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サブミッション:ガスバーク一家AF撃破

 試作型AFリボーテ。

 全長百八十メートル超、全高三十四メートルに達する比較的大型のAFだ。

 GSとは比較にならぬ重装甲、艦艇並みの推進力と火力を併せ持ち、局所的な戦場ならば単機で制圧可能なレベルの戦闘能力を求められ、ザギオンで開発が進められたプロジェクトの産物だ。


 黄色を主体とする流線型の機体には、緑色のクリスタル状のパーツが各所に散見され、胴体の中央付近に折り畳まれた四本の手を備えている。

 そのビジュアルは、強いて言えばヒレを失くした代わりに四本の手を生やした鯨になるだろうか。

 機首と思しき場所に三つのカメラアイを備えた頭部が埋もれるようにして存在し、一目見ただけでは、特にこれと言った武装は見受けられない。


 ザギオン本国で開発が進められ、こうして実機が製造されながらガスバーク一家のような武装勢力に流れ着いたのは、レイデンの厚意によるところが大きいものの、根本的な原因はリボーテに対して不採用、失敗作の烙印が押された為である。

 その失敗作の理由はともかくとして、条件付きで並みのAFを大きく上回るパフォーマンスを発揮するリボーテがフウジャの下へと廃棄同然に届けられ、こうして実戦で活躍する機会に恵まれたわけだ。


 これでリボーテが凄まじい戦果を挙げたとしても、果たして本国で開発再開のめどが立つかと言えば怪しい所だが、少なくとも開発者達は失敗作だが光るところはあったのだと、涙して喜ぶだろう。

 まあ、それは脅威として対峙するアイリス達にとってはどうでもいい話であり、リボーテに戦果を挙げさせる前に破壊するのが、彼女らの仕事なのだが。


 リボーテとコルベット、武装シャトルからなる艦隊の出撃を確認し、フウジャは戦況を苦々しい表情で見直す。リボーテの投入によって、戦況が一変すると期待しての投入ではなかったらしい。

 ここで勝利を確信した笑みを浮かべ、高笑いの一つでもすれば司令室に居る他のスタッフの士気も上がるところなのだが、フウジャはリアリストであった。夢想に耽る趣味はない。


「ファーエデン軍は、こちらを釣りだしてバルチャーネストとの連携を断つつもりか。傭兵共の足止めはリボーテを中心に行わせなさい。レイデンの子飼いは、思ったよりも頼りなかったものだ。いや、ガーデンの傭兵が手強いと見るべきか……」


 フウジャの事前の調査と分析では、ファーエデンの攻撃を上手くすれば三度はしのげるはずだった。

 ところが傭兵部隊の想定を超える精強さによって大きな被害を受け、今回の攻撃を凌げるかどうかの分水嶺にまで、追い込まれてしまった。こればかりはフウジャも自身の分析の甘さを苦々しい思いと共に認める他ない。


「私の予想を覆すとは、不愉快の極み。しかし、ならばこそ私にもまだ伸びしろはあるというもの。こんなところで終わるわけにはいかないのですよ。リボーテ」


『……』


 リボーテのパイロットとして組み込まれた二人から、返答はない。フウジャにとってはそれでよかった。こちらとの通信が繋がっているのは間違いなく、返事を求めてもいない。ただアレらにフウジャの指示が届けばそれでよいのだ。


「次に私の指示があるまですべての敵を殲滅しなさい。お前達の機能の余すところなく解放し、費やし、その存在意義を全うするのです。私の進むべき道を敵の骸で築け」


 やはり返事はない。だがリボーテの速度が増して、フウジャの指示を全うするべく動き出したのは間違いなかった。

 増速するリボーテに真っ先に反応したのは、曲がりなりにも同じAFを駆るゲーナだった。お互いに試作AFに乗っているとは知らぬまでも、この局面で出てきた大型AFを相手に一当てするには、GSよりもカシャの方が適任だと判断したのだ。


