳴を聞きながら、バーフウの瞳はモニターの中のイーリスを捉えて、両手のビームガン“ファイアフライ”が眩い輝きを発する。
蛍の光というには苛烈な光が、イーリスがコンマ一秒前に存在した空間を貫き、虚空の彼方へと散って行く。
敵味方の入り混じる戦況にただ中にありながら、二人はお互いのことだけを見ていた。戦いを楽しむ為とオーナーに利益を齎す為に、お互いこそ最も倒すべき敵だった。
「にくをうたせてつばさをもぐ」
ファイアフライの数発がイーリスへの直撃コースに乗った時、バーフウは命中を確信しながら疑問を抱いた。言語化の間に合わない刹那のことであったが、それを言葉にするのなら、わざと避けなかった、となるだろう。
そしてイーリスに命中するその寸前に、脚部から切り離されたリトルクラッカーが、盾代わりとなってファイアフライを受け止める。既に撃ち尽くされたソレは爆発する事もなく、ただ穴が開いただけに終わる。
「なんちゃって」
ビームが空のリトルクラッカーを貫通するまでの間に、イーリスはその位置を変えていた。そしてエネルギーをチャージしたブルースターが発射されるのにも、充分な時間があった。
ひと際眩いブルースターのビームに続き、残弾全てを吐き出す勢いで右肩のミサイルが発射され、左肩のガトリングガンは沈黙を維持。先ほどの射撃でガトリングガンの残弾はゼロ表示になっている。
ファイアフライ発射直後の、機動以外にリソースを割くその瞬間を狙いすましたアイリスの判断に、バーフウが舌を巻く──その前にウインドベルをブルースターの青い光が強かに撃つ。
左肩を直撃したブルースターは、ウインドベルの薄いエネルギースキンを一撃で散らし、肩を守る薄い装甲を貫いて関節部に大きなダメージを与えていた。
バーフウは揺れる機体と警告メッセージを瞳に映しながら、続いて迫りくるミサイルの回避と迎撃を正確にこなす。
『ふふ、まだまだ、これくらいで風の鳴らす鈴の音は絶えやせん』
バーフウにとって幸いだったのは、バックパックや四肢に内蔵されたスラスターや補助のバーニアにダメージが及んでおらず、左腕には動作に支障がないことだった。
左腕のファイアフライが使い物にならなくなり、火力が半減したのは痛手だがまだまだ戦えるとバーフウは元気いっぱいだ。
マニュアルで誘導しているのかと疑いたくなるしつこさのミサイルを、機体を上下左右に揺らしながら回避し続け、二発、三発とファイアフライで撃ち落す。
ビームに貫かれたミサイルが爆発を起こし、その爆発の中から誘爆を免れた残りのミサイルが食らいついてくる。厄介なのは生き残りのミサイルよりも、ミサイルの後に続いて距離を詰めてくるイーリスだ。
『刀で首を刎ねるか、ビームで撃ち抜くか。どちらが好みだ?』
バーフウは付近に漂うデブリを利用することにした。ギリギリまで機体をデブリに寄せて、ミサイルをデブリに激突させて始末するのだ。迷う間もなく岩塊のデブリに機体がぐんぐんと近づいてゆく。
ここだとバーフウの勘が告げると同時に、まずいと同じ勘が全力で叫ぶ。バーフウの体は警告を優先した。
予定よりも早く、ミサイルが命中しても構わないという判断でデブリから機体を離そうとした瞬間、いつの間にかデブリに突き立てられていたザンテツの刃にウインドベルが自ら突っ込む。
『ちぃ!? 誘導された、か!』
ぐん、とウインドベルが身を起こした瞬間、か細い両脚がザンテツの刃に触れて、装甲を断ち、ケーブルを切断し、フレームへと食い込む。
ザンテツはサブアームから投げられ、ただデブリに突き立っていただけの為、激突の勢いでデブリから抜け落ちたものの、ウインドベルは今度こそ体勢を崩し、バーフウの技量をもってしても立て直しには数秒が必要だった。
そこへブルースターのビームが連続して直撃し、ウインドベルの装甲が次々と破壊されて、機体の損傷が増してゆく。
