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ブリーフィング:バルチャーネスト壊滅作戦

「お、お前ら、俺をナメんじゃ、いや、ナメては……ああ、くそ」


 結局のところ、ベックは上手い反論を見つけられなかったらしく、言葉は形にならずうやむやになって飲み込まれた。他の傭兵達は大なり小なりベックを嫌っているのもあって、彼がやり込められた状況を楽しんでいる。

 これまで黙ってアイリス達の会話に耳を傾けていたブルーレンが、ベックを振り返りながら笑う。曲がりなりにもベテランのベックが、アイリスにやり込められたのが楽しくてしょうがないと、女傑の口元に笑みを浮かばせていた。


「そこまでにしときな、ベック。今回ばっかりはアンタの負けさ。負けが決まったら、傷を浅くするのが、アンタに限らず傭兵の生き残るコツって奴だろう?」


 ベックにしてもキャプテン・ブルーレンほどの大物に言われれば、それに従うしかない。今回、ファーエデン軍に招聘された傭兵の中で、彼女が最も大物だった。戦歴も、率いている戦力も、全てがだ。


「ブルーレンの姐御に言われちゃ、仕方がないが……ちっ、どうにも上手くいかねえ。実際の戦いでどれだけ役に立つか、俺様の目で確かめてやるよ」


「わたしもたしかめてあげるね」


「……お前、ひょっとして素で言っているのか?」


「わたしはいつでもしょーじき、せいじつ。うそをつくきのうがのこっていないしね」


 正直と言っていいのか、あまりに躊躇なく、悲壮な境遇を語るアイリスにベックは絶句し、背を向けているローザの体が、一度だけ大きく揺れた。ついでにダイドウもまた一度、痛みを堪えるように瞼を閉じたのだが、アイリスは気づいていたかどうか。

 アイリスの言葉に室内の空気が強張り、さしものブルーレンも口元の笑みを引っ込めている。アイリスのような幼い少女が肉体を弄られたと口にするのを聞いて、笑みを浮かべ続けられるような人間ではないのだ。


「まったく、ダイドウ、アンタの趣味はいつだって悪いけど改めて痛感したよ。アンタがその子を強化人間に改造したわけじゃないのは、分かっているけどさ。戦場に立たせているのは、アンタなんだ」


「俺とアイリスの契約によるものだ。俺が押し付けたものであるのには変わりないが、いずれはアイリスが自らの道を選ぶ」


「そこまで生きていられたらだろう。アンタはかなり無茶な仕事をやらせる。これまでの損耗率が証拠さ。アンタは同業者であってお互いに身内ってわけでもない。これ以上、口をはさみゃしないが」


「そうしろ。俺もアンタが自分の傭兵団で何をしていようが、口を出さないのと同じことだ」


「愛想と愛嬌の無さも相変わらずだね。傭兵業を始めたばかりの頃は、もう少し可愛げもあったのに」


「そっくりそのまま、同じ言葉を返そう」


 ダイドウとブルーレンがある意味では、気心の知れた会話をしている様子を、アイリスは二人の顔を交互に見ながら聞いていた。

 アイリスにしてもダイドウが自分のような存在を扱うことに対し、納得しきっていないのは感じている。幼児向け教育番組の影響か、アイリスは他人の心の機微を少しばかり察せられるようになったらしい。


「ふたりともばちばち。ふるいしりあい?」


 ダイドウにこう尋ねたのも二人の間に流れる強張った空気を、アイリスなりに少しでも解そうと試みたからだ。そのアイリスの気遣いの分からないダイドウではない。小さく息を吐くと、ブルーレンに目配せをしてからアイリスに視線を向ける。

 ブルーレンもダイドウの目配せを受けて、矛を収めることにしたらしい。ダイドウのやり方は気に入らないが、彼自身の人となりには一定の信が置けるし、使われている強化人間達自身に含みがあるわけではないのだから。


「そうだな。お互いに今の仕事を始めたころに知り合った腐れ縁だ。こうして今日に至るまで生き残っている。共同で依頼をこなすのも今回が初めてではない。敵対したこともな」


「そう。ようへいだもんね。きのうときょうで、てきとみかたが、かわることもあるよね」


「そういう事だ。だがお互いにそこは割り切っている。依頼の最中に背中から撃たれる心配はない。俺もお前にそう命じたりはしない」


「うん」


 ダイドウは思いがけず神経を使う羽目になったが、それは表に出さずレッカやゲーナの近くにアイリスの車椅子を動かし、自分はその背後で足を止める。

 部屋の奥の扉が開いて、今回のファーエデン軍側の窓口を担当する軍人達が入ってきたのは、ちょうどそのタイミングだった。先日、ダイドウとプライベートな場で話を持ってきたカイラ・シラベだ。

 ファーエデンのオリーブドライを基調とした軍服に身を包み、襟には中佐を示す階級章が輝きを放っている。

 カイラは裸眼を外していて、裸眼で室内の傭兵達を見回す。ダイドウとアイリスを視界に収めても、一瞬も止めなかった。この場に居る限り、傭兵と雇用主の関係なのだ。


「傭兵諸君、今回は我々の呼びかけに応じてくれたことに、まずは感謝したい。さて、これから棋院たちに依頼する内容について、詳細を開示する。話を聞く用意は……うむ、整っているな。私は、今回、本作戦の指揮を執るカイラ・シラベ中佐だ」


