新年 一
お久しぶりです。
展示会が終わり、プライベートが落ち着き始めましたので、投稿を再開いたします。
何卒宜しくお願い致します。
菅部享天楽
朝六時半、稲牛若神社の開けた場所にて、毎年恒例の餅つき大会の準備をしていた。本当は大晦日にする予定だったけれど、色々予定が合わずに今に至る。
「無理して参加する必要はない。眠いなら寝ておけ」
鬼神様はちんからかまどを据えながら言った。
「これくらい平気です」
私は二メートル程離してかまどを置く。これで三つ目。
「あれからほとんど寝てないだろ。休め」
「それを言ってしまったら鬼神様もそうじゃないですか。鬼神様も寝てください」
おせちとお雑煮の準備をしていたらなんだかんだ三時半になっていた。それから手伝ってくれた鈴鹿さんといわてさん、禰々子さんを見送って就寝。もちろん料理は三人以外にも鬼神様と五色鬼も手伝ってくれた。
「俺は大丈夫だ」
「そうなんですか? 無理しないでくださいね」
私は鬼神様を心配しつつ、二人でかまどに水の入った羽釜をセットしていく。そして小さい薪を入れて新聞紙を入れる。鬼神様はマッチで新聞紙に火を点けた。
「火を強くするために新聞入れたり薪に火移したりしてくれ」
「私やったことないですけど?」
「なんとなくで構わん。消えたらまた点ければいい」
「分かりました……」
ということで感覚でやってみることにする。火が弱まったら新聞紙を丸めて追加したり、薪を動かして火を移そうと試みる。ところが、それが火を押しつぶしてしまい、火が消えてしまった、というようなことが何回かあった。その度に鬼神様は再度火を点けてくれた。悪戦苦闘、気がつくと五色鬼が近くに集まっていた。
そうこうしていると火が少しずつ強くなる。そして羽釜に溜まった水が沸騰し始める。イエーイ、五色鬼とハイタッチ。
「もち米蒸らしていくか。せいろ並べるぞ」
「はい」
せいろに蒸し布を敷く。洗って水に浸けたもち米をざるでバケツからすくって布の上に広げて均す。全てのせいろにもち米を詰めたら三段組にしてかまどにセットする。これをもう一セット作る。
「全部のかまどには乗せないんですね」
「一つはお湯を沸かすためだけの羽釜だな。臼を温めたり、もち米蒸す用の羽釜にお湯を注ぎ足したりするのに使う」
「臼を温める?」
「ああ、もち米は冷えたら餅にならなくなるからな。少しでも冷やさないように臼は温めておく」
五色鬼達は餅搗きに必要な道具を揃えていた。杵が三本入った大きなバケツ、二畳程の広さのテーブル、ボウル、しゃもじ等がある。
もち米が蒸し上がるのを待っていると、あららぎ村の住民や村外の私達と親しい妖怪がやって来た。昨日の今日、いや、今日の今日か? というのに皆元気である。とりあえず「あけましておめでとうございます」と挨拶する。辺りはすっかり明るくなっていた。
「遅くまで起きてたってのに元気そうだね。なんだい、若さってやつかい」
いわてさんが遅れてやって来た。私は挨拶を交わした。
「おう、いわて。来たのか。初参加じゃねえか」
「鬼神かい。お前さんも随分と元気そうだね」
いわてさんはぶっきらぼうにそう言った。が、いつもより口調が穏やかである。ような気がする。
「いわてさんが来てくれて嬉しいです」
私は笑顔で言った。いわてさんはそれを見て鼻で笑った。
「鬼神、もち米炊けてるよお~。そっち持っていきたいからお湯取ってえ~」
禰々子さんが鬼神様にそう呼びかける。鬼神様は柄杓で石臼のお湯を掬って捨てていく。私も手伝う。お湯を綺麗にさらったところで禰々子さんに声をかける。禰々子さんは下段のせいろを石臼まで持ってきて返した。
