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ミッション:バルチャーイーター③

 バルチャーネストは、不運な事故の連続によって放棄されたスペースコロニーを改造した拠点だ。

 フウジャが買収したPMCや軍需企業の手による度重なる改装により、要塞化が進められているが、大元がスペースコロニーである為、根本的な部分で脆弱性を抱えている。


 カイラ率いる特務艦隊が接収から、破壊に目標を切り替えれば攻略の難易度は大幅に下がる。

 フウジャが保険として、厳重に保管しているザギオンとの取引記録の確保が、特務艦隊の目的の一つであるから、早々、バルチャーネストの破壊に目標を切り替えはしないだろうが、艦隊の被害次第では最後の手段として選択する可能性は充分にあった。

 戦闘が発生してから、フウジャの姿は司令室にあった。複数のオペレーター達がひっきりなしに通信のやり取りを行う中、フウジャの瞳は正面の大モニターに映し出される戦況図に固定されている。


「ファーエデンめ、こちらの戦力が予想以上だったと慌てているようだが、あれだけの傭兵を集めてきたのは、こちらとしても予想以上か……。グレッグの部隊をマズキスの救援に向かわせない」


 元々、フウジャとてバルチャーネストを守り抜けるとは考えていない。可能な限りファーエデンに出血を強いて、ザギオンが動きやすくなる状況を作る。

 それを恩着せがましく押し付けることで、戦後の安定した立場を得る。それがフウジャの目下の目的だ。

 今回の戦争に於いてほどほどにザギオンと手を組み、他者の血を啜って自分だけは確実に生き残り、才覚の限りを尽くして成り上がる。それがフウジャの目下の人生プランだった。


「出し惜しむ必要はありません。必要な戦力を必要な時、必要な場所に送り届けられるように、必要な情報の取捨選択を間違えないように心構えなさい」


 フウジャは冷たく告げて眼鏡の位置を右手の中指で直す。手元のタブレット端末で、戦場で確認できた敵傭兵達のリストを、フウジャの瞳が眺めた。


「ふん、それなりの粒は揃えてきましたか。ポラリス・フリートの艦艇が本来の規模に比べれば、やけに少ないのは不幸中の幸いではありますが、さて……レイデン」


 タブレット端末に微笑を浮かべるレイデンの顔が映し出される。ザギオンのエージェントであろう彼は今、軽空母に乗り込んで迎撃に出ている。商船を改装した軽空母の出どころは、やはりザギオンである。


『お呼びですか、フウジャさん。といってもそろそろお声が掛かる頃かなと、思っていたんです』


「察しの良いところは相変わらずですね。ポイントDB446を突破しつつある敵部隊の迎撃に向かいなさい。正面から攻め寄せてくるファーエデンの艦隊よりも小規模で、傭兵を主力とした部隊です。ルネスとバグラの部隊を好きに使って構いません」


『了解です。勢いのある敵さん達ですね。“赤い閃光”の弟子とガーデンの新顔を含む、質に優れた構成と言えます。ポラリス・フリートは直前の依頼で主力艦が複数、損傷を受けていたから、ほとんど参戦していません。彼らが全力だったら、もっと早く窮地に追い込まれていましたね。悪運が強いなあ、フウジャさん』


「ふん。褒め言葉として受け取っておきましょう。あなたの減らず口も相変わらずだ。さっさと出撃なさい。あれらを退けるくらいの仕事は最低限、果たしなさい」


『はは、任せておいてください。僕はそれなり止まりですが、僕のところのパイロットやクルーは皆さん、優秀ですから』


 そりゃあ、ザギオンの正規訓練を受けて、こんな汚れ仕事を任されるくらいなのだ。少なくとも能力があるのは、間違いないだろう、とフウジャは心の中でだけ愚痴のように零す。


『では命令通り、ポイントDB446へ急行。ルネス隊、バグラ隊と共闘して迎撃にあたります。戦況が好転するように頑張ります』


「頑張るでは足りません。死力を尽くしなさい」


『分かりました、ご期待ください』


 いやに明るい声で返事をして、レイデンは通信を切った。軽薄と陽気の入り混じる笑顔と声には、彼がこの状況で微塵も焦っていない事が如実に表れている。

 アイリスやレッカを含む傭兵部隊など、取るに足らない戦力と見做しているのか、どんなに追い詰められても逃げ出す用意が出来ているのか。


 フウジャの命令を受けたレイデンが迎撃に向けて準備を進める中、レッカ、ゲーナと合流したアイリスはゲーナのカシャの力を借りて一気にその歩みを進めていた。

 ゲーナがクロズ・ウェポン・システムズより使用を求められたカシャは、大推力と重装甲、大火力を活かして一撃離脱を繰り返す機体であり、ここまでならAFのスタンダードだ。