『アイリス、レッカ! あたしがまずは様子を見る。少しは情報を取って来るから、あんたらはちょっと休んどきな!』


『ゲーナさん、いけない。AF同士と言ったって、あっちの方が何倍も大きいし、エネルギーだって』


「げーな」


『なんだい、アイリス』


 リボーテへと機首を返し、速度を上げるカシャのゲーナへと、アイリスはアドバイスと激励の言葉を送った。

 小指の先くらいは仲間意識が芽生えたのか、あるいは、少しでも長く戦ってもらい、リボーテの情報を得ようという魂胆でもあったものか。どちらも在り得るのが、今のアイリスであった。


「あのえーえふ、あんまりはやくないよ。かしゃのはやさをいかして」


『ふふ、ありがと。帰ったらキスしたげる』


「わーい。かんしゃのきっすだ」


 たぶん、おそらく、アイリスは本当にゲーナからの感謝のキスを喜んでいる。ダイドウにコールドスリープを解除された時、彼女自身がキスのジェスチャーをしたように、アイリスの中では最大限の感謝を示す動作なのだろう。きっと。

 ゲーナが通信を閉ざし、カシャをリボーテへと向けて加速させるのを見送ってから、アイリスはダイドウに声をかけた。


「だいどう、うるめにもどるよゆうはないみたい」


『そのようだな。投入のタイミングからして、ガスバークの切り札か悪あがきに相当する機体の筈だ。お前には万全の状態で戦わせたかったが、仕方あるまい』


 ブルースターのバッテリーパックは、まだ残っている。だがミサイルとガトリングガンは撃ち尽くし、ザンテツも無理な使い方をしたせいで刃が何か所か潰れてしまっている。

 イーリスの武装はほとんどが使用不可能な状態に陥ってしまっている。アイリスは落胆する暇もなく、ダイドウに新たな武器を求めた。


「だいどう、じーぱたーんのぱっけーじをしゃしゅつして」


『分かった。不要な武装はパージしておけ。射出のタイミングの同期を行う』


「うん。でっかいてきをあいてにするときは、こっちもおおきなぶきで」


 イーリスがその装いを変えている間に、カシャは乱戦状態になっている戦場を駆け抜けて、リボーテの巨体をレンジに捉える直前に至っていた。

 アイリスの返事を聞き届けたゲーナは、肩から余計な力が抜けたのを感じ、口元に笑みを浮かべる。最初はアイリスの技量に惚れぬいたのだが、今はアイリス個人も随分と気に入ってきている。


「こりゃあ、なんとしても生きて帰らなくっちゃ」


 誰に聞かせるでもなく、ゲーナの熱を帯びた独り言がヘルメットの中でだけ反響した。

 リボーテは共に出撃した艦艇群を置き去りにして突出し、猪突猛進の勢いで距離を縮めてきている。その無防備な姿へと、カシャは直上からまっすぐに襲い掛かった。

 カシャの胴体上部の連装ビーム砲、機体下部から伸びるサブアームのガトリングレールガンの照準の中央にリボーテが捉えられ、トリガーは容赦なく引かれる。


 ゲーナの視界の中で、リボーテが右方へと機体を捩じり、ビームの直撃を避けつつ、カシャへと向けて胴体から生える手の先端を向ける。

 四本の指を持った掌の中央に丸い銃口が開いていて、そこから銃弾が勢いよく吐き出される。発射前の反応と速度からしてリニアマシンガンだとカシャのAIが判断する。


「なんの!」


 ゲーナは速度を緩めずに一気に駆け抜けて、リニアマシンガンの射線軸から機体を逃がす。人体の強化技術の発展した昨今、一般的な兵士や傭兵でもナノマシンや投薬、簡単な外科手術で身体能力を強化されている。

 なんなら一戦闘の間だけ効果のある投薬により、インスタント強化人間となる技術が確立されて久しい。ゲーナもナノマシンによる思考、反応速度、G耐性の強化など諸々の恩恵を受けている。この時代、誰もがある程度の肉体強化を受けていると考えて間違いはない。


 強化済みの肉体と重力制御ユニットの恩恵を受けて、カシャの無茶な旋回にもゲーナの肉体は耐えて、三倍近い巨体にリボーテへと向けて、連装ビーム砲塔とサブアームが火線を集中させる。

