表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/34

ミッション:バルチャーイーター

ミッションの正式名称が決まったようです。

 アイリスの受けた依頼“バルチャーイーター”の実行日、アイリスはウルメの医務室でツララにバイタルチェックを受けていた。

 脈拍、血圧、呼吸、血中に含まれる諸成分からなにから、アイリスの強化された肉体は平常時と何も変わらない。アイリスにとって大多数の味方と共に挑む、百を超える機動兵器の入り混じる戦闘も、これまで受けてきた依頼や日常と変わりはないのだ。


「分かってはいたけれどなにも問題はないわ。チェックする度に体重も増えて、栄養状態がよくなっているし、過酷なはずの任務と訓練をこなしても、あなたはまったくへこたれないのだから、頑丈さは折り紙付きね。その内、健康優良児になるでしょう」


 毎日、栄養たっぷりの食事を摂取し、大量のカロリーを消費し、新陳代謝の進むアイリスの体は、ツララの言う通り健康体に戻りつつある。

 ツララとダイドウの見立てでは、強化手術を受ける前のアイリスの素の身体能力も相当高い筈だ。強化手術と相まって、非常に優れた戦闘能力を発揮しているアイリスが、健康な肉体を取り戻した時、どれだけの力を発揮するのか。

 それは過酷な戦場に身を置き続けるアイリスにとって、大きな武器となるはずだが、強すぎる力が破滅を呼び込む前例は、この銀河では枚挙に暇がない。目的を達成するのに強すぎず、弱すぎない。そんな都合の良い力が必要なのだった。


「固形栄養剤は?」


 ツララに問われて、パイロットスーツ姿のアイリスは腰のケースから、白い錠剤をいくつか取り出した。一辺二センチほどのこれが、一粒で一食相当のカロリーと栄養素を圧縮したものだ。


「いっぱいあるよ」


「今回はウルメ以外に軍の輸送艦もあるし、ブルーレンのところの艦もある。弾薬が尽きたか、お腹が減ったら、どこでもいいから戻るんだよ」


「うん。たまがなくなるより、おなかがすくほうがさきかな」


「大した自信ね。でも、アイリスなら本当にそれが出来るんでしょう。それから、私が言いたいのは、どんなに怪我を負ってもいいから生きて帰って来なさい。そうすれば、私がなんとしても、生かすから」


「おー、それじゃあ、つぎはさいぼーぐかな」


「かもね。もしそうなったら、義手にマシンガンでも仕込んであげるわ。アイリス、そういうのが好きでしょ」


「おとめのひみつがばれちゃった」


 などと宣うアイリスに、ツララは毒気を抜かれたように柔らかく笑った。痛々しい話をしていても、アイリスにかかると笑い話かなにかに変わってしまう。パイロットとしての技量以外にも、こうしたところがアイリスの強みだろう。

 医務室を出てイーリスのコックピットに収まったアイリスは、じっと作戦開始の時刻に向けて体を安静に保ちつつ、クレールから今回の武装セットについて簡単な説明を受ける。


『アイリスさん、ご希望の通りブルースターとミゾレ、右のサブアームに予備のバッテリーパック、左のサブアームにはザンテツ。右肩に八連装ミサイルポッドBA-MP-ST08、左肩にガトリングガンBA-GG-ST203、両脚部に三連装ミサイルポッドのリトルクラッカーを装備しておきました。右腰のサイドアーマーにバッテリーパック、左腰にはミゾレの予備マガジン。機体は過去最重量状態です。長期戦の備えとはいえ、機体の重さには気を付けて』


「うん。めったうちにしてやるぜ」


『アイリスさんには緊張とかないんですねえ』


「がたがたふるえていたら、しょうじゅんがはずれちゃうからね。わたしからとりのぞかれたものだよ」


『……それは、ええと、はい』


 緊張していないのはアイリスの素の可能性が大いに高いが、過去の強化手術で緊張や恐怖を感じる機能を削除されたと言われたら、なにを言ってよいやら、口を滑らせるのが怖くなっても仕方がない。