 他者の後追いではシェアを獲得できないと考えたクロズは、カシャに一つの個性を持たせた。


『そうら飛ばすよ、アイリス、レッカ、舌を噛むんじゃないよ!!』


『は、はいぃいいい!』


「おっけー。まかしとけ」


 エネルギースキンと推力にエネルギー配分を割り振ったカシャが、高機動タイプのGSでも追いつけないような速度で加速し、新たに姿を見せる敵機の群れの中に流星の如く突っ込んでゆく。

 生き残りの武装衛星、慌てて出撃させた無人バトルポッドの類が砲火を集中させるが、ゲーナがカシャの速度を殺さぬまま、重力制御ユニットの恩恵を受けて機体を捩じり、不規則な螺旋運動や上下運動を重ねることで、照準が追い付かない。


 カシャの機体左右のコンテナ上部ハッチが開き、内蔵されていた五十連ミサイル、左右合わせて百発が射出後、一定の距離で折れ曲がり、それぞれが角度を変え、速度を変え、複雑な軌道を描くもの、素直な直線を描くものとランダムに敵機の群れへと襲い掛かる。

 その多くは回避されるか、迎撃の銃弾やビームに絡めとられる、あるいは新たに生まれたばかりのデブリに命中したが、少数が敵機に命中してカシャの進行方向に無数の爆発の花を生み出す。


『そうら出番だよ、アイリス、レッカ!』


 カシャの周囲に爆炎によって焼き尽くされた空白地帯が出来上がり、一分と関わらずに埋め尽くされるその前に、カシャのコンテナ下部のハッチが開く。

 そこから一時的に格納されていたイーリスとライジングフォースが姿を見せ、重力場の形成によって一気に前方へと落下する。

 敵機に一撃離脱で打撃を与えつつ、友軍機を可能な限り迅速に敵陣営に輸送する──クロズがカシャに求めた個性であった。


 百発のミサイルが生んだ一時的な爆炎と高熱は、敵部隊のセンサー類に支障を来し、カシャから出撃した二機の反応を捉えるのが遅れた。その遅れを見逃すアイリスではなく、またレッカも見逃さないようにクリフォードにしごかれていた。

 弾丸のように勢いよく飛び出した、あるいは落下したイーリスは新しいバッテリーパックに替えたブルースターを、立て続けに連射する。


 ミサイルの爆発によるノイズはイーリスにしても同じ話であったが、モニターに映る爆炎の中に紛れる敵機の影や、イーリスのセンサーがキャッチするわずかな爆炎以外の反応を過たず受け止めていた。

 例え旧式のスケアクロウでも、イーリスの機能は敵機の反応を捉えている。凡百のパイロットは、ただそれに耳を傾けず、聞き取れないだけなのだ。


 機体のジェネレーターのリズムも、関節のきしみ、センサーを走る殿筋信号や重力制御ユニットが変動させる微細な重力場の変化も。アイリスはそれらすべて、機体に存在する“流れ”、“リズム”、あるいは新陳代謝を淀みなく理解し、必要とあれば整える。

 それが出来るからイーリスから放たれたビームは、ノイズとして処理されるのが普通の敵機の反応に向けて、正確に伸びて行く一発も外れる事がない。


 ミサイルとは異なる爆炎が、続けて三つ生じる。

 三発のビームが生んだ三つの破壊であった。

 カシャが急旋回をして離脱する間に、イーリスはぐんぐんと加速して、進行方向に居る機体へまるで流れ作業のようにビームやガトリングガン、ミサイルを送り込み、それらは冗談のように戦果を積み上げて行く。

 ようやく爆炎の影響が静まり、センサー類の復活した敵機のパイロットやAIは、いつの間にか命中していたビームや迫りくる銃弾に反応できず、多くが撃墜スコアとしてアイリスの戦果になる。


 わずかにその例外となったドムラカンやハードエッグ、フライパンのような形をした戦闘機が、仲間のかたき討ちとばかりにイーリスへと、レーザー機銃や各種ミサイル、ビームランチャーの銃口を向けるが、ここでイーリスの影に隠れていたライジングフォースが飛び出す。

 カシャからのミサイルの嵐に続き、イーリスからの正確無比な攻撃に慌てふためいたガスバーク側にとって、ライジングフォースが意識から外れていたのは仕方のない事だった。

 人間はまだしもAIが反応できなかったのは、有人機の行動に紐づいたルーチンで動くタイプを使用していたからだ。独自に判断して戦うタイプのAIなら、ライジングフォースの奇襲に対応できただろう。


