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インターミッション:ガスバーク一家

三日連続投稿は今日までとなります。

 ガスバーク一家のボスを務めるフウジャ・ガスバークは、元々はファーエデン星系の外からやってきた男である。

 その経歴の詳細は不明だが、ザギオンとの戦争により政情不安定になっていたファーエデン星系で、職にあぶれていたゴロツキやチンピラばかりか、傾いていた民間軍事会社すら取り込み、短期間で国家が無視できない勢力を作り上げている。


 フウジャ自身は感情を覗かせない怜悧な眼差しに、頬の削げた冷笑の似合う男である。

 純白のスーツを纏う二メートル近い肉体は、余すところなく鍛え上げられ、決して智謀だけで成り上がったわけではないのを、無言で主張している。

 今回の戦争に於いてファーエデンは健闘しているが、最終的に勝つのは国力に勝るザギオンだと、フウジャは分析している。


 だからこそ、秘密裏に接触してきたザギオンのエージェントの口車に乗ったし、大いに稼がせてもらった。

 ここでザギオン連邦に相応の待遇での亡命を要請しないのが、欲をかいて失敗しないコツだ、とフウジャは判断していた。

 あくまで表向きはザギオンとは関係のない武装勢力として振舞わなければ、ザギオンから刺客を向けられるのは分かり切っていたからだ。


「潮時か」


 ガスバーク一家の本拠地である改造コロニー“バルチャーネスト”にあるオフィスで、高級品の椅子に腰かけたフウジャは、部下から挙げられる報告から、ファーエデンの動きの変化を読み取っていた。

 大きく間取りを取られたオフィスは、その調度品の全てが品の良い高級品で整えられており、ここだけを見れば一流企業のオフィスと言われても、誰も疑いそうにない。

 フウジャは眼鏡の位置を調整し、あえて紙で作った資料に目を通す。部下に持って来させたものと、フウジャ自ら作成したものの、二種が混ざっている。


「ファーエデンの連中め、ようやく重い腰を上げるつもりになりましたか。お陰で我々の金庫が随分と潤いましたが、これ以上は我慢が出来ないようだ。愚かな。もっと早く決断すれば、市民への被害を抑えられたものを」


 合成ではない天然の茶葉を使った紅茶を一口飲み、フウジャの口元には残酷な微笑が浮かぶ。ザギオン相手に下手に戦力を動かせないファーエデンの事情を鑑みても、彼からすれば“遅い”の一言に尽きる。

 フウジャは眉間を左の人差し指で軽く叩いた。考え事をする時の癖である。せっかくここまで大きくした組織だ。全てを手放すのは惜しい。


「あまり拘り過ぎて私の命を失っては、元も子もないわけですが……」


 こう言った事態を想定して、ガスバーク一家という組織の身の振り方を、いくつかシミュレーションしてパターンを決めているが、決定打となる情報をもういくらか欲しいところだ。

 ある程度、フウジャが考えをまとめた時、呼び出していたとある人物がオフィスを訪ねてきた。来訪を告げるノックに、フウジャは氷を思わせる声音で答える。自分で呼び出しておいて、この反応をするのがフウジャという冷徹な男だった。


「フウジャさん、レイデンです」


「入りなさい」


 自動扉ではなくクラシックな手動式の扉を開き、入ってきたのは人懐っこい笑みを浮かべた、癖毛の青年だった。二十代半ばほどにも、あるいは十代後半にも見える。血色の良い肌に緑色の瞳、目鼻の配置の妙が不思議な印象を作り上げていた。

 白いシャツに紺色のベスト姿の彼が、レイデン。ザギオンと密約を交わした後、派遣されてきた人物である。ザギオンという大国の抱える情報部か特殊部隊の人間だろう、とフウジャは推測している。

 デスク越しにフウジャと向かい合い、二メートルの距離を置いてレイデンは足を止めた。

 表向きはボスと側近だが、実際はビジネスパートナーと呼ぶべき間柄の二人である。


「急な呼び出しと言うから、急いで来ましたよ。それでどうしましたか。いつもよりお目目が鋭くなっていますから、あまり良い話ではないでしょ」


 レイデンが子供じみた言葉遣いをすると、印象が一気に若くなる。そのように印象づけて相手に油断させる為だろう。


「その語彙はともかくとして、相変わらず話が早い。レイデン、君も薄々感づいているでしょう。近頃、襲撃の失敗率が高まってきている。それと同時に徐々に、ネスト付近での傭兵やファーエデン軍と遭遇する回数が増えている」


「ここの正確な位置を把握する為ですよねえ。そろそろ大まかな位置はバレちゃっているんじゃないですか? フウジャさんが活動を控えるように指示を出したのも、位置バレを少しでも遅らせる為ですよね。後は、こっちに着く傭兵の選定とか」