 カイラは傭兵達の沈黙を確認してから、背後のモニターを転倒させて、攻略目標となるバルチャーネスト周辺の宙域地図を表示させる。


「ガスバーク一家の本拠地である、コロニー・バルチャーネストに対し、私が司令を務める第九特務艦隊が正面から攻勢を仕掛ける。諸君らには我が艦隊に同行する部隊とポラリス・フリートを中心とした部隊を編成し、デブリ地帯を突破して挟撃を行ってもらいたい」


 モニターにバルチャーネストに向けて突き進む矢印が表示され、また別方向のデブリ地帯の隙間を縫うようにして、進む別の矢印が表示される。二つ目の矢印にアイリスも含まれるわけだ。

 ここで口を出したのはブルーレンだった。実のところ、予め、カイラから傭兵達の指揮を委ねるのと彼女の艦隊を足代わりにする旨の根回しを受けている。これからブルーレンが口にする言葉も、他の傭兵達に聞かせる意図があってのものだ。


「それは構わないがね。こっちにはなにか融通しちゃくれないのかい?」


「諸君らの補給用に輸送艦を二隻つける。自衛できる程度に戦力はつけるが、戦闘そのものは君ら任せだ」


「そいつはどうも。正規軍の輸送艦を使えるのはありがたい。せっかくの機会だから、堪能させてもらうよ。ウチから出すのは巡洋艦と駆逐艦が一隻ずつ。生憎、他の艦は修理やら別件やらで動かせないんでね。ウチの船に乗りたい奴は、この後、話に来な。自前のシャトルや船のある奴は、航路の打ち合わせをするよ」


「よろしくやってくれ。それとガスバーク一家の保有戦力についてだが、我々の調査によればGSが三十機以上、バトルポッドや戦闘機が七十機以上。なおこれは最低限の数だ。実際にはこれ以上の数か、不明の兵器を投入してくる可能性を頭に入れておいてくれ」


 ガスバーク一家の戦力については、傭兵界隈でも噂になっていたが、今回、カイラから提示された彼らの戦力は噂以上のもので、少なからず傭兵達の間にざわめきに似た気配が生じる。

 名を上げて次の仕事に繋げる好機ではあるが、同時にそれだけ自分達の危険性が増すのだから、素直に喜べない状況だ。


「このほか、攻撃衛星多数にコロニーそのものも武装要塞と化している。戦力の大部分は正面から攻め込む我々に当てられるだろうが、それでも君達の受ける重圧は相当なものとなる。心してかかってくれ」


 事前に撮影されたバルチャーネストの遠望画像や、ガスバーク一家の運用している兵器の画像、戦闘の動画がモニターに次々と映し出される。使用している兵器の質、あるいは古さで言えば傭兵達と大した差はない。

 アイリスはモニターに表示される兵器を見回し、背後のダイドウにこっそりと話しかける。


「たくさんいるね。あんなにいっぱいいるのははじめて」


「確かにな。だが味方も多い。大半は特務艦隊が相手取ることになる。お前が戦う敵の数は、仮にGSが相手だとしても五機にも満たないだろう」


「あっとうてきゆうり?」


「攻めるこちらが戦闘の主導権を握る側だからな。要塞攻めとなれば相手より多く戦力を用意するのは、当然の話だ。ましてや正規軍と犯罪組織が正面からぶつかり合うのでは、結果が目に見えている」


 もっとも、勝てるからといって、被害が出ないわけではない。その被害の一つに、アイリスが含まれないように、ダイドウは出来る限りの根回しと事前調査をする義務と必要があった。

 アイリスとダイドウが話をしている間にも、カイラの話は続いており、予想される敵戦力の分布とそれに対する第九特務艦隊の動きと、傭兵らで構成される遊撃艦隊の動きが刻一刻と変化する様子がモニターに映されている。


「また今回の依頼は達成の困難さと危険性を考慮し、基本報酬に加えて撃墜した敵の数、種類に応じて追加報酬を出す。諸君らには奮ってガスバークの兵隊を片付けてもらいたい。今回の作戦においては、我々の艦隊と君達が相互に囮を務め、敵を翻弄するものとなる。やわな弱兵を集めた覚えはない。思う存分にやってくれ」


 命の危険に対する怯えも、報酬を約束されれば心の奥底へと引っ込む。それが傭兵というものだ。報酬と引き換えに自分の命を賭けて、他人の求めに応じて戦うのだ。ここ集められたのは、そういった意味では本物の傭兵ばかりだった。

 誰もがギラギラと瞳に欲望の炎を燃やし、ガスバークの兵隊を一人でも多く撃破して、報酬を得る為に。彼らの欲望と闘争心を効率よく燃やす方法を、カイラはよく心得ていた。


「全員、やる気になったようでなによりだ。我々の輸送艦を利用するのなら、予め使用する武器を申請しておいてくれ。機体のパーツとなると調達は難しいが、武器弾薬の類なら融通が利く。作戦が終わった後、ここに居る全員と再開できるのを願うよ」


 上手く乗せたものだ、とダイドウが小さく呟いたのを、アイリスだけが聞いていた。


「だいどう、わたし、たくさんおとすから、ほうしゅうをきたいしていてね」


「……それよりも無事に帰ってこい。機体の修理費とお前の希少性を考えれば、無事の帰還こそが重要だと、前に教えただろう?」


「うん。わたしもいーりすもこわれないようにきをつける」


「それでいい。今回の依頼を成功させれば、次からはエビナスに舞台を移す。お前はこんなところで落とされてよいパイロットではないのだから」


 そのダイドウの言葉に嘘偽りのない祈りが込められていたと、アイリスには分からなかった。彼女が理解するには、あまりにも痛々しく、哀しい祈りであったから。

雑魚を倒して数を稼ぐか、大物を倒して単価を高くするか。頭を使って稼ぐときです。

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