ミッション:バルチャーイーター②
なんとか一話。
ゴールドサーペントを筆頭とするポラリス・フリート──フリートというには小規模だが──の砲撃によって、デブリ帯に引かれた道を報酬を求める傭兵達が血気盛んに突き進んでゆく。
速度自慢あるいは業突く張りの傭兵達が先頭を争い、彼らを囮代わりにして漁夫の利を狙う狡猾な傭兵達が後方集団を形成する。
アイリスはといえばやや前方よりの集団に位置していた。この時、デブリ帯を突破した傭兵達の戦力はイーリス、ライジングフォースを含めてGS十二機とその他一機。その内、ブルーレンの指名を受けたテッカロンを含めたGS四機が、伏兵潰しに動いている。
残る八機のGSとプラスαが縦列に近い陣形で、遮る者の居ない道を進む。このまま突き進めば、あっという間にハゲタカ共の巣へとたどり着くが、そう簡単に話が済むわけもない。
そして倒した敵の数と種類に応じて報酬の出る傭兵達にとっても、このままなんの邪魔も入らないのが、一番困る展開だった。
ゴールドサーペントの砲撃が一旦、止まる中、バルチャーネストから次々と出撃する光が見え、またデブリ帯との間で待機していたシャトルや人工衛星からも新たなバトルポッドや戦闘弧、GSが徐々のその数を増してくる。
そうこなくっちゃと意気揚々と先頭集団の傭兵達が襲い掛かり、ようやくの機動兵器戦が行われ始めた。
ザギオンとファーエデン製のバトルポッドや戦闘機は、有人機一に対し無人機三機編成が基本とされる。非合法の武装勢力の連中もその基本は守っていて、傭兵のGSを相手に数の有利を維持して攻撃を仕掛けてくる。
ファーエデン軍の選抜をクリアした傭兵達は、襲撃側のアドバンテージと報酬につられていることもあって、数で勝る敵にもいっさい怯むことはない。
機動兵器同士の先端が開かれてから、イーリスは後方の艦隊を目指そうとするガスバーク一家のバトルポッドや改造重機を優先して迎え撃っていた。
以前、バーフウが使っていたコスモダガー三機が一斉に放ったミサイルは、後方の艦艇による電子攻撃によって追尾性能を著しく阻害され、軽く機体を振りながら左肩のガトリングガンをばら撒けば、次々と爆発を起こして無力化される。
イーリスの収集する膨大な情報を常人どころか、並みの強化人間でも不可能な精度で理解し、解析可能なのがアイリスの特徴だ。
有人ではパイロットが潰れるような機動、加速が可能な無人コスモダガーが散開して、イーリスを突破しようとする矢先、その進行方向に恐ろしいまでの精度で三発のビームが発射される。
「そことそこと、ここ」
撃ったというよりも予め分かっていた進路にビームを置いた、そう評すべき精度だ。その証拠に無人コスモダガーの機首に青い荷電粒子の矢が直撃して、三機全てが爆散する。
これらのコスモダガーを率いていた有人コスモダガーを、とアイリスがセンサーを巡らせたタイミングで、イーリスとは別方向から発射されたバズーカの砲弾が有人コスモダガーを粉微塵に吹き飛ばしたではないか。
『おいおい、あんまり鈍いんで俺が撃っちまったぜ。さっきからこれの繰り返しだなあ、強化人間』
ベックからのにやけ面が簡単に想像できる、音声通信だ。彼はイーリスの後方に影のように貼り付いて、先ほどのように美味しいところを掻っ攫う行為を繰り返していた。
報酬の安い無人機の露払いをアイリスに任せて、報酬の高い有人機のバトルポッドや戦闘機、またはアイリスが追い詰めたGSを狙って、着実にスコアを稼いでいる。
「うわさのとおりでかんどーしている」
アイリスはバイザーの片隅に投影されたベックの機体を見る。それは複数の機体のパーツを組み合わせた、パッチワーク機だった。宇宙開拓時代、多くのメーカーが宇宙用重機を製造開発し、無数のパーツが市場に溢れかえった。
創造力と開発力、技術力、工業力のるつぼと化した市場を前にして、当時の政府と企業はようやく秩序の必要性を感じ取り、以降、一定の互換性を持たせる為の統一規格を設けるに至る。
