繫名 嘉穂 二
「だから、妹なんです。義理のですけど」
私と鬼神様、五色鬼、鈴鹿さん、咲奈は座卓を囲んで腰を下ろしていた。
先程まで吠え続けていた咲奈も今はある程度落ち着きを取り戻していた。
「これがか? 義理とはいえあまりにも似てなさすぎるだろ」
「私はこいつを姉だと思ってない!」
「お前がどう思っていようが知ったことか。生贄として幽世に来たことには変わりないだろうが。だから嘉穂、こいつで一品」
「しませんって。言いましたよね、私? 人なんて調理したことあるわけないじゃないですか。それに私の身内ですって」
「あのさ! そんなに人間が食べたいならこいつを食べればいいじゃない! なんで私なのよ!」
咲奈は苛立ちを露わにして座卓を両手で叩いた。
「あ? うるさいからだ」
咲奈と対照に冷静に答える鬼神様。その態度が咲奈の機嫌を一層悪くさせた。
「はあ? 何それ? だいたいさ、お前らバケモノが理由つけてこいつを生かしてたからこんなことになってんでしょうが! お前らがとっととその女食えば良かったのに。バケモノのくせに!」
「がたがたうるせえな。お前の方がよっぽど化け物だぞ」
「まあ、鬼神よ。そう言うでない。あれの言い分も一理ある。咲奈、元の世界に戻れたら君は満足かね?」
鈴鹿さんは笑顔で言う。
「何? 満足って? そうするのが当たり前だろうが。偉そうなこと言いやがって」
鈴鹿さんから笑顔が消える。
「……嘉穂、あれで一品」
「しませんよ。鈴鹿さん、咲奈を現世に送り届けてあげていただけませんか? 私も付き添いますので」
「君が言うなら、良かろう。光輪を準備しよう」
鈴鹿さんはそう言うと肩に止まっていた鳥のようなナニカを飛ばした。
光輪が来るまでの間、特に会話という会話もなく、ほとんど無言であった。咲奈は左手で頬杖をついて右手の人差し指で座卓をこんこん叩いている。その様子を鬼神様が不快そうに眺めていた。
どれくらい時間が経ったのか分からないけれど、待っていると戸を叩く音がした。「入れ」と鈴鹿さん。巫女姿の童女が二人入ってきた。童女は鈴鹿さんを見ると一礼した。
「よし、光輪が準備できた。嘉穂、……ああ、咲奈。乗れ」
童女が光輪へ案内する。私と鈴鹿さんが隣同士に、咲奈はどんと一人で胡坐をかいている。道中狭いだの埃っぽいだの文句を言っていたけれど、「君はもう降りたまえ」と鈴鹿さんに一喝されるとすっかり黙ってしまった。
それからは鉄道に乗って無人の町を歩いた。
「咲奈、私の手を掴みなさい」
「はあ? なんで?」
「暗くて迷うからだ。私の手を掴め。二度も言わせるでない」
咲奈は渋々鈴鹿さんの手を取った。
それから、暗い道を歩いていった。道幅が次第に広くなる。このまま無事に咲奈を送り届けられる。はずだったけれど……。
「あ、おい!」
鈴鹿さんが突然声を上げた。見てみると咲奈は鈴鹿さんの手を振り解きあらぬ方へ走りだしていた。数メートル行ったところで振り返って叫んだ。
「お前らバケモノの言うことなんて誰が信じるか! 嘉穂! とっとと死ね! 死ね死ね死ね!」
そして再び走り出した。咲奈はあっという間に闇に飲まれていった。
「待って咲奈」
「嘉穂! 行くな!」
鈴鹿さんが咲奈の後を追おうとした私の腕を引いた。
「なぜです!」
「ここはどこにどう繋がるのか、よく知らないのだ。ここから外れすぎると道が分からなくなる」
「そんな……じゃあ、咲奈はどうなっちゃうんですか?」
「さあな。生憎ここは時の流れが遅い。腹も中々減らないし喉もそれほど乾かない」
「でも、だからといって……」
「無事に現世に帰れることを願おう。嘉穂、帰ろう」
鈴鹿さんは踵を返した。私は咲奈の消えていった方を見ながら駅に戻っていった。
それから光輪に乗ってあららぎ村に戻った。その道中、鈴鹿さんと話をした。
「嘉穂、君は何故ここに連れてこられたのかね?」
「え、それは生贄だからですよ」
「そうか。じゃあ、質問を変えよう。何故生贄に選ばれたのかね?」
「それは……」
私は暫く黙り込んでいた。どう答えれば当たり障りなく良い雰囲気で話せるか、考えていたのである。
「遠慮はいらん。あれを見ていると、君は随分苦労しているように思える。君にどういう過去があるのか知りたい」
鈴鹿さんはいつになく真剣にそう言う。本気で心配してくれているんだ、それなら私もそれに答えないと……。
「面白い話ではないですよ?」
「構わん、聞かせてくれ」