ミサイルばかりは残ったファイアフライで撃ち落したが、それでもバーフウの瞳と精神は、イーリスの姿を探し求めている。
ここで追撃の手を緩める馬鹿はいない。勝利を確信して気を緩める馬鹿は居るかもしれないが、この花人形は違うとバーフウは知っていたからだ。
「あなたはとりさんじゃないね」
だが虚空に舞ったザンテツを左手に握るイーリスに、背後を取られていようとは。
ためらいなく冷たい刃がウインドベルの背中を貫いて、刃がずるりと機体の腹から飛び出す。
そのまま一気にザンテツを振り下ろされて、エネルギースキンを失った華奢な機体の腹部から股までが縦一文字に切り裂かれる。
力を失うウインドベルの機体を蹴り飛ばして、イーリスが距離を取る。
致命的なダメージを受けたウインドベルは、鋼の骸と成り下がって虚空を漂い、その内に機体の各所から制御を失ったジェネレーターのエネルギーが零れだし、小規模の爆発を連続して起こしてゆく。
「あなたはかぜになりたいひと。そのぱーそなるまーくはとりさんもしばりつけるかぜっていみでしょ。でもなれなかったね」
これまでの戦闘で、バーフウとアイリスは通信を繋げていない。お互いに一方的な独り言をコックピットの中で零していたに過ぎない。
だがウインドベルの挙動の全てをくみ取り、理解したアイリスは異様なまでの正確さでバーフウの精神性を、その願望を理解するに至っていた。
機体へのダメージこそ少ないが、かつてない集中を必要としたアイリスは確かな疲労を蓄え、それは彼女のバイタリティを常にチェックしているダイドウへ隠しようもなく伝わっている。
『よくやった。アイリス。だが、お前とイーリスの消耗は軽くない。一度、ウルメに戻って弾薬の補充と休憩を行え』
「うーん。うん、そうするね。なかなかてごいわあいてでしたなー」
『強がっていつもの調子のふりをしているわけではないと、今は信じるとしよう。レッカの戦っていたガラクも、そのウインドエッジの撃墜に合わせて、後退しはじめている。お前が前線から下がっても、差し障りない状況になった』
「りょーかい。もどってくるころには、てきのころにーにたどりつけるかな?」
『ああ。特務艦隊の方は二つ進んで一歩下がるような状況だが、こちら側はお前達の活躍でかなり押し込めている。バルチャーネストには俺達の方が早くたどり着く可能性が高いと見て間違いない』
「んー。あんまりよくばってもしょうがない。わたし、おもったよりてきをおとせていないけどあかじにはならないよね?」
『先ほどのウインドエッジは、エース級の相手だ。報酬の交渉は俺に任せておけ。お前は仕事を果たした。である以上、俺もそれに見合った仕事をする』
「うん。だいどーにおまかせする」
そこまで告げて、アイリスはほんの少しだけ神経を弛緩させた。警戒を完全に解いたわけではない。
この瞬間に新手の奇襲があったとしても対応できるだけの、警戒の意識を残しつつ神経を休ませるコツを、アイリスは誰に倣うでもなく身に付けていた。なんなら脳に半分ずつ睡眠を取らせることだってできる。
『後はイレギュラーがなければ、このまま……』
「あ」
ダイドウが言い切るよりも速く、アイリスがイーリスの捉えたデータに反応し、小さな言葉を漏らした。噂をすればなんとやら。バルチャーネストの方から複数の艦艇と共に、大きいなエネルギー反応が発生し、それがこちらに向かって急速で接近を始めたのだ。
それはムーナの乗るカシャよりも強大なエネルギーと速度を備えた、AFであった。
ダイドウとアイリスには知る由もないが、それこそレイデンを通じてガスバーク一家に持たされた切り札、試作型AFリボーテに他ならなかった。
一万字をまとめて一週間に一度くらいのペースで投稿するのがいいのか、三千字以上で今のペースをキープするか、悩んでいます。