この統一規格によって機体開発には一定の枠が設けられたが、宇宙用重機の系譜に連なるバトルポッドやGSは同カテゴリ内であれば、四肢や内部電装品の互換性を有する兵器として完成した。
その恩恵を受けるベックの機体ラッキーデイは、頭部はアリエン、胴体はオロン、両脚はガラク、両腕はファーガンと奇しくも、これまでアイリスが交戦してきた機体で構成されている。
戦場で目立つ為に、機体はピンクや赤、黄に緑等々、ド派手なペイントが施されていた。
機体に実用性を無視したカラーリングを施したり、性能に特に寄与しないアクセサリーを装備させたりするのは、名を売らねば仕事にありつけない傭兵ならではの事情である。
武器は右腕の実弾バズーカ、左腕にビームマシンガン、右肩に三連プラズマミサイル、左肩に四連ロケットランチャーの重装備だ。牽制目的のビームマシンガン以外はどれも高火力の武器で、GSや艦艇などの大物食いの為のチョイスだろう。
『け、そうかよ。ま、お前さんが頓馬なお陰で俺の懐は潤うってもんだ。次も俺の猟犬代わりをしてくれよ』
「わんわん」
『……』
どうやらアイリスの犬の真似はベックに受けなかったらしい。沈黙のまま通信が切られ、アイリスは物真似がイマイチだったかと残念がった。
通信は切断したがベックの行動に変わりはなかった。彼は変わらずアイリスの後をつけ回し、アイリスがダメージを与えた機体に止めを刺す行為を繰り返す。
バトルポッドの小隊がイーリスに砲火を集中させてくる中を、イーリスが回避に遷延して注意を引き付けている間に、ベックのラッキーデイがバズーカを、敵バトルポッドの横合いや背後から撃ち込んで、次々と破壊。
ガスバーク一家の持ちだしてきたガラクを相手に、イーリスが一対一の戦いを演じて、脚部の三連ミサイル、リトルクラッカーを目くらましに回避行動を取った敵機にブルースターの連射を撃ちこんで、エネルギースキンを剥いだところにラッキーデイのプラズマミサイルとロケットランチャーが襲い掛かり、これを撃破。
このようにイーリスを猟犬かつ囮として、ベックが美味しいところを掻っ攫ってゆく場面が何度か繰り返されたのである。奇妙なのはアイリスもダイドウもベックに対して、一切の講義を行わなかった点だ。
他の傭兵達が弾薬の補充や機体の損傷の為に、何機かが引き返す中、アイリスとベックの奇妙な連携は着実に成果を挙げ続け、それに伴い敵からの注目も否応なく高まる。
『ちっ、ほとんど弾がなくなっちまった。くく、だがこれで今回の報酬はタンマリよ』
今回の任務にあたって通信用に設定された周波数を通じて、ベックの愚痴と喜びの滲む声が、アイリスの鼓膜を振るわせる。高火力を備えたラッキーデイだが、いかんせん総弾数が少なく、ビームマシンガンを除けば継戦能力に乏しい。
もう少し稼ぎたいところだったが、弾薬の怪しいところで戦いを続けるほど、ベックは愚かではなかった。仕方ない、とファーエデンの輸送艦へ戻ろうとして、ふとイーリスが補給に戻る様子がまるでない事に気付く。
戦闘中に僚機や敵機の発砲数を数えておくのは、手慣れた傭兵ならば必須のスキルだ。これまでの戦闘でイーリスが使用した武器を思い返し、ベックははっとした。
脚部のミサイルとバッテリーパックが亡くなっても、本体からエネルギーを供給すれば使用可能なビームライフルだけではないか。これが意味するところは……
『てめえ、まさか』
「べっく、おつかれさま。はやくだんやくをほじゅうして、またたたかえるようにしたほうがいいよ」
『俺に露払いをさせたのか!?』
「ぜんぶべっくがじぶんできためことでしょう? せきにんてんかはよくない、よくない」
そう、ベックの行動は全て彼が自分の意思で決断したものだ。それに間違いはない。
例えアイリスがこれまでのベックの戦歴や行動パターンから、自分を利用する為について回ってくると推測し、有象無象の雑魚を倒させて、さも自分がアイリスを利用していると錯覚させていたとしても。
