繫名 嘉穂 三
車輪の悲鳴だけが光輪内に響く。車内に吊るされたランプの火が心許ない光を放って右往左往する。簾から冷たい風がひゅるると抜けていき、頬をさっと撫でた。
鈴鹿さんは腕を組んだまま黙って話を聞いていたが、私が話し終わったのを確認すると、ゆっくり口を開いた。
「なるほど。叔母からすれば君がいなくなって幸せ……ということかね。胸糞が悪い話だ」
「それとお金がもらえます」
「お金?」
「はい。生贄を出した家には報酬がもらえるんです。額は知りませんですけど」
鈴鹿さんは呆れ果ててしまい顔をしかめた。
「しかし……嘉穂は例外として、いくらお金が貰えるとは雖も、我が子を生贄にしたい者などおらんであろう」
「そうですね。ですので、人さらいをすることが多いですね」
「何?」
「人さらい部隊がいるんですよ」
「『いるんですよ』じゃない。全く」
面白い村だ、と鈴鹿さんは呟いた。言うまでもなく誉め言葉ではない。
「今回、咲奈が生贄に捧げられたのは、おそらく私が初詣に行った際に村の誰かに見られたようで、私が生贄にされていないと思われたのでしょう。なので取り急ぎ生贄が新しく準備されたのでしょう。なぜ咲奈が選ばれたのかは不明ですが。あの子は大丈夫でしょうか?」
「もう義妹のことは忘れたまえ」
「で、でも」
「忘れたまえ。生贄にされた挙句、生きていると知れば心のない言葉を吐くような者を何故気にかける? 君が心を痛める必要はないではないか」
鈴鹿さんは食い気味に言う。その声はとても冷たかった。
「それは……そうですけど」
「君が幽世に来ることもなかったのだ」
鈴鹿さんは渋面とも慈顔とも取れる表情をしている。目に涙を浮かべているように見えたのはランプが鈴鹿さんの瞳をはっきり映したからだろうか。瞳に影が差したように見えたのはランプが揺れて光が弱まったからだろうか。いずれにせよ、あのような鈴鹿さんの顔を見たことがなかった。
「あ、ああ……でも! 私は幽世に来れて良かったと思っていますよ! 料理ずっとできますし、それに! 私の中にある母の料理の味を鬼神様達が受け継いで残してくれるので! 私はとても――」
私が笑顔でここまで口にしたとき、鈴鹿さんはそっと私を抱き寄せた。
「もう良い、もう良いのだ……」
鈴鹿さんは耳元で懇願するように、どこか悲しみが混ざったような声で言った。すると私に貼りついた感情の伴わない笑顔は崩れ去った。恐る恐る鈴鹿さんの体に手を回すと、体の底から温かくなり、押さえていた感情がゆっくり現れる。それは目から一つ頬を伝う。そして、その後を追うように一つ、また一つ溢れていった。それはもう自分では止められず、ただ鈴鹿さんにすがりついた。鈴鹿さんは何度も背中をさすった。
光輪内には私の声が響いていた。