『当ててみせる!』


 ライジングフォースの右手に握られたビームライフル“スコル”から、次々と荷電粒子が発射され、意識外からの攻撃を受けたバトルポッドを貫いて爆散の運命を与えて行く。

 更にバックパックのサブアームの両方に持たせた八連装ミサイルポッド“エイトヘッズ”から、全十六発のミサイルが発射されて、光の軌跡を描きながらスコルから逃れた運の良い連中に、運の尽きをお知らせする。


 スコルとエイトヘッズの強襲を、重装甲で耐えきったオロンが一機、爆炎の中から飛び出して両手で保持し、腰だめに構えたガトリングガンをライジングフォースへと叩き込んできた。

 さしもの重装甲も立て続けの命中弾によって、機体各所に罅が走り、スパークが漏れ出ている。一部の装甲は欠落していたが、頑丈でどんな悪環境でも動くと評判のザギオン傑作機は、銃火を絶やさない。


「このっ」


 回避が間に合わないと判断したレッカが、機体の右半身を引き、オロンから見て左半身が向けられた体勢で実体盾ラヴェンナを構え直す。

 こうなると敵側から見てライジングフォースのほとんどが、ラヴェンナの影に隠れてしまい、有効打をほとんど与えられなくなる。ラヴェンナの電磁バリアが銃弾を弾き続け、その間にもガラクはライジングフォースの背後か、頭上を取ろうと動き回る。


 レッカは冷静だった。機体を揺らす振動を堪え、ラヴェンナの耐久値と機体のエネルギー状況を瞬時に再確認。ガトリングガンが命中しているとはいえ、機体への直撃ではない以上、まだ耐えられる。

 ラヴェンナでカバーできない箇所への攻撃を目論むオロンの機動を読み、一気に機体を加速して賭けに出る。


 ライジングフォースに対して弧を描くオロンに向けて、最短距離を一気に加速して距離を詰め、降り注ぐガトリングガンをラヴェンナで弾きながら、両機が交錯。

 両機が交錯するその瞬間に、ライジングフォースの左手が左腰サイドアーマーに固定されたビームソード“ラディアンス”を逆手に抜き放ち、コンマ一秒以下の交錯の瞬間に光の一閃が傷ついたオロンの胸部を斜めに斬り裂いた。

 著しくエネルギースキンを消耗し、ダメージを受けていたオロンの装甲はビームソードの出力に耐えきれず、数秒の間を置いて機体を爆発させた。


『はあ、はあ、思ったより当てられたけど、なんとか……』


「ないすふぁいと」


 レッカがオロンと戦っている間に、残る敵機を片付けたアイリスは呑気なセリフでレッカを励まし、次いで空気が弛緩するのを許さないとばかりにダイドウからの警告が二人に伝えられる。


『警戒を緩めるな。急速に接近してくる反応を感知した。エネルギー量からして艦艇、駆逐艦ではないな。巡洋艦かあるいは軽空母。数が出てくるぞ』


『れっかはいきをととのえて。すぐにげーながもどってくるし、しばらくはわたしでおさえるよ』


「だ、大丈夫……いや、少しだけ、本当に少しだけお願い」


 アイリスの言葉に最初は否を口にしようとしたレッカだったが、連続の戦闘にかつてない疲労を負っている自分に気付き、冷静に判断を下し直した。

 ゲーナのカシャもすぐにこちらの戦闘に加われる位置だ。ベックや後方の伏兵を排除に行ったガンロンも、直に合流するだろう。アイリスに負担が圧し掛かる時間は少ないと、レッカの理性は冷徹に判断したのだ。


『うん。でもひさしぶりのあいてだから、れっかはたたかいたかったかも』


「え?」


 アイリスは高速で接近してくるGSウインドエッジとガラクに気付いていた。特にそのウインドエッジの動きに、アイリスは即座にその正体に辿り着いたのである。

 ムスビとアンテーンの輸送船護衛の依頼の折りに交戦した、あの腕利きのスピード好きの宇宙海賊バーフウだ。相棒のギゲール共々、ザギオンの命令で宇宙海賊に身を費やしていた彼らの直属の上司が、レイデンだったのだ。

 バーフウの機体ウインドベルが、狙いをイーリスに定めたようで、自由気ままに無駄な軌道の多すぎる軌道を描きながら距離を詰めてくる。


「わあ、すごくたのしそう」


 アイリス自身はまるで楽しくなさそうな調子ではあったが、奇妙なことにバーフウの相手をすること自体はそう嫌でもない様子だ。戦いを通じてバーフウの喜びが伝わってくるのは、そう嫌いではないらしい。

 バーフウは変わり者だが、アイリスもまた強化人間という出自を含めても、変わり者に違いなかった。そして両者とも腕利きのパイロットであるのも、間違いのない事実であった。

 その二人が再び、この戦場で激突する。

ネームドキャラの再登場となります。今度はあちらもこちらも本気で撃墜狙いとなります。

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