バルチャーイーター序盤におけるベックは、実のところ、アイリスの誘導によって彼女の望む通りに戦わされ、ある種の遠隔操作兵器と化していたのだ。
『やってくれたじゃねえかよ、強化人間のチビメスガキがよお。待ってろよ、すぐに戻ってきて、残りの敵は皆殺しだ。てめえには、これ以上稼がせねえ!!』
この場で逆上してアイリスに襲い掛からない程度には、ベックも冷静だった。仮に弾薬の少ないこの状況でアイリスに挑みかかっても、マンに一つも勝ち目がないことも、例え万全状態でも、勝利が難しいのを、ベックは内心では認めていた。
負け惜しみを吐いたベックは、ラッキーデイの踵を返させて、後方へと最大速度で下がって行く。この決断の早さが、ベックを今日まで生き残らせてきた秘訣に違いない。
「なんだかすごいおこっちゃった」
『……利用するつもりが利用されたとあれば、プライドが傷つきもするだろう。これから粘着されるかもしれんが、今は気にするな。奴への警戒は俺の仕事だ』
アイリスとベックのやり取りを聞いていたダイドウが、アイリスが余計なことに集中力を削られないように、フォローを入れる。実際のところ、依頼の現場以外でベックが何か細工を仕掛けてくる可能性を考えれば、それを防ぐのはダイドウの役割に違いない。
『それよりもアイリス、気付いているか? 数自体、事前の予想よりも多いが、妙に新しい機体の割合が高い』
「うん。なんだかしんがたがおおいね。ぱいろっとはそれなりだけど、とくむかんたいもおもったよりてこずっているとおもう」
『ああ。相互に囮を務める作戦だったが、このまま俺達がバルチャーネストを陥落させるつもりでいろ。それとお前とイーリスのコンディションには注意を払え。わずかな違和感でも、ウルメに戻ってこい』
「あいりす、りょうかいしました」
だいどうはあいかわらずしんぱいしょうだなー、と内心で思うアイリスだったが、次の言葉は心の中で収まりきらずに音声となった。
「しんぱいしょうなのは、だいどうだけじゃないね」
『アイリス、そっちは大丈夫?』
三機のバトルポッドと一機のGSを撃墜したレッカのライジングフォースが、周囲への警戒を怠らずに、イーリスへと近づいてきていた。
『こっちはあらかた片付いたよ。第二波が来るまで一息だね』
レッカだけでなくゲーナもまた、クロズ・ウェポン・システムズから貸与された機体を操り、イーリスへとその巨体を寄せる。
ゲーナの機体は全長五十メートルに達する、長方形の機体の左右にコンテナを括りつけたような、黒い機体だった。GS同様にエネルギースキンで機体を守り、重力制御による推進機能を備えた大型機動兵器アサルトフレーム──AFだ。
武装次第で距離を問わない戦闘が可能で、なんなら戦場を離れて作業機としても運用可能なGSに対して、完全に戦闘に特化した機動兵器である。
概ね、大質量の巨体を動かす為の大出力、大容量のジェネレーターを搭載し、GS以上の大火力武装と重装甲を備えるのが基本であり、コンセプトとしては一撃離脱の高火力高機動機か、大火力重装甲を活かして拠点防衛のどちらかが多くを占める。
「げーなもそのこも、まだきげんはよさそうだね」
『ああ、そこだけ心配していたんだが、今はまだ大した負担を与えていないし、エラーを吐いちゃいないからね。安心していいよ。ここでこのカシャの有用な実働データを集めなきゃ、クロズからの報酬が減っちまう。もう少し、前に出ようかね』
クロズ・ウェポン・システムズ試作AFカシャ。それがゲーナの乗り込む機体の名前だった。傭兵となったもののクロズ紐付きの身である彼女は、このようにスポンサーの意向を組みつつ依頼にあたっていた。
ダイドウのアドバイスを参考にしたとはいえ、彼女が完全に傭兵として独り立ちする為にも、今は実績と資金集めの為に古巣との親密な関係を維持する必要があるのだった。
ゲーナは半分独立と言ったところですね。企業専属の傭兵も珍しくはありませんが、ゲーナ的にはいつか支援なしに完全に独立したい気持ちで傭兵をやっています。