「そういうわけなので、くれーるはわたしといーりすがかえってくるのをまっていてね」


『は、はい。どんな状態でも必ず修理してみせます。だから、ご武運を』


「まかしといて。かせぎどきだからね。いっぱいがんばるよー」


 アイリスの表情は変わらない。首のチョーカーが発する合成音声も、いつもの平坦さだ。なのにクレールにはアイリスが張り切っていると、確かにそう感じられた。

 ブリッジに居るダイドウから作戦開始を告げられたのは、それから一時間ほど経過してからだった。現在、ウルメは他の傭兵達のシャトルや哨戒艇の他、ポラリス・フリートと行動を共にしている。


『アイリス、そろそろ出撃の備えをしておけ。間もなく特務艦隊がガスバーク一家に攻撃を仕掛ける。俺達の出番はもう少し後だが、敵が伏兵を忍ばせるか、奇襲を仕掛けてくる可能性は捨てきれん』


「りょうかい。おとなしくとうこうするかな?」


『軍の方は抵抗してくると予想している。なまじ戦力があるだけに、相手も投降の選択肢を安易に取れないだろう。それに奴らは罪を重ね過ぎた。ザギオンと手を組んでいる疑惑まである。仮にファーエデンに捕まったとしても、ザギオンから口封じされる可能性も捨てきれん』


「なるほどー。たたかうまえからおいつめられているみたいなものかあ」


『ああ。追い詰められた以上、抵抗も激しくなる。心得ておけ』


 アイリスが準備を万端に整えたころ、カイラが自ら乗り込む戦艦を旗艦とする第九特務艦隊は、一部の傭兵を組み込んだ編成で改造コロニー、バルチャーネストへ大規模な囮を兼ねて正面から攻め込んでいた。

 第九特務艦隊の陣容は全長千百五十メートルに達するオルカ級戦艦の他、スクイード級巡洋艦二隻、トラウト級駆逐艦六隻の全九隻で構成される。

 既にファーガンの次世代機に相当する主力量産機、ファーデン三十六機が出撃し、合計百を超えるバトルポッドと戦闘機が布陣を終えている。


 国家に多大な不利益をもたらした武装勢力を相手にも、一応の降伏勧告が行われたが、ガスバーク一家からの返答はバルチャーネストと付近に設営された武装衛星、トーチカからの砲撃であった。

 事前に散布したアンチビームフォグが、多くのビームやレーザーといった光学兵器を著しく弱体化させたが、レールガンや各種ミサイルの類は強力なジャマーにもめげずに、特務艦隊へと降り注ぐ。

 至近を通過してゆくレールガンや、間近で炸裂して艦を揺らすミサイルの爆発に晒されても、艦長席の傍らに用意された司令席に腰かけたカイラは余裕の笑みを浮かべていた。


「対話による応答なしに、先手必勝とばかりに盲撃ちか。予想通りになったな」


 ファーエデン軍によるガスバーク一家のボスであるフウジャ・ガスバークに対する分析では、こちらの降伏勧告に対して、皮肉を交えて返答がある可能性も高かったのだが、思った以上になりふり構っていられないのか。

 いずれにせよ降伏勧告後、一方的な攻撃開始に備えて各艦のエネルギースキンの出力を高める指示を出していたのは、正解だった。


「目標はこちらの勧告を無視した。これよりバルチャーイーター第二フェーズを開始する。傭兵部隊に攻撃開始の指示を出せ。艦隊、砲撃戦用意。本丸に近付く前に目障りな雑魚を叩き潰すぞ。各員の奮闘を祈る」


 バルチャーネストからの砲撃が緩んだわずかな一瞬に、反撃の砲火が一斉に特務艦隊から放たれ、その間隙を縫ってファーデンやバトルポッド、傭兵達の雑多なGSが重力推進によって、加速してゆく。

 巨人の幻影達がハゲタカの巣と名付けられたコロニーへ向かい、人の命を飲み込む輝きを無数に作り出すのに合わせ、ポラリス・フリートを中心とした遊撃艦隊も、行動を開始する。


 これまでバルチャーネストの索敵網にひっかからないように、デブリ地帯を息を潜めて進んでいたが、特務艦隊が正面から派手に撃ち合いを始めた以上、伏兵の存在を気付かせて、戦力を分断するよう仕向けるのが、彼らの役割の一つだった。

