聖歌
最近被害が相次いでいるという、無断転載についてのエッセイを読んで、勝手にビビッて、被害に遭う前に無断転載対策をしてみることにしました。
本作品「地獄の底に咲く花は」におきましては、部分的に本文と後書きを入れ替えると言う無断転載対策を実施しております。
ややこしいことをしてすみませんが、自分の作品が無断転載される想像をすると、イラッときたので、自主的に対策をとってみました。
読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。
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対策については、MITT様のエッセイを勝手に参考にさせていただきました。
良い子で待っていなさいと言って、その人は子供の頭を撫でた。
当代随一と評される、浄化の力の代償であるかのような、彼の人の脆弱さを端的に示す細い指先は、温度が低くとも、ただただ優しいものであった。
――なるべく早く、戻ってくるから、と。
子供を安心させるように、時折銀の差す程青い瞳を細めて、微笑んで。
青かった空に、茜が滲み、宵闇に染まって黒に塗り潰されて。
――それでも、白い光が生まれ直して、また、空に青が塗りたくられるのに。
……幾千の夜と朝が繰り返せども、その人が、子供が待つ部屋の扉をくぐることは無い。
***
色が付いただけの世界を、鮮烈な歌声が震わせる。
その歌を、知っている。
その歌声を、知っていた。
「ひじりさま」
二十年以上も前に、置いて行かれたきりの子供は、待ち人の手掛かりを見つけて、口元を綻ばせる。
歌い手の、その人が身に纏う色との違いなど、気にならなかった。
――『教会』で代々の聖人や聖女達に歌い継がれてきた、浄化の聖歌は、力ある言葉と意味を持たされた旋律で構成された代物だ。
故に、聖歌は、歌そのものが歌い手を選ぶ。
それに値する浄化の力が無ければ、聖歌を歌うことなど叶わないのだ。
だから。
静謐な箱庭で息をしていた子供には、眩暈がする量の人々に溢れた闘技場の底で、強烈な呪詛と腐臭を振り撒く悪竜が、弱々しくもがく。
長大な鈍色の武器に吹き飛ばされた、腐竜の半身は、しかし、先程までと同じ様に復元される様子もない。
腐竜の心臓の辺りでは、濁った紫色の光が、輝きを強めたり弱めたりと、酷く忙しかった。
聖歌が響く。
――目の前の腐竜ごと、自らの魂をも削るが如き、壮絶を以て。
歌い手は、地面に膝をつき、隻腕で縋りついた刀のお陰で、どうにか倒れ込まずにいられるような状態だった。
禍々しい黒い紋様が這う白い頬を、涙の様に鮮血が流れ落ちていく。
目視できる肌全てに呪詛めいた紋様が浮かび上がり、更には、喉どころか目や鼻からも出血している様は、異様を通り過ぎて悍ましい。
地獄に蠢く怪物すら連想させる、歌い手の有様は、しかし、漆黒の双眸に燃え盛る火炎と、歪みも濁りもしない歌声に印象を覆される。
――地獄の底にて真白い花弁を揺らす、忌まわしくも美しいその花は、確かに、彼の人と同じく尊ぶべきものだった。
「ひじりさま……」
待ち人に置き去りにされたまま、手渡された言葉に縫い留められ続けた子供は、ゆるゆると歪な笑みを浮かべる。
待っても、貴方が戻ってこないなら。
――もう、いいこにしているひつようは、ないでしょう?
◆◆◆
内臓を、焼いた剣で掻き回したら。
全身の肉を、少しずつ千切られるのなら。
あらゆる神経を剥き出しにして、滅多打ちにされるのなら。
思い付く限りの表現を、集約した様な苦痛が、リアの身体中を侵食していた。
身に着けたつもりの痛みへの耐性を嘲笑い、真っ赤に染まった視界は、リアをそのまま、底の無い沼の奥まで引き摺り込もうとする。
分解と再生と。
相反する力に曝され、リアは、己が散り散りになりそうな恐れを抱く。
リアに括られた亡者達の、面白おかしく嗤い続ける声が、幾重にも重なって耳に届いていた。
それでも。
無事かどうかも覚束ない掌を、リアは固く握りしめる。
聖歌を止める訳にはいかない、止める気も無い。
あの優しい鳥が、阿呆共の都合の良い存在に仕立て上げられるなぞ、虫唾が走る。
……それに、腐竜を止めてやらなければ、笑っていて欲しいと願ったひとが、哀しむ未来しかないから。
ふと、毒草により育まれた毒姫の物語が、痛みに塗り潰された空白に浮かんだ。
愛した青年を蝕む己を疎みながらも、共に歩む未来を望み、進んで解毒薬を煽った毒姫は。
――けれど、己にとっては毒でしかない解毒薬に、命を奪われた。
愚にもつかぬ思い付きに、馬鹿馬鹿しいとリアは唇を歪める。
気を抜けば堕ちていく意識にしがみつき、聖歌を途切れさせないように喉に力を込めた。
まだ。
……まだ。
蠱毒の坩堝から産まれ出た、穢れ切った身で、浄化の秘奥に手を出した罰は、いくらだって受けてやろう。
自分の使い方は、自分で決めると定めたのだ。
こんなものは、問題になどなりはしない。
だから
すくわなければ