 ダイドウやカイラにとって残念なことに、フウジャ・ガスバークは状況の変化に気付かない無能ではなかったようだ。彼なりに危機的状況を察し、少しずつ対策を進めていたのだ。そうなればアイリスが作戦当日に迎える危険性も高まる。


「それでも防げて二度まででしょう。その間にザギオンの動きが活発化すれば、二度が三度になり、三度が四度になる。率直に尋ねましょう。これまでそちらからの投資に見合う働きをしてきた自負があります。そちらはどう動くのですか」


 レイデンの笑みが一瞬深まった。無駄な野心と余計な理性と過剰な能力を持つフウジャの扱いは、ザギオンでも煙たがられており、それはレイデンも承知している。

 かといって安易にザギオンが切り捨てるつもりだと気付かれては、レイデンの身が危うくなる上に、自棄を起こしてザギオンに要らぬ火の粉を浴びせてくるかもしれない。

 レイデンはその点を考慮して、ザギオンの利になるように誘導しろと、困難な仕事を命じられていた。


「悪い報告としては偶然、航路を外れて迷子になった貨物船が出るのは、次回で一旦終わりになります。良い報告としては二日後に迷子になるその貨物船にはこれまで以上の物資が積み込まれており、現役のGSもその中には含まれています」


「なるほど。あくまで表に出るつもりはないと。手切れ金代わりの支援はしてやるから、後は自分達の力で生き抜けというわけですか。ふん、所詮は使い捨て前提の武装勢力如き。支援してやるだけでもマシと思え、といったところですね」


「我がことなのに辛辣ですね。僕としてはガスバーク一家のレイデンとしての意識もありますから、最大限の譲歩を引き出す為に回転率の高い舌と脳を駆使して、とても頑張ったんですけど」


 本当に申し訳なさそうに肩と竦め、眉を寄せるレイデンは飼い主を困らせてしまった大型犬のようだったが、そういった愛嬌はフウジャには通用しなかった。フウジャは私にペットなど不要と、断言する神経の主である。


「結構。私の想定の中で最悪よりはだいぶマシな結果です。君がそろそろ姿をくらませてもおかしくない時期と思っていましたからね。勝手に居なくなっても構いませんが、その時は内部情報の流出だけは止めておきなさい。その代わり、これまで集めてきたファーエデン軍の配備状況や前線の兵の練度、補給線の穴などのデータは差し上げましょう」


 フウジャの手から小さな四角い物体が投げられ、レイデンが危なげなく受け取る。それは指の先ほどの大きさのデータチップだった。


「フウジャさん、ひょっとして僕が思っていたよりも優しい方だったんですね! すみません、見誤っていました」


「そんなわけがないでしょう。これも取引の一環です。最悪の場合、ガスバーク一家の壊滅もあり得る事態です。君が戦闘の途中かその前で居なくなるとしても、予め織り込んでおけば余計な混乱は避けられる。だから居なくなるならどのタイミングか。その時に持ちだして良いデータ、手土産について先に話しておきなさい」


「この場で僕を口封じするか、薬物漬けにでもすれば手っ取り早いと思いますけど?」


「ふん。それことザギオンから社会的にも軍事的にも、抹殺させられる愚行でしょう。ザギオンが君の命に価値を見出しているとは思いません。ですがザギオンの手の者である君に害を加える事は、ザギオンを舐めていると受け取られる。そうなればプライドに賭けて、私を排除しようとするのは目に見えています」


「やっぱりフウジャさんはよく見ていますね。他の人達はそこを勘違いして、失敗しているんですよ。僕はガスバーク一家が結構好きなんで、最後までお供するとは言えませんが、出来る限り役に立ってから居なくなるつもりです」


 臆面もなく堂々と途中で抜ける、と言い放つレイデンにフウジャは眉尻をピクリと震わせるだけだった。この場でフウジャを始末するようなタイプでないとは知っていたが、こうもあけすけに言われると神経を疑いたくなる。


「分かりました。君は嘘も冗談も言うし、情報を隠すし捏造もしますが、そういう職業の人間だと分かった上で付き合えばいいだけの話。私は生き延びてみせますよ」


「はい。そうしたどうにか僕を見つけて声をかけてください。その時は出来る限りお助けしますよ!」


 その時、私に利用価値があればでしょう、とフウジャはとうとう堪えきれずに溜息を吐くのだった。ストレスが凝縮された溜息であった。寿命が数か月縮んでいてもおかしくは無さそうだ。

神経質合理主義インテリ眼鏡マッチョがフウジャ・ガスバークです。レイデンは無邪気人懐っこいノンデリ冷徹スパイです。

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