 ブルーレンの座乗艦ゴールドサーペントは、ブロッケンの母艦と同じイフリート級巡洋艦を改装した艦だ。名前の通り黄金の鱗を持った大水蛇の頭上で、北極星の輝くエンブレムが描かれた艦だ。


 ゴールドサーペントに三百メートル超のレプラカーン級駆逐艦が追従し、その後方に特務艦隊から派遣された箱型の輸送艦一隻と、雑多な傭兵達の母艦が続いている。

 デブリ地帯に潜んだ敵からの待ち伏せを警戒して、既にすべてのGSが出撃を終えて警戒しながら進んでいる。


「特務の方が派手に始めたねえ。それならアタシらも答えてみせなきゃ、釣り合わないってもんさ。サブリン、傭兵共に道を開けさせな。ハゲタカ共の巣を丸ごと焼き尽くそうとしているのが、こっちにも居ると教えてやらにゃあね」


「了解、キャプテン。機動部隊全機に通達、これより艦隊は砲撃を開始する。一分以内に指定の宙域から退避せよ。これは事前に通達した通りの行動だ。時間内に退避できない場合、巻き込まれても文句は受け付けない」


 艦橋のレーダーに映る反応が素早く動き出し、艦隊の射線軸を開けて行く。岩石の類から宇宙船や機動兵器の残骸まで、無数のデブリが不規則に漂う中をすいすいと避けて移動しているのは、流石に歴戦の傭兵達であった。

 そうしている間に二隻の艦艇の主砲、副砲が回頭を終え、ミサイル発射管のハッチが小気味よく開いてゆく。


「奴らの仕込んだ兵器ごとまとめて吹き飛ばしてゆくよ。全武装使用許可! 撃ち方、はじめ!」


「撃ち方、はじめ!」


 艦長席に腰かけるブルーレンの号令を副長であるサブリンが復唱し、迅速に二隻の駆逐艦にも伝達されて、用意を終えた艦隊の火力が遠慮も容赦もなしに解放される。

 駆逐艦でもGSを上回る出力を誇る。それらが容赦なく火力を発揮すれば、見る間に光と爆発の道が一直線に引かれて、進路を妨げていたデブリが更に微細な破片へと砕かれ、GSや艦隊を妨げるものは無くなってゆく。


「さて、当然、伏兵は想定しているだろうけれど、バスカークの連中はどれだけ早く対応してくるかね? GS部隊を前進させな。障害物は取っ払ってやったんだ。度胸と腕の見せ所さ。たっぷりと稼いでおいでな」


 大雑把なブルーレンの指示だが、もとより普段から彼女の指揮下に居る艦隊のメンバーならともかく、付け焼刃の連携すら期待できない面子だ。おおまかな道筋を立てれば、後はそれぞれのやり方で勝手に突き進んでゆく。


「おっと、サブリン、テッカロンと、そうだね、相性のよさそうな傭兵を三人ほど見繕って、このあたりを探らせな」


 ブルーレンとサブリンの目の前に小さなホロモニターが浮かび上がり、ブルーレンの指定したポイントの映像が拡大される。いくつかの岩塊、スペースコロニーの壊れた外壁が浮かんでいる。


「伏兵を潜めておくにはいい場所だ。後ろからチクチクされたら鬱陶しい。焼き払ってもらおうか」


「直ちに」


 破壊を免れたデブリ帯に紛れている敵の芽を摘み取りながら、ブルーレンは開いた道を突き進むGSの反応をホロモニター越しに追った。

 図らずも口論となったダイドウのところの強化人間も、先頭集団に紛れてバルチャーネストへと迫っている。ダイドウのやり方は気に入らないが、審美眼の正しさは認めている。あの車椅子に乗っていた少女も、パイロットとしては一級に違いない。


「成果を出すからやり方を変えられない。やり方を変えたらこれまでの犠牲が無駄になるようで、変えられない。そんなところかい、ダイドウ?」

ダイドウとブルーレンは同期に近く、お互いの事情、手法にも通じている分、相いれない所もあるわけですね。大人なので割り切った付き合いができるのがせめてもの救いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