第一章:交差する日常 1
この世の全ては陰と光で出来ている。
「あっすかちゃ〜ん♪女の子がこんな時間に一人で歩くのはアブナイよ〜?」
そんな言葉と共に、下卑た笑い声が後ろから聞こえてきた。
声をかけられた方である三条亜澄華(男)は、またかと思いながら後ろを振り向いた。
そこには思ったとおりいつものメンバーがいて、亜澄華は思わず溜息をついた。
「しっかし……お前も良く飽きねぇな、瀬田」
亜澄華の呼びかけに反応して、一番前に立っている茶髪細目野郎、もとい、瀬田聡がニヤニヤとした嫌らしい笑みを浮かべた。
「いや何、女の子が一人で帰るのはこのご時世危ないと思ってサ♪」
やたらと「女の子」を強調する喋り方をするのは、亜澄華の外見のためだ。
女の子のように大きな瞳、整った鼻筋、白くて細い腕、艶やかで顔の両端だけ少し伸ばした髪といわゆる眉目秀麗。その上、文武両道、男にも女にも優しい好男子なので、必然的に女子生徒にモテる。故に敵も当然ながら多く、こうやって突っかかってくる男子生徒も少なくない。
だが哀しいかな、亜澄華には全く効いておらず、逆に突っかかった側が女子生徒から嫌われてしまうのであった。まる。
「亜澄華ちゃ〜ん?今日こそ決着つけてやろうじゃないの」
目の前の瀬田とその取り巻き達が距離を詰めてくる。
またもや、思わず溜息。
「(弱いクセに・・・)」
「何か言ったか?」
「いや、何も」
別に逃げてもいいのだが、それもそれで追い掛け回される事になるので、適当に相手をすることにした。肩にかけていた竹刀袋から竹刀を取り出す。
そういえば、と唐突に思い出した事を瀬田に問うてみる。
もしかしたら、そのまま帰れるかも。
「つか、まだ水織の事諦めてない訳?」
「うっ!?」
案の定、瀬田のヤル気モードが低下した。
水織というのは、亜澄華の双子の妹である。亜澄華と同じく、眉目秀麗、文武両道な人間で、男子生徒から人気が高い。彼氏なんて何人もいるかと思いきや、何を言うにも次の言葉が「お兄ちゃんが」で始まる、極度のブラコンなのである。
亜澄華としては、ベタベタされるのは大変迷惑なのだが、こういう風に使えるのは本当に気持ちがいいので、そこまで水織の事を怒らない。
ニヤリ、と亜澄華の顔に悪い笑みが浮かぶ。
とりあえず言っておくと、亜澄華は決して善人ではない。
「あーそっかそっか。でも残念、水織はお前より俺のほうが好きなんだぜ?さっくん?」
と、昔水織が瀬田を呼ぶときに使っていたあだ名も使ってみる。
「は、はん!!そんなの本人に聞いてみねぇとわかんねぇじゃねぇか・・・・」
またもや意地の悪い笑みを浮かべる、亜澄華。完全にいじめっ子である。
「・・・負け犬の遠吠え?」
「んだとテメェコラァ!!」
「・・・・・・しまった、つい本音が」
イケナイイケナイ、と口に手を当てるが時既に遅く、瀬田の怒鳴り声と共に取り巻きたちが一斉に亜澄華に飛び掛ってくる。
さっさと帰りたかったのに、と亜澄華が場違いな事を考え、めんどくさそうに竹刀を中段に構える。めんどくさいとか思っている割には、亜澄華の口元は楽しそうに綻んでいて、
「よーし、じゃ、ちゃちゃっと終わらしちゃいますか」
わずかに口調も軽やかだった。