 アイリスのアドバイス通り、速度そのものはカシャに比べて劣るリボーテは、火線を振り切れずに着弾を許し、機体を中心に展開された球形の力場によってことごとくを弾いた。

 大出力のジェネレーターによって機体の全方位をカバーするエネルギーフィールドが、リボーテに鉄壁の守りを与えていた。


「ちっ、守りは厚いってわけか。あっちのジェネレーターが音を上げる負荷を掛けるしかないか?」


 カシャのセンサーがリボーテのエネルギーフィールドの強度を分析し始める中、リボーテの胴体の装甲が四か所開き、そこから小型のミサイル群が顔を覗かせる。

 マイクロミサイルの群れがリボーテから一斉に発射されて、四方八方からカシャの逃げ道を塞ぐようにして迫りくる。カシャの速度なら振り切れるが、被弾を避ける為には回避ルートが限定され、そこをリニアマシンガンの連射が先んじて塞いでいた。


「ミサイルかマシンガンに撃たれるか、二択ってわけね」


 カシャの機首がぐんと曲がり、下方から迫りくるマイクロミサイルへと飛び込む。バイザーに投影されるマイクロミサイルへ、サブアームのガトリングレールガンが火を噴いて、次々と撃ち落し、カシャの通り道を確保。

 連装ビーム砲塔がせわしなく回転して、更に周囲のマイクロミサイルを迎撃し、被害を最小限に収めるべく、奮迅する。


 カシャに劣るとはいえリボーテの速度は、平均的なGSよりも上だ。まっすぐに飛ばせば、イーリスやライジングフォースを引き離す程度には速い。

 加えて恐ろしく小さな旋回半径による急旋回や、急角度を付けての直覚的な機動変更の数々は、パイロットの肉体強度が並みでは済まされないのを示している。

 ゲーナが全神経を注いでマイクロミサイルの雨の中を突破する間に、リボーテは獲物を捉えた鮫の如く距離を詰めていた。リボーテの機首下部の装甲が左右に開き、内部に隠していた砲身を露にする。


「ええい、本物の強化人間か!」


 リボーテの砲身から不可視の力が放出される。それは指向を持たされた重力場だ。一部の重力制御ユニットで使用可能となる、重力砲である。エネルギースキンを装甲ごとまとめて重力負荷により歪める為、GSや艦艇に非常に有効な武器だ。

 カシャはかろうじて直撃を避けるも、左のサブアームが重力砲によって歪む空間の中に飲み込まれて、見る間に捩じれて引き千切れる。


 ゲーナが看破したようにリボーテのパイロットは、強化人間だ。

 機能を盛り込んだ結果、機体制御と火器管制システムがお粗末な結果になったリボーテは、人間が運用するには重度の強化手術を受けた強化人間か、よほどの適性がなければ満足に扱えない機体となってしまった。

 リボーテが失敗作の烙印を押された扱い難さについて、フウジャはアイリスのように売られていた強化人間を買い取り、更なる強化を施して解決策とした。

 更なる重力砲とマイクロミサイル、リニアマシンガンの連射によって、カシャは被弾を重ねてしまい、ゲーナのコックピットには危険を告げるメッセージウインドウが次々に表示される。


「くっそ、アイリスにキスするまで死ねるかっ」


 ゲーナが回避に全神経を集中する中、救いの手は伸ばされた。決して敵を近寄らせず、血で手を汚さずに倒すことから、“白い手の”と称された傭兵、ローザの手が。

 カシャの撃墜に邁進するリボーテの巨体右側面に、螺旋状に回転する荷電粒子の槍が次々と突き刺さり、エネルギーフィールドで守られている筈の装甲表面に数メートルの穴開く。

 他星系で開発された、しなやかな曲線の美しい高級機シルバリオに搭乗するローザは、白いパイロットスーツに身を包み、グリーンのバイザー越しにリボーテを見ている。アイリスに向けたのと同じ嫌悪の情を滲ませて。


「攻撃時にエネルギーフィールドは展開できない。攻防一体とはならず。なんて分かりやすい弱点」


 憐憫さえ交えて零す言葉と同時に、ローザはペットネーム“エイロネイア”と名付けた機体に握らせた大型ビームライフルの銃口を、再びリボーテへと向ける。

 ファーエデン星系において射撃の名手として知られた、高ランク傭兵が本格的に参戦したその瞬間であった。

美味しいところで、ローザの登場です。

アイリス以外に搭乗している味方傭兵パイロットとしては一番の腕利きとなります。

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