「嘉穂。一発目は俺と搗くぞ」
「え、いいんですか? 最初に搗いても」
「村の新入りは最初に搗かせてる。だから嘉穂が搗くんだ」
鬼神様は私に杵を差し出す。私はそれを受けとって軽く振りかぶってみる。思うほど重くはなかった。この重さなら私にもできそう! そう意気込んだけれど、鬼神様は杵で餅をこね始めた。
「搗かないんですか?」
「最初はもち米を捏ねる。米の粒をできるだけ潰す。嘉穂も手伝え。もち米を俺の方に追いやるようにしてこねろ」
鬼神様は餅をこねながら言う。私も見様見真似で餅をこねていく。時折禰々子さんがしゃもじで餅の形を整えたり、杵に引っ付いた餅を削ぎ落としたり、手で水をかけたりしていた。
「餅搗きって言われているが、この捏ねる作業が一番大事だ。これが餅の出来を左右する」
「そんなに大事な作業なんですか!」
私は入念に餅をこね続ける。暫くして「そろそろ搗くか」と言って餅から杵を離した。私も同様に離す。もち米はほとんど潰れている。
それから鬼神様と交互に餅を搗いた。餅が杵にひっつき出したらしゃもじで削ぎ落として杵の先にお湯に浸す。そして餅の形を整える。これを繰り返して餅にする。
「久々に一発目に禰々子以外が搗いているのを見た」
「何十年ぶりだろ」
餅を搗いている時、そんな声がした。
「よし、そろそろいいか。禰々子、持っていってくれ」
「分かったあ~」
禰々子さんはしゃもじで餅をまとめて石臼から引き剥がすと、餅を下から両手で持ってテーブルに運んだ。テーブルには打ち粉がされている。それを五色鬼の藍歌ちゃんが大小二つに分けて丸めていく。綺麗に丸めると三方に裏白の葉を八の字に並べてお餅を重ねる。紅白の御幣と小ぶりのミカンを飾ると鏡餅の完成である。そうしている間に蒸し上がったもち米が再び臼に運ばれる。今度は禰々子さんと鬼神様が餅を搗く。
「禰々子、臼割るなよ」
「割らないよ、いつの話してんのお~?」
「二年前と五年前と九年前と……」
「あー! 言わなくていい、言わなくて! そんなこと言うと……頭かち割っちゃうよお~?」
禰々子さんは野次馬に対し、悪戯な笑みを浮かべて杵を振り上げる。野次馬達は「うわあ」とわざとらしい悲鳴を上げる。
「禰々子、遊んでないでとっとと搗くぞ」
「はあい」
禰々子さんは臼に向き直るともち米をこね始めた。鬼神様もそれに合わせてこねていく。そして搗く。餅になったらテーブルに移動。出来たての餅を一口大に千切って丸める。それをフードパックに詰めてそれを輪ゴムで留める。この作業にはいわてさんも参加していた。みんなとわいわい作業をしている。
それから様々な妖怪達と餅を搗いた。ひっきりなしに搗いていたから、すっかり疲れてしまった。
「お疲れさん。引っ張りだこだったね」
神楽殿の柱に背中を預けて立っていると、いわてさんが隣にやって来た。姿勢を正して「お疲れ様です」と一礼。
「ずっと振ってましたから。すっかり疲れてしまいました」
「人気者だね」
「周りに恵まれています」
「なに、嘉穂の人望だよ。それで、餅搗きの要領は得たかい?」
「それなりには、上手くなったかなと思います」
それを聞いたいわてさんは鼻で笑う。
「嘉穂、充分休めたら私と餅を搗いてくれないか?」
「もちろんです! 休んでからでなく今すぐやりましょう」
「急ぐ必要もない、ゆっくりしなさい」
駆け出す私をいわてさんが呼び止める。私は足を止めていわてさんの方へと振り返る。
「私、楽しみですもん! いわてさんと餅搗きするの。だから早くしたいんです」
私は再び足を進めた。いわてさんは鼻で笑った